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竜骨生物群集編① 山を登ろう!


「山を登ろう」


 いつも通りに朝食を召し上がりながら、これもまたいつも通りに唐突に変なことを言い出すのは、僕のご主人様のテレサ様。


 いつだってこちらの想像を超えてくる天才肌で、わりかし変人なテレサ様だけれど、その日はテレサ様に加えて、その意見に何故かとても乗り気な女がいた。


「私に任せろ! こう見えても山登りには一家言あるんだ!」


 ベム子である。


 なし崩し的にオセロ屋敷に加入した彼女だが、今はもう完全に正式加入と言った雰囲気で、より一層馴染んでしまっている。


 かつては敵同士だったとかではなくて、今でも変わらず立派に敵の部下なはずなんだけどなぁ……。


 ベム子は持ち前のそのさっぱりとした性格のおかげで、あまりそういった事情が気にならない。

 

 所謂、人徳というものだろうか。


 しかし、山登りか。


 簡単な山なら僕も日本で登ったことはあるけど、果たしてテレサ様がそんなお優しい想像の範疇を求めているとは思えない。


「山登りは健康に良くて大変結構ですが、一応聞いておきますよ? どの程度の山を想定していますか?」

「8000mは超えていて欲しい」


 エベレストクラスじゃん!


 K2クラスじゃん!!!


 僕の知識が正しければ、8000m級の人類初登頂はなんと1950年とごく最近の出来事のはずだ。


 そしてその時に登られたアンナプルナという山の死亡率は20%はあった気がする……。


 無理だ。素人の手に負えるものではない。


「やめておきましょう。それはもう山登りなんて可愛らしいものじゃありません」


 こんな和やかな朝食の場で、何ということを言い出すんだ僕のご主人様は。


 そんなところが大変お茶目でキュートでもあるが。


「でも竜の墓場はそれくらいの高さにあるから」

「えっ、ああ、竜骨生物群集でしたっけ?」


 先日、テレサ様が僕を冒険に誘ったが、それが確かそんな名前をしていた。


 テレサ様のお誘いなので、どうせとんでも無い場所だろうと思っていたが、どうやら、予想以上にヤバい場所にあるらしい。


「ほう、主の主はお目が高いな。確かに竜の死体を山の高所で見かけたことがある。あれは肋骨税別軍団というのか」

「竜骨生物群集です……貴女は貴女でなんで当然のように登ってるんですか」

「仙人山ではそれくらい当然の修行だ」


 山登りも修行のうちなのか……。


 確かに、日本でも行者とか山籠りとかそんな言葉もあるし、山と修行は割と密接な関係なのかもしれない。


 8000mはおかしいけどさ!


「そう、私には修行が必要。今のままでは弱すぎる」


 テレサ様はご自身を鍛える為に山を登りたいらしい。


 まさに山籠り的なことか。


 しかし、僕はテレサ様は立派にやっていると思っている。


「いえいえ!立派ですよテレサ様は!」

「甘やかすの駄目。もっと軽く扱って」

「あっはい……えっと、ご主人様として竜の影くらい操って欲しいもんですね!」


 頑張って軽口を叩くと、テレサ様は嬉しそうに微笑んでいた。


 なんでこれで喜ぶのかな……。


 僕のご主人様は地味にどMなのかもしれなかった。


 幼い身で厳しい業を背負っておられる。


「そういうわけで登る」

「マジですか……」


 テレサ様の声色は完全に本気のものだった。

 本気と書いてマジと読むレベルの本気度合いだ。


「主、私に任せろ。安全な山の旅をお届けしよう」

「安全な山の旅ができる標高を超え過ぎているんですよ。竜の死体だけじゃなく、人の死体を眺めながら歩くレベルですよ」

「朝食中はもっと平和な話をしてくれないか!」


 ロザ様からのツッコミも入ったところで、話は中断され、そのままこの超無謀な山登り計画はお流れになった……かと思っていたが、ある日、テレサ様がモフモフな格好で僕の前に現れる。


