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『赤き稲妻』第1章:平和の時代(ユートピア)(5)

「明後日朝一番で大阪に移動。香港に赴任する世界政府の行政職員と、その家族を装い、一旦、空路で上海に入り、そこからフェリーで香港まで移動します」

「ちょっと待って下さい。直接、空路で香港に行く方が簡単じゃないんですか?何故、そんなリスクの有る経路を取る必要が有るんですか?」

 私はコ事務官の説明を遮り、そう聞いた。

「7=7の殺害と前後して、多数のテロが香港で起きていました。現在、テロは終息に向かっていますが、電力・通信などのインフラもダメージを受け、香港・マカオの軍事空港および民間空港の復旧予定が全く不明なのです」

「了解」

「軍服その他の業務に必要な備品は、私が手配しますが、私服や下着や靴下は必ず夏物を持って行って下さい。私物で必要なものが有れば、明日、午後に私が買いに行きますので、昼食前までに、私に言って下さい。私物の代金は給与から天引きです」

 私達が一時借用している基地内の空き部屋にに、私、コ事務官、アーリマン1=13、そして急に呼び出されたエメリッヒ博士が集合していた。

 給与から天引きと言われても、私も、アーリマン1=13も、軍の外で金銭を使うような事は、ほとんど無い。

「そこで、エメリッヒ博士が行政府職員、少尉がその娘、私がメイドで、アーリマン1=13が私の妹、と云うのが、香港に到着するまでの我々の表向きの身分になります」

 それで、エメリッヒ博士がここに居る理由が判った。

「『鎧』の修理は部下達が進めてくれている。今の所、私が特段の判断や指示をしなければいけない問題は無さそうだ」

「了解しました、博士、コ事務官」

「私も了解した……香港と云う事は、化粧品などは夏用の方が良いのだろうか?」

 アーリマン1=13が微妙にズレた事を言った。

「まだ3月ですよ。日本では夏用の化粧品なんか売ってないでしょう。それに、化粧品が必要な年齢ですか?」

「私ぐらいの年齢の女性だと、そろそろ化粧をするものでは無いのか?いや、軍の施設育ちなので世事にはうといのでね」

「もう少し後の年齢になっても遅くないと思いますよ……」

 コ事務官がそう言った。

「では、任務に関係ない個人的な頼みで済まないが、その時期になったら、化粧のやり方を教えてくれ、コ事務官」

「アーリマン1=13、何故、私では無く、コ事務官に頼むんですか?」

「焼き餅ですか?」

「嫉妬と云うモノかね?」

 コ事務官とアーリマン1=13から同時に、全く見当違いの指摘が入った。

「違いますよ。私だって、ちゃんと化粧してるでしょう。どうして、私に頼まないんですか?」

「君も私並に世事にうとそうなのでね。言われてみれば、化粧はしているようだ」

「言われてみれば、って……」

「あぁ、それと、既に、私の階位はアーリマン2=12に変更になった。代りに、アーリマン7=7が、アーリマン1=13に降格だ。これからは、アーリマン2=12と呼んでくれ。もちろん、君の階位が上るか降格すれば、それに伴って私の階位と呼称も変る」

「ややこしいですね……じゃあ、愛称で呼ぶのはどうですか?」

 アーリマン1=13改めアーリマン2=12が、えっ、とでも言いたげな驚いた顔になり、続いて困惑、最後には何かを考え込んでいる表情になった。

「どうしたんですか?」

「いや、そんな事を思い付いた『鋼の愛国者』は君が初めてだ。面白い。可愛い愛称を希望するとしよう」

「では、テルマ」

「待て、それは、死んだ君の姉の名前では無いのか?私とは似ていないぞ」

「いや、でも、髪型とか」

「髪型だけなら似ているが、髪の色は違う」

「顔の感じとか」

「そんなに似ているか?」

「しゃべり方とか」

「何かの嫌味かね?彼女は、少なくとも……私より感情表現が豊かだった。私は、それがうらやましかった」

 私は「話はこれで終りだ」と云う感じで、溜息をついた。

「じゃあ、まだ考え続けますので、他に良い案を思い付くまでは『テルマ』で」

「判った……どうしたのかね、コ事務官?」

「いえ、お二人が仲の良いお姉さんと妹みたいだったので」

「ちょっと待って下さい、何が言いたいんですか、事務官?それに……アーリマ……じゃなかった、テルマ。何でテレてるんですか?」

「いや、君が私に君の姉の名前をつけた理由は、何かと思ってな……」

「それから何を想像して、顔を赤くする事に……どうしました?」

「いや、まさかとは思うが、先日の戦闘の際から気になっていた事が有る。君は、君の姉であるテルマを殺した上霊(ルシファー)が何者か、当然ながら知らされていたと思うが……」

「いえ。任務に直接関係の無い事なので……」

「軍と言っても、お役所なので、そう云うものですよ」

 コ事務官が補足説明をした。

「そうか……。なるほど……。先日の交戦相手の2人目、水を操る上霊(ルシファー)に敗北して命を失なった『鋼の愛国者』が、ここ数年で複数名居る。おそらく偶然だが、その1人が君の姉テルマだ」

「そ……そんな……じゃあ、この前の2人目の上霊(ルシファー)は……」

「君にとっては姉の(かたき)と云う事になるな……それと、もう1つ気になる事が有る。この事も聞いてるかね?」

「何ですか?」

「私達が上霊(ルシファー)や起動中の『鎧』の存在を感知出来る事は知っているな」

「はい」

「ここ数ヶ月、起動中の『鎧』に似た反応が存在している……」

「7=7を殺した謎の『鎧』ですか?」

「違う。そして、3つほど不審な点が有る。1つ目。『鎧』に似ているが反応が弱い。『鎧』だとしても使われている(カーネル)は、せいぜい1つだ。2つ目。君の言う7=7を殺した謎の『鎧』と思われる反応は別に出現していて、しかも反応は我々の『鎧』より遥かに強い。おそらく(カーネル)の数は5つか6つだ。3つ目。我々が『鎧』の反応を検知出来るのは、『鎧』が起動している時だけだが、この微弱な『鎧』に似た反応は、常時、存在し続けている」

「ちょっと待って下さい、その反応の場所は?」

「おおよその場所しか判らないが、距離・方向からして……世界地図は有るかね?……うむ、中国南部の沿岸地帯だ」

「まさか香港の騒動には、そいつが関わっているのか?……馬鹿な仮説を思い付いたのだが……まさか、そいつは、(カーネル)を埋め込まれた人間などと言う事は……」

 エメリッヒ博士がそう言うと、テルマはきょとんとした顔をした。

「待ってくれ、博士。君達は、(カーネル)が作られた、そもそもの目的を知らされていないのかね?」

 そう言うとテルマは黙って考え込み始めた。

「そちらこそ、ちょっと待ってくれ、どう云う事だ?」

「すまない、博士。どうやら、私達『神の秩序(アーリマン)の巫女』にとっては当然の事が、君達にとっては機密事項だったようだ。忘れてくれ」

「……いや、忘れてくれと言われても……」

「この情報が必要になれば話す。そして、私の予想が正しければ、話さねばならぬ時が、もうすぐ来る。今の私に言えるのは、それだけだ」

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