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ご主人様現れる編③ 謎めいた紙と贈り物


 書斎が存在することすら知らなかったのは、本当にメイドとして不徳の致すところなのだけれど、しかもその書斎が図書室かと見紛うばかりの大きさだと言うのだから、驚きもひとしおだった。


 まあ、図書室と言われてどれくらいの大きさを想像するかは、人によるのだけれど。


 ちなみに僕は教室四個分弱くらいを想像する。


「めっちゃ古い本ある。すごすご」


 書斎に並べられた蔵書の数々は、テレサお嬢様の期待に添えるものだったらしく、嬉しそうに飛び跳ねて、猫耳を上下左右に揺らしていた。


 そうか、この屋敷は異界化してからずっとそのままだから、蔵書も古いままになるのか。


 まあ、新しい本をモンスターメイドが買いに行くわけにもいかないだろう。


 そもそも彼女たちは外に出られるのか?


 もっと言えば、この屋敷、一体何年前に異界化したのだろう。


 年数次第では、シロフィーの年齢がとんでもないことになるのでは……。


『それ以上私の年齢について考えたら、尿道に石をぶち込みますよ』


 それは尿路結石と言って、マジでやばい奴だからやめて欲しい。


 シロフィー大婆様の言いつけに従い、詳しい年数については考えないことにした。


 メアリさんとかも凄い年齢だったりするのかなぁ。


「ねえ、この本、読んでいいの?」


 小首を傾げて、訪ねてくるテレサ様。


 果たしてそんな愛らしいポーズをされて、断れる人間がこの世にいるだろうか、いやいない。


「勿論、今はテレサ様の書斎ですから」

「私、まだダンジョン制御してないけど、いいの?」


 テレサ様は少し納得いかない様子で、呟く。

 

 恐らく、魔術師にとっては、ダンジョンを制御して初めて、その場所の持ち主になるという思考なのだろう。


 支配下に置いてないうちは客人にすぎないというのは、分からないでもない発想だが、同時に蛮族的でもあり、融通の効かない気難しさも感じる。


 魔術師の非社会性が垣間見えた。


「では、仮ご主人様ということで、こっそり読んじゃいましょう?」

「うん、仮猫。借りてきた猫!」

「借りてきた猫とは思えないほど元気な猫さんですねぇ」


 頭を撫でる。


 未だにそのご尊顔を拝謁できてはいない怪しげなご主人様だが、もうそんなことは大して気にはならなかった。


 可愛いは正義という言葉もある。


 今、この場の正義はテレサ様にあると思われた。


『おや、ロリコンへと突き進む女装メイドの足音が聞こえてきましたね』


 ロリコンが何かを言っているが無視する。


 自分はロリコンだけど、幽霊だから足音はしないとでも言いたいのかもしれないが、やはり無視する。


 断固無視する!


 お嬢様は机に本を持っていく、なんて悠長なことは出来ないらしく、床にぺたんと座り込み、本を取っ替え引っ替えに読み始めた。


 テレサ様の手から離れた本を片付けるのは、メイドである僕の仕事だった。


 我ながら驚くのだが、仕事があることに喜びを見出している自分がいる。


 これは仕事を始めた人間の一般的な思想なのか、それとも僕の頭がメイドに侵食されているのかは謎である。


 前者であってくれ。


 しばらく貪るように本を読み散らしたテレサ様だったが、ついに一番気になる本が見つかったらしく、一つの赤い本を手に取ると、僕の方に向き直った。


「これ、貴女へのプレゼント」


 おずおずと本を差し出してくるテレサ様。


「えっ、その本をくれるんですか?」

「あげない」

「くれないんですか⁉︎」


 急な好意からの裏切りの高低差で、頭がくらくらする。


 子供に遊ばれているというやつだろうか。


 存外と悪くない気分である。


「あとであげるから、楽しみにして」


 結局、何を貰うのか完全に謎のままに、テレサ様は勝手に満足してしまい、書斎探索はそこでおわりになった。


 次なる探索地を、シロフィーのおすすめに従い決めるのだが、お風呂などとほざいていたので、僕の独断で娯楽室へと行くことに決まった。


 ゲームや賭博は金持ちの華、この屋敷にもどうやらサイコロやカードゲーム、オセロやチェスのようなボードゲームがあるらしい。


「お兄様も誘う。お兄様、結構ボドゲ好き」


 話を聞いたテレサ様は、すぐにそう提案された。

 

 ロザ様は確かに、知的ゲームが得意そうなイメージはある。


 けれども、僕としては逆にポーカーとかでブタを引いて物凄く動揺するロザ様の姿も結構見たかったりもする。


 テレサ様と一緒に、ロザ様が休んでいる部屋へと歩を進め、扉をノックすると、部屋の中から慌てたようにドタバタとした音が聞こえてきた。


「ちょ、ちょっと待て!」

「お約束として開けたい。お兄様ダメ?」

「そんなお約束はない!」


 テレサ様は少し待つが、結局我慢できなくなったのか、ドアを開け放ってしまう。


 彼女的には、待つと開けるの中間を取った形なのだろうか。


 気になる部屋の中身は……紙で散乱していた。


 風に舞うように紙が揺れ動いて、それは少し幻想的な光景だったが、僕が目撃したのは一瞬のことで、すぐにテレサ様によって、その可愛らしいおててで目を塞がれてしまった。


 側から見ると、多分猫に目潰しされた人みたいになっている。


「こらテレサ!そう言うことするなと何度もだな……」


 ロザ様はご立腹の様子だったが、意外とそこまで本気で怒っているわけでもなく、ただマナーとして叱りつけていた。


「ごめんなさい。でも、メイドさんの目は隠しておくから、セーフ」

「見えてませんよー」

「アウトだよ!まったく……急になんのよう?」

「娯楽室行くから、一緒に行こ」


 僕の目は塞いだままに、テレサ様は話を続ける。


 割とシュールな光景だ。


「娯楽室?そんなのあるのか……じゃ、じゃあ、ちょっと行こうかな。べ、別に楽しみなわけではないが」


 とても楽しみらしい。


 どうやら一緒に行くことは決まったようだけれど、しかし、結局のところ、散乱した紙はなんだったのだろう。


 それに、テレサ様のプレゼントの件もあるし。


 仲良くなれたと思っても、なかなかどうして、謎は深まるばかりのようだった。


 

 

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