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魔界人現る?編⑥ メイド対メイド


 メイド対メイド!


 始まってしまったがカオスな絵面だ。


 僕はベム子さんが振るうナイフを最小限の動きで避けながら、激昂した彼女の様子を窺う。


 なるほど冷静さを失った顔をしている。


 真っ赤を通り越して、顔色が真紅になりかけているほどだ。


 もはや緑色の髪がヘタに見えてきたし、合わせてトマトに見えてきた。


「死ね死ね死ね死ね死ねーい!」


 殺気が凄すぎる。


 ベム子さんは溢れんばかりの殺気を振りまきながら、木々を蹴り、周囲を忍者かと見紛うばかりの動きで飛び回る。


 攪乱して、こちらの隙を狙いにきたか。


 怒っていても、その戦い方はまだ冷静さがある……さすがと言うべきか、


 視認し続けることも可能だったが、僕はあえて、視線を逸らし隙を作る。


 すると、その隙を見逃さず、ベム子さんは背後から飛びかかるように強襲してきた!


 僕も大概だけど、中々人間離れした動きをしてくるのは、さすがシロフィーと同郷の武術家と言ったところか。


 しかし、メイド技術その68〝関節技(イッタ・イーヨ)〟!


「そ、その技はいたたたたた!」


 僕は流れるように振り返ると、そのまま相手の腕を取り、地面に組み伏せる。


 そのまま関節を極めると、ベム子さんはなんとか逃れようとするが、もうこうなるとどうやっても逃れることはできない。


 さすがメイドスキル、強い。


 いや、シロフィーが強すぎると言うべきか、相手が怒り心頭に発していたとはいえ、こんなに簡単に捕まえられてしまうとは。


 まあ、流石に人間でシロフィーより強いやつがゴロゴロいても困るけど。


「お前その技、仙人山の出身か!私が出ていった後に入山したか?」

「あー、いえ、私はその、記憶喪失でして、その辺はよく分からないのです」


 仙人山なんて、さっきまで名前も知らなかった僕である。


 色々言われても、困ってしまうので先に断っておく。


『というか、ベム子が若々しい姿でいるのはややおかしいですね。ここに潜んでた理由と一緒に聞き出したいところですが……』


 そういえばシロフィーは、死後結構経っているはずの幽霊だ。

 

 その幼馴染が同じように若いのは、言われてみれば不思議である。


 ベム子さんをちらりと見つめるシロフィー。


 その視線に反応したわけでもないだろうが、ベム子さんは威嚇するように言う。


「何をされても私は話さんぞ?拷問など、通じると思わないことだな」


 武術家然としたその態度は、簡単には話してくれないであろう貫禄に満ち溢れている。


 これはちょっと困ったことになっただろうか。


『いえ、ベム子は馬鹿なのでいけます。ちょっとおだててみて下さい』


 おだてるって。


 いや、いくらなんでもその程度で話してくれるわけがないだろう。


 訓練された密偵だよ?


 難しいんじゃないかなぁ。


 やってみるけれどな!


「見事に気配を隠し続けていた優秀なメイドさんの素性を知りたかったんですが、さすが優秀なだけあって簡単に話してくれそうにありませんねー。うーん、困ったなー。一体、誰がこんな優秀極まりないメイドさんを雇っていたんでしょうねぇ」

「えっ、ま、まあな!わ、私はあのグリッズ様のメイドだからな!」


 おだててみれば1秒で口を滑らせた。


 めちゃくちゃチョロいなこの人!


 思ったより、馬鹿だぞこのメイド!


「グリッズは魔界の十魔王の一人ですわ」


 エルパカが小声で僕にそう話しかけてくる。


 このメイドさん、魔界のメイドさんだったのか。

 

 魔界はもう全部見た目が派手派手なのかと思っていた。


『ベム子は元々は中界にいたわけですから、見た目も相応ってことですかね。恐らく、途中で魔界に移動して、そこでメイドを始めたんでしょう。容姿が変わらないのも、その途中で何かあったのかも』


 そうか、魔界人は中界を忌避しているが、元々中界人のベム子さんなら、気にせずやって来れるということか。


 しかし、中界の人間も忌避されているという話なので、そのベム子さんを雇っているグリッズというのはかなり懐の広いやつなのかもしれない。


「有能な人材をきっちり雇用できている!いやぁ、それだけでグリッズ様の素晴らしさが伝わって来ますね」

「当たり前だ!あの方の信念は下らぬ流言飛語に振り回される隙などない!今は私が偵察として先陣を切ったが、グリッズ様はこの中界にもエルパカ嬢を拐いにやってくることだろう。その時を恐れながら生きていくんだな!」


