竜骨生物群集編⑦ 登山の終わり
鋼鉄の拳は風切り音を響かせながら僕の眼前に迫る。
見れば見るほどロボットなその拳の上に、僕は飛び乗った。
ロボの体格は大体四mから五mといったところで、腕の長さは身長の半分より胴体分短いくらい……つまり、やつの腕は二mの橋だ。
その短い橋を渡り終えれば、そこにあるのはロボの顔面。
大きな図体と違って、顔は人のものと大きさはさほど変わらない。
僕は〝剛腕〟でその顔を全力で殴りつける!
……が、傷一つ付かなかった。
「そんな馬鹿な!?」
驚愕しつつ、地面に着地した。
メンタルを滅茶苦茶に痛めつけていたとはいえ、十魔王の不壊の鎖すら破壊したあの剛腕が効かないなんて……。
「クロ! そいつは物理無効なんだと思う!」
背後からアドバイスを叫ぶのは、我がご主人のテレサ様である。
影獣に乗って追いついてきた様子だ。
いや、って言うか物理無効?
そんなのありなの!?
「私の影魔法が斬撃無効なように、魔法は高度になるにつれて無効の範囲が広がる。物理無効はほぼ最上級」
そういえば確かにテレサ様の影魔法は斬撃無効だった。
しかし、逆にそれ以外の攻撃は通用したりするので、それはまだテレサ様の熟練度が甘いということだったのか。
ある意味ではグリッズの鎖もそういった無効系の一部だったのかもしれない。
「ぶ、物理以外の攻撃ってなんですか!? この世にあるもの全て物理なのでは!?」
『クロも頭が硬いですね。魔法は文字通り世界に本来ありえない魔の力なので、物理に当たらない……みたいな感じですよ!』
シロフィーは魔術師相手に戦う術は色々と知っているのだけれど、魔法そのものについての知識は結構、曖昧らしい。
しかし、魔法なら通用するということだけど……悲しいかな、使えない!
メイド服は僕にまるで魔法のような力を与えるが、これはあくまで人間の能力の極限というのがシロフィーの言い分で、魔法とはまた別の原理だ。
拳でぶん殴っても通用しなかったのがその証拠。
『生前の私はこういう時、二つの手段でなんとかしてました』
その手段とは!?
『一つは魔法無効の敵を武器にして魔法無効の敵を殴る方法です』
シロフィーはもう当然のように斜め上な方法を提示してきた。
なんという野蛮な!
……いや、さっき魔物相手にやってたけどさ!
そもそも、今はロボ一体だけなので、その手段は使えない!
『もう一つは、武器を使うことです』
シロフィーのその言葉に続くように、テレサ様の声が周囲に響く。
「これを使って!」
テレサ様がカバンから取り出してぶん投げたものを、片手で受け取ってみるとそれは……刀だった。
これはメアリ様、つまりテレサ様のお母様の人形相手に使った刀だ。
基本的に素手でなんとかなるので、その存在をずっと忘れていて、部屋に置きっぱなしになっていたやつ!
持ち運ぶのも物騒だし、手入れとかよく分からないしな……とか思っていたら埃を被り始めてたやつだ!
『さすがテレサ様は準備がいいですね。クロ、その刀は魔術師が作り上げたものなんです。異常な程の切れ味は魔法によるものなので、このデカブツ相手にも通用しますよ!』
この刀、そんな良いものだったのか……。
物凄く雑に放置していて、ごめん!
『良いものすぎて、刃こぼれとかしないし、手入れもいらないから、逆に扱いが雑になっちゃうんですよね』
良すぎるのも困りものだった。
とにかく、これで攻撃手段は得たので、後は斬りまくるだけだ。
僕は久方ぶりに刀を構えると、ロボに相対する。
こうして、刀メイドVSロボットというB級映画も真っ青な戦いが始まった。
ロボはその白い体を煌めかせて、こちらに突撃してくる。
感情がないので、様子見という概念も持ち合わせていないのかもしれない。
いや、本当にロボなのかは僕の憶測に過ぎないのだけれど。
しかし、こうして、ロボがその双眼を光らせて、目からビームを放とうとしている姿を見ていると、ロボットにしか見えなくなってくる。
果たしてこいつが何者なのかは、後で考えよう。
今、考えるべきことは……寄らば斬る!
それだけだ!
