とりあえず始まりはこんな感じで
「えっー!」
静かな部屋の中にびっくりした声が響く。
僕はスマホを片手に驚き、ベッドから落ちる。
黒がかった茶髪の短髪に平均的な体格、度が強めの長方形の黒縁メガネと眠そうに垂れた目が特徴的で目元は睡眠不足からか隈がみえる。
私服のジャージに身を包みなんだかニートみたいだ。
15歳 来月から進学校であろう光陰高校への入学が決まっている僕、橋野 博人はSNSを駆使してクラスメート(候補)を調べていたのだった。
* * *
そんな訳で#光陰高校 で調べていると結構いろんな人を見つけた。
そうしているうちになっちゃんの光陰高校に入学するよ~の投稿を見つけたのだ。
本当にビックリした。
どのくらいかって?
驚きの余り手から離したスマホが本棚へとぶつかりそのまま画面にひびがはいったくらいだ
なっちゃんは、アイコンがオレンジやリンゴのジュースで有名なあのキャラの趣味垢さん。
ちなみに僕のアイコンは自分のメガネで名前もメガネ。
考えるのが面倒だったのでかなり適当につけた。
僕たちは二年くらい前に同じ漫画にはまったのがきっかけで仲良くなったいわゆるネッ友というやつだ。
ネッ友というのは、インターネットを通じて友人関係にあるものの、現実世界では接点がなく交流を持たない友人関係の事だ。
* * *
突然だが僕はリア友はあまりいない。
どのくらいかというと片手で数えられるくらい。
しかしネッ友なら五百人はいるだろう。
現実での友達なんて大概はその場限りなんだ……
嫌な事を思い出すと同時に軽く下唇を噛む。
ネッ友との間には相手の事が分からない中で繋がれたリアルなどには及ばない友情がある。
偏見なのは分かっている。
けれども僕はこの考えを改められない
* * *
話が脱線してきたがようするに僕が言いたいのは、ネッ友になれた人ならリアルでも友達になれると僕は思っているということだ
* * *
不安と緊張が心を占めるなかメールを送る
「僕が進学する高校は何処でしょー?」
二年以上喋ってきたからか大分くだけた会話が出来るようになったと思う。
メールに感情を映したりはしない
緊張なんて悟られたくないから
返事はすぐに返ってくる
「分からないよー。もしかして同じ?」
* * *
僕たちは現実での相手の事をほとんど知らない。
相手が男か女かだって知らない。
それでも友達だと自信を持って言うことができるだろう。
* * *
「同じ!来月からよろしくですってことよ」
理由の分からない緊張によって変になった文を苦笑混じりに眺める
「びっくりしたよ~」
「もしかしたら同じクラスになれるかもね!」
会話を重ねていくうちに話題は趣味関連へと移ってゆく
* * *
どんな人なのだろう
気になるけれどそれを知るのは今じゃない
どんな人でも構わない
大丈夫だよな……
喋っていてこんなに楽しいのだから
* * *
あっという間にこの日が来た。
そう、入学式だ!