 更におだててみると、堂々と何もかも話し出すべム子さん。


 思いのほかたくさん情報を貰ってしまった。


 このチョロさ、相当なものだぞ。


 エルパカに勝る阿呆の子を見つけたかもしれない。


 ただ、言っていることは物騒極まりなく、魔王がここまでやってくるという。

 

その実力は謎だが、厄介なことに違いはない。


「グリッズは、魔界で私を追っていた男ですわ!中界まで来るはずないと高を括ってましたが、まさかまさかですわね!!!!」

「そんなテンション上げられても困りますが、やはり、エルパカが狙いですか」


 一度、ベム子さんから離れて、エルパカにも事情を聞いてみると、やはり、彼女絡みだった。

 

 魔術師が屋敷を乗っ取るために偵察しに来たわけではないのは、この屋敷のメイドとしては安心するべきことだ。


 けれど、魔界の王の一人が来るというのは、それを超える不安材料になり得る。


 どうしたものか。


「エルパカの何が狙いなんですか?」


 彼女には変わった魔法があるし、そうじゃなくても、一応は美貌もある。


 そういった物が狙いなら、交渉次第で帰ってもらえる可能性もあると思うが。

 

「それは身分ですわね。別に、大扉魔法などに興味があるわけではありませんわ。お父様を相手にするための道具といったところですの」


 完全に人質要因ということか。

 

 そういう話を聞くと、エルパカが姫であることを思い出させる。


 そして、姫とは安寧なだけではないのだろう……特に魔界では。

 

「まあ、姫な上にこの可愛さですの。狙われるのは運命みたいなものですわ……けど、本当に予想外でしたわね。中界に来さえすれば、魔界のしがらみから解放されるものだとばかり思ってましたわ」

「貴女も大変なんですね」


 魔界のしがらみを語るエルパカの表情はいつもより、硬い。


 彼女の苦労が伝わってくる。


「まあ、わたくしは、そのおかげで、ご主人様のような新たな可愛さとも出会えたのですからいいんですの!!!!でも、ご主人様には迷惑になってしまいますわね……」

「迷惑なのは、それなりにいつものことですよ」

「本当に申し訳ありませんわ!!!!!」

「それに、別に貴女のせいじゃないと思いますよ」


 はたして、これはエルパカのせいなのか?

 

 姫という身分を捨てるのは一筋縄ではいかない。


 エルパカは彼女なりに考えて、覚悟を決めて、世界を移動し、魔界を捨て、身分を捨て、中界に身一つで暮らすことにしたのだろう。


 しかし、そこまでしてなお、世界を隔てても誘拐してこようという輩がいるのだから、恐ろしい話だ。


 彼女が持ってきた災いではあるが、彼女を責めたくはならない。


 悪いのは、明らかに誘拐犯……十魔王のグリッズの方なのだから。


「まあ、魔界の王くらいなら、なんとかなりますよ」

「十魔王は結構なものですわよ⁉︎」

「私だって結構なメイドなんです」


 そう、僕はただのメイドじゃない。


 伝説のメイドの力を受け継いだスーパーメイドだ!


「任せて下さい。メイドに不可能は『ありませんよ!』」


 シロフィーが僕の台詞に元気よく割り込んでくる。

 

 別に僕以外に聞こえるわけでもないだろうに、ノリのいい幽霊だった。


 魔王、聞くだけで凶悪な存在だけど、僕はもうメイドパワーの滅茶苦茶さを思い知っている。


 どうとでもなるだろう!


 気合を入れている僕を遠くから見つめていたベム子さんが、申し訳なさそうに何事かを呟いた。


「お前たち、盛り上がっているところすまないが……グリッズ様が来るのは多分一ヶ月後くらいになるぞ」

「思いのほか遅い!」


 台風じゃないんだぞ!


 もう明日にでも来てほしいくらいなのに!

 

「し、仕方ないだろ。色々準備があるんだ……」

「そうですか……じゃあ、次は貴女の処遇を考えないといけませんね」

「それは監禁しておくか、殺せばいいんじゃないか?」


 武人は怖いことを言うなぁ!


 心理的にも嫌だし、物理的にも色々と面倒くさいことになりそうだから、なるべく殺したくはない。


 監禁もなぁ……いまいち乗り気になれない。


『もう働かせちゃいましょう。足枷でもはめて』


 シロフィーに鶴の一声によって、ベム子さんの処遇は決まった。


 こうして魔王襲来までの一ヶ月、ベム子さんがしばらく両手両足を重しで繋がれたまに働くという、とても不憫な絵面が生まれた。


 僕も一ヶ月後までに、色々準備をするか……。 


次回、魔界から頑張って魔王が来る…?

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