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竜骨生物群集編② ドワーフの胸は立派


 3000mから3400m、3400mから3800mへと一日ごとに滞在しながらコツコツと刻むように登山は進んでいく。


 これくらいだとまだ小屋や、人を見かけることも多い。


 出会う人々はやはり小柄でお髭がもっさりのドワーフのような見た目をしていた。


「あの、すいません。彼らはドワーフなんですか……?」


 もうなんかディスイズアペン? みたいな質問をしてしまって、大変に馬鹿っぽいのだが、実際そのレベルの認識でこの世界を生きているので仕方ない。


 そのうち本当に「これはりんごですか? いいえ、サムです」みたいなことが起きる可能性もある。


 この世界は本当に不思議なのだから。


「主は本当に記憶喪失なのだな……安心してくれ!私がグリッズ様の嫁にふさわしくなれるよう、色々教えようじゃないか!」


 いや、嫁にはならないけどという僕のセリフを遮って、ベム子は話を続ける。

 

 嫁扱いされてるとそのうち外堀が埋められて結果的に嫁ということになってしまいそうで怖い。


 いちいちツッコミたいところだ。


「そうだ、彼らは山岳に適応した種族で一般的にはドワーフと呼ばれている」

「山岳に適応したとは?」


 背が低い方が山では有利なんてそんな理屈があるのだろうか。


 疑問に思っていると、影獣に跨っていたテレサ様が答える。


「簡単に言うと、心臓や肺が大きい方がいい。そして体が小さければ、全身により効率よく血を送れる」

「なるほど〜」

「なので、ドワーフは背が低く、反面、胸部が大きい」


 おっぱいが大きい?


『胸部が大きいですよ。全然違いますからね』


 確かに見かけるドワーフたちは非常に胸筋に優れているように見える。


 なるほど、小柄なことに目が行きがちだけれど、あれも種族的特徴なのか。


 まとめると、小柄でムキムキなドワーフは、全身に血液を行き渡らせるのに効率的な存在で、山に向いているという理屈が成り立つわけだ。


 それにしてもテレサ様はずっと平然としているが、それがいつもの調子すぎて、体調を崩しているのかいないのかまるで分からない。


 メイドとしては大変に不安になるわけで。


「というか、テレサ様は本当に大丈夫なんですか? 私やベム子はもう化物なんで平気ですけど」

「主ほど化物ではないと思っているのだがな」


 ベム子は心外そうにそう言うが、いや、貴女はシロフィーの影に隠れているだけで十分人類を超越した存在ですよ。


 地味に隠密ではシロフィーを上回っているしね。


 テレサ様は僕の心配なんて、どこ吹く風で、自信満々に胸を張る。

 

 その胸部はまだ幼く頼りない。


 本当に大丈夫だろうか……。


「私がいつも身に付けている猫フードは、伊達や酔狂じゃない。これも、装備の一つで、内部の影を操って私を守っている」


 テレサ様はモコモコな服の下に着込んでいたフードをその手でパタパタとはためかせてアピールする。

 

「あー!そうだったんですか!」


 僕は結構素で驚いた。


 言われてみれば当然だけど、あのいつも身につけている猫フードも、操れる影のジャンル内だったのか!


 ずっと一緒にいたのに気付かなかった……。


 時折見せる子供離れした運動神経は、この猫フードのおかげだったのか。


「前に全裸になったのも、影の上に影を着るのは大変だったから」

「魔獣に喰われた時ですね。なるほど、そういう事情が……」


 魔獣の内部に入って操縦していた時は、影の上から影を着ることが嫌だったので、装備を外していたということか。

 

「このフードの中は常に最適な環境が作られる。よって、山登りに最適」


 再度、テレサ様は胸を張って自分のフードを自慢げに語る。


 前にロザ様から、探検や冒険がテレサ様の趣味だと聞いていて、汎用性の高い魔法だから最適かもしれないと思ったものだが、その猫フードの機能を聞くと、その感想がより強まっていく。


 知力、体力、マンパワー、汎用性、そして好奇心。


 もろもろに優れたテレサ様は、まさに冒険家や探検家が天職なのかもしれない。


「主の主もさすが魔術師だな。グリッズ様を少しは驚かせただけはある」


 グリッズを引き合いに出すベム子だが……。


 いや、少しどころじゃなかったけどね?

 

 そう思ったが、彼女の立場も考えて黙っておく。


『ボロ負けしてましたよ貴女の雇い主プップップー!』


 聞こえないのをいいことにシロフィーが思いっきり言ってしまっていた。


 このメイド、本当に鬼畜過ぎる。


 魔法戦に精神攻撃が有効なせいで、この性格になってしまったんだとしたら、これも職業病と言えるのかもしれなかった。





「さて、竜の墓場だが……別に山頂にあるわけではない」

「違うんですか!?」


 一旦、休憩するために、小屋に入り、沸いたお茶を飲みながら一服していると、衝撃的なことが話された。


 登る気満々で覚悟決めてたのに!

 

「なんだ主。登頂する気だったのか? メイド服で」

「いや、途中で終わるならそれはそれで万々歳ですけども!」

「それは良かった……正直、ここに来るまでの道中でも周囲の視線が凄く痛かったぞ」


 それは本当に申し訳ない……。

 

 全てメイドの幽霊が悪いんです……。


『人のせいにしないでください。いいじゃないですか、メイド伝説が増えますよ』


 君の望むメイド伝説の方向性おかしくない?


