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魔界人現る?編① エルパカ・パイン


 屋敷を制御下に置いたからといって、全てが元通りになるわけではない。


 例えばルイーゼや、他のメイドたちだ。


 ルイーゼも、そもそもあまり表に出てこないのだが、その他のメイドは更に表に出てくることがない為、僕もほとんど会ったことがないが、ルイーゼと共に、この屋敷のモンスターとして守っていたいわばモンスターメイドとも言うべきメイドたちが、実は存在している。


 彼女たちはダンジョン化に巻き込まれた形で、元々この屋敷に勤めていたメイドたちが変貌したのだが、僕の登場……というかシロフィーの指示が届く様になってからは、ルイーゼ同様、正気を取り戻している。


「魔法に不可能はない……けど私はまだ未熟だから、これからに期待して欲しい」


 要するに魔術師として成長していけば、全てを元通りにすることも可能だが、今はまだ無理だということらしい。


 とはいうもの、メイドたちとは既にシロフィーを通じて完全な意思疎通が可能だし、彼女たちも焦っている雰囲気はない。


 むしろ、屋敷がきちんと管理されることに安心しているようにすら見える。


 ルイーゼや彼女たちの、屋敷への愛がうかがえた。


 それ以外に大きな問題はあまりなく、屋敷は平穏な日々を送っていた。


 僕はご主人様たちのお世話という、実にメイドらしいメイドメイドしたメイドの本業に勤しみ、充実した日々を送っていた。


 やっぱり、普通に奉仕してる方が性に合う。


 メイドバトルは味付けの濃ゆい牛丼みたいなものなので、そう何度も食べたくはならないのだ。


 そんな平穏なある日、テレサ様は朝食の場で、こんなことを言い出した。


「探検に行きたい」


 平穏を壊す一言である。


 いや、言ってること自体は、割と子供らしいものかもしれないけれど……。


 もしかすると、僕も幼少期に言ったことがあるかもしれないくらいには、子供が言い出しそうなセリフだが、テレサ様のそれは意味合いが絶対に違うだろう。


 僕の顔色を見て、その心中を察したのか、ロザ様が補足する。


 本当に有能なお方だ。


「テレサはフィールドワークが趣味なんだ。以前、噴火で消えた謎の町を発見したこともある」

「学術的な意味での探検ですか」


 なんとインテリジェンスな。

 

 しかも、これが初めてではなく、探検は慣れたものらしい。

 

 テレサ様は個人で高い戦闘力を誇り、能力も汎用性がある。


 その上、知性にも優れているスーパー幼女だ。


 確かに探検家として、優秀な武器を多く持っているのかもしれない。


「魔術師に必要なのは想像力。想像は無知からは生まれない。探検は知性を豊かにする。よって、探検は想像力を育み、魔術師を育てる」


 とんでもない三段、いや四・五段論法だが、筋は通っている。


「言ってることはまあ分かるけど、お母様が心配するからなぁ……」

「この屋敷に来た時点で、もうお母様も私を一人前の魔術師だと認めている。問題ない」

「それはそうだが……」


 ロザ様は相変わらず常識的で、それでいて心配性だ。


 思えば、僕に突っかかるのも、妹に付くメイドとしての資質を測っているわけであるし、本当に家族思いの方だ。


 ……テレサ様のあの赤い髪と尖った耳を見るに、義理の兄妹であると思っているのだけれど、もうそんなのは関係ないくらい仲が良く、睦まじい。


 それが、大変に嬉しかった。 


 永遠に守られていて欲しい……いや、守ってみせる!


「大丈夫ですロザ様。私がついてますから!」

「いや、まあ、お前は、じゃなくて、く、クレーは、強いけどな?強いけど、常識がないし。色々抜けてるからなぁ」

「うっ、未熟なのは、否定できませんが」


 圧倒的な力があっても、僕という存在が未熟なうちは、それを十全に扱えるわけではない。


 僕個人としての成長も求められいた。


「テレサは放って置いたら、竜の巣あたりまで行きそうだからな……とりあえず、近場から始めてみろ」

「竜の墓場行ってみたかった……けど、分かった。今回はこの周辺にする」


 なんだか物騒な話が聞こえてくるが、今回は明らかに高難易度というか、ゲーム終盤みたいな場所ではなく、チュートリアル的探検にしてくれるらしい。


 よかった、平穏はギリギリ保たれそうだ。


 胸に手を当てて安堵していると、テレサ様が僕の耳に顔を寄せる。


「実は、この間ヤバいもの見つけたから、一緒に見に行こう」


 ギリギリ無事だと思われた平穏は、ぶっちぎりで無くなってしまった。


 しかし、メイドたるものご主人様の希望には従うべきであるし、それにテレサ様と一緒にお出かけするのを僕が嫌がるはずがない。


「はい、楽しみにしていますね」


 小声で返すと、テレサ様の猫フードの目がにんまりと笑った。


 完全にいたずらっ子の瞳だった。


 数時間後、食事をカバンに詰め込んでテレサ様と、そのヤバいものがある場所まで、ピクニックの様に歩いていくと、そこには、巨大なクレーターのような穴があった。


 それまで木や葉や草しか無かった、大森林な場所から一変、何もない窪地が広がっている。


「隕石でも落ちたのでしょうか?」

「物理的な現象なら、振動で気づけるはず。私が思うにこれは魔法」


 なるほど、隕石や爆発などの物質的な現象の場合、かならずその余波が存在するが、魔法なら存在しないこともある……というか、それすら自由自在だからである。


「魔術師がこの辺で魔法の練習をしたというのはどうでしょう?」

「それはかなりあり得る。まだぺーぺーの魔術師がダンジョンを手にしたと聞いて、奪いに来たのかも」

「ああ、屋敷を制御しても、結局ダンジョンを奪おうとする輩はいなくならないんですね……」

「ダンジョンは数に限りがあるから、仕方ない」


 いうなればレアメタルの取れる鉱山みたいな感じだろうか。


 メアリ様が来るまで、屋敷が無事?だったのは、屋敷を守るメイドたちが実は強いのか、それともメアリ様が何らかの手段を用いて隠していたのか?


