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ソラより出でし者

【円盤戦——そのはじまりは、宇宙から来た存在だという】


■それは不確定から生まれ、この星に降り立った■

■強靭な肉体を持っていた・あらゆる人間を超越していた■

■各地の腕自慢がその怪物を倒そうとし、ことごとく粉砕されていった■


【そうしていつの間にか、ルールが発生し、円盤戦の雛形となっていく】


■円盤戦に精通した者なら、一度は聞いたことがあるであろう、真偽も分からぬ幻想だ■


●■▲


「――時間となりました、選手の入場を行います」


■薄暗い室内、複数のライトで照らされたリング。そこに立つ司会の言葉で歓声が起きた■

■黒スーツの司会が立つリングを囲むように、客たちは点在している■


「ふふふ、胸躍りますなぁ。この試合前のワクワク感は」

「分かりますぞ~。私も最初にファイターの試合を見た時など、ドキドキし過ぎて失神しました」


「今回のイベントにはあのベントが出ると聞きましてな。ぜひとも見たいと自分からランス殿に頼んだんですよ」

「ほう、ファンの鏡ですな~。自分は最近話題沸騰中の超新星の――」


「ランス氏のファイターを見極める手腕は確かですし、今回の大会は期待できますね」

「ははは。ボクもそれなりに熱意はありますが、あの方には負けますよ」

「まったくだ。物心ついた時から慣れ親しんできた年季が違う……メディアにも公開せずにこれほどのメンバーを集めるとは贅沢な」


「直前までマッチの内容は知らされないとか」

「選手にもですな。さて一試合目は誰と誰の戦いになるのやら」


■ある者は、高級感あふれる椅子に腰かけ■

■ある者は、ワイングラスを持って立ちながら■

■リングで起きる激闘を待ちわびていた■


「それではどうぞ!! 決戦の地へ!!」


 司会が選手を誘う。

 それを合図にして会場外に繋がる左右対称の二本の通路から、二人の人物が歩いて姿を現した。

 中央のリングに向かって、細長い絨毯の上を歩いてくる選手たちの姿は、フード付きのマントで隠されている。

 

「リング上にてその姿を示せ!! 熱き益荒男たちよ!!」


■丸いリングに到着した二人が■

■勢いよく、着ているマントを脱いだ!■


「――さあ、暴れるとしますか!! かかってきなさい!!」


「ふ、相手は可愛いお嬢さんか……やれやれ。これは、本気でやったら怒られちゃうかなぁ」


■姿を現した男女■

■彼らが立つリングは、まるで岩石地帯のようなありさまで、明らかに普通の格闘技フィールドとは違う■

■岩の陰に隠れるようにして点在する、【キーアイテム】がその存在をひっそりと主張する■


「東コーナー!! その突撃は誰にも止められない!! 猪突猛進!! 粉砕突進!! 暴走機関車!! 【ジャスミン・ジェイスター】!!」


 男女の内、一人は桃色の長髪を生やした女性武闘家。

 身に纏う紫の運動スーツは、戦闘準備ばっちりの証で、ジャスミンの瞳は闘気によってめらめらと燃えていた。

 観客から、とても激しい歓声が上がる。それは数というよりも、質に偏ったもので、彼女の熱狂的なファンがいることの証明になっていた。

 グローブをはめた両拳を打ち鳴らして、にやりと不敵に笑った彼女の前に立つ選手は。


「西コーナー!! 理論的な拳闘で敵を下す!! インテリな自身に汗臭いなど似合わない!! あべこべファイター!! しかし実力は確かだー!! 【スコール・ファイブニット】!!」


 対する男性は、整った黒い短髪で理知的な顔つき。

 上半身裸のボクサーパンツスタイルで、細身ながらも鍛えられた肉体を惜しげなく披露していた。

 彼はスターライト・ファイターに迫る実力とも噂され、知名度を上げている。

 ジャスミンと比較すると観客の反応は弱いが、それでも充分な盛り上がりがあった。


「知恵の雨を降らせようじゃないか。か弱い子ウサギちゃんを生贄にしてね」


 完全に舐め切った態度でジャスミンを煽る彼だが、当の本人はどこ吹く風で発言を流した。

 何かを探そうとするかのように、リング外を見回している様子に、スコールを気にする感じは一切ない。

 もっと他の存在に気を取られているかのような行動に、少し顔をしかめるスコール。


「ずいぶんと舐められたものだよ。手加減はしないぜ? ジャスミン。半端者には負けたくないしね」


「……いらないわよ。あんたなんて眼中にないんだから」


「ひゅー、言ってくれるっ。……その自信満々な顔、泣きっ面に変えてやるよ!」


 目には目を理論で挑発を返すジャスミン。

 見事に煽られたスコールは額に青筋を立てて、全力で叩き潰すことを決意する。

 ジャスミンの態度は変わらない。強気に腕を組み、敵対者を威嚇する眼光を放つ。それを見て彼はにやりと笑う。

 そうこうしている内に、決戦の時は迫っていた。


「すでに火花が散っている両者!! その意気を試合にぶつけてもらいましょうかッ!!」


 燃え上がった戦意の炎を煽るような、司会の言葉。

 観客は、早く血が大きく沸き立つような試合を見たくてウズウズしている。

 半径20メートルほどのリングで、五メートルの距離を開けて向かい合う両者は無言。

 無言で火花をぶつけ合う両者は、既に心を闘争に切り替えて、闘争心をどんどんと高めていっている。

 これぞファイターとしての性質だろう。


(闘争者の心得、第一条)


