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第1話 壱という語彙

第1話  壱という語彙


「子どもは、嫌いだ」


 僕は生まれてきてからずっと今まで、この言葉を発してきた。

いつだったか、小さな子どもに頭を叩かれたことがある。

確か、その時は激怒して、怒鳴りつけた記憶もある。

まったく、今思えば、あの頃の自分はえらくガキだったな、

と思うけど、今もあまり変わらない。


 よく、怒鳴る。


 もう、癖のようになってしまった。何かと怒鳴る癖がある。

そんな、僕は、その癖を持ち合わせたまま、高校に進級。

元々、小学五年生の時から、小説を書くことが好きだった僕は

高校受験前も、追いやられた僕の心を癒すために、

親に隠れて、こそこそと小説を綴っていたことを覚えている。

まあ、兄貴からは「受かれば、遊んでいても、いい」と言われていたし、

担任からも「合格は確実だ」と断言されていたから、なんの心配もなく

小説を綴っていたわけだが、思い返せば、もし落ちていたら、僕は一体

どうなっていたのだろう。と思う。


 ああ、怖い、怖い。


しかしだな、結果がよけりゃ、なんでもいいんだって。

結果が全てだよな、今の世の中さ。

どんだけテスト期間に遊んでても、テストが良ければ、親は目を瞑る。

誰だってそうだろ。


 ところで、僕は、入学して気が付いたのだが、なんで僕はこんな

立地条件の悪い高校を選んだのかと、不思議になる。

行き道は、えらく急すぎる下り坂が続いているうえに、

高校自体が、海辺の近くに建っているせいか、窓を開けて授業を行うと、

下校頃には、生徒と担任の顔が、潮でベタベタになる。


なんつーこった。


だから、クラスの全員が、マイタオルを持参の上で登校してる。

僕も、その中の一員だ。


 ある日、いつかはよく覚えていないが、

机にぐんにゃりとへばりついている僕に声をかけてきた阿呆がいた。


「なあ、お前、最近ボーっとしてるな」

「なんだ、中村? お前から声かけてくるなんて、珍しいな」

「そうか?」

「ああ」

「で、なんで、ボーっとしてるんだ?」

「いや、特に理由はないけど、最近、彼女とうまくいかなくて」

「そんなこともあるさ」


 すると、担任が教室に入ってきた。こそこそと。

そいつは、インテリ黒ぶち眼鏡をかけていて、細身で、ネクタイをきちっとしめた

新米男性教師だ。なんでこいつが、俺らの担任なんだよ。と、よく愚痴を聞くが、

 僕は別に気にもしていない。だって、あんまり居ても居なくても、かまわないし。


「おーい、来週から職場体験学習だが、どいつが、どこにいくんだ?」


 この高校は、2年生になると職場体験学習を行う。どうやら

「これからの人生の職場を、実際に経験して決めてほしい」

という設定らしい。


 すると、新米は黒板に職場を書いていった。

パン屋さん、ケーキ屋さん、レンタルショップ、小学校、中学校……。

一体、どんだけの職場に頼んできたのだ。

まあ、僕は子どもが嫌いだから、絶対に小学校はパスだな。


 すると、新米と目が合った。

やべ。


「お、芥川。お前は小学校に行きたそうな顔をしてるな」

してねーよ。つか、絶対いやだ。

「なんでだ?」

子どもが嫌いだからだ。

「なら、子ども嫌いの解消にいいじゃないか」

……。

「決定か」


 僕は閉鎖的だ。

閉鎖的で、内気だ。

――閉鎖的。

生まれつきの体質で、内心は嫌でも、断れない。断った後の空気が嫌いだから。

だから、断れない。


 あれから、もう一週間が経って、職場体験学習の日がやってきた。

正直、憂鬱だ。

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