 何となく後者の方があり得そうに思えた。


『クロ!クロ!よく見てください!窪みの中心に、何かいます!』


 周囲の警戒を怠らない、メイドの鑑たるシロフィーは(メイドっていうか戦士の鑑な気がする)いち早くこのクレーターの異変に気付いた。


 言われてみれば、中心に何かいるような。


 足?のようなものが見える。


 俗に言う犬神家状態だ。


「テレサ様、中心に何かいるようです。注意してください」

「えっ……ほんとだ。マンドラゴラみたい」


 この世界のマンドラゴラは逆さまに生えているのかな?


 そんな疑問を抱きつつ、慎重に、謎の足に近づいていくと、足がこちらの気配を察したのか、急にバタバタと動き始めた。


「ちょ、ちょっと!?もしかして、人がいますの?」


 足が喋った!


 いや、足の先で埋まってる人が喋ってるんだろうけど、見た目はもう足が喋っているようにしか見えない。


「あなた達の目の前にある世界一愛らしい両脚は、わたくしのものですわ!どうですの?その下にある想像を超えた絶世の可愛らしさを、目撃したいとは思いませんこと⁉︎」


 すごい切り口で助けを求めてきた!


 未だかつて、己の可愛さを拝するために助けろと言ってくる存在を僕は見たことがない。

 

 逆に好感が持てた。


「先に聞きたいのですが、貴女は魔術師ですか?当屋敷を襲いにきたのなら、このまま肥料でも撒いて、放置いたしますが」

「そんなことをしても、わたくしは成長いたしませんわよ⁉︎そう、何故ならわたくしの愛らしさは完成されたものだから!」

「お答えいただけないということで、肥料を撒きますね」

「魔術師なんて知りませんわー!」


 土から悲痛に叫び声が漏れ聞こえてくる。


 そもそも魔術師の存在すら知らないとまで言われると、逆に怪しいのだけれど、どうしようか……。


 テレサ様の顔色を窺うと、楽しそうに猫の目を輝かせていた。


「助けよう。これぞ求めていた想像以上」

「確かに、探検に来たら地面から足が生えていてすごい自分の可愛さを主張してくる状況は、想像を超えてはいますが」


 斜め下に超えているので、ワクワク感はない。


 可愛らしさへの期待感はあるけども!


 放置しても仕方ないというのもあるので、とりあえずは引っこ抜くことにした。


「うんとこしょーどっこいしょー」


 この掛け声では中々抜けないのがかぶだが、目の前の女は簡単に引っこ抜けた。


「ブオッフォッ!く、口に土が……」


 咳き込みながら、姿を現したその女の容姿は、こちらの想像を超えていた。


 背は150cmほどだろうか、確かに可愛らしい容姿をしていて、胸も背のわりに大きい。

 しかし、問題はそれ以外だ。

 

 まず髪の色。

 

 ピンク色と赤色の混ざったショッキングな髪は、ドリルのように捻りが加えられていて、非常に手間が掛かっている。


 奇抜ではあるが、しかし、これらはさほど大きな問題ではない。


 本当に問題なのは、頭。


 別に頭が残念だといいたいのではなく(まあまあ残念だとは思うが)、その頭部から、これもまたドリルの様に捻れた立派な角が、V字に生えていた。

 

 どう見ても普通の人間じゃない。

 

 ついでに言うと、その瞳も、瞳孔が星形になっているし、牙もやけに尖っている。


 細かいところを上げるときりがないほど、人間の特徴と合わない部分が多い。


 一体、彼女は何者なんだ。


 困惑している僕の横で、テレサ様が、驚きのあまりズレたフードの奥の瞳を丸くして驚きながら、呟いた。


「魔界人」 


 僕はそう言われて、魔界の存在を思い出した。


 前にロザ様の授業で教わった魔界中界天界の話。


 この世界に存在する三つの世界。


 滅多に現れないというその魔界の人間が、今目の前にいる。


 もしや、結構ヤバい状況?


 話によると、かなり強いと聞くし。


 俯いて、その存在をどうすべきか、考えていると、目の前の魔界人は高らかにこう言った。


「ちょっと皆様!下を向いていてはわたくしの可愛らしい顔が見えませんわよ!ほら、胸を張ってくださいまし!!!」


 言ってる意味は分からないが、まあまあいい人そうだ!


 僕とテレサ様に見られて、満足したように魔界人は続ける。


「三界一可愛いお姫様!扉越しでも輝く美少女!エルパカ・パインですわ!どうぞよしなに!」


 胸を張って自己紹介を叫ぶエルパカは、己の状況が分かっていないのか、それとも馬鹿なのか、物凄く堂々としていた。


 こうしてエルパカ・パインと名乗る魔界人が屋敷にやってくる。


 僕は確信していた。


 絶対ろくなことにならないと!


今回から魔界人来襲編です。

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