告白
多分このレベルのシリアスさがこの作品最大のシリアス
「立ち話も何だし少し移動しようか」
その瞬間、二人の姿は八重樫家の庭にあった
視線の先では布団で眠る福太郎とそれを囲む家族達の姿
「みんなに見送ってもらえたんだね」
「あぁ、花代の時と同じじゃ。良い最後じゃった」
しかしそこで福太郎はニヤリと笑う
「だが今回は一味違う!見よ、杏さんの腕の中を!」
そうして孫息子の嫁を指し示す
「玄孫の蓮じゃ!何と玄孫まで見送ってくれた…幸せだったのう」
興奮しながら自慢した後、感慨深く呟く福太郎
妻に対してのみ少し子供っぽくなる癖は、死んでも治っていない
そして花代はその癖を自分にのみ見せるくれる姿として、こっそり喜んでいた
「私はこの世界より上位の世界の存在です
分かりやすく言うなら神に近いと思います
色んな世界に根を伸ばし観察し育む、そんな事をずっとしています
あの木もその一本、この世界に生えた私の末端
この世界に生えたのはおよそ200年くらい前でしょうか
観察した結果、この世界は充分に成長し私は手助けはむしろ混乱の元になる
そう判断し私は成長を止めました」
二人はいつかの様に縁側に腰掛け、神の分身であるという木を眺めながら話をする
花代の口調が今までと少し変わっている事に福太郎は気づいていた
こちらが神としての話し方なのだろう
「そしてそんな私の末端を見つけたのが福太郎さん
もう観察も止めそのまま枯れていくつもりでした
でも私を家に連れ帰りいつまでも成長しない様な木をお世話してくれる男の子を見ていたら、少し興味が湧きました
他の世界に置いて私は崇め奉られ、もしくは無視される様な存在です
ある世界では全ての生命を生み出した神樹、またある世界ではその実は不老長命をもたらし、花はどんな傷をも癒す奇跡の大樹
そして成長を止めた世界、この世界などでは少し変わった木、その程度です
そんな木を諦めず育ててくれる男の子の為に私は成長を再開しました
少し伸びただけで喜んでくれる
花が咲けば綺麗だと誉めてくれる
実を食べて美味しいと言ってくれる
私の記憶には無い事ばかりでした」
小さな頃を知られていた事が恥ずかしかったのか福太郎が茶々を入れ始めた
「そんな事ないじゃろう、崇められる様な木が花を付ければみんな綺麗くらい言うじゃろう」
「そこまで行っちゃうと何かの予兆、または神託だと取られて綺麗だなんて誰も言わないわ」
「……ならば実はどうじゃ?不老長命の実などみんな欲しがり沢山の者が食べたじゃろう、誰も美味しいと言わんかったのか?」
「みんなが気にするのは味より効果の方、純粋に実を味わってくれる人は居なかったわ」
「……世知辛いの。
ところでわし、実を沢山食べてたのに普通に老けて死んだんじゃが?」
「この木の実にそこまでの効能は無いの、疲労回復くらいね。欲しかった?不老長命」
「欲しくなかったと言えば嘘じゃ。歳をとる度に目は霞み、肩は上がらず、体力が衰える
愛する者を抱き上げる事も出来なくなり、格好いい所を見せる事も難しくなる。そういう理由ですこぶる欲しかった」
「私は福ちゃんと一緒に歳を取れて嬉しかったんだけどなぁ。若い頃とは別の一面を見て、お互いにシワを刻み老けていく。そんな人生が幸せだったんだけどなぁ。福ちゃんは違ったのか~、残念だなぁ~」
「全然いらんかった、まったく欲しくなかった」
即座に前言撤回する。愛する妻にそうまで言われたらそれ以外の選択肢はない
「それから数年後、私はただ育てられ見ているだけの状況に我慢できなくなりした。
この子と話したい、隣に立ちたい、同じ物をみたい、そんな感情は神に相応しいものは言えません
ですが私はもうそれを抑えきる事は無理でした
そして私は花代を作り……福太郎さん、貴方の下にお見合い相手としてやって来たのです」
花代の告白を聞き終えた福太郎の顔には少し曇りが見える
「いくつか質問良いじゃうか?」
花代は頷き先を促す
「まず時間がおかしくないか?花代はワシの4つ下じゃ。木を見つけた時にはもう生まれとるじゃないか」
「神様ですから。時間の流れ、因果率をいじるのなんて簡単です」
「そんな物なのか…次じゃ。花代が神様と言う事は子供等はどうなる?半分神様なのか?孫たちにも遺伝してるのか?」
「大丈夫、あの子達はみんな普通の人間です。花代は不思議な力など無いただの人間として生み出しました。生きてる内は自分が神の分身である事すら覚えていませんでした。」
「そうか、ではあの子達に何か不都合等は無いんじゃな?」
「ありません、誓って言えます」
神様にも何かに誓う事があるのだろうか
「なら良かった…最後の質問じゃ……」
ここで福太郎は言いよどむ、もしこの質問の答えがそうであった時を思うと身体中が冷えて行く。それでも確かめずには居られない
「ワシのこの愛は…花代に対する想いは本物か?貴女に作られたのでは無いか?神ならいくらでも操れもしよう!もしそうであるならワシは…オレは!……」
「…ごめんなさい」
その言葉が聞こえた瞬間、福太郎の体が硬直する
まるで暗闇に落ちたように視界が暗くなっていく
しかし、続く言葉にあったのは絶望では無かった
「確かに二人の出会いは私の作りました。花代も貴方に好かれる様な子に育てました、でもそこまでです!私は一度でも貴方と話せればそれで良かった!出会っただけで終わる方が大きかった!それでも二人は結ばれてくれて!愛し合ってくれた!」
途中から声が潤み出していた。
「だから…だから!二人が築いた物は!本物なんです!私の力何かじゃない!お願い!信じて!二人の想いに嘘なんか無い!」
その美しい顔を歪め涙を流しながら女神が乞う、神としての力を使えば信じさせる事など簡単なはずなのに。それでも使わない、信じると言うのはそういう事では無いと分かっているから
だからこそ、想いは届く
「…!」
女神の涙を止めるように抱きしめ胸の内に納める
「信じる、信じるよ。くだらない事を聞いてごめん、俺が悪かった。その通りだ、あの生活に、愛に…偽りなんか無かった。この想いは俺の中から生まれた物だ。だからどうか泣かないで」
胸の中の嗚咽が少しずつ収まっていく
女神が目元が赤くなった顔を上げ、二人は微笑み
「愛しています」
「愛してるよ」
口づけを交わす
いつまでも仲睦まじい夫婦である