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竜骨生物群集編④ 竜の心象風景


「見えてきたナ。あれが竜の墓ダ」


 コミーコスさんが指差す先には、巨大な洞穴が存在していて、その暗闇へと続く道の前には数多くの柵が設けられていた。


 そして柵の前にはやや小さいものの竜の石像が祠のようなものと一緒に設置されている。


 いかにも不可侵といった雰囲気を感じ取れるが、これからその立ち入り禁止の場所に踏み入ろうというのだから、胸躍る。


 勿論、危険に対する恐怖もあるのだけれど、流石にここまで壮大なものを前にするとワクワク感もあった。


「普段はこの前でお祈りでもするんだガ、今日は省略して先に行こウ」

「祈祷は大事なのでは……?」


 巫女だというのに、コミーコスさんはそういったものに対して無頓着な様子を見せている。


 魔法が存在している世界であれば、実利として効果が現れそうな気もするけれど。


「気休めだから無くてもいイ。なんなラ、そこの像とかは山登りの客がとりあえずお祈りする為の場所ともいえるナ」

「割と観光地なんですね……」


 5000mくらいまではギリギリ住めるという話も聞くので、観光に来る人もまだまだ多いのかもしれない。


 コミーコスさんは特に躊躇などはせずに、あっさりと柵を超えて見せる。


 その小さな背丈で器用に柵を乗り越える姿は、堂に入ったものだったので、もう慣れたものなのかもしれない。

 

「中に入ってしばらくは特に何もないガ、やがて変な空間に出たら魔物も現れるから気をつけロ。近寄らなければ、襲われないがナ」

「魔物に出会って、襲われないなんてことあるんですね」


 見つかったら問答無用で襲われると、勝手に思い込んでいたけれど、そうではない魔物もいるのか。


 この世界に来てからの半年間は魔物から逃げる日々だったので、その印象が強すぎたかもしれない。


「そいつらは竜の墓を守っているかラ、わざわざ離れたりはしないだけダ」

「守っているとは限らない。単純に、竜の死体から一定の距離までが行動範囲で、そこから離れられない可能性もある」

「同じことダ」

「大きな違い」


 また巫女と魔術師で微妙に意見の食い違いが起きている。


 いや、これはそういう職業の違いではなく、大雑把な性格のコミーコスさんと細かいところまで拘るテレサ様との性格のすれ違いなのかもしれない。


 人と人との相性は、容易にはいかないものなので、こればかりは気安く「仲良くしてくださいよー」なんて言うわけにもいかない。


 それは火に油というものだ。


「どちらにしろ私が蹴散らすのでご安心ください! さあ、行きましょう!」


 なので努めて明るく振る舞うのがこの場合のベスト!


 僕はコミーコスさんに続くように颯爽と柵を乗り越え、暗がりへと足を踏み入れる。


 コミーコスさんは年季の入ったランプを手にして、周囲を照らすが、あたりには岩があるばかりで、面白いものは見当たらない。


 まあ、洞窟なんて大体そんなものだろうけれど。


 そう思いながら道を進んでいくと、コミーコスさんのコツコツとした足音が消え、ザクザクとした音へと変わる。


 前方をよく見てみてば、洞穴は、ゴツゴツとした岩場から、揺れる草花で溢れる芝生へと急激に姿を変えていた。


 この今までの空間が急に変貌し始める光景を、僕は見たことがある。


 オセロ屋敷のトラウマロードだ!


「見ての通り、ここも一つのダンジョンみたいなもの。厳密にはその発生が違うけど」


 テレサ様が楽しそうに呟く。


 冒険のしがいがある光景のようだ。


「発生とは?」

「オセロ屋敷は稀な確率により恒常性が下がり魔法が暴走した空間で、竜の墓は竜が己の死に際に洞穴を自分の心象風景で塗り替えたもの」

「これは竜の心の景色なんですか」


 あたりには草原が広がり、花と草木に満ちている。


 もしかすると、竜が生まれた場所はこんな自然豊かな土地だったのかもしれない。


 死に際に故郷を見たいのは、竜も人も同じか。


「要するに、竜の魔法は凄い」

「ですねぇ。竜が自力で生み出したってことですものね」


 この世界における竜という生物がどういったものなのか、なんとなく分かってきた。


 魔法を操ることが出来る巨大な生物なのだ。


 しかも、かなり大規模な魔法を操る。


 だから、ダンジョンの様なものを自力で生み出せてしまうのだろう。


「竜は魔石を食すことで強力に強大になっていく生き物。そして、その力は死後も残り続ける」

「ひえー、とんでもないですね」

「死体にも魔力が残ったまま……私はそれを、死肉を採取したい」


 後半の言葉は僕の耳に顔を近づけて囁くように、小声で語られた。


 何故、急に小声に。


「あの……もしかして、マズイんですか?」

「物理的にマズイことは起きない。けど、イメージが悪い」

「いや、まあ、そりゃあそうですね……」


 自分たちが管理している竜の墓、その死体から肉を取ろうだなんて、許されることだとは到底思えない。


 問題がなかったとしても、心証は最悪だろう。


 悪いけど採取する……ということは?