「よし、行こう。山に」

「マジで行くんですか」

「マジマジ。もう、ベム子が先に行って下見してる」

「いつのまにか仲良くなってますね……分かりました。覚悟を決めて、お供します」


 一度言ったことは意地でもやり遂げるのがテレサ様だ。


 こうなってはベム子と二人で行かせるよりは、僕もついていった方が生存率が高い。


 こうして僕は山登り……というか登山を敢行することとなった。


 ……当然、メイド服で。





「主よ。言いたくないのだが、言わせてもらおう。山を舐めているのか?」


 影魔法で生み出された獣に跨り数日後、僕とテレサ様は最も近くにあった8000m級の山ことカンタンジェンガ崩山というところに来ていた。


 今はその麓の町を歩いている。

 

 あたりは髭面で背の低い男たちで溢れていて、僕はあまり褒められない行為だが、彼らちらちらと眺めながら、もしやあれはドワーフ? なんて疑問に思いながら町を歩いた。

 

 そして前述のセリフを投げかけて来たのが、前乗りして町に滞在していたベム子で、僕のメイド服姿を見て呆れ返るような顔をしている。


 僕だって、自分の異常さは分かっているけど、そう簡単に脱ぐわけにはいかないんだよ!


「あの、私はメイド服の方が調子が出るので」

「そんな人類はいないぞ主よ」


 ため息混じりにそう返された。


 いるんだよここに!


 くっそー!説明できないのがもどかしい!


 すごい馬鹿を見る目で見られてるし!


 しかし、馬鹿にされるのも当然で、ベム子はいつものメイド服を当然のように脱ぎ捨て、今はきっちりと町で買い揃えたのか、登山スタイルの服装に着替えていた。


 その準備万端な姿からは彼女の真面目さを感じさせる。


 っていうか、いや、メイド服で来る奴が全面的におかしいんだけどさ!


 死ぬ気かよってなるよね! うん!


『メイド服はあらゆる場面に対応する最強にフォーマルな服装でしょうに!』


 シロフィーが不満げに愚痴るが、流石に山は対象外だと思うよ?


『そもそも生前、私はメイド服で単独無酸素登頂を果たしてます! クロにだって出来るはずですよ!』


 それはもう山の妖怪か何かだよ。


 その光景を見た人間はきっと自分が幻覚か何かを見たのだと思って、その後一生、その光景を夢に見ることだろう。


 お可哀想に……。


「とにかく! メイド服は脱ぎませんし、山もこのまま登ります! どうしても止めたいのであれば、戦いは避けられませんよ!」

「なぜそこまで頑なにメイド服に拘るのかは分からないが、そこまで言うなら主に従おう……」


 ヤバいものを見る目でベム子に見つめられてしまった……。


 ちくしょう! なんでこんなことに!


 僕はメイド服で登山しようとしているだけなのに!


「メイド服可愛いからおーけー」

「ありがとうございますテレサ様。テレサ様のお召し物も大変お似合いですよ」


 もこもこのテレサ様はいつもの五割り増しでその可愛さが盛られている。


 ゲレンデマジックといって、よく着込む為に女性がだいたい美人に見えるという現象があるのだけれど、それをテレサ様がするともはや無敵だった。


 そんな可愛らしいご主人様からの許可も貰ったので、僕は本格的にメイド服で山を登ることに決定された。


 我ながらどうかしているが、もうメイド服は僕の呪いみたいなものなので、一生こんな風に生きていくことになるんだろうな。


「さて、まず3000mあたりまで行って暫くは滞在の時間になる」

「あっ、高度順応とかするんですね」


 高度順応とは、急激な酸素の低下などで体がびっくりしてパニックにならないように、ゆっくり体を馴染ませて山を登ろうというものだ。

 

 体がパニックになった結果が高山病と呼ばれる症状で、話によると陸に打ち上げられた魚の気分を味わえるらしい。


 僕としては、一生味わいたくない!


「当たり前だぞ主よ。初めてこの山を登頂したのは魔術師のメルヘイルという奴だったんだが、そいつが日誌に登山の方法論を残していたんだ。その本が出回ったことで、登山という行為が広く知れ渡ったんだ」


 なるほど、その魔術師がこの世界における登山の歴史を大幅に更新したということか。


 高山病などについても知られているのなら、この世界は僕が思っている以上に進んだ世界ということになるのかもしれない。


 一応、登頂者がいるのなら、大丈夫なのかな……。


「猫メイド山岳隊、しゅっぱつー」


 こうして謎の登山編は始まった。


 目指すは竜骨生物群集だが、まだまだ先は長い。


長かった魔界周辺も終わり、ようやく日常?な感じです。

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