(平時と戦闘時の切り替えは迅速、完璧に行うべし)


■ファイター二人は■

■協会の教えに従って、闘争心を研いでいく■

■観客たちはドキドキと鼓動を鳴らす■


「熱意は最高潮!! では火蓋を切りましょうッ」


 二人が発する熱意に当てられたかのように、司会は声を荒げて言う。

 リング外の観客たちも、これから始まる激闘を今か今かと待ち望み。

 ついにその時が来た。


「第一試合、ジャスミンVSスコール……ファイトッ!!」


■司会の言葉と共に■

■ファイター二人が勢いよく動き出した■


「はぁあああッ!!」


「おおおぉッ!!」


■両者の拳がぶつかり合い、会場内に響く■

■その轟音は、否応なく観る者の心を湧き立たせていく■


「なんとッ!!」


「おお、まさしくこの迫力はッ」


 殴り合う格闘者たち。

 轟音が連続して響き、常人ではまともに視認することすら困難な超速戦闘が行われ、就職者としての視覚でそれを捉える観客たちは迫力に魅了される。

 テレビで見るのとは違う生の円盤戦は、彼らの脳髄まで響くようだ。


(試合時間45分マイナス3分経過——チャージはいまいち溜まらない、か。やはり苦手なようだなジャスミン!)


