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雷鳴の走者

「――いやー、すごいね君! 本当に素人!?」


「!」


■爛々と輝く太陽のような声が耳朶に響く■

■これは陽キャの声だ。そう確信させるほどの■


「だれだァ!? おれたちの祝福に割り込もうなんてやつは!?」


「姿を現せ!!」


「いや。別に隠れてないんだけどなー。あはは、面白いね君たち」


 その少女は入り口の前に立っていた。

 美しい光沢を放つ黒の髪は、可愛らしく揺れる三つ編みポニテ。星の形をした髪飾りで、その可愛さを増している。

 目はサングラスによって隠されていた。しかし、その口はにんまりと笑っている。

 少しブカブカに見えるシャツとミニスカを着用した体は、160cmほどで細身ながらもしなやかさと強靭さを感じさせる……ような気がする。少なくとも露出した両足はそれなりに太く、かなりの【速力】を秘めているように思えた。


「ぬぬ!? 待て待て!! こいつは……いやこの方はァッ!?」


「知っているのかカメ朗。この女」


「ばか野郎!! 失礼だぞフジ丸!! ひれ伏せ!! このお方は【星の一角】だ!!」


「な、なにー!??」


 外野がやたらとうるさい。

 一体、あの少女がなんだというのか。

 サーシャちゃんはきょとんとして、見覚えがないようだ。

 

「あはは。そんなにかしこまらなくてもいいよ! 無礼講で問題なし!」


「そうはいかないぜっ。なんせおれは、あんたのグッズも結構持ってるんだ! 今度発売されるタペストリーも買うぜ!」


「おお。そこまでのファンに出会っちゃったか~。これはサインいっちゃうかー? そうするかー?」


「えええ!?? まァじっすかぁあッッ!? いよっしゃああ!!」


 カメ朗が気持ち悪いレベルでハイテンション。ウザさが更に増している……。

 フジ丸もあたふたしているところを見るに、有名人……アイドルとかなのか?

 

「お、おいクライス! お前よくそんな平常心だな! あの【スターライト・ファイター】を目の前にして!」


「スター……なんだって?」


 フジ丸の口から出た、聞き覚えのない専門用語。

 この異世界における重要ななにかであるのは分かるが、さっぱり意味不明。

 

「あのお方は……ジルヴァラの有名選手。【銀の闘技会】における輝ける☆……!!」


「……」


 銀の闘技会……?

 儀攻戦の大会みたいなものなのだろうか。

 その単語に、サーシャちゃんが微妙に反応した気がする。


「前回大会における【準優勝】チーム……!! 【雷鳴の騎兵団】!! 最強の走力を武器に戦う、超速攻型オフェンス集団……!!」


「そのスピードは誰にも止められず……!! 【最強の勇士】がいなければ優勝確実とも言われていたという……!! まじ半端ねぇぜ……!! ごくり……!」


 いきなり解説モブ化した二人はともかく、サーシャちゃんも謎の美少女を驚きの表情で見ている。

 ……まじの有名人か。

 しかし、異世界に来たばかりの俺には関係ない。

 

「……それで。なにか用?」


「おいクライスゥ! 頭が高いぞォ! 控えろォ!」


「あはは。別にいいよぉ~。そんなに大した選手でもないし、フランクにいこうよ。ね?」


「おおお! なんという慈悲! まるで女神!! ま、まぶしいっ。まぶしすぎるー!!」


 なんか、うざいくらい発狂してやがるカメ朗。こいつ絶対俺とそりが合わないな。

 それはそれとして、さすがに人気者はちがうというかなんというか。

 相対するスターなんとかが発するオーラは、とても人懐っこい感じでいて、同時に他者を威圧するようなプレッシャーも持っている。


「……それでさ。いきなり割りこんできて悪いんだけど、あたしと【一勝負】しない?」


「は?」


「な、なんっですとー!?」


 いまなんと言った?

 なんか知らんが、すごい有名なプロ選手らしき美少女が、俺たちに勝負を挑んできたのか?

 そんなスポーツ漫画みたいな展開が……。


「ね! お願い! 今回の利用料金、全部あたしが払うから! ちょっとだけでいいからー!」


「ふふふ。当然OKっすよー!! どんとこい!!」


「おいカメ朗。ふざけるなカメ」


 なにを勝手に承諾してやがる、この二足歩行カメ。

 こっちはさっきの試合だけでクタクタなんだよ。

 さっさとサーシャちゃんをモフモフしていやされたい、めんどうくさい・めんどうくさい&めんどうくさい。


「……っ」


「!」


 そのサーシャちゃんの様子がおかしい。

 すごいウズウズしているというか、なにかを期待しているかのように目を輝かせている。

 まさかこれは……。


(あのプロとの対決を……楽しみにしている?)