 なんかそのうちUMAみたいな感じになっちゃうよ?


 山の伝説になりかけている僕のことは置いておいて、横で話を聞いていたテレサ様が説明に加わる。


「竜の墓場……私の命名で竜骨生物群集は、この土地でパジャと呼ばれるお祈りの場所の奥にある。そこは、ドワーフたちが決して近寄ってはならないと言い伝えている場所で、魔物がウヨウヨウジャウジャしてる。一種のダンジョンみたいな感じ」


 竜骨生物群集はテレサ様のネーミングセンスによるものだったのか。


 すごい学術性を感じる。


 しかし、部族のお祈りの場所になっているのなら、簡単には入れない気がするけれどそこはどうなのだろう。


「大丈夫なんですか? 立ち入り禁止の場所なのでは」

「大丈夫。ベム子に前乗りさせてたのは交渉のため」

「うむ、きちんと話を付けておいたから、おいたから安心してくれ」

「ええええええええ!?」


 ベム子は当然だとでも言いたげな表情で僕を見るが、いや初耳すぎるよ!


 ぼ、僕が知らない間にそこまで話を進めてから、計画に移っていたとは……。


 屋敷を取り仕切るメイドとして、なんたる屈辱!


「テレサ様、どうして言ってくれなかったんですか!」

「驚かせたくて、てへ」

「もー!そんな可愛く言っても許しますよ!」

「許すのか」


 許す!


 可愛いから!


『これは仕方のないことなんですよ』


 シロフィーも何故か僕と一緒に弁明してくれていた。


 もはやロリコンコンビ、略してロリコンビの様相を呈して来ているが、勘違いしないでほしい。


 僕のは子供好きであり、彼女のはロリータコンプレックスだ。


 なので、言ってることは同じでも方向性はかなり違う!


『私は子供好きな上に少女が好きなだけです!』


 それは、更にヤバいだけじゃないか?


 疑問に思ったが、突っ込むことはやめておいた。


 シロフィーが少女について語り出すと長い上にキモいからだ。


「でも、よく許可が取れましたね」


 一言声をかけた程度で、踏み入れられそうな場所とは到底思えないけれど、どうやったのだろう。


 するとテレサ様は袖の下から何かを取り出すようなジェスチャーをする。


「賄賂を」

「賄賂を!?」


 袖の下から賄賂を出して許可もらったってこと!?

 

 超ダーティなんだけど!


「あと、私が仙人山出身だから信頼が勝ち取り易いというのもある。あの山の出身者は偉人が多いんだ」

「ああ、なるほど。まあ、そりゃあ、偉人にもなりますよね」


 ベム子の弁で僕は少し納得した。


 今のところ、シロフィーとベム子しか見てないが、正直、二人とも明らかに超人で、偉人にならない方が難しいレベルに思える。


 というか、シロフィーは既に偉人と言えるかもしれない。


 そんな面子を輩出している仙人山のブランド力は、色んな面で融通が効くらしかった。


 ベム子は前々からかなり優秀だと思っていたが、僕が思っている以上に顔が広く、信頼が置かれている存在なのかもしれない。


 そして、この権限をシロフィーが生前悪用していたことは想像に難くなかった。


『黙秘します』


 彼女は顔を逸らしてそう言うが……。


 もうその黙秘が答えだよ!


「それで、あと2000mほど登ったところに巫女でガイドの……というか、監視役のドワーフがいる。だから、とりあえずそこまで行く必要がある。そして、そのドワーフと共に竜の墓場に突入するのが現在の予定だ」

「はい、これ旅のしおり」


 テレサ様から手渡されたその紙には、可愛らしい文字で「山、登る、巣、突入、楽しい」とだけ書かれていた。


 端の方では動物たちが可愛く描かれている。


 癒される絵だけど、雑!


 いや、大雑把!


 計画は入念なのに!


「というか!テレサ様とベム子はいつのまにそんなに仲が良くなったんですか!?」


 自分のご主人様が未だに結構謎な存在と、しかも割と敵寄りな存在と仲が良いもので僕は焦りを覚える。


 このままでは屋敷での立ち位置がまずいかもしれない。


「主の主とは、魔界の話を聞きたいと言うのでよく話していたんだ」

「魔界の話好き」


 笑顔で答えるテレサ様とベム子。


 そうかー、ベム子は魔界から来た女だった!

 

 そしてテレサ様と、ついでにロザ様も、魔界の話が大好きなのである。

 

 魔界の話は派手な上に学術的な価値があるからなぁ……。


 知と楽を併せ持つ最強の話題だ。


 魔界話はエルパカだけの領分だと思っていたけれど、ベム子もその方向性で仲良くなれたとは計算外だった。


『メイドの嫉妬で今日も酒が美味いですねぇ』


 幽霊は飲めないだろ酒!


 適当なことを言うシロフィーをよそに今日は小屋で一泊することとなった。


 竜骨生物群集まであと2000mだ。


次回はドワーフの巫女に案内されて……?

急に思いついたので短いながら短編(重複表現)を投稿しました。

https://ncode.syosetu.com/n1866gq/

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