■円盤戦のグローブで殴ると、その相手にある種の力がチャージされる■

■どれぐらいチャージされるかは、攻撃側と受ける側の能力次第で、今回の場合はジャスミンがチャージを不得手とする結果■

■何発か相手に当ててはいるものの、スコールに大して力は溜まっていない■


「ほらほら! お返しだ!!」


「っ!」


■スコールの右ストレートを、両腕で防御するジャスミン■

■防御された場合、チャージ数は減る■

■しかし■


「5チャージは溜まったかな! 今ので!! はは!!」


「……むぅっ。鬱陶しい!!」


 ジャスミンに溜まった総チャージ数を、スコールは限定魔導で確認する。

 彼はそこまで確認魔導が得意でないので、おおよそのチャージ数が分かるぐらいだが、それでも自身の攻撃が効果あることは伝わってきた。

 着実に攻撃を当てるスタイルで固定し、ジャスミンを追いつめる。


「このっ! ちょこまかと!!」


「ははっ! のろいのろい!!」


■ジャスミンの攻撃は空振り、逆にスコールの右フックが彼女の脇腹に直撃する■

■大したダメージではないが、彼女はわずかに顔をしかめて怯んだ■


「くっ……!! これはちょっとっ」


「!! 隙ありィ!!」


■敵の一瞬の隙■

■それを捉え、スコールは渾身の左ストレートを放った■


「ッ!」


■彼女は、ギリギリでその拳をガードする■

■同時に、紫色の雷のようなものがスコールの左グローブから発生する■


「おお! 【THUNDER】!!」


「ここで勝負を決めにいったか!!」


■紫の雷は、金色の氷の粒のようなものを飛び散らせながら、グローブから勢いよく拡散していく■

■これは、この【スリップグローブ】の効果発動時の視覚的演出■

■敵に溜まったチャージ数に応じて、その体をふっ飛ばす!!■


「ぐ、あぁァッ!」


 両足が地から離れ、グンと後方に引っ張られていく。

 叫びを上げながら吹き飛ばされる、ジャスミンの肉体。

 スコールの攻撃力からはあり得ないほどの、その抗いがたい引力のごとき強制力。

 このままではリングアウト・敗北は確実だった。


「がッ!?」


 背中に衝撃が走り、吹き飛ばされる感覚がなくなった。

 どうやら背後にあった大きな岩にぶつかり、なんとかリングアウトは免れたようだ。

 ジャスミンはそのまま床へとずり落ち、即座に体勢を整えて片膝立ちの状態になる。

 その瞳はさっきよりもギラついていた。


「ちィ、ガード邪魔だ。思ったより吹き飛ばせなかったな!」


「……やってくれるじゃないっ。けど、これでふりだしよ! 次はあたしがふっ飛ばす!!」


「フン……。ふりだしに戻ったのはチャージだけだ」


■一度【THUNDER】を使用すると、それまで溜めたチャージは全部なくなる■


「ふりだし……。ではないわね、確かに」


「?」


「ふふ、少し燃えてきた……って感じッ!! 行くわよ!! 泣いても容赦しないわ!!」


■朗らかな笑みを見せ、スコールへと突撃をしかける■

■その勢いは、気のせいかさきほどよりも強く■


「これは……ッ。面白いッ」


■スコールはにやりと笑って、彼女を迎え撃つ■

■両者の激突は、さっきよりも勢いを増している■


「すごいッ。やはりジャスミンは円盤戦の……ッ。惜しいっ。なぜだッ」


「両選手とも、すばらしい動きだ!! ああ……! このイベントに参加して良かった!」


「ずっと見ていたいなっ。この試合をっ」


 観客たちのテンションも目に見えて上がり、会場内の熱気が強まっていく。中には複雑な気持ちを抱く者もいたが、それはそれとして試合を楽しむ。

 誰しもが好意的な感情を含み、二人の熱きぶつかり合いをその目に捉える。

 まるでそれは、信念のぶつかり合いのようにも見えたようだ。

 

「速い!! 鋭い!! 重い!! 三重の格闘戦はボルテージを上げていく!!」


 いつの間にかリングの下に下りた司会は、間近で行われている決闘に気負いもせずに、熱を広げていく。実況も務める彼をスカウトしたランスの目は、正しかったと言える。

 何度も、有名ファイター同士の試合で司会を務めてきた彼にとって、これは日常茶飯事な光景に過ぎない。

 むしろ、その圧迫感を楽しめるようになってこそ一流だと考えている。


「実力は拮抗ッ!! いやーッ!?」


 ジャスミンとスコールの格闘戦は激しさを増していき、観客の目には完全に拮抗した状態に見えていた。

 だが、数々の激戦を見て来た司会には、どちらが優勢なのかハッキリと分かっていた。

 

「このォッ!?」


 焦りの表情を浮かべているのはスコール。

 計算尽くした魔導発動によって敵を追い詰める、彼のスタイルが通じない。

 放つ両拳の連打はジャスミンに見事に防がれ、逆に相手の攻撃を受けてしまっている。

 彼女の動きはスコールを上回る勢いで、重ねられる強化魔導をものともせずに、スピードを加速させる。敵を粉微塵に砕こうと唸るのだ。

 前へ前へ前へと。

 踏み出す足はリングを揺らして・支配する。


(ばかなばかな、僕は頂点に迫る実力を持っているんだぞォ!? 彼女が、計算よりも強くなっている!?)


 スコールの自尊心が傷ついていく。

 自身をファイターの中でもトップクラスの実力と自負していたし、円盤戦においてはスターライト・ファイターにすら近い力を発揮できると思っていた。

 なのに、目の前のジャスミンに押されているという不条理。

 たしかに彼女はそれなりに有名なファイターではあるが、あくまでそれなりLEVELであり、世間一般にすら名が通っている自分には敵わない。

 そう考えていたのに結果はこれ。計算を覆す敵の力。

 つまりそれはジャスミンの実力が――。


「――先に行くわ。どきなさい」


「!??」


 轟音と共に、スコールの視界が宙に浮く。

 不敵な笑みを浮かべたジャスミン、頂点に手をかけた者の輝き。その超絶的な突進力を防ぐ間もなく、スコールは大きく上に弾き飛ばされた。


「ぐぶぁッ!?」


 まさに突進。

 まさに轢殺。

 とどろく破砕音と共に敵を粉砕した暴走機関車は、リング上に敗者を転がした。


「な、なんとッ!! スコールダウン!!」


 あわててスコールの下へと行き、10カウントを取るレフェリー。

 既に勝敗が決していることは分かっていたが、まだ10カウント内で立ち上がる可能性はある。

 そうすれば敗北を免れることが出来るのだが。

 

「――ナインッ、テンッ!! スコール選手!! カウント内に立ち上がれない!! まさかの敗北だーッ!!」


■会場に広がるどよめきと歓声■

■リングアウトにできなくても、相手を戦闘不能・10カウントで勝利してしまえばいい■

■ジャスミンの勝ち誇った笑みが、そう告げているようだ■


「よ、予想外だ……。ふむ、これは分析しがいがあるな」


「……ジャスミン選手は実力のある選手だが、これほどの突進力があったか!?」


「というか魔導の持続時間が明らかに伸びているッ。以前とは別物の魔導力!! いやフィジカル自体がッ」


■口々に驚きを表す観客達■

■客層のせいか、その感想は比較的冷静なものが多いようだ■


「ふふん、いい準備運動にはなったわね。舐めてくれてラッキーかしら!」


 リング上で背筋を伸ばすジャスミンは、不完全燃焼気味に言う。その姿すらも観客を魅了し、彼らの視線を外すことを許さない。

 しかし彼女の目的はすでにここになく、もっと先の未来を見据えていた。


(クライス。あんたと戦ってみたい)


 目指す相手は自身を超える実力者であるクライス。

 前の魔導場の戦いでその力を思い知っているからこそ、今度はもっとしっかりと戦いたい。

 そんな純粋に戦いを楽しみたいという思いとは別に、もう一つの思惑が存在した。


(そして、確かめないといけないことがあるのよ)


■ここにはいない彼を見る、少女の眼は■

■不可思議で複雑な熱を帯びていた■

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