高校へと着くとそのまま一人教室へと向かう
昇降口から入ってすぐの目の前の壁にはクラス表が貼ってあった
* * *
光陰高校は共学でA~Eの五つのクラスがある。
一クラス40人から成り僕たちの学年はどのクラスも大体、男女比6:4位らしい
* * *
クラス表の前にはすでに数名の女子がはしゃいでいる姿がみえる。
あんな感じのノリは苦手だ。
そんなことを思いながら少し立ち止まる。
幸いすぐ教室へと向かったのだろう。
周りには誰もいなく、教室から聞こえてくる喋り声が静かな廊下に響く。
すぐに自分の名前を見つけると
「C組か」
誰に言うでもなく一人呟く
教室へと向かう僕の背中からは
何組だったかと盛り上がる男子の声がやけに大きく聞こえてきた。
* * *
早く着きすぎて一時間も時間を潰さなければならないらしく僕は教室へ荷物だけ置くと迷いながらも屋上へと向かう。
屋上へと出る扉は鍵がかかっていた。
僕は仕方なく近くのベンチへと座りスマホを取り出す。
四十分はスマホを弄っていただろうか
ピコンと鳴った通知音と共に一件のメールが届いた
開いてみればなっちゃんからだった
急に激しくなる鼓動を深呼吸で落ち着ける
「何組だった?私はC組だよ~」
「僕もC組だったよ」
「びっくりだねー。私はもう教室着いたけどメガネ君はもう教室にいるの?」
「もう少しで教室に着くよ」
「じゃあ教室でね~」
会話が終わると僕はゆっくりとした足取りで教室へと向かう
* * *
教室に戻ると既に僕以外全員が自分の席へと座り自己紹介が始まっていた。
「都 奈南です」
僕は軽く頭を下げつつ自分の席へと向かう
「趣味は読書で漫画も読みます」
僕は椅子へと座る
右斜め後ろから聞こえてくる自己紹介など聞いてはいない
「友達からはなっちゃんて呼ばれます」
男子達が調子に乗って囃し立てる。
けれどもその一言に僕は反射的に彼女へと目を向ける。
全体的に穏やかな印象を受ける黒髪ロングに大きな目、制服がとても似合う。
平均的な体格で、胸が……でかい
彼女と目が合う
一秒程見つめあってしまうと彼女は軽く微笑み席へと座る。
クラスの間で交わされる奇異の目
(え?なっちゃんてもしかしてあの人なの?)
思わずもう一度彼女をみると
またしても目が合ってしまった
ネット上で喋る時、なっちゃんは女性口調だっけれどネカマなんて言葉がある時代だからな性別は信用してなかったんだよな。
あんなに可愛い女の子だとは思わなかった。
「君って奈南さん?と付き合ってるの?」
前の席のやつが振り向きそんなことを言ってきた。
黒髪のツーブロックによく焼けた肌は健康的だ。
自分に対する自信からだろうか、不必要に馴れ馴れしい。
クラスのトップカーストに属すタイプだろう。
苦手だ……
「んなわけないだろ」
小さくため息をつきながら返事をする
「でもあの雰囲気は怪しいでしょ~」
こいつウザイな
「俺、橘 光輝。適当に呼んでくれ」
呼ばねーな。
最初は皆学校で仲間を作ろうと必死なんだよな
二ヶ月もすれば自然に関係というのは出来上がる
今頑張ったって意味ないんだよ
それにこいつリア充みたいなやつだもん、嫌だね。
それでも無闇に敵を作ることもないだろう
「よろしくな。」
とりあえず返事はしておく
「おぅ!」
笑顔が眩しい
やっぱり苦手だ……
* * *
そのうちやたらとゴツい教師の指示にしたがって動いているうちに連絡する暇もなく時間が過ぎてしまった。
入学式が終わると今日は午前中しかないとのことで直ぐに解散となる。
教室を出ようとする僕に声がかけられた。
都さんだった
「この後行ける人達で何処か食事しに行こうと思うんだけど橋野君もどうかな?」
「ごめん。これから家の用事があって」
「じゃあまた今度ね」
手を振る彼女に軽く頭を下げると足早に教室を出る。
「後でメール送るからね!」
やっぱり都さんがなっちゃんてことらしい。
* * *
僕は家に帰ると昼食も食べずにベッドへと横になり、そのまま寝落ちしてしまったようだった。
ピコン
着信音の音で目が覚めると既に夕方になっていた。
届いたメールはなっちゃんからだった。
「やっほー。橋野君?」
「正解だけどなんで分かったの?都さん」
お互い相手の確認をしておく。
「橋野君も正解。」
「分かるでしょ。後でメールするって言ってたし」
「だよねー。」
「私が教室にいるか訊いたとき、まだ来てなかったのが三人でメガネをかけてたのは橋野君だけ」
「なんでメガネかけてるの知ってるの?コンタクトしてるかもしれないのに」
「だから確認で私がなっちゃんて呼ばれてると言った時の君の反応で確信したの」
なるほどな。
「そういうことか」
逃げるように更に一言
「これにて去らば!また明日」
「うん。また明日ー」
* * *
なっちゃんがこんなに可愛いなんて思わなかった。
なんだか苦手なタイプ。
友達になれるかな……