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銀の蛇と無職の勇士

■銀の蛇とは■

■かつて、この島に儀式場を生み出した存在の呼称■

■そう言い伝えられている■


 最初からこの島に儀式場があり、乱れを弾く結界があったわけではなく、始まりは銀の蛇だった。

 ホンワカ島で崇められるその存在は、かつての悪辣王から島を守り、人々を救ったとされている。

 その後、この島の安寧を守るために高い次元にある存在として君臨したと伝わっていた。

 では、その次元にいる銀の蛇の現在は?


「主よ。我らに力をお貸しください!!」


■大王・地区長が集った魔導場:【青空の古城】■

■この地にある扉から、はじまりの蛇が出現しようとしていた■


「おお、すごい迫力……!」


 広い室内には花畑や噴水が点在し、和やかな雰囲気を全体で醸し出している。

 この場所こそが、銀の蛇へ通じる唯一のルート。

 大王たちの持った魔導具によって異なる次元への扉が開く。

 頭上で膨れ上がる黄金の光を見ながら、シルビアは感嘆の息を漏らした。

 彼女は大王の中で新参者な為、この出現現象を目にするのは初めてで、脳を刺激するような光の動きに無邪気さを露わにした。

 

(銀の蛇。島を守護する高位次元の存在かぁ……どんな感じなんだろう!)


■黄金の光がぐねぐねと動き■

■ある一つの形を形成する■


「おおっ」


■誰かが感嘆の声を上げた■

■中には目を閉じて、涙を流す者も■

■28の支配者たちが、様々な想いと共に主の現出を待つ■


「……!!」


■そして■

■黄金の光が弾けた■


「――――」


 静寂がその場を支配する。

 ドックは室内の窓から入り込む暖かな日射しが、少しだけ陽炎のように揺れた気がした

 それはともすれば、逃避のようなものだったのかもしれない。

 なぜなら今、彼の目の前に尊く崇める主がいるのだから。


「――おおよそ十年ほどか。久しいな」


 大王たちの頭上に浮かぶそれは、声を発した。

 それは銀色に輝く蛇。

 などではなく、黄金に輝く巨大な人の頭のような外見だった。


「いや、最近とも言えるか。時間間隔が揺らいでいる」


 髪はない瞳もない。

 必要最低限の人間としてのパーツのみを組み合わせた、シンプルな顔の造形。

 マネキンのようにも見えるそれは、直径十メートルを超す大きさを持ち、見上げているだけで不思議なプレッシャーを感じる。

 発せられる声は驚くほどに澄んでいて、暴力的な響きを感じず、大王たちの鼓膜に響く。

 

「はい、あれから十一年……。誠に遺憾ながら貴方様のお手を煩わせる事態になってしまいました」


「乱れが本格的に動いたのだろう。把握しているとも」


「はい、悪辣王の一味は非常に強力で……! 既に地区長の一人が死亡しました」


 大王の一人。

 白髪頭で長身。灰色のローブを着て、右手には如何にもと言った感じの杖(頭に青い宝玉がある)を持っている男性。

 彼の名は【リドル・エンタール】。大王の中でも最古参であり、中心人物的な存在。

 銀の蛇に対する忠誠心は、その受け答えする様子からもありありと伺う事が可能である。


「ゴールド。彼の持つ力は凄まじいが、生存能力は低い子だったな。自身の命よりも【遊興】を優先する傾向があった」


「は! まったくもって情けなく……!」


「リドル。死んだ仲間に対してそんな風に言うものじゃない。悲しくなるだろう」


 ゴールドに悪態を吐くリドルに対し、悲しげな顔……といっても傍から見たら何の変化もない顔を向ける銀の蛇。

 リドルは申し訳なさそうに顔を下げた。


「何にしても、ゴールドを撃破したのは事実。拙者たちだけでは手に余る可能性もありますゆえ」


「お前は・ああヤマトの戦士か。大きくなったな」


「これもすべては王の恩恵あればこそ。感謝いたします」


「王……ふむ。王か」


 銀の蛇を王と崇める人物は、逆立った短い黒髪の男性。

 リドルほどではないがそれなりに年を食った顔つきで、腰にはかなり年季の入った得物である名刀を下げていた。

 着ている服はヤマトの主流である着物で、漆黒の色合いが髪の色とマッチしていて、彼自身の端正な顔立ちもありとても映える。

 

