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竜骨生物群集編⑥ 謎の襲来


「すごい。すごい。めっちゃテンションアガる。クロ、取って来て」


 テレサ様はもう大喜びで、竜骨生物群集の生物たちとその環境を眺め、飛び跳ねながら喜び勇んで、おねだりをする。


 僕は諦めたようにそのお嬢様の声に応えた。


「臭い汚い屈強な魔物……三Kの職場ですよあそこ。マジでいくんですか」

「むり?」


 恐らくは全世界の生物で一番可愛らしく首を傾げるテレサ様の姿を見て、僕は即答した。


「無理なわけありません。メイドに不可能はありませんから」


 それは、自然と口から出てきたセリフだった。


 虫は勿論怖いし、魔物だって普通に恐ろしい。


 けれど、今の僕はテレサ様のメイドで、その為に頑張るのだと思えば、ある程度の恐怖は吹き飛ぶというものだった。


 骨の髄までメイドになりつつあるなぁ。


『分かってますねぇクロ。メイドに出来ないことなんてありませんよ。ほーら、チョチョイのちょいで取ってきちゃいましょう。メイドなら余裕です』


 もはや僕はシロフィーの滅茶苦茶な弁に、わざわざツッコミを入れようとも思わなかった。


 余裕ではないけど、余裕ぶって見せるのは、実際、大事だ。


 僕は寅の威を借り、虚勢で彩られた心とともに、竜の死体へと歩を進める。


 サクサクとした草の感触は、硬く枯れた土の感触へと姿を変え、凶暴な魔物たちが、一斉に僕を睨む。


 先程までの黒い魔獣とはレベルの違う殺気を僕は肌で感じた。


 これが竜骨生物群集、竜の魔力を喰らい強化された魔物たち。


 一筋縄ではいかなそうだ……。


 気合を入れるために、腕捲りをすると、僕はあの大きく雄大に骨を残す、竜の元まで走り出した。


 襲いかかってくる魔虫は、その毒々しい液体を僕へとぶっかけてくるが、そんな毒液も追いつかない速度で走り抜け、魔虫を叩き落としていく。


 時には襲いかかってきた魔獣を掴んで盾にしたり、叩きつけて武器にしたりしながら、魔物と戦った。


『ダーティなファイトですねぇ!』


 シロフィーは必死な僕の戦闘方法を見て何故か喜んでいた。

 

 心苦しいけど、襲いかかってくるのが悪い!


『ちなみにその敵を防具にするのはメイド技術五十一〝肉盾(ヒート・ジッチ)〟と言います』


 なんってエゲツない技……。


 いや、僕も今やっているんだけどさ!


 なんなら魔獣を振り回して、魔獣で魔獣を倒している。

 

 流石に強敵ばかりで、メイドパワーを持ってしても竜骨生物群集の制圧には結構な時間が掛かった。


 数十分後、僕は魔物たち相手に一騎当千の動きで無双し、ようやく彼らは僕に襲いかかるのを止めた。


 獣は素直だ。


 心に嘘をつかない。


 魔法戦においても相手の心を折ることが最重要だと、前に習ったが、それは魔法を操る獣相手にも同じ話なのかもしれなかった。


「クロマジヤバい。最高のメイド」


 親指をグッと立てながら背後から影獣に跨ったテレサ様がやってくる。


「お褒めに与り光栄ですが、果たして私はメイドであっているのでしょうか……」

「他の職業でも私は構わない。お給料、いっぱいあげる」

「ああ、いや、すいません、私メイド以外の仕事出来ないんでした……」


 他の役職になりたいという要望だと思われたのか、テレサ様に気を使わせてしまったが、僕はそもそもメイドじゃなくなると、ただの貧弱な一般人なので、それ以外の職にはつけないのだった。


 お給料もたくさんはいらない。


 生きていけるだけで満足だ。


「それじゃあ、行きましょう。竜とご対面です」

 

 静かになった枯れ地を、優雅に歩いて、ようやく僕らは竜の目の前までやってきた。


 骨となり、腐り切っても、それは綺麗だった。


 苦労した甲斐があると、そう思えるほどに。


「……ベム子からの合図が来ない」

「ですねぇ。どうしましょうか」


 さて、ここから死肉を採取すれば任務完了なのだけれど、コミーコスさんの監視はおそらくまだ続いているはずだ。


 ベム子からの合図に従って盗み出す必要があるが、まだ、そんなものは全く、欠片も感じ取れはしない。


 仕事については非常に有能なベム子なので、鈍い僕でも一目で分かるような合図になっていると思うのだけどな。


 そう思っていると、背後から地を揺るがすような爆音が聞こえた。


 驚いて振り返ると、遠くから煙が上がっている。


 ば、爆煙!?


 わ、分かりやすい!


 しかも、陽動にもちゃんとなってはいる!


 でも、派手すぎるよ!?


