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竜骨生物群集編③ 期間限定の町


 道とも言えない山道を進んでいると、突然、殺風景な景色の中に、オレンジ色の三角形が、まるで街並みのように立ち並んでいる光景に出会った。


 一体何事かと思い目を凝らして見てみると、どうやらオレンジの三角形は全てテントらしかった。

 

 何故急に、こんなテント群が?

 

 不思議に思い首を捻っていると、そんな僕を見かねたベム子が横から解説を始める。


「あれは期間限定で作られるドワーフたちの小さな町みたいなもので、いわゆるベースキャンプ……基地だな」


 思った通りあれらはテントであり、そこは大規模なキャンプ地らしかった。


「なんでわざわざこんな標高にいっぱい人が集まってるんですか?」


 ここは来るだけでも一週間はかかる大変な場所のはずだ。


 そんなところに限定的な期間とはいえ、わざわざ大規模な拠点を置いて住む意味は分からない。


「それには三つの理由がある。一つは採掘の為で、ドワーフは工芸品の制作技術で有名なんだが、その元となる石の採集を魔物が少ないこのタイミングで済ませようとしているわけだ。もう一つの理由だが、この山はちょっとした観光地や聖地となっているから、そいつら相手にボロい商売をやっている」


 ドワーフが金槌を振るう光景は僕もイメージするところだが、実際、山に沿って生きるなら自然とそうなるのかもしれない。


 そして、今は魔物が少ないタイミングらしい。


 言われてみれば、何かに襲われたりするハプニングに我々は出会ってはいない。


 ただただ山が過酷なだけだ。

 

「そういえば魔物や獣に会いませんね。単に標高が高いからだと思ってましたが」

「それはこのカンタンジェンガ崩山の魔力が関係している。この山からは魔石が取れるんだが、そのせいで魔物が生まれてしまうことも多々あって住民を困らせている……しかし、今は比較的、安全と言える時期だ」

「だからさっさと登りたかった。ベストタイミングは逃せない」


 テレサ様が僕にピースしながら自慢げに語る。


 しっかり地域の特性まで考えて計画を実行していたらしいテレサ様は本当に聡明でいらっしゃる。


 でも、先に説明してくださいよ!


 この山と同じでサプライズ好きなんでしょうけども!


「そういえば、最後の理由はなんです?」

「それは竜の墓の監視のためだ。魔物が収まると同時に、竜の墓に異変がないか確かめる」


 竜の墓……テレサ様の言うところの竜骨生物群集。

 

 ここに住む人間たちにとっても、やはりその場所は重要であるらしい。


「ついでに言うなら、この地点……つまり5000mくらいがギリギリ暮らせる高さというのもある。……まあ、だからこうしてテントの町が出来る理由は色々だと言えるな!」


 物凄く雑にベム子は話を終わらせた。


 けれど、確かに文化的なものにおいて、理由というのは一意に定まるものではないかもしれない。


 色々というのが正解なのは、事実だろう。


 楽しい解説も聞けたところで、僕は興味津々で、期間限定で現れる小さな町こと、テント地帯に足を踏み入れる。


 周囲は意外と賑わっていて、高所において貴重であろう水や食べ物をそこらかしこで売っていた。


 美味しそうな現地のローカルな料理も販売されていて、なんらかの煮込み料理から漂う湯気が、激しく食欲を誘った。


 あたりをキョロキョロと眺めているもので、もう観光客丸出しの僕だが、逆に周囲からの視線も感じる。


 陰キャ特有の自意識過剰だろうか?


 しかし、本当にジロジロ見られているような気が……。


「視線を気にしているようだが、それは全部メイド服のせいだからな」

「そういえばそうでした!」


 ベム子の山の気温よりも冷たい視線が、僕へと深く深く突き刺さる。

 

 そうだ、今の僕はメイド服で山を登る非常識人だった……。


 そりゃあ、こんな山の高地にメイド服の女が急に現れたら誰だって見るよ! 僕だって見るわ! 見まくるわ!


「さて、このあたりにいるはずなんだが……」


 さすがに恥ずかしくなって、身を縮めて歩いていると、ベム子がそんなことを呟きながら、周囲を注意深く見渡す。


 テントの中を軽く覗き込むように、ベム子が身を屈めていると、一人の少女がこちらに近付いて来た。


 それはテレサ様と同じような背丈の少女で、明らかに子供だった。


「君たちガ、竜の墓に入りたいっていう馬鹿者どもカ?」


 ドワーフ特有のもこもことした服に身を包んだもじゃもじゃとした茶髪の少女は、不躾に僕らに話しかけてくる。


 その子供とは思えない堂々とした態度で、僕は何となく察した。


 この子がもしかしてガイドの人……?


「ああ、そこにいたか。主よ、彼女が竜の墓の巫女をやっているコミーコスだ。若くて驚いただろう」


 ベム子が少女について説明してくれるが、やはり予想通りに巫女でガイドな人だった。


 竜の墓に入るための監視役だという話もあるが、その役目を担うのが、明らかに幼い目の前の少女というのは少し驚いた。


 やっぱり見た目通りの年齢じゃないパターンかな。


 でも、一応若い扱いでいいらしいけれど。


「えっと、特に捻りとかなく、そのまま若いんですね?」


 私の恐らくはとても阿呆な疑問に、ベム子が真剣に応える。

 

「うむ、まだ二十六歳なのに大役についている」

「二十六!? いや、若いかもしれないですけど!」


 思ったよりは若くないよ!

