新人勇者の来訪
ファンタジー世界の一般職はどんな感じだろうかと思い書きました。
書きたい事があっても文章力が足りていないことが辛い。
門番の仕事、始まりです。
首都ナルカンツェル。
王族の住む城を中心に、貴族の住む貴族街、
それらを取り囲む様に広がる職人達の貧民街から成る都市である。
貧民街は石壁で覆われており、東、西、南にそれぞれ大きな木製の扉がある。
扉は、朝昼のみ開放されているが、街に入る為には、門番に目的や積荷を確認される必要がある。
そのため、門はいつも順番待ちの入場者で混雑していた。
街道に面する西門も例外ではなく、今日も商人の積荷を確認し終えた門番が、
同じく商人の対応をしていた同僚に向かって愚痴をこぼしていた。
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門番のステイルは、商人が遠く離れた事を確認した後、
大きなため息をした。
「ずるいぞ、ピアス。あの商人の対応をいつも俺にばかりやらせて。また、遅い!って怒鳴られたぞ。たまには荷物確認の方を俺にやらせてくれよ。」
「荷物確認の方じゃないと、あの美人な娘さんと話が出来ないだろ。おれの目の保養の為に必要な犠牲だと考えろよ。」
ピアスは両手を広げて、ニヤニヤしながら返事をした。
黙ってたら顔は整っているし、普段の話を聞く限り、保養が必要な程、女性には困ってないだろうに。
ステイルが諦めに近いため息をもう一度すると、ピアスがさっと話題を変えた。
「しかし、やっと入場者が途切れたな。午前中だけでこの人数とは、健国祭は今年も盛り上がりそうだな。」
「ああ。明日の当日の事を考えるとゾッとするよ。」
ステイルは、自分の言葉に身震いをした。
去年の健国祭当日は、開門から閉門まで、一度も休憩が取れない忙しさだった。挙げ句の果てに、携帯食を忘れたピアスにせがまれ、携帯食半分を渡した結果、空腹で倒れそうなのを必死に我慢する事となった。
今年は泣いて頼まれても渡さないぞ。
そんな事を考えていると、ピアスが何かを思い出したように、手を叩いた。
「そういえば、今年は建国祭に勇者様ご一行が来るらしいぞ。」
ピアスの言葉に、ステイルは興味を持った。
「そうなのか?それは珍しいな。どの勇者様なんだ?」
「確か、去年起きた西の征伐で武勲を挙げて勇者になった人だとか。まだ、二つ名すら無い新人だ。」
勇者とは、魔物討伐で大きな戦果をもたらしたり、その人間性や強さを評価して、王より与えられる称号のことだ。大体10年に一度くらいのペースで勇者が増えており、現役で有名な勇者は3人だった筈だ。つまり、今回来るのは4人目の勇者ということだ。
「あぁ。去年話題になっていたな。まだ見たことがないから楽しみだ。というかピアス。勇者様だ。普段から様を付けないと、本人の前でやらかすぞ。」
「相変わらず堅いなぁ、ステイルは。俺は言い間違えたりしないよ。」
ケラケラと笑うピアスにお前なぁと言いかけたところで、入場希望者が一気に押し寄せてくるのが目に入り、ピアスと一緒に激務に戻る事となった。
それから入場希望者は後を立たず、午後も対応に追われていると、商人達の列がざわついている事に気づいた。
ステイルが騒がしい方をみると、一つの馬車に注目が集まっているのが目に入った。
商人達の馬車が並ぶ中、貴族用の馬車が止まっており、明らかに浮いていた。
(あれが噂の勇者様かな)
馬車の位置を気にしつつ、他の対応をして数分後、注目の馬車が目の前にやってきた。
馬の手綱を引いていた御者が馬を止め、一度こちらをみた後、確認はこっちにしてくれと言わんばかりに、馬車に向かって目線を移した。
ピアスが目的聴取、自分が荷物確認を担当することとなった。