「名は【ムサシ】と言ったかな。和の使者よ」


「拙者などの名を覚えて頂き恐悦至極。今は故郷に背を向けた恩知らずでございます」


 刀を床に置いて跪くムサシ。

 その態度に思うところがありそうな銀の蛇であったが、無言のまま礼を受け取る。

 そして彼:彼女は、視線を別の方向へと向けた。

 

「見ない顔もあるようだ」


■銀の蛇は他二人の大王を見遣った■


「――エーコン・パラダイム」


 ムサシたちとは違う若々しいオーラ(とはいえ30代程度)を放つ、無愛想な顔の男性。赤い髪を生やし、白いスーツを着用している。

 彼は、二人の大王とは正反対なそっけない態度で己の名を名乗った。

 銀の蛇と大王に明確な上下関係はないが、当然ムサシとリドルは顔をしかめる。

 

「鋭い目だ。かなり腕が立つと見たが?」


「買い被りです。俺は他の三人と比較して、大した功績もない」


 エーコン自身が語っている通り、あくまで比較しての評価ではあるが、彼は大した経歴の持ち主ではない。

 ナイトやソルジャーなどに所属して島の脅威を退けたなどの功績はなく、ただただ普通に大王としての素質を積み上げていき、それなりの支持を受けて大王の座に就いた。

 リドルのように【勇士】という強力な肩書きすら持っていないと、エーコンは己を卑下する。


「……」


 リドルのこめかみの筋が増えた。

 まるで自身が勇士の肩書きに頼って大王になった存在だと、煽られたように感じたためだ。

 実際にエーコンがそう思っているかはともかく、彼ら二人の仲の悪さがよく分かる反応ではあった。

 

