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想定外の魔物

「こそこそ」


■こそこそと動いている彼の名は■

■マサル改め、クライス■


(約束守れよ、おっさん)


【え、なんのことかの】


【貴様ッ】


■修行を一応受けたクライス君■

■しかし、報酬は渡されないというね……■


「ぷんぷん」


■匍匐前進で寝室(ベッドと敷布団それぞれ二つある)のカーペット上を進むのさ■


「さて、どうすっか」


■現在位置は、館の二階西側・奥■


「そーっと、そーっと」


■現在時刻は、深夜とギリギリ言えるほど■


「くく、ばれへんよな」


■ちょっと楽しくなってきた彼■

■顔が心なしかにやけ、周囲の静寂を確認する■


(どこにありそうかというと、目星は付いている)


 部屋を出ると右と左に分かれた通路。

 建物の中央を囲むように広がる四角い二階通路からは、一階ロビーの様子が見える。

 そこには……。


「うおお、おおおッ。まだ、だッ」


「ぐ、ああああッ」


(まだ、やってるのかー)


 大きな石を持ち、背中に圧し掛かる重圧を受け止め、汗を大量に流すスポ根漫画的な光景。

 クライスはそれを眺め(伏せたまま)、しばらくの間停止する。

 気まぐれでしかない行動。

 

「く、ははは!! まずいな! 意識が飛びそうだッ」


「ふん、情けないなッ。あと一時間はいけるぞッ」


「はははは!! お前も同じだろうよッ!!」


「阿呆をいうな。オレはキミより余裕あるッ。」


 軽口を叩き合いながら修行を行っている二人。

 表情はまるで軽くない。

 今にも彼等は消滅しそうな程の状態。実際、止め時を見誤ったらそうなってしまうのだろう。

 

「……しかし、クライスのやつはまるでやる気がないなっ」


 ゴウトは眺めているナマケモノを話題に出す。

 やる気がないというか、師匠に修行を却下されてしまったのだが。


「見損なったぞー!! なんだかんだで熱い奴だと思っていたのに!!」


「……」


(勝手に熱血キャラにすな)


 クライスは顔をしかめる。

 最初から彼には熱意などない。

 日々を惰性で生きているような、ぼんやりとした人生を歩むのが自分であると。特に人生を素晴らしいとも何とも思わないし、もうすでに青春は蝶になって飛び立ち、みじめに落ちてしまった。

 あとに残ったのはぬけがらのみ。


「……たしかに、あいつは無気力だ」


「だろう、まったくけしからん!! 選手としての意気込みが足りんわ!!」


(なんだよー、俺わるものー?)


■まあ、本人も自覚はあるのだが■

■あったからと言って、改善のしようもない■


「……オレには分かるよッ。あいつの気持ちがッ」


「なにィ!?」


(なに?)


 ジンの言葉に聞き捨てならぬと反応する二人。

 彼は、続けて言葉の真意を語る。


「オレもッ、そんな時期があったしなッ」


「??」


「……村に来たばかりのころをッ。覚えてるかッ」


「おお??」


(来た頃?)


■クライスの回想■


【ふーむ、もう少し腰回りを凝りたいな】


【……】


【くそ、違う作り直しだッ】


【……】


■木像を作っていた記憶ばかり■


「木像づくり……そうだな。オレの趣味の一つだ。それはッ」


「ははは!! もっと運動せんかーッ!!」


「……というか、やりたいことは他にあったんだ。趣味のふりして逃げたんだ」


「??」


(……)


■ジンが前に言っていたことを、クライスは回想■


【なさけない男の話だが】


(逃げてたのか。お前は)


■言葉を思い出すクライス■


「オレは村に来てから……いや、来る前からずっとッ」


■以前の自分を思い出すジン■


「本当に目指すべき壁から目を背け、へらへら笑っていたッ。格好ばかりつけてなッ」


 今もなお、魔導具からの圧力は彼にのしかかっているが、歯ぎしりしながらそれに立ち向かう。

 その苦悶の表情に余裕などない。

 だが、覚悟なら十分すぎるほどにあった。


「ダメだったんだよッ、どうしてもッ! 現実に向き合えなかったッ」


 誰に聞かせるでもない、自分自身の内面を吐き出すかのような言葉。

 ふんばる足に力が入り、その気迫を高めていくようだ。


「ああ、みんなッ。……約束したのにッ。そう言ってッ。旅に出たのになッ」


 体が悲鳴を上げ、今にも消滅しそうな危険すら感じるが、なんとか踏み止まれるのは、強い心が燃え上がっているからだろう。

 負けはしないと心が叫ぶ。


「だけどッ。だからッ! オレはァッ!!」


 力のかぎり叫ぶ。

 必死な人間が放つそれは、クライスの耳にもしっかりと届いた。


「……」


■クライスの視線は、しばらく止まったまま■


「……ふとん、探すか」


■やがて、本来の目的に戻った■


「こそこそ」


■行動再開■


「調査完了」


■そうして、宝のありかを突き止めた■


「三階か」


■どうやら伝説のお布団は三階にあるようだ■

■三階は二階と似たような造りになっている■


「いざ」


■階段を慎重に上がり■


「……」


 三階の廊下に出る。

 どこにあるかの詳細までは分からないので、自力で探し出すしかないのだが。


「……」


■右の通路が、いくつもの丸い光(赤)で照らされている■

■監視カメラがさりげなく多い■

■斧みたいな物体が、振り子のように動いて道をふさぐ■


(あからさますぎて、逆に迷う)


