習得場
「魔導を習得?」
「です……」
「【習得場】に行ってくるってことよ。まさか、知らないの? クライス」
「……(なんぞそれ)」
ある日の朝、客室に遊びに来たヒナ&ジャスミンコンビがクライスに告げた言葉。
それは新たな魔導を手に入れるという内容で、クライスの頭には疑問が浮かんだ。しかし、見栄を張らねば漢としてと、無駄な悪あがきをする。
(習得……魔導を習得……)
入力したワードから、施設のイメージを固め、妄想出力を行う!
今まで彼が見て来たRPG、ファンタジー作品、などなどから推測できる習得場のイメージとはッ。
■ほわほわほわ■
杖を持った黒ローブの男達が、クライスを囲んでいる。
「我が祈りに応え、あまねく大地より、大いなる魔導の力を此処に――ッ」
「はあああああああッ」
「ほああああああッ」
「ウマウマ!!」
「オッパイ! デッカイ! サイコウ! 嬉しい!」
光り輝く魔導陣の上に立つクライスの体に、とてつもない力が集まっていく。
バチバチと鳴る音は、伝説の始まりの合図か。
「――これが、俺の真の力」
■ほわほわほわん■
「なーるほどネ」
「分かってないわね! 間違いなく! この男!」
「見栄っ張り……です……」
■NO!NO!と叫ぶ声が、客室から響いたそうな■
「で、百聞はなんとやら」
「レッツゴーよ!! 引きこもり!! さあ!!」
「ぎゃーッ」
■強引なジャスミンに連行され■
■クライスは町の中央にある習得場へと……■
「……でかいっ」
■七つの通りが一点に集中した巨大円形広場■
■ユッタリ中央広場に到着!■
「この建物、か」
「そうよ! 魔導師たちのお馴染み施設! 魔導力が渦巻く場所!! その名も! 習得場!!」
「パリパリパリ……」
クライス達の目前に立つのは、5つの尖った屋根が印象的な、大きな建造物。
人質に取られたお菓子(現在進行形でヒナに食されてる)のため、彼はしぶしぶやってきた。
正面の大きな自動扉では、大勢の人が出入りを繰り返している。
「うがー、容量不足で習得し損ねたー!」
「ちゃんと確認しないからだ、バカ野郎」
「よしよし、この新魔導と相性が良いな! 助かったッ」
「高かったからなぁ! これで、【砂漠の塔】に挑めるぜ!」
「敵守護者の情報は頭に入っているなっ! いざ! 【儀攻戦】!」
「さっき、スターライト・ファイターを見かけたよ」
「マジ!? 誰だッ!」
■多様な反応を見せる人の群れ■
■人が多いのは苦手なクライスはしょんぼり■
「お腹痛い。帰る」
「ヒナ」
「ラジャー……がしっ」
「うわ、なにをするンだっ」
逃げようとしたクライスだが、両腕を二人の美女に抱き着かれて止められる、傍から見たら羨ましいことになってしまう。
男性達の嫉妬視線が彼に突き刺さる。
クライスは嬉しいような、悲しいような、いややっぱり柔らかい感触が最高なんでイヤッホー。
「うわぁっ。はなすんだー、やめるんだー」
抵抗を続けるクライスはじたばた。
しかしその顔は、うれしさを隠し切れていない。
ヒナはそれに喜んで、より力強く抱き着いてくるのだった。
「もうっ、あんまり手間取らせないのッ」
「……ふぅ」
「駄目ねコイツ……」
呆れた顔のジャスミン。
それでも彼女は、クライスを引きこもり不健康生活から脱却させようと、その平坦な胸を押し付けながら頑張る。
(そういえば)
そこでふと、クライスは彼女の様子に明確な変化を感じる。
内容は、自分に対する接し方についてだ。
以前、ジャスミンを不可抗力で押し倒した際には見られた反応が、まるでなくなっている。
(なんだ、どういうことだ)
思わず感慨深くなってしまう。
しみじみと、今までの思い出が頭に浮かんでは消える。
「しみじみ。もふもふ」
「やあああッ!?」
■物思いに耽りながら、ジャスミンの獣耳をモフる彼・反射的な行動■
■数秒後にビンタの音響く■
「もうッ! 早く行くわよ!」
