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心刺す茨

■店の中央にある大きな丸い柱には、様々な張り紙■


「おっ、またファイター系大会があるみたいだなっ」


「む、ファイターとしても活動しているんだったか。筋肉バカ」


「おうよ!! 野良ファイターじゃなく、公式ファイターとしてな!!」


「あー、そっちの方が何かと便利なんだっけ。ボクはそんなに詳しくないけど」

 

 柱の前で、ロビー・ゴウト・ジンがそれなりに楽しそうに話をしていた。

 ゼロはともかく、ロビーの方はその人柄もあって、わりとクライス達とも打ち解けている。

 それでも、ジンの態度にはどこか違和感があった。


「ボク、あんまり戦い自体には興味はないからなぁ。ははは」


■ナマケモノは■


(友達かー)

 

 クライスは、店内の柔らかそうな椅子に座って歓談するサーシャたちを見る。


(サーシャちゃんに妙な真似をするなよっ)

 

 彼女たちの背後にある大きな柱の向こうからは、騒がしい声が聞こえてくる。


■そこは、源流魔導コーナーと呼ばれる店の一角■

■魔導の元となるアイテムが売られている■


「うっほ!! この魔導!! レベルたけーな!!」 


 壁際の三段棚に並べてある、様々な商品。

 棚に張りつけられた商品説明プレートには、商品名と値段が凝ったフォントで表記されている。


「これだけの品ぞろえは、なかなかないぜっ!!」

 

 ゴウトは商品の一つを手に取り、まじまじと眺める。


■虹色に輝くそれは、長方形の薄い板状■

■魔導を発動する為に必要なアイテムである、【源流魔導】■


「虹ってことは……えーとっ」


「最高レベルってことだ。筋肉バカ」


「おお!!って、誰が筋肉バカだっ!!」

 

 隣に立つジンは、同じように銀色のプレートを見ている。


「虹・金・銀・銅の順に、魔導のレベルは設定されているなんて初歩を知らないのは、バカと言えるだろうよ」


「ぐぐぐッ!」


「しかし、この魔導は」

 

 プレートに描かれた模様を見つめるジン。

 それは斬撃のようなものが表現されていて、魔導の性質を表していると思われた。


「見たことないだろう? 新作だ」


「ロビン。新作だって?」

 

 ロビーは何かを知っているようだ。

 ジンに柔和な口調で説明を行う。


「二つの交差する斬撃が描かれたそれは――」


●■▲


■魔導具コーナー■


「へー、立派なモンね。特別魔導具に興味あるってわけじゃないけど、惹かれる」


「本当……! きらきら……!」

 

 壁際に並んだ、剣立てに固定された様々な魔導の剣。

 それらは人目を引く、造形物としての魅力を持っていた。


「【装備型】魔導具の一種……これを作った魔導師は、良い腕ね」


■ジャスミンたちが見ているのは、装備型魔導具■

■装備した者のステータスを強化する性質を持つ、魔導具類■


「技術師……ですカ」


■魔導を用いて【魔導具】を生み出す存在■

■それを技術師という■


「あたしも一つ持ってるけど、これに変えようかしら!」


「わたくし……もう一つくらいなら、装備できるかモ……?」

 

 並べられた魔導具に触れ、その性能を確認している彼女たち。


「うーん、やっぱり剣よねー!」

 

 目を煌めかせるジャスミンは、剣を持った少年のような雰囲気。

 彼女の心の何かに触れるものが、きっとあったのだろう。


「おい、それは売りもんじゃないんだが」


「ひゃあ!?」

 

 いきなり背後から声をかけられ、可愛らしい声を上げるジャスミン。


「びっくりしたわよ!?」


「こっちがびっくりだ。落としそうになってんじゃねぇ」

 

 声をかけたのは、体格の良い、バンダナを頭に着用した中年男性。


「店長のロードだ。この魔導ショップ、【ゼロ・ブレイブ】は開店してないぞ」


「分かってますけど、ついっ。ごめんなさいっ」

 

 反省した様子で剣を戻すジャスミンと、隠れるようにして魔道具を物色しているヒナ。

 ヒナの方を見たロードは、言っても無駄そうだと判断し、しぶしぶスルーすることにした。


「たくっ、お嬢様の知り合いだか何だか知らんが……しかし投資を受けてる手前……」

 

 ぶつぶつ言いながら、魔導具コーナー右のカウンターに戻っていくロードは、仏頂面を不満げに歪めた。


●■▲


■そしてクライスは■


「……」

 

 ちらちらと、サーシャたちの様子を伺う彼。

 正直、不審者感がすごかった。


(今の所は問題なし)

 

 傍から見ると完全変質者!


「そうか。今はその村に」


「は、はい……ィ」


「はは、楽しそうで何よりだ。うんうん」


「は、はいっ。ありがとうございましゅっ」


「ははは。何に対する礼だそれは?」

 

 幼馴染同士の会話は、大したこともなく進行中。

 やたらとサーシャが縮こまって、語彙力がなくなっていることに目をつむれば、それなりに穏やかではあった。


(ユリ科?)

