異世界にようこそ
(ここが異世界?何も無いな)
福太郎が転生した場所は岩石がゴロゴロ転がるただただ広大な荒地だった
見渡しても全て同じような風景、植物も苔や雑草、低木などしか見つからない
更に福太郎は違和感に気づく
(360度全部地平線ってのはどういう事じゃ)
荒地ではあるが空気は澄んでおり遠くまで見渡せた、そしてその景色全てが地平線で途切れている
(とりあえず歩くしかないか……こんな所にほっぽり出して花代は何を考えているんじゃ?下手したらワシ、今日死ぬんじゃないか?)
しかし福太郎はまだ気づいていなかった。その体は女神の愛により唯一無二の性能を備えている事を。
歩き出して10秒も経たない内に体の違いに気づいた
一歩が狭く、腕には皺も毛もない。体が軽くどこまでも歩いて行けそうな気がする
「おうわわわわぁぁ!!ワシがちっこい!!」
そう、福太郎の体が子供になっていた。これは赤子の状態で送り出してもさすがに何もできないであろうと考え、花代が子供の状態にしたのだがその年齢が7歳。前世において福太郎が女神の木を見つけた年齢である点に何かしらの意図を感じる。おそらくもう一度小さい福太郎を見たかっただけだ。ちなみに服も孫たちが来ていたような子供服だ
(…いやこれ死ぬじゃろ、子供の体でこんな所生きていけんじゃろ)
それでも福太郎は歩き始めた
(まずは水、そして寝床を見つけねば!)
そう決意した瞬間、ザーザーと水の流れる音がした
「…は?」
上を見て、下を見て、もう一度上を見て下も見る。それでも理解できなかった。それも仕方ない。何故なら先ほどまで何も無かった場所、中空から小さな滝が流れているのだ。
「水は…どこから?」
裏に回ってみてもさっぱり分からない。少し手ですくってみるとかなり澄んだ水である事が分かる
(しかしいくら綺麗でもこんな怪しい水を飲むのは…せめて一度沸騰させ──)
次は火の玉が浮いていた
「……ワシか?ワシがやっとるんか?」
自分の望みを叶える様に不可思議な現象が2度も起きれば少しは察する
福太郎は試すように呟いた
「水と火があっても入れ物が無ければ沸騰させられんのぉ」
途端、地面から金属製のコップが生えてきた。かなり武骨な造りで1ℓは入ろうかという大きさだ。あまり取り回しが良いとは言えないだろう。しかし、穴などは開いておらず取っ手まで付いている。使わない手は無い。
コップを拾い少し洗い水を汲む
「次はかまどを組まねば──」
近くの岩がバキバキと音をたてかまどの形に変わっていく
(べ…便利だな、至れり尽くせりじゃないか)
かまどが出来上がると火の玉も自然とかまどの中に入っていった。
そのかまどにコップを置き白湯を作る
(…美味しい、良い水だ。しかしこれがファンダジーの世界か…何とかやっていける…か?)
近くの岩に腰を下ろし白湯を味わいながら少し休憩する
すると子供のささやき声の様なものが聞こえてきた、それもどうやら一人では無いようだ
(美味しい?)(満足?)(大丈夫?)(他にすることある?)(何してほしい?)(何かしたい!)(何でも言って!)(王様!)(王様!)(ボクらの王様!)(ワタシたちの王様!)
もちろん周りを見ても誰もいない、声も耳で聞くというより頭に響いてくる
「…王様と言うのはワシの事かい?」
(うん!)(そう!)(王様!)(王様!)(王様!)
福太郎に応え複数の声が響いてくる
「なぜワシが王様?」
(すごい大きい!)(すごい強い!)(沢山持ってる!)(なんでもできる!)(神様そっくり!)
取り留めない言葉ばかりでよく理解できないが慕っているのは分かった
「水とかを出してくれたのも君たちかい?」
(水はワタシ!)(火はボク!)(入れ物とかはボク!)(なにもしてない…)(……)
どうやら声の主は5人ほどいるらしい、うち3人が元気よく応え残り2人はテンション低めだ
「しかしすごいな、何もない所にいろんな物をだして。ワシはびっくりしたよ」
(王様の方がすごいよ)(王様もできるよ)(色々できるよ)
「…ワシもできる?」
声ならぬ声を聞きながら、福太郎は考える
(もしも本当に自力で火や水を出せるのであればかなり生きやすい、だからこそこんな所にほっぽったのか?)
できると言われてしまえばできる気がする。
すっと右腕を上げる。するとその先に水球が現れる。少し腕を横にずらす。水球の横に火球が現れる。
「おぉ!これはワシがやっとるのかな?」
(そうだよ!)(王様のちから!)(もっとできるよ!)(ほかにもできるよ!)(たくさんできるよ!)
(沢山、色々…よし、やってみるか!)
右足を後ろに引き、腕を曲げる。分かりやすく走り出すポーズ
「よーい…ドン!」
その瞬間、福太郎は風になった
「うおおぉぉ!!」
高速で流れていく風景、近づいてくる地平線
そしてそのまま地平線の向こうへ…崖から飛び出した
「なにぃぃ!?」
いきなり高速で走り出した為、頭がついていかずブレーキを掛けそこなった
そして福太郎は遥か彼方へ落ちて──行かなかった
そのままフワフワと空中に浮いていた
「こんな事も出来るのか」
浮いた状態で回りを見渡す
「なるほど、そりゃ人っ子一人おらん訳だ」
数千メートル先の地面を見下ろし呟く
大地から突き出したような台形の山
断崖絶壁に囲われた平坦な山頂
食べ物も水もなく命が生きていくには過酷な環境
俗にテーブルマウンテンと呼ばれる地形
そこが福太郎が転生した場所だった