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十魔王グリッズ編① 魔王現る?


 勤め人の基本は、ほうれんそう。


 つまり、報告、連絡、相談である。


 森の中で野良メイドを発見し、十魔王の1人が一ヶ月後くらいに襲撃してくる事を知った僕は、己のご主人様たちに、その報告をしに行った。


「えっと、魔王のグリッズが来る頃になったら屋敷から離れた場所で待機して、襲撃を待つという案もあると思うんですが」

「えー。ここでやろう。いや、やる。魔王の歓迎会も開く」

「歓迎会は開かなくてもいいのでは……?」

「せっかくだし、開く」


 テレサ様は何故か、頑なに魔王の歓迎会を開こうとしていた。


 まあ、王ではあるので、丁重にお持てなしするのが正しいというのはあるけど、今回は敵なので……。


「ご主人様、わたくしを気になさっているのなら、大丈夫ですわ!!!盛大に歓迎会を開くべきですわ!!!」

「なんで乗り気なんですか」


 エルパカはそもそも魔界気質のせいなのか、お祭り系が好きなようだった。


 ロザ様に助けを求めるように視線を送ると、ロザ様は諦めたような目をしている。


「いや、まあ、穏便にいく可能性があるうちは、その方向も模索するべきじゃないか?テレサが一度やるって言ったことは、もう覆らないしな」


 物凄くごもっともな意見をいただいた。


 戦闘は別に歓迎会をしてもなお、可能な行為であるし、それで満足して貰える可能性が少しでもあるなら、やっておいて損ではないということか。


 魔界の人間は、そういうのに弱い気もする。


 そして、テレサ様は頑なだ。


 仕方ない……歓迎会を開く方向で動こう。


「あっ、あとメイド拾ったので、しばらく屋敷においてもいいですか?ちゃんと世話はしますので」

「世話するならいい。途中で飽きないように」

「私の扱い雑すぎるだろ!犬じゃないぞ!勇敢なる戦士でメイドだ!」


 喚くベム子を引きずりながら、主人の元を去り、歓迎会の準備を始動させる。


 屋敷にある物を倉庫などから持ち出し、形を整えながら、僕は一ヶ月後を待った。





 そして、一ヶ月の時が経った。


 屋敷の前にはお祭りかと見紛うばかりの、謎の屋台が立ち並んでいる。


 そして、その中心に特別席を用意した。


 ……果たしてこれで合っていたのだろうか?


 制作途中から、だんだん不安になっていたのだけれど、テレサ様の要望やエルパカに魔界の好みなどを聞いていると、結果的に僕の前世の知識もあって、勝手にこの縁日みたいなスタイルになってしまった。


 歓迎会ってこういうのだっけ?


 もっと厳かなような……いやでも、パレードとかする時もあるしな。


 割と合っているのか?


 そして、周囲にはまばらに人影もあるのだれど、普通、屋敷に囚われた怪物メイドたちは屋敷から出られないのだが、テレサ様の魔術の腕前もこの一ヶ月で成長し、やや屋敷の範囲を広げることに成功していた。


 というわけで、屋敷の前くらいまでは出歩けるようになった。


 久々の大地を踏み締め、メイドたちは屋台で店員をやったり、逆に客に扮して屋台を回ったりしている。


 ……果たして久しぶりの外出がこれで良かったのだろうか。

 

 もはや疑問しかない。


「なかなかいいと思いますわよ!!この屋台スタイルは、魔界の好みを内包しつつ、新しさもありますわ!!!きっと、魔王も喜んでそこの謎のふわふわなやつとか食い始めますわ!」

「ああ、わたあめね」


 わたあめ機は空き缶などで作ることが出来るのだけど、今回は僕の腕力……つまりメイドパワーでゴリ押した。


 さて、これで魔王がやってこなかったら、ただの楽しいお祭りなのだけれど。


「あたらない……」

「僕にやらせてみろ!これくらい余裕だ!」


 テレサ様とロザ様は弓を用いた的当てで盛り上がっているようだった。


 尊い光景だ。


 もうこれなら、魔王来なくてもいいかな……。

 

「グリッズ様は来る!昨日から気配をビンビンに感じているんだから間違いない!」

「ベム子さんが言うと、ちょっと不安になるんですよね……あっ、焼きそば一つください」


 ベム子さんはすっかり屋敷に馴染んでしまい、今は屋台で焼きそばもどきを作っていた。


 この人、馬鹿だけど割と善人だから、憎むに憎めないんだよな。


「ほら、食え!」

「あっ、はい、ありがとうございます」


 適当に焼きそばを食いながら、時間を潰す。


 僕はお祭りで待ち合わせに遅れた知り合いを待つ人かな?


 魔王とそんな気軽な関係になった覚えはないのだが。


 そんなことを考えていると、森の奥から普通とは異なる気配を感じた。


『この異物感。噂の魔王だと思います!』


 シロフィーも同じように森を見つめている。


 この一ヶ月、もう本当に待ち侘びすぎて、なんか色々と迷走してしまったほどだったが、ついに魔王と相見えることができる。


 長かった……意外と長かったよ一ヶ月は!


 微かな足音と共に、魔王は現れた。


 長い耳、ピンクの肌、赤く丸い目、180を超える長身。


 そいつは……兎の被り物をしていた!


 どいつもこいつもふざけすぎだ魔界!


「エルパカ、魔界人は変な格好してないと死ぬんですか?」

「いや!私が会った時はもうちょっとマシな見た目でしたわよ⁉︎」

「エキセントリック。痺れるセンス」


 テレサ様は絶賛しているが、魔王の威厳は皆無だ。


 本当に魔王はこいつで合っているのか、ベム子の方を見てみると、彼女は興奮した様子で手を振っていた。


「グリッズ様ー!凛々しいですー!」


 合っている!


 じゃあ、あれが本当にグリッズなのか。


「ベムクアルよ。よく耐えてくれたな」


 兎はベム子の歓声に、よく通る低い声色で応える。


 声は魔王の威厳があるな、声は。


 そして、ベム子さん、そんな名前だったんだ……。


 もうベム子で通すけども!


「そして貴様ら、どうやら我を歓迎する宴を開いているようだが……ふっ、中界にも礼儀が分かるやつがいるではないか!」


 あっ、これ礼儀がなっている判定なんですね?


 僕のこの一ヶ月は間違っていなかったようだ。


 本当に良かった……これが全部無駄だったら、流石に心が折れていた。


 確認が取れたところで、僕は主人を連れ立って挨拶に走る。


「あの、グリッズ様、お初にお目にかかります。当屋敷でメイドをしていますクロフィーといいます。こちらは、主人のテレサ様です」

「テレサです。十魔王に会えて光栄に思います」


 テレサ様は敬語で挨拶をすると、深々と頭を下げた。


 そういうの出来たんですねテレサ様!


「うむ、我が十魔王の一人〝纏縛(てんばく)グリッズ〟だ。まあ、十魔王など俺の飾りの一つにすぎんがな!」

「きゃああああ!グリッズ様!グリッズ様!」


 ベム子さんが凄い騒いでいる!


 こんな感じの子だったのか……。


 グリッズが中央の席に大人しくついたところで、魔王との会談が始まった。


 穏便に済む可能性、果たして本当にあるのだろうか。


次回、魔王会談?

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