 

 クライス君の心に邪な想いが発生。

 絵面だけなら、とてつもない美少女同士の絡みではあった。

 それほどに安穏な歓談。


「――それで、未だに無能勇士を好きなのかい」

 

 しかし、それはやはり長くは続かない。


「!!」

 

 ゼロの発言に、思い切り目を見開くサーシャ。


「ぜ、ゼロさんっ」


「どうした? 図星を突かれて、ショックか」


「……うぅ。な、なにがッ」 


「昔から言っているだろう。無職の勇士なんてくだらない。と」

 

 何かを言いたそうに顔を歪めるサーシャの姿に、ゼロはにやりと笑う。


「あんな腰抜けを信奉するなんて、なんだ? お前は人間のクズが好きなのか?」

 

 ゼロの言葉は続き、サーシャの事を追い詰めていく。


「正気とは思えないな。なんせアレは――」


■その時、空気が震えた■


「ば、ばかにしないでッ!! く、くださいッ! わ、私の大好きな勇士をッ!! ゆ、ゆるさないでしゅよっ!!」

 

 立ち上がった少女の、怒りが炸裂した。

 今までクライスが聞いたことのないような、サーシャの声がそこにはあった。


(サーシャちゃん——)

 

 それは、店を揺らすのではないかというほどの気迫を持っていた。

 クライス以外の者たちも、何事かとそちらへ目を向ける。

 店長のロードが一番ビビっていた。


「む、無職の勇士様はッ。こ、腰抜けじゃありましぇんッ!!」

 

 震えながらも一生懸命、ゼロの瞳をしっかり見て意思を伝える。

 涙目になって、それでも力強く、認められないと立ち向かう。


「あの人はッ。あの人はッ!!」

 

 声を張り上げるサーシャは、心の底から叫んだ。


「どんな勇士にも負けないッ! 最強の勇士なんだから――ッ!!」


■最強の盾にも怯まずに■

■己の魂をぶつけた■


「――ほう。面白いことを言うな」

 

 心底不愉快そうな顔で、サーシャを睨むゼロ。

 ガタガタ震えるサーシャも、負けじと睨み返す。


■緊迫の雰囲気■


「はははははッ!! 邪魔するぜェッ!!」

 

■それを壊したのは、野太い男の声だった■


「なにッ!?」


「!!」


■爆発音と共に、破壊される店のドア■


「盗賊王!! ガリアン・パワード様!! 参上!!」

 

 巻き起こる粉塵の向こうに立つのは、モヒカンな大男。

 肉体の強さが一目で分かる、鍛えられた強力な戦士。


「ここが噂の魔導ショップかい!! 金目のもん!! 片っ端からもらっていくぜ!!」


■入店してくる、テンプレ的な盗賊団!■

■モヒカン以外に四人以上■


「ひゃはははは!! 蹂躙の時間だァ!!」


「なんだこいつら、どこかでみたことがっ」


「あそこ……! ですわ……!」

 

 ヒナが指差した先には、柱に貼りつけられた数枚の紙。


「手配書……! あのアホ面そっくり……!!」


「思い出したっ。ナゴミノ地区の町を連続襲撃した、盗賊団!!」


「ひゃはは!! その通り!! 名のある【ソルジャー】すらも撃破してきた! 最強の盗賊団!! その名もッ」


「でも最近は、略奪失敗してばかりって聞くわ!」


「無様な負け犬……! 偉そうですわね……!!」


「う、うるせー!! なんか最近、町のガードが固いんだよ! ちくしょう!」


「そうだそうだ!! ガリアンさんをいじめるなー! 結構、繊細なんだぞ!」


■彼らはふざけていると、そうも思えるノリの軽さ■


(一見、ふざけているが)


 緊張感は続く店内で、ジンは目を凝らす。


(こいつらのステータス、【全員】がオレやヒナより上……のようにも見えるッ)


■ジンの見立ては当たっている■


(割とまずいかっ。いや弱気になるなジン! オレは——)




「――【薔薇領域ロ・ズート・ランディッシュ】」


■そう、見立ては当たっていた■

■半分は。だが■


「はっ?」

 

 驚きの声を上げたのはクライス。


(なんだ、これ)

 

■彼の視界を埋め尽くす・赤い薔薇■

■床や壁や天井を侵食する・禍々しい茨■


(悪寒)

 

 クライスが感じたのはそれ。

 なぜか強烈な拒否感を抱いてしまった。

 まるで、それは己の天敵となりうるような。


(あまりに危険な棘)


■薔薇は色を黒に変え■

■奇妙奇天烈な笑い声を発する■


「――は???あっ」

 

 ガリアンの巨体がぐらりと揺れる。


■連鎖するように、子分たちも揺れ■


「今の私は機嫌が悪い――伏せていろ」


■ゼロの言葉に従うように■

■盗賊達は全員、床に倒れ伏した■


「【調整】はした。消滅させてしまうと、ゴミの分別が手間だからな」

 

 事を行った当人は、どこまでも優雅に立ち上がる。

 ゼロはどこか物憂げにため息を一つ。


「しかし、この程度で全滅とは……」


 言葉には、倒れ伏した弱者たちへの嘲りを込めて。


「無知は罪だ――【最強】の勇士は、私より強いぞ? サーシャ」

 

 彼女がサーシャを見る瞳は、明確に敵意を宿していた。


「……」

 

 クライスは初めて見る。かもしれなかった。

 喉元に突きつけられるような、冷たい敗北の気配を。


(ゆらぐ足元)

 

 この世界に来てから、感じることがなかった感覚。


(最強スキル)

 

 それがあるからこそ、彼は常に余裕で、困難を排除できていた。

 乱れにも、落ち着いて対処できていた。


(なのに、この壁は)

 

 己の安定を崩すほどの強敵であると、気配で感じる。

 儀攻戦における最強とはいえ、それは相性・状況によって覆される可能性を秘めたものなのだから。

 クライスは最強であって・無敵ではない。


(戦いたくない)

 

 彼は純粋にそう思った。


(これが、この世界における最強の一角)

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