「太陽神の祝福を受ける良き日に、王の威光輝くナルカンツェルにようこそお越し下さいました。招待状と来場目的をお教えください。」
ピアスが馬車の中にも届くような声で貴族用の挨拶をした。
いつ見てもあの言葉遣いの切り替えは見事だなぁと感心していると、馬車の扉が開き、金髪の若い青年が出てきた。確か年齢は18と噂になっていたはずだ。青年は、鎧こそ来ていないが、勇者の証明である勲章を首にぶら下げていた。青年は見るものを包み込むような優しい目をしており、馬車を降りると、ピアスをまっすぐに見つめた。
「王室より招待を受けた勇者ソルレイドです。健国祭に参加する為に参りました。」
目的を述べた後、ソルレイドは招待状をピアスに渡した。
招待状を確認する為にピアスが門の中に戻ったところで、ステイルはソルレイドに声をかけた。
「馬車の中を拝見してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。中には仲間の魔術師と武闘家がいます。」
御者がソルレイドの言葉をきいて、馬車の扉を開けた。
ステーブルが覗き込むと、青い髪を後ろで一つに結んだ褐色の肌の女性と、茶色いローブを着た薄紫の髪色の少女が座っていた。
(女性2人とパーティーか。珍しいな。)
馬車内に、説明の無かった武器や不審な人物がいないかを確認していると、青髪の女性がステイルの顔を覗き込むように見つめた。
突然見つめられ、驚きにビクっとなっているステイルに、女性は声をかけた。
「おい。早くしてくれよ。長時間同じ姿勢で身体は痛いし、腹も減ってるんだ。」
突然の横暴な声に、ステイルは申し訳ありませんと青髪の女性に陳謝し、この女性が武闘家だろうなと思いながら、確認を急いで終えた。ちょうど招待状の確認を終えたピアスも戻ってきて、ソルレイドに一礼をして、招待状を返却した。
「ソルレイド様、ご協力ありがとうございました。確認が取れましたので、お通りください。」
ピアスがそう告げると、ソルレイドは一礼した後、馬車の中に戻った。
御者が鞭で馬を叩くと、馬車はゆっくりと動き出して、やがて街の中に紛れていった。
馬車が見えなくなると、ピアスが近づいて来た。
「あいかわらず王室の招待状は確認事項が多いぜ。しかし、あの勇者様はお行儀良さそうだな。どう思った?」
「ピアスの言う通り、どの勇者様よりも優しい印象を受けたな。少なくとも、今朝の商人よりは我慢強いみたいだ」
午前中に、ツバを飛ばしながら遅いと怒鳴っていた商人を思い出す。
勇者様に教育してほしいくらいだ。
「あの商人より短気なやつに勇者の称号が出てたら、王室の正気を疑うね。馬車の中には従者もいたんだろ?従者はどんなやつだったんだ?」
「武闘家と魔術師の女性2人。武闘家の女性は、気が強そうだったよ」
「女性2人だと!前言撤回だ!全然お行儀よく無いぜ。なんて羨ましい!」
ピアスは腕を組むと、フンッと大きく鼻息を吹き、何やら考え始めた。
同僚はほっといて、次の入場者の対応に移ろうと、ステイルは体を向き直し歩き始めた。
すると、後ろからガッシャガッシャと鎧を鳴らしながらピアスが近づいて来て、肩を掴んで180度反転させられた。
ピアスの目は先程の貴族用の挨拶をしたときのように真剣そのものであり、思わずステイルは身構えた。
「なんだよ?」
「今度からあの勇者が来た時は、俺が荷物対応しようと思う。」
ステイルは、瞬きを数回した後、身構えた自分を後悔する様にため息を一つ吐き、ピアスの手を払い落として、好きにしろと吐き捨て仕事に戻った。
門番はいつも大忙しです。
そんな中、勇者がやってきました。
勇者が来た街では必ず何かが起きます。
じゃないと勇者とは呼べない。