おとずれを感じた男
男の物語は、音が混ざり合って膨らんだ。
男は、とあるイタリアンレストランで
昼食を取っていた。
客の数は比較的少なく
穏やかなお昼時と言えた。
ランチの後のコーヒーを飲みながら
読みかけの小説の頁を開いた時
初老の男性が、男の隣の席に座った。
男性は店員に注文を告げると間も無く
入歯を口の中で外したりはめたり
し出した。
静かな店内に
カチカチと言う音が響いた。
男は、小説を読むのをやめ
店内に静かに流れるBGMに
耳を傾けようとした。
その曲と
カチカチと言う音が
微妙にずれて
男の耳に入って来た。