 もしや、テレサ様……。


「だから密猟する」


 テレサ様は堂々と囁く。


 その姿には迷いがなかった。


「ヤバすぎますよ!」

「大丈夫、許可は取ってる」

「密猟なのに!?」


 それはもう、密猟でもなんでもないのでは!?


 密猟だけど密猟じゃないという謎の状況に、激しく動揺していると、ベム子が足音一つ立てずに側までやってきて、テレサ様同様に僕の耳に囁く。


 もうなんか両側から囁かれているので、非常に耳がくすぐったい。


 こういうのが好きな人もいるのだろうけれど……僕も割と好きだよ!


「長は問題ないなら一部くらい持っていけば良いという方針だが、対外にイメージが悪すぎるともお考えだ。だから、こっそり肉を持っていく分には、許可が降りたんだ」

「うわー、なんか凄い政治的」

「あと、巫女にも秘密にして欲しいそうだ……」


 それでこんなにこっそりと話し続けているのか。


 もうあんまりにも堂々とこそこそ話しているものだから、すっごい怪しむような目でコミーコスさんこちらを見てるよ!


 急に三人揃ってコショコショしてるんだもん! 目立つよ逆に!


「安心しろ。我々は最初から怪しい」

「それはそうだけども!」

「特に主が怪しい」

「ごめんなさい!」


 ちくしょう! メイド服め!


 なんでそんなに目立つんだ!


 もしかしたら、僕に計画が話されていないのは、演技が下手だと判断されたのと、あまりにも見た目が怪し過ぎると思われたせいなのかもしれなかった。


 どちらも納得できる理由なのが辛い!


 こういう暗躍系は現状、僕よりもベム子の独壇場となってしまっている節がある。


『ベム子は私の見張りを潜り抜けて潜めますからね。スペシャリストですよほんと。馬鹿だけど』


 そう、馬鹿なんだベム子は。


 馬鹿なのに有能すぎるなベム子……。


 これが十魔王の部下としての実力か。


 考えてみれば、四天王みたいなポジションの人なのかもしれない。


 そう思うと、ベム子が急に貫禄を持った存在に見えてくる。


『へーん! ベム子なんていつも泣いてばかりの弱虫でしたよ! ベムベム泣いていたからベム子って言われてるんです!」


 そんな理由だったの!?


 ベムクアルとかそういう本名からの名前だとばかり思っていた。


 そもそもベムベム泣くというのが謎すぎるし!


 ここで一度ベム子の容姿を確認しておくが、緑髪でショートヘアーの眼鏡っ子である。


 あれ、ぱっと見は賢い……?


 もしや馬鹿に見えていたのは幻想だったのか?


「主よ。私をじっと見つめているところすまないが、私はエルパカと違って女性に興味はない」

「どういう勘違いしてるんですか!」


 ベム子をジロジロと見ていたせいで、とんでもない勘違いをされてしまった。


 そんなに僕の視線っていやらしいかなぁ!?


「すまないがグリッズ様の嫁になるのだから控えてくれ」

「だから! なりませんから!」

「嫁になった後なら、私のことは好きにしてもらっても構わん」

「えっ……い、いや! だからなりませんって!」

『なんでちょっと揺れてるんですか』


 こ、心が揺れたわけじゃねーし。


 ちょっと想像しただけだし……。


『貴方、メンタルだけは悲しいほど男子ですね……』


 健全な男子高校生で申し訳ない……。


 もう、高校通えないから中退だけども。


「君ラ、流石に自由にやりすぎダ。急にコントを始める探検家なんて初めて見たゾ」

「あっ、はい、すいません……」


 流石に色々やりすぎて、コミーコスさんに怒られてしまった。


 すいませんコミーコスさん、こんだけ騒いだ挙句、死肉も盗みます……。


 心の中で罪悪感で詫びながら、草木溢れる洞穴を進んでいくと、やがて光が見えてくる。


 洞穴を抜けた先にあった光景は……。


次回は竜の死体とご対面?

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