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十魔王グリッズ編② 魔王のお考え


「その兎の被り物は素晴らしいセンスですね」


 テレサ様が本当にそれに触れて良いものなのか、かなり謎な、ギリギリな話題に躊躇なく突っ込んでいく。


 いや、でも、気になるよね兎の被り物。


 テレサ様も似たような格好と言えるけど。


「ふん、貴様のその猫のフードもなかなか悪くないぞ!この兎はだな……一応の中界対策だ」


 中界と魔界での恒常性の違いにより、魔法の発動に差が出るのだが、それが魔界人にとってかなりの忌避感になるという。


 つまり、あの被り物はマスクや宇宙服の上のやつみたいなものか。


「中界の影響を受けないようにしてるんですね」

「一応だ!中界にビビっているわけではない!」


 なんか思いのほかビビってるっぽいな。


 しかし、それが普通だという話だ。


 エルパカくらいぶっ飛んだ人格でないと厳しいものがあるのだろう。


 むしろあんな被り物する程度でここにやって来れるのは、魔界基準で言えば相当な度胸かもしれない。


 これが誘拐のためじゃなければ、好感度にも響くのだが。


「我も一つ聞いておきたいことがある」


 グリッズは周囲を見渡す。


 店員や客をやっている見た目が割と怪物なメイドも含めて、この場所は結構な不思議な空間なので聞きたいことは多そうだ。


 すると、何故か僕の方で視線を止めた。


 うっ、兎の被りものの癖に眼光が鋭い。


「そこのメイド……美しいではないか。可憐だ……クロフィーと言ったか?」

「あっ、はい。クロフィーです。お褒めに預かり光栄です……」


 褒められてしまった……美貌を。


 ついに男に褒められてしまった……可愛さを。


 覚悟はしていたが、辛いものがある!


 男として凄まじい屈辱を味わうが、キレるわけにも行かないので、僕は大人しく頭を下げる。


「グリッーーーーズ!何を色目を使っているんですの!!!彼女はわたくしのご主人様ですわよ!!!!」

「エルパカよ。貴様は相変わらず騒がしいな。お前があの忌々しい跫音跫音(きょうおん)の娘でなければ、我もこんな苦労はしないというのに」


 敵という形ではあるが、知り合いではあるエルパカがグリッズを一喝する。


 相変わらずエルパカは度胸が凄い。


 自分を攫いにきた魔王相手に堂々としすぎである。


「エルパカに関してですが、彼女を拐うのはどうしても実行しなくてはならないことなのでしょうか」


 テレサ様がエルパカが話題に出たタイミングで、綺麗に議題に絡め、話を進める。


 意外と話し合いが上手い。


「どうしても必要だ。相手の弱点を突くのは当然と言える。貴様も魔術師なら分かるだろう?精神的動揺は、魔法戦においては絶対的な隙になる」

「それ以外に、エルパカのお父様を倒す方法はないと?」

「あるかもしれんが、百年は掛かるだろう。そんな悠長なことはしてられん」


 話し合いは平行線を辿る気配を見せている。


 こちらにとっては大切なメイドでも、グリッズにとってはエルパカは便利な道具でしかないのだから、話が合うわけもないのだけれど。


「我も別にエルパカを殺そうというわけではない、ただあの男と戦う上で、急所を抉る一撃の補助に使いたいだけだ。悪いようにはせん」


 グリッズが譲歩するようにそう言うと、テレサ様は、フードからちらりと見えるその赤い目で、彼を睨んだ。


「いいえ、貴方は場合によってはエルパカを盾にでも何にでもする」


 心中を見通すような、そのセリフに、グリッズは驚いたように動きを止める


「ほう、何故そう思う?」

「一度道具として使えば、後はただ使い捨てるだけ。それが、普通。意識とはそういうもの」

 

 それが確信をついた言葉だったのか、グリッズはパチパチと拍手をする。


 道具は道具であり、いざとなれば切り捨てるのは普通……言われてみれば当然の理屈だ。

 

「分かっているじゃないか魔術師よ。ただの小娘ではないようで安心したぞ。そうだな、お前の言う通りだ。いちいち道具の心配までしていたら、魔法など扱えん。それそのものが下らん動揺になる。訂正しよう。悪いようにはしないが、死にはするかもしれんな」

「分かった」


 グリッズの冷たい言葉を聞いたテレサ様はおもむろに立ち上がると、横に置いていたいつものリュックを背負い、いくつかのヌイグルミを取り出した。


 もっともお気に入りであろうクマのヌイグルミの影が巨大化すると、テレサ様の横でクマ影はグリッズに向かって構える。


 僕は察した。


 話し合いは決裂したのだと。


 まあ、そもそも到底無理な話し合いではあったけど。


「グリッズ様、私と魔法の訓練をしてくれますか?」


 テレサ様が挑発するようにそう告げると、グリッズは高らかに笑ってみせた。


「はっはっはっは!!!かまわんぞ……中界風情の思い上がり、我が正してやろう」


 戦いが始まってしまう。


 僕も加勢する為に、テレサ様の側に寄ろうとすると、それはテレサ様によって止められた。


「これは訓練。私だけでやる必要がある」

「で、ですが!」

「クロは、私の後に、お願い」


 その言葉で僕はテレサ様の意図を察した。


 まずはグリッズの魔法を僕に見せてくれようとしているのだ。


 魔法のもっとも恐ろしいところは、その不可解さにある。


 つまり、初見での対応が難しい。


 僕も運が悪ければ、テレサ様と出会った初日に影を切ろうとして、大失敗していたかもしれない。


 まずは敵の魔法を知ること、それが魔法戦で大事なことなのだろう。


「せっかくの宴を壊すわけにはいかんな……屋敷の天井を借りるぞ」


 こちらの準備を気遣うようなことを言いつつ、グリッズもまた立ち上がり、ひとっ飛びで屋敷の天井まで飛び跳ねた。


 一ヶ月頑張った成果なので普通にありがたい!


 しかし、本当に兎みたいな跳躍力だが、恐るべきはその身体能力である。


 ただの運動性能でさえ、単純に強い。


 テレサ様も後を追って、影のクマの背に乗り、屋敷の天井までよじ登る。


 可愛い。


 いや、可愛いとか思ってる場合じゃない!


 本当に危険になった時に助ける為にも、近くで見る必要がある。


 僕も一緒に、壁を蹴り上がり天井へと移動した。


 ……もう慣れてきたけど僕も大概なんだよな。


「貴様のそれは影魔法か。悪くないセンスをしている。汎用性も高いだろう。しかし、我の魔法ほどじゃない!」


 グリッズは余裕綽々な雰囲気で、指を軽く振ってみせる、すると、何処からともなく赤い鎖が幾つも飛び出し、テレサ様を囲うように、周囲に鎖の檻のようなものが出来上がった。


「これが我の鎖魔法……決して千切れず、万物を縛る……まさに王の魔法だと思わんか」




次回グリッズVSテレサ!

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