■ジャスミンたちに引きずられ、いざ中へ!■
●■▲
「おおー」
■中に入ると、クライスは少し目が輝く■
■タイルの床を挟んで、正面奥に視線は集中■
「踏破◆焼却◆射出!!」
「なんのッ! 踏破◆水流◆射出ゥ!!」
■ぶつかり合う水の弾丸と灼熱の矢■
■防壁柵の中で、魔導同士の衝突が行われていた■
「魔導の宣伝も兼ねて、ああいったことも行っているのよ」
「ほっほう」
「無料で、宣伝用の魔導を用意してくれる時もあるのよね」
「ほー」
ジャスミンに、アームロックをかけられるクライスの様子。
意味が分からない行為に、彼は驚く。
「なにするんっ」
「あんた、こうしないと逃げるかもしれないでしょ」
「えー、なんのこと~」
白々しい反応のクライスを見るに、彼女の言葉は当たっているようだ。
締めつける力が強まる。
(ふむ、これはこれでっ)
新感覚な感触を味わうクライスは、ちょこっと思案。
いつも通りのくだらない内容ではあるが。
(このままジャスミンと密着してると、さすがに暴力アホ女とはいえ色々やばい)
「またくだらないこと考えてるわッ。フン!」
「あが」
■さらなる力を加えられ、クライス昇天■
「うれしそうです……ネ……」
その様子を見ているヒナは、また新しいアプローチを考えるのだった。
●■▲
■さて、本来の目的を果たす時■
「……」
■複数列並んだ椅子に座り、順番待ち中のクライス■
■前のカウンターで番号を呼ばれる時を待つ■
■魔導習得中の部屋のドアを見つめながら■
【そういえば、魔導力0のままなのね。あんた】
【ですな】
【うーん、魔導を使っていると自然に上がるものだけど……】
【(使ってないからな)】
【ま、完全なゼロでもないかもだし! チャレンジよ! ファイト!】
■そう言われて渡された、いくつかの源流魔導■
■マサルにとって初めての魔導習得体験!■
(緊張するぜ)
なにごとも初めては緊張するもの。
妙にそわそわしてしまう彼は、ドキドキワクワクもしていた。
(むふふふ、ここで俺の隠された魔導力が開花とかっ)
■ほわほわ■
「うおおおおッ!? なんという魔導の才!!」
「これは!? 一億年に一人の――いや、唯一無二の天才ッ」
「すまん! サインしてくれないかッ」
「よしてくださいよ。困ったな。あ、お釣りはいらないっす」
「クライス様!!」
「クライスさん……ポッ」
「クライス! やるじゃない!」
「さすがは私の師匠だ」
「ほれなおしましたー、雇い主様!」
■ほわほわほわん■
「なんてことも……ありだなっ」
魔導力0の事実からは目を背け、過剰な期待をしてしまうクライス。
そんな時。
「――ぎゃあああああああッ!! しぬううううううッ!!」
■耳をつんざくような悲鳴が、魔導習得中の部屋から聞こえ■
■彼の妄想がマッハで砕け散る■
「……」
周囲の客に変化はない。
つまり、これは魔導習得における通常事態であるということ。
「……」
だんだんと体が寒くなっているのを感じるクライスは、さらなる音を聞く。
まるで、ドリルが何かを削っているような恐怖音。
聞き覚えがあるような気がするそれ。
「わああああああッ!! や、やめろおおおおおおおッ!!」
「……(なにこれ)」
■何が起きているかも分からずに、クライスは震える■
■そう、この感覚は■
(歯医者だコレーッ)
■戦慄のクライス君■
「怯えているんですか? 大丈夫ですよ」
「え?」
■そんなクライス君に掛けられた声は、二つ隣に座る女性のもの■
「痛いことなんてありません。心配はいらないです」
「……ッ」
■黒髪ロングで、服の上からでも分かる美しい肉体■
■そんな美女に慈悲深い言葉を掛けられ、彼は感銘を受ける■
「こ、こわくなんてないですよッ。ええッ! まったくッ!!」
■言っている本人が誰より怯えていなければ■
(よけい怖いよ)
■彼女の名はポーラ■
■頂点に輝く星の一人――■