「そしてアタシはシルビア・ベリオン! よろしくお願いします!」


「元気な子だ。大変よろしい」


 険悪な雰囲気を察したのかどうか、シルビアは明るい調子で場のムードを取り持った。

 一応の効果はあったのか、リドルの表情は少しだけ柔らかいものに変わった。

 単に、シルビアの態度が緊張感に欠け過ぎて呆れただけかもしれない。

 銀の蛇は彼女の態度に好印象を抱いている……ような雰囲気だ。


「新たな大王たちに地区長たち。世界は変化を止めずか」


■銀の蛇は、悲しみのような感情を漏らし■

■それを切り替えた■


「――悪辣王。奴に対抗する術を授けよう」


■いきなり本題に切り込む■

■決意を込めた声で助力を誓う■


「感謝します……!! 主よ……!!」


「する必要はない・助力するとは言っても、余は万能ではない」


 リドルが感嘆の表情で感謝を告げるが、銀の蛇は己を無力だと語る。

 そもそも本当に万能の存在であるのならば、乱れたちに好き勝手などさせはしないだろうと。


「時間はかかる。耐える時が必要だ」


「それはお任せください……!! 必ずや我々が死力を尽くして、この島を乱れたちから守り切ってみせますッ」


「ああ・任せよう」


■銀の蛇の助力による一矢■

■その準備が進行を始める■


「乱れを排除し・安寧を取り戻す為に――」


●■▲


「……取り戻したい、安寧を」


 クライスは呟いた。

 同時に対面から拳が飛んでくる。

 めちゃくちゃこわい勢いで。


「うおっ」


「なにをぼーっとしてんのよ!! もうっ」


 それを即座に回避するクライス。

 機敏な動きは変わらずで、面倒くさそうな顔も変化なし。

 相手をするジャスミンは逆にやる気満々という風で、運動スーツを着用し、拳や蹴りの連打を繰り出していく。

 その両手には、競技用の赤いグローブが取り付けられている。クライスも同様だ。


「円盤戦の事前練習!! しっかりと付き合ってもらうわよ!!」


「あーはいはい」


「なんてやる気のなさー!! この根性なしー!! G様とは大違いね!!」


 肉体を躍動させながらジャスミンが疾走するのは、斜面が急な坂道。

 正確に言うならば山道。

 より正確に言うならば、魔導場の内部だ。


■彼らは、儀攻戦体験センターで練習を行っていた■

■設定された時刻は夕方■

■儀攻戦ではなく、別の競技でこの場所を借りている状態■


「はー、山道ね。だる」


「あーもうっ。平常運転で逆に安心する……ってないない!」


 急斜面上に立つクライスは、転げ落ちそうになるのを踏み止まるのすら面倒くさい。

 思わずため息が出てしまうのを止められない。

 それを見たジャスミンは怒りをあらわにして、気力が抜けきったクライスに活を入れるべき突進を行う。


「アンタも円盤戦に出るんでしょうが!! シャキッとしなさい!! 本番で恥かくわよ!」 


「……」


「もう! このナマケモノー!」


 ジャスミンの言う通り、クライスも金持ち主催のイベントとやらに金目的で参加することにした。どうやらまだ、人数が足りていないとかなんとかで席があったのだ。

 それなりの大金が出るということで渋々ではあるが、一応円盤戦の体験をしておく必要があるということで現在。


「一対一の殴り合い……ってめんど」


 クライスは想像するだけで億劫になる。

 正面からのぶつかり合いとか、想像するだけで疲れそうだ。

 ルールがシンプルであるのはいいが、バトル色バリバリの感じが性に合わない。

 これならば、直接的な戦闘を避けられる儀攻戦の方がましというもの。

 いや、ましという言い方も何か引っかかる。

 

(とはいえ下手な小細工はない、のかな?)


 儀攻戦の限定魔導のように、多彩な魔導は使用不可の円盤戦。拳で戦う異世界競技。

 故に大切なのは肉体と技術。

 後者は怪しいが、前者ならば怠惰スキルで補える。

 あって良かった強力スキル。いや本当。


(負けはない……全力でやれば)


 しかし無駄に目立つのは避けたい。

 今回のイベントには、有名なファイターが参加するので、普通に勝ってしまっても不味いと思った。

 なので、クライスはどういう風に立ち回るか考えている。

 それが良くなかったのだろう。


「もうっ、なんて覇気のない顔なの!? しっかりしなさい! 何が重荷になってるか知らないけど……アンタはやれば出来るじゃない!」


「買いかぶりだなぁ。はぁ」


 ジャスミンは息を切らしながら叫ぶ。

 クライスのあまりに後ろ向きなスタンスに、苛立ってしまったのだろう。露骨に手を抜かれていることに、イラっとしたのもあるのかもしれない。

 彼女は、逆に覇気をみなぎらせて彼に宣言する。


「それだけの力を持ちながら勝負事に手を抜こうなんて……!! 今日こそは決着を着けるわ!! 覚悟しなさい!!」


■練習など知ったことかと■

■ジャスミンはいつかの敗北を思い出しながら、全力の突撃を開始した■

■得意な戦法は、攻撃強化魔導を使用しての……■


「突撃ィッ!!」


「はぁ」 


 毎度おなじみのジャスミンタックルを目にして、クライスはうんざり気味に息を吐く。

 何度このタックルが、日常をドタバタコメディに変化させてきたことか。

 彼はもう思い出せないが、そんなことが過去に何度もあったため、テンションが異常に下がってしまう。


【村の治安を乱すのは許さないわ! あたしが行く!】


■狂暴なモンスターを率先して倒したり、盗賊たちを追い返したり■

■彼女の突進に、結構助かってる時もあるかもしれないとも思う■


「ほいよ」


 軽い調子で凄まじい突進を避ける。

 いつものように適当にあしらってやるかと彼は考え。怠惰スキルを50%ほど解放して対応する。


「おふッッ」


 だがそれが失敗だった。

 ジャスミンの突進をモロに受けて、クライスは弾き飛ばされてしまう。想定以上の速さの攻撃だ。

 体に伝わる衝撃は、充分にダメージと呼べるものだった。

 ジャスミンは「ふふん」と鼻を鳴らして、得意げな感じになっている。


(速いっ。いつの間にこんなッ) 


■ジャスミンの、普段のトレーニング風景が頭を過る■

■ビーフとの修業から、さらに強くなっているようだ■


「――あんた。あたしを舐めてたでしょう?」


 怒りを全方位に発しながらジャスミンは言う。

 その突進の速度は、まだまだ激しく上昇中。

 暴走機関車のごとき彼女の動きは、初めて戦った時とは比較にならないほどに突出していた。

 強気で不敵な笑みを浮かべながら、クライスを威嚇するように両拳を構える。


「……」


 思えば当然なのかもしれない。

 彼女はファイターとしての特訓を続けていたし、この前の儀攻戦で実力を大きく上昇させている。

 敗北をバネに腐ることなく突き進んできた、真っ直ぐすぎる少女。

 