「クロ、今のうち」

「あっ、はい!」


 思わぬ事態に戸惑いながらも、僕はこの巨大な隙に乗じて、死肉をさっくりと奪い袋に詰める。


 ようやく目的は達成された。


 思えば、長い道のりだったが、なかなか楽しい山登りだったなぁ、なんて呑気なことを考えていると、僕の頭上に浮かぶシロフィーが焦ったように何事かを叫んだ。


『クロ! 急いで戻ってください!』

 

 こんなに焦ったシロフィーの声は初めて聞いた。


 一体、どうしたんだろう。


『あの煙は合図じゃありません! 襲撃されています!』


 襲撃!?


 状況が掴めない僕は、一先ず、テレサ様をお姫様抱っこする。


 いや、混乱して意味のわからない行動に出ているのではなく!


 急いで戻る為だ!


『黒煙の中に赤い煙が見えました。あれは仙人山では救援要請を意味します』


 なるほど、ベム子は煙の中に自分の状況を知らせる狼煙もあげていたのか。


 あ、危なかった……普通に見逃していた。


 シロフィーがいなかったら分からないところだった。


「えっと、クロ。何?」


 僕も相当に混乱しているのだけれど、急に抱き上げられたテレサ様は更に混乱して、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。


「すいません! あの煙は襲撃によるもので、ベム子がどうやら助けを求めているようです! 急いで戻ります!」

「分かった、私は途中で下ろしていい。超急いで」

「はい!」

 

 状況を聞いたテレサ様は一瞬で冷静さを取り戻し、的確に指示を出す。

 

 竜骨生物群集の目の前にテレサ様を置いていくわけにはいかないので、そこを抜けてから下ろしてくれということか。


 了解しました!


 僕は全力疾走で枯れ地を抜ける。


 魔物たちはまだまだ僕を睨んでいるので、気は抜けない。


 草原の空間に足を踏み入れると、テレサ様が自力で僕の腕から飛び降りる。


「後から追いつく」


 テレサ様の言葉を背後に受けながら、さらに加速。

 メイド技術その七の〝神速(ユウクゥー・リミエル)〟というやつだ。


 最も出番の多いメイド技術かもしれない。


 やがて、煙の根元までやってきた僕が見たものは……ベム子と今まさに襲われているコミーコスさんの姿。


 そしてその襲撃者は……白くツルツルとしていて、硬そうであり、同時に継ぎ目のない、大きな人形みたいな何かだった。


 あまりにも見知らぬ物体なので言葉が濁る。


 いや、僕はこういう物の名前を知ってはいる


 けれど、この世界にそんなものがいるのかと、少し目を疑った。


 それはつまり、ロボットだった。


 機械の様な体と近代文明を感じさせるデザインをしている。


 ロボは無言で、その硬い拳をコミーコスさんに叩き込まんとしている最中だ


 あまりにも非常識な光景だったが、ここまで走って来たのが功を奏した。

 

 僕はそのままの勢いで間に入ると、ロボの拳を両手で受ける。


 激しい衝撃が全身を襲うが、足に力を込めて、いくらか地面に踵で線を引きながら、なんとかその大きな拳を受け止めた。


「め、メイドカ!?」

「コミーコスさん! あの、急いで下がってください!」


 まるで瞬間移動したかのように、突然現れた僕に驚くコミーコスさんだが、今、驚いている暇はない。


 ロボは逆の手で、もう一発の拳を叩き込もうとしているのだから。


「わ、分かっタ……気をつけロ、そいつは変な光を放ツ!」


 変な光と聞いても、一体何なのか分からなかった僕だが、すぐにその正体に気づく。


 ロボの目が光り始めたからだ。


『び、ビーム撃ちますよこいつ!?』


 シロフィーも珍しく驚いている。


 まさかこの世にビームを放てる奴が二人もいるなんて……。


 いや、メイド光線は目が光るだけなんだけどさ!


 でも、きっとこのロボは違う!


 僕が急いで転がるように横っ飛びに、それを回避する行動に出ると、想像通りにロボの輝く目から光線が射出され、地面を焼き始める。


 そして、光の輝きが限界まで到達すると、その射出点が爆発した。


 これが黒煙の正体か。


「主、大丈夫か」


 地面に倒れるように飛び込んだ僕の手を掴んで立ち上がらせてくれるのはベム子である。


「べ、ベム子。あれ、何?」


 僕は素直な今の気持ちを口にした。


 襲撃があったと聞いてここまで急いで来てみれば、謎のロボットがいるのである。


 もう、意味が分からないよ!


「魔界、そして中界のどちらの世界も旅したことがある私だが、目の前のアレは全く見に覚えがない。完全に未知の存在だ」


 どうやらベム子もこのロボの正体について全く分からないらしく、少し動揺している様子が感じ取れた。


「いきなり空から現れてな、襲いかかって来たんだ」

「空から!?」


 ということは……飛ぶのかこのロボ!?


 それはちょっと男の子としてワクワクしてしまうけども!

 

『魔界でも中界でもないとすると……思い当たるのは一つですか』


 シロフィーは深く考え込んでいる。


 そして、その正体に心当たりもあるのかも知れなかったが、シロフィーにそれを聞くことは出来なかった。


 ロボが再度、僕らの方へ拳を向けて来たからだ。

次回山登り編ラスト!

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