放たれた熱光線ことビームを、スレスレに躱しながら、僕は前進し、距離を詰めていく。
背後で爆発音を聞きながら、滑らかな動きで刀を抜き、その光沢のある白く硬そうな体に刃を通す。
すると、まるで豆腐のようにロボの体がするりと斬れた。
本当にとんでもない切れ味だ。
『このまま行動不能にしましょう! メイド技術その二十三〝微塵切り〟です!』
シロフィーの声に従うように、僕の腕はロボをまるで野菜のようにズタズタに切り裂いていく。
気がつくと、まるで調理済みの玉葱のように、ロボは粉々に解体されていた。
「な、中身は空洞?」
斬ってみて分かったが、その中身には何の機材も入ってはおらず、それはただの彫刻同様の存在だった。
やはり、ロボットではないのか。
唯一、残しておいた頭部は、不可思議な音を立て、地面に転がっている。
「大丈夫なのかそレ……まだ、謎の光を出しそうだガ」
恐る恐ると、僕の背中に隠れながら様子を窺うのは、コミーコスさんであり、その小さな体を震わせていた。
「光るより先に斬るので大丈夫です」
「君ハ、メイド以外に天職があるんじゃないカ?」
「残念ながら、これ以外できないんです……」
「本当に残念だナ。しかシ、何なんだこいつハ」
コミーコスさんの言う通り、こいつが何なのかは非常に気になるところだ。
こういう分野において最も頼りになるのはテレサ様だが、そのテレサ様も不思議そうな顔で偽ロボの顔を眺めている。
「うーん……明らかに魔法で生まれた存在なのに、見たこともない容姿は珍しい。想像力の問題で、普通、見知った姿にしかなら無いことが多い」
「そうだな。まずデザインそのものが珍しい。他の国でもこのデザイン性は、覚えがないな……」
テレサ様の隣で、ベム子も首を捻っていた。
全く存在しない物を生み出すというのは、想像力が足りないため、かなり難しいということなのだろう。
実際、こんなものは僕もこの世界では見たことがない。
けれど、元々の世界では、地球では見たことがある。
これはどう言うことなのだろうか。
「取り敢えず持ち帰る」
テレサ様はそういうと、カバンの中からウサギの被り物を取り出す。
「そ、それはグリッズ様の中界用お召し物ではないか!?」
「それ、しっかり回収してたんですか」
そう、それは十魔王グリッズの被っていたウサギで間違いない。
弾き飛ばした後、どうなったのか謎だったけれど、テレサ様が回収していたのか。
「魔界のものだし、魔力も多く、私の魔法と相性も良いので、私物にした。この中身も影だから、封印に丁度良い」
テレサ様はロボの頭部をウサギの中に仕舞いながらそう言う。
影を操作できるのでウサギの影……つまり被り物の中は都合が良いという話らしい。
「そいつ持ち帰るんですか……」
「うん、今回の冒険はお宝色々ゲット出来て大成功」
テレサ様は大変に嬉しそうだけれど、僕は気が気ではない。
暴走したらどうしよう……屋敷の中ならテレサ様の領域だし何とかなるのかな。
「メイド……そノ、助けられてしまったナ。ありがとウ」
僕の背中を掴んだままに、素直に謝るコミーコスさんは大変に可愛らしかった。
けど、僕は結構な罪悪感で、その顔を真っ直ぐ見ることができない!
死肉はまだ僕の腰に携えた袋に入ったままだ。
「い、いえ、当然ですから。それに、私も色々助けられましたし」
「案内しただけダ……それト、そこの魔術師モ」
「世の中は言葉より実利」
「テレサ様!?」
徹底してリアリストなテレサ様だった。
「だから、また来る時は、懲りずに私たちを案内して欲しい」
テレサ様はコミーコスさんに優しい声色でそう言った。
違った! むしろロマンチストだった!
妙な勘ぐりをして申し訳ない!
「ア、でも今度来る時はメイド服以外で頼ム」
「申し訳ありません……それはお約束できません!」
最後の最後までメイド服が似合わなかった山登りはこうして、一つの謎を残して終わりを迎えた。
果たして、あの謎の偽ロボットは何だったのだろうか。
その謎はいずれ解き明かされるだろう……テレサ様によって!
『他力本願過ぎますよ! まあ、でも、推測はできますがね』
思わせぶりなことを言うだけで、シロフィーはその先は口にしなかった。
★
今回の戦利品、死肉、ロボ?の頭部、山の草。
次回はエルパカ回です。
『性別破棄』というか短編を投稿しました。
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