「……」


「ちょっと!! 何を笑っているのよ!? ずいぶん余裕ね!」


「いや、なんでも」


 ジンとかとはまた違った方向性の輝きに、クライスは薄く笑う。

 そして同時に少しだけやる気というか、気力と言うか、くすぶりまくった火が点火した。

 回避行動を行いながら怠惰スキルを上昇させて、その真価をジャスミンに見せていく。

 彼女の瞳に映るのは、今まで見たことない彼の戦闘スタイル。


「……!!」


「見せるのは初めてだな。これが」


「それがアンタの全力スキルってわけッ」


■口から、黄金の電光のようなものが発生するクライス■

■つまりは100%解放■


「悔しいけど半端ないわねッ。なんとなく感じるわ……能力超過してるじゃない……!!」


「どうも」


「余裕ありありって顔ね……!! 吠え面かかせてやるわ!! らぁああ!!」


 クライスのステータスを、なんとなくで感じて驚愕のジャスミン。

 速力が能力超過しているという事実に、改めてクライスという怠惰怠慢根性なしなのに最強クラス無職の力を知った。

 気に入らない態度ではあるが、間違いなく得難い強者であると思う。

 内側でメラメラと燃える闘志が、彼女の動力と化して、その肢体を躍動させていく。


「……ふふ」


 連続で放たれるジャスミンの拳を、それなりに余裕がありそうにかわしていくクライス。彼は彼女に対して、一撃でも当たりたくない強者という認識を抱いている……と、ジャスミンは推測した。

 戦闘者として彼女は笑う。

 やはり、戦いというものはこうでなくてはと思うのだ。

 強力な敵と戦うのは純粋に楽しいと思い、強く拳を握りしめた。

 ファイターとしての本能か何かか、逆にジャスミンは闘志を燃え上がらせて相対する。


「さすが」


 クライスは、その胆力に改めて称賛を送る。

 自身よりも明らかに強い相手にも、瞳の炎を絶やさずに突進していくその姿。

 自身だったら敵が強ければ強いほどにウンザリして、気力は萎んでいってしまうだろう。

 精神力では、間違いなく上回っているなと彼は感じた。


「こいよ」


「言われないでも――全力全開!!」


■ジャスミンは肉体の駆動出力全開■

■考えうる限りの全力態勢■


(しっかりと地面を踏みしめ、一気に力を解放するイメージ)


 一度魔導を発動した後に発生するインターバル。

 その間も魔導効果を持続することで(持続時間に個人差あり)、次の魔導発動時に強化効果を重ねがけし、自己強化をどんどんと高めていく。

 当然ながら強化限界はあるが(これも個人差あり)、かなりのステータスアップが見込めるのは間違いない。

 ……それを以てしても、今のジャスミンの能力値は超えられない。


(今の状態があたしの限界点!! これで全力を出し切る!! 届かせる!! 絶対!!)


■重なり合う鍛錬の奔流が、ジャスミンの戦闘能力をブーストしていく■

■能力値を直接強化する魔導は、既に不要となっていた■


(すごい迫力)


 ジャスミンは使用できる攻撃用魔導の数が少なく、ほぼ自己強化頼りの戦闘しかできないとは聞いていた。

 だからこそというか、得意な自己強化系魔導を重点的に鍛えたため、それに関してはかなりの使い手と言えた。

 彼女自身の気質にも、あってはいたのだろう。

 己の肉体一つで立ち向かうシンプルさは。


(ようやる)


 覇気をみなぎらせて突進してくるジャスミンを見て、感心の念を抱く。

 とてもそれは真っ直ぐで・思わず見とれてしまいそうな美しさだった。

 だからと言って自身の最強スキルを超えられるとは思っていないため、いまだに無気力なのは変わらないが。

 彼は100%を維持したまま、突進してくる弾丸を眺めた。


■一瞬だけ頭をよぎってしまう影■

■ジャスミンと同じバトルスタイルの、悪辣の王■


「……ッ」


 クライスが直接見た悪辣王の体技は、よく目に焼きついている。

 人体の可能性を全て解放したような、凄まじく練られた技術の炸裂。

 マルチネスを貫いた【王の体技】は、身震いするほど恐ろしい。

 そう、本当に体の芯が凍るような気がした。


(……王の体技、ね)


■ジャスミンの攻撃をかわしながら■

■漆黒のナイトが言っていた言葉を、思い出す■


【あの技は……ある就職者が使用していたものだ】


 漆黒ナイトとは、あれから何度か連絡を取り合っている。

 それによれば、かつて【格闘家】の職業だった人物が同じ体技を使用していたらしい。

 特異な体技であったために注目されて、それなりに知名度はあるようだ。

 しかし、まさか悪辣の王がそれを使うとは……彼の正体になにか関係があるのかと、ソルジャーたちは調べているようだ。


【もしかしたら、他の乱れも使えるかもしれない。警戒はしておいてくれ】


(技の情報はそれなりにある。だが再現は無理だろうな)