 たしかにサーシャちゃんは、この競技を好きな感じありまくりだ。

 それのプロともなれば、尊敬の気持ちはあるだろうし、戦う姿を見たいものかもしれない。

 さっきからちらちらと、スターなんとかの方をうかがっているしな。

 ……そうなると、俺は……。


「……」


「おねがい~。後生だから~。ねえねえ~。君の走りを見せてよー」


「……はぁ」


 ため息をついてしまいながら、一つの決心をする。

 本当にめんどうくさくてイヤなのだが、それ以上にイヤなことがある。

 ならもう、やるしかないか。


「――わかった。勝負受ける」


「!! ……本当!? ちゃんと聞いたからね! やったー! ありがとう!」


「おわっ」


 いきなり両手をつかまれ、ぶんぶんと上下させられる。

 なんか距離感が近いなこの娘っ。

 いかにもな陽キャタイプで苦手かもしれない……。いや、陽キャは逆に距離感の取り方うまいのか? 

 などと考えていたら、背中から二人分の発狂する声が聞こえた。


「うわああ!? 握手してやがるー!! おれたちの天使とー!!」


「オレだって一度もしたことないのに……ッ。ゆるせねェッ!! ぶっ●せ!!」


 うるさいやつらの声は無視して、目の前に立つ女性を見る。

 にこやかな笑顔ではあるが、やはり得体のしれない圧のようなものを感じた。

 この世界におけるトッププレイヤーとの戦い。……つまり、この一試合で分かるかもしれない。


(俺の力が……どこまで異世界で通じるか、が)


●■▲


「――よし位置についたな。試合開始するぞー!」


「おおー!!」


「……」


■試合開始の鐘の音がなり、再びフィールドへ■

■さっきの試合とちがうのは、敵選手の数だ■


「――よーっしッ! どっからでもかかってきてよ!! 新星くん!」


■黒いジャージを着て、髪を後ろでまとめたアスリート系美少女■

■なんだか高そうなスパイク着用をして、ストレッチを行っている■

■彼女の前方には、8体のモンスターがいた■

■つまり、敵フィールドにいるのは合わせて9名■


「……こっちも」


 俺たちの後方には大きな盾を持ったモンスター×6(サーシャちゃんは危険なのでフィールド外)。チームに入れるモンスターは、ある程度タイプを選ぶことが可能だ。

 俺、カメ朗、フジ丸の位置はフィールド中央。そこから少しはなれて立っている、敵モンスター集団。

 敵集団はなかなかの威圧感をはなっているが、それ以上に俺の本能が警鐘を鳴らしていることがあった。


「じゃあよ……一気に突っ込むか! 攻撃あるのみ!」


「まあ待てよカメ朗。ついでに、この競技の説明しないと……だから、【ボール】を使おうぜ!」


「おっ。そうだな。まだまだひよっこのクライスくんに、先輩として教授してあげないとな! AHHHH!」


 すぐに調子にのるカメ野郎が掌から光を発した。

 すると、その手の上にはドッジボールぐらいの大きさはある球体出現。そのボールは、枝分かれした光の線が全体に走っている。

 まるで手品みたいなすごい光景だが、カメ朗のどや顔で台無しだ。


「これが【ワンポイントボール】だ! ゴール周辺の特定の範囲内で一個だけ出せる! このボールをこうやって……よッ!!」


「!」


 いきなりボールを投げるカメ朗。

 投球先は前方の敵ゴール。

 その球速は俺の目から見てもなかなか速く、モンスターたちはわずかに反応が遅れている。

 突きぬける疾風のように一直線、それは敵陣を貫通した。


「おっと。そうはいかないよー♪」


「なッ!?」


 しかし、疾風は一瞬でかき消される。

 モンスターたちの後方に待機する、真打ち・プロ選手によって。

 彼女はさきほどの剛速球を、片手で軽く止めていた。


(あれを……あんなにたやすく……)


 驚愕の気配が味方チーム全体に流れている。

 カメ朗はアホでお調子者だが、さっきの投球は間違いなく称賛してもいいかもなレベルだった。それを軽く止めたのだから当たり前か。

 

「あはは。なかなかいい投球だねー。プロレベルにはあと一歩だけど、充分すごいよカメ朗くん!」

 

「えっ、まじっすかっ。いやぁ~そんなに言われると照れるなぁー!」

 

「照れてる場合かカメ朗! くるぞ!!」


「なぬっ」


 彼女はキャッチしたボールを放り投げ、カメ朗と同様に新たなボールを出現させた。

 そしてそれを、とても軽い動作・されど不思議な重々しさを感じる動きで、俺たちの方へと投げた。


「はやッ!?」


「いやこれはっ!?」


 ボールはフィールドからそれて、左側の壁へと飛んでいく。

 完全に投球ミス。

 速度だけは高いものの、どう見てもゴールには至らない悪手。弘法も筆の誤