 

 子供だから驚いただろう? という話なのではなくて、その年齢で重要な仕事を任されるなんて驚きだろう? と言う話だったらしい。


 確かに驚きかもしれないけどさ!


 少女の見た目でかなりの年齢なのか、少女の見た目でそのまま少女なのかの二択だと思っていたら、その中間だったようだ。


『ドワーフ族の女はぱっと見だけは幼いんです。でも、よく見れば年相応だと分かりますよ』

 

 ロリコンのシロフィーがどんな反応をするのかと思っていると、彼女の声は平坦で、思いの外ドライだった。


 真の少女以外眼中に無いということだろうか……真性の変態だな。


『というか、胸がですね、大きいんです』


 シロフィーが無意味に声を潜めて僕に呟く。


 なん……だと……!?


 ドワーフの胸部は発達していると前に聞いたが、それは胸筋の類であって、おっぱいとは別という話ではなかったのか!


『あのですね、単純に大きさだけ見れば普通なんですよ。でも、体が小さいので比率的に胸が大きくなるんです』


 な、なるほどー!


 小さいという身体的特徴が結果的に胸を大きく見せているのか!


 また一つ賢くなってしまったな……。


 馬鹿なことを考えていると、思わず視線がコミーコスさんの胸の方へと移動する。


 悲しい男のサガである。


「何をジロジロ見ていル?」

「あっ、いえ失礼しました。クロフィー・クレマティス・クローニングと言います。よろしくお願いしますね、コミーコスさん」


 超無礼で失礼な視線は引っ込めて、深々と頭を下げて挨拶をする。


 そこまで頭を下げてなお、コミーコスさんは僕よりも低い位置にいるのだから、本当に小柄だ。


 頭を下げたままの僕に、彼女は少し厳しい口調で話し始める。


 まるで僕の後頭部に話しかけているかのような状態だ。

 

「ああ、よろしク。竜の墓は普通立ち入り禁止だガ、巫女は限定的に入れるのでナ。やりたくないガ、ガイドしてやル。長の許可があるなら私もうるさいことは言わないガ、あんまり面倒をかけてくれるなヨ」


 所々に訛りのような不自然な発音が目立つが、これはドワーフ特有のものなのかもしれない。

 

 そして、本当に許可は取れていたようで、不満は多そうだが、ついて行くことそのものは、拒否されなかった。


 一体どんな賄賂を贈ったのだろう……。


 金かゼニかマネーかな……。


 疑問は尽きない。


「はい、お嬢様が暴走しても私がお止めしますのでご安心を」


 不安そうなコミーコスさんを安心させるために僕は努めて笑顔で対応する。


 しかし、それは逆効果だった。


「いや、一番おかしいのは君だがナ。何故、メイド服なんダ」

「そうですよね! すいません怪しくて!」


 そう、メイド服なんだよ僕!


 もう何回目だよって感じだが、今までにないレベルでこの場ではメイド服が超マイナスになっている。


 流石にこの物理的に最高峰な環境下では、礼儀の最高峰とも言うべきメイド服でも、まるで話にならないらしかった。


 これが8000m級か……!


 僕は8000mを恨んだ……とんだとばっちりである。


『なーに、私がメイド服で火口に住むドラゴンと一騎討ちしたときはこの程度の反応じゃありませんでしたよ!』


 シロフィーが自慢げに語るが、だからそれはもうメイドとか関係なく化物なんだよとツッコミたい。


 それにしても本当にこのメイドは超人だ。


 流石、自分で伝説のメイドを名乗るだけあって、彼女の語るエピソードはいちいち常識を超えている。


 言ってることが意味不明すぎて、逆に嘘じゃないってわかるもんな。


 見習いたくはないけど!


「竜の墓周辺の特殊な生物群について研究に来た魔術師のテレサ。よろしく」

「君がこのパーティーのリーダーカ。私は魔術師をいまいち信用していないガ、これで墓が安定する可能性があるのなラ、渋々協力しよウ」


 テレサ様とコミーコスさんは互いの小さなおててで、しっかりと握手を交わす。

 

 見た目だけは、子供同士で仲良くしている、大変に微笑ましい絵面なのだけれど、実際は、魔術師と巫女とでどこかバチバチとした空気が流れている。

 

 まあ、魔術師はあんまり表に出てくることもないし、非社会的なので、イメージは悲しいほどに悪い……。


 それでもテレサ様はお母様の活躍により、まだマシな扱いを受けている方かもしれない。 


「安定は約束できない。あくまで観察と研究で得られた成果による」


 こんな場面でもテレサ様は冷静で、事実だけを淡々と述べていた。


 こういうところが学者肌だ。


「魔術師のそういう小難しいところが嫌いダ」


 コミーコスさんはテレサ様を睨むように呟く。


 よくない雰囲気だ!


「あ、あの!早速行きましょう!」


 にわかに空気が悪くなってきたので、僕は即座に話を切り上げさせて、竜骨生物群集へと、一行を急かせる。


 しかし、ようやく、目的地に着くということで、僕も少し緊張してきた、


 この先にあるのは、竜の死体。


 そしてその周りに集うという魔物たちだ。


次回はついに竜骨生物群集!

32話かかるとは……。

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