 教えられた技の情報は完全ではないが、たとえすべての詳細が分かったとしても自分には扱えないと思った。

 ……クライス自身気付いていないが、そんな体技を再現しようと思っている時点で、悪辣王を脅威と思っていることは明らかだ。

 彼の頬を汗が流れる。


「こらー!! よそ見してんじゃないわよォッ!!」


「!!」


■ジャスミンの拳が迫る■

■足場が少し悪い気がしたが、充分に対応できると思った■


「甘い」


■それを右腕でガードしたクライス——発生する、紫の光■


「っ!」


 驚きが背筋を走った時には既に遅し。

 クライスは大きく吹き飛ばされて、山の天辺に向けて発射されてしまう。

 足が地から離れて目的地に向け一直線。

 一体何が起きたのかさっぱり分からない彼は、ジャスミンが説明していたことを思い出した。


【このスリップグローブは装備型の魔導具で、あるアイテムスキルを備えているの】


(これが、そうかッ)


【対になったグローブをはめている相手を、問答無用でぶっ飛ばす(正確には、色々条件あるから違うけど)!!】


「どふッッ」


 背中から地面に激突した感覚と共に、間抜けな声を上げてしまう。

 飛ばされる速度はそこまで大したことないので、ダメージはあまりない。

ただ、実際の試合であったら、これで勝負の決着は着いていただろう。

 移動魔導で、動きを制限されたような感覚が残る。


(途中でグローブ脱げばいいな)


 クライスは、この吹っ飛ばし攻撃の対策を思いついた。

 しかし実際の試合ではそれをやれば反則なので、意味はあまりない。

 遠くにいるジャスミンの姿を見遣りながら、さきほどの彼女の見事な一撃を思い出す。

 これは、負けを認めざるをえないかもしれないと。

 

「おっ」


■周囲で花火のようにまき散らされる■

■赤・青の光■


「ゴールかここ」


 クライスが背を着けた場所は儀式場の終点。山の天辺。

 どうやら防衛モンスターすら通り過ぎて、直接この場所に叩きこまれてしまったようだ。

 

「ふふふん、あたしの勝ちね!! 円盤戦ならリングアウトで敗北よ!!」


「……」


「どう! あたしの成長は! あまりのショックに言葉も出ないかしら! 称賛してくれてもいいのよ!」


 得意気な顔で、水平な地を歩いてくるジャスミン。また何かの漫画に影響されたのか、両腕を組みながら魔王のごとく近づいてくる。

 かつての敗北のリベンジを果たしたことで、とても上機嫌な表情であった。それを見て、少し幼子のようで可愛らしいなと思う。

 どれだけ胸を張っても、貧乳は貧乳だなとも思ったクライスは失礼。


「ぶん殴りたくなったわね、OK?」


「NO」


「やっぱり失礼なこと考えていたのね!! このーッ!!」


 ゆらりと拳を構えるジャスミンから逃げるように、立ち上がったクライスは後ずさる。

 じりじりと笑顔で迫る彼女から逃げる術はなく、対応を変える。

 彼女はなんだかんだで暴走しがちなだけで、話は通じるので、必死になんとか防御トークを展開する。


「強くなったじゃないか」


「……なによ、いきなり」


「俺も鼻が高い」


「いらっ」


 余計にいらっとさせてしまったようだ。

 ジャスミンは、いまだに気力0のクライスに襲いかかる。

 チョークスリーパーをかけて、しっかりと彼の体をホールドした。

 つまりめっちゃ密着することになるので、彼女の体の感触とか汗の匂いとか小さい山が当たったりとかで、クライスの理性がダメージを受ける。


「あんたは本当にッ、ちゃんと脳みそ動いてるのかー!! こらー!!」


「ううぐぅ。おいっ。離れろっ」


「何よその態度はッ。本番ではしっかりやりなさいよね! じゃないと本当恥かくわよ! 仮にもあたしの連れなんだから、無様なところは見せないで!」


「わかった、わかったっ」


■口うるさいジャスミンの言葉に、面倒くさそうに返事をするクライス■

■彼の顔は嫌そうではない■

■一週間後のイベントに向けて、彼らは準備を整えていく■


「いちゃいちゃしてないで、早く切り上げてくださいねー」


 魔導場内で響く声。魔導場外のモニターで監視を【始めた】リリだ。

 二人をカップルか何かと思ったリリは、しぶい顔で儀攻戦体験終了を告げた。

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