 見るからに、宝はこの先ですよと告げている。

 クライスは戸惑いの中、それでも一歩を踏み出した。

 現在、ビーフおっさんは就寝中であるからして、この時がチャンスと彼は考える。

 

(動く赤い光。ふれたら……)


 変幻自在に床や壁を照らす光を、回避する構えを見せる。

 動きはそれほど速くない。


「が」


■かなりすれすれで避けるクライス■


「っ」


■同時に、迫りくる斧を軽く跳び回避■


「監視カメラは」


■速力を上げて■


「――成功」


■映らない速度で移動■


「もしや」


 これはビーフが仕掛けた修行なのではないかと思った。

 しかし、あの中年の顔を思い浮かべて。


【ヒナちゃんも専属メイドにしたい気持ちがある。いや他意はないぞ他意はっ。ただこれは必要なことでだな……】


【わたさん】


■ヒナの可愛さに、魅了されてしまうのは分かるが■

■クライスは断固として反対した■


(……ないな)


■さて、警備の先には怪しげな扉が■


(……絶対入るなって書いてある)


■扉に直接書かれた文字■

■クライスは当然入る■


「む」


■入ろうとした時、左から猛烈な勢いで迫る影■


「うっ!?」


 クライスの両腕に衝撃が走る。

 影が放った拳をガードしたためだ。

 とても固い感触のそれは、とても常人では防御し切れない威力を感じる。


「……いたいな」


「……」


■影の正体は鋼の人形■

■ようするにロボットである■


「カメ朗なのか?」


「――違う」


「なんだ、違うのか」


 全体的にスリムなデザインのロボットは、青く両目を光らせてしゃべる。

 両拳を構え、完全戦闘態勢を整え、クライスと対峙した。


「私は正義のカラクリ、人の心を侵す悪を滅し、世の調和を守る者……!! 【オーバーテクノロジー】の結晶だ!!」


「なにぃ。悪だと」


「しかり、行くぞ!! 小悪党!!」


「! (目の光が)」


■ロボットの目が光を増していく■

■まさにそれは■


(まさかビーム——)


「くらえ、ビーム!!」


「うわああっ」


■はなたれた光線がクライスを襲う!■


「あ?」


■ちょっとピリッとした■


「……」


「……」


「行くぞおおおおおおおおッ!!」


「がっかりだッ」


■普通に殴りかかって来るロボット■


「(鈍いな)」


 しかしその動きは鈍重で、対処がしやすいものでしかない。

 クライス君はやれやれ困ったもんだ状態に。


(軽くのしてやるか)


 スキルで能力値をそれなりに上げて、迫りくるロボの動きを注視する。

 右のストレートが来ると予想した。


(余裕で対処——)


■その拳には、あまりに脅威がなく■


(を)


■だからこそ、クライスの顔面を貫いた■


「ごはッ」


 後ろに吹き飛ぶ体。

 鋼の拳はとても重く、彼の頭を揺らしたのだ。


「こ、のッ」


「ふん、その程度か! 小悪党に相応しい!!」


 片膝を突くクライスに対して勝ち誇るロボ。

 完全に調子に乗っているようだ。

 しかし、その実力は本物。クライスは前に聞いた話を思い出した。

 

(スーパーロボットは強い。能力値がないからこそ……【規格外】である、か)


 少しゆれているクライスの体勢。

 その動きはさっきの攻撃が効いた証であり、ロボットはそれで敵対者の実力を看破した。

 すなわち、自分の方が強いと。

 

「フフフ、かかってこい。そのぐらいのチャンスはくれてやろう! 悪党よ!!」


「……なに言ってるんだ?」


「は? どうした、早く」


「いや、もう終わった」


「はい? な——」

 

■クライスの言葉と共に■

■ロボの体は砕け散った■


「なにいいいいッ!?」


 驚き声と同時、ロボットは床に倒れた。

 なにが起こったかも理解できないまま、粉砕された鋼鉄の体。

 並の就職者と侮った相手も、また規格外。敵の攻撃に合わせて、それ以上の攻撃を返していた。

 そのナマケモノは気だるそうに腕を回す。ちょっと本気を出しただけで疲労感MAX。

 

(……十五発はぶちこんだかな? つかれた)


■クライスは立ち、扉の前へ■


(さて、改めて)


■ドアノブを回そうと手を近づけ■


「――番外の友」


■後方から聞こえた言葉に、手を止めた■


「なに?」


 クライスは振り返り、首だけになったロボットを見る。

 その機能は停止しているようだ。

 

「……」


■再び手を動かすクライス■


「――暗い」


 扉の先は暗く、どうやら無人のようだ。

 しかし、お目当てのものは存在した。


「おお」


 部屋の一角で光り輝く領域。輝く柱。

 どう見てもただものではないモノが、そこには存在した。


「これが」 


 クライスは柱に触れ、その感触を確かめる。

 どうやらそれは確かな実体をもったモノのようだ。


(少し力を入れれば、引き抜ける)


 まるで伝説の剣を抜くかのような緊張感で、クライスは能力値を上げて。

 光の柱を掴み、思い切りよく引っ張った。


「――ううーん~」


「はい?」


■消えた柱の中にあった光景は■

■敷布団の上に寝ているジャスミン■

■白いパジャマ(胸元のボタンが開いている)着用■


「……」


■そして、クライスの手には普通の見た目のかけ布団■

■まるでこの状況は■


(早く、逃げよう)

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