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次の人生も女神嫁と共に  作者: 八木杉 ケイシ
1/42

プロローグ:福太郎の人生

初小説、初投稿になります

ご指摘等、お手柔らかにお願いします

 ・西暦1928年 八重樫家にて跡取り息子が産まれる



 見事な快晴の日、豪農・八重樫家の屋敷では家の者達が緊張した面持ちで何かを待っていた

 特に次期当主の落ち着きの無さは中々のものだった

 その時、ふすまの向こうから元気な泣き声が聞こえてきた

 一同は歓声を上げ、喜び合った

 少し時が経った後、産婆の声が聞こえてくる


「お入り下さって結構です、元気な男の子ですよ」


 その途端、父親はふすまを開け放ち妻と赤子の下に向かう

 赤子を胸に抱えた妻の横に座り、夫は妻の苦労を労い、妻は夫に向けて赤子の顔を見せる

 後に赤子は「福太郎」と名付けられた



 ・西暦1937年 福太郎、山にて小さな木を見て考える



「こいついつ見てもちっこいままだ」


 自分の遊び場と認識している家の裏の小山、その中腹にあるお気に入りの展望スポット、又は崖の上とも言う場所で福太郎は去年、そして一昨年とも大して変わらぬ大きさの木を眺めながら呟いた


「場所が悪いのか、それとも周りにでかい木が多いせいか?」


 同年代と比べて少しばかり身長の低い福太郎はその木に仲間意識を持っていた


「…よし」


 次に来るときはスコップを持って来よう、鉢だと大きくなりづらいだろうから庭に植えよう、どこら辺が日当たり良かったっけ?

 そんな事を考えながら福太郎は山を下りた



 ・西暦1944 八重樫家、学童疎開の面倒を見る



「沢山来ましたね」


 福太郎は当主でもある父親の隣に立ち、庭に座って休んでいる子供達を見渡す


「とりあえず飯を食わせてやるか。おい、蔵開けて米でも食わしてやれ」


 父親が使用人に命じ食べ物を取りに行かせる

 豪農である八重樫家はこのご時世においても飢える事無く沢山の食べ物を蓄えていた。それゆえに疎開児童の食料の面倒を見る立ち位置に自然とついていた

 別にお国の為でも無ければ、命じられた訳でもない

 農家に生まれいつも腹一杯に飯を食べられた当主にとって、いつも飢えている子供たちが不憫でならなかった、ただそれだけだった


「炊き出しの方はお願いします。私は子供たちを連れて行って色々説明しておきます」

「分かった」


 パンパンと手を叩き福太郎が子供達の注目を集める


「疲れているのは分かるけど少し動いてもらえるかな、奥の庭の方に大きな木があるからそこにいこう」


 福太郎が指をさした方向には屋敷があり、木など見えない。しかし屋根を越えて伸びる枝葉が容易に確認できた

 もちろん福太郎が植えた木である。

 植えた時には30cmも無かった、植え替えた後も中々伸びず

 福太郎は出来る限りの事をしていた

 それが実ったのかここ数年でどんどん成長していき、幹周は2mを越え、樹高に至っては10mにも届くかというところである。

 さすがに異常な成長速度であるが、八重樫家は気にしない事にしている

 なぜなら


「あの木の近くに行くと空気が美味しいんだ、更に元気が出るし心が落ち着く、良い事尽くめだよ」


 だからそこでご飯を食べよう

 子供達が歓声を上げ我先に木の下に向かっていく

 もちろん喜びの理由は木の事では無くご飯の部分であるが福太郎はそれを笑みで見つめていた



 ・西暦1955年 福太郎、お見合いをする



「それでは後は若い二人に任せましょう」


 そう言い残しお互いの父母は席を外した

 八重樫家の居間で行われているこのお見合い、いつまでの女っ気のない福太郎のために父がセッティングした物だ

 何を話していいか分からない福太郎は苦し紛れに庭に出ることを提案し、見合い相手の花代(かよ)もそれに同意した


「大きな木ですね」


 庭に出れば目を引くのはもちろん福太郎の木だ、更に成長し樹高は20mを越え遠くからでも見えるほどだ


「これは何の木なのですか?」

「それが分からないのです。私が裏山から持ってきて植えた物で、山に生えている木と同じだと思っていたのですが、すごく成長し、年に何回も花を咲かし、見たこともない美味しい果実を付ける。植物の学者さんに来てもらいましたが分からないそうで。ただ花は綺麗だし、空気は美味しいし、実も美味しいし、食べると元気になるし、朝日を浴びて朝露が光るのも綺麗だし、夕日に照らされて色のつくのも綺麗だし、ほにゃらららほにゃららら〇×△□…」


 何を話せば良いのか困っている所に自分の自慢の木の事を聞かれたのだ、ついつい饒舌になり言いたい事を並べたてる

 その後、散々喋りつくした後に冷静さを取り戻した福太郎と花代(かよ)は縁側に座り木を眺めていた


「申し訳ありません、自分だけがベラベラと…お恥ずかしい限りです」

「いえ、興味深く聞かせてもらいました。ご自慢の木でいらっしゃいますのね」


 花代は福太郎の長話を嫌な顔せず聞いてくれていた

 木に興味を持ち長話を聞いてくれた、それは福太郎が佳代に好感を抱くに十分な物だ


「よければまた来て下さい。できれば花の咲く頃に。貴方にみて頂きたい」


 それは女性慣れしていない福太郎の精一杯の誘いだ

 のちに花代(かよ)は八重樫家に嫁入りし、福太郎との間に4人の子供をもうけた

 二人の仲は大変睦まじい物であった



 ・西暦2020年 福太郎、逝く



「皆、ありがとう」


 それが福太郎の最後の言葉だ

 戦争を大禍無く過ごし、愛する妻を見送る事が出来、子供・孫・果ては玄孫にまで見送られ、畳の上で痛み無く逝ける。

 福太郎は自分の人生が幸せであった事を確信していた

 そんな福太郎の最後に目に入ったのは庭一杯に成長したあの木だ

 樹高は30mを越えた辺りで止まり、今は大きく広げた枝葉を称えていた

 その偉容は全国的に知られる事になり観光客が見に来るほどだ

 そんな木が福太郎を見送るかの様に真っ白な花を咲かしていた

 いつもの開花の時期では無い

 福太郎の出発に文字通り花を添える為、ただその為だけに咲いているのだと家族たちは理解していた

(最後の最後まで美しい物を見れた…良い人生だ)

 そして福太郎の目は閉じた

 享年92歳、辛いことも悲しい事もあった、それでも幸せに満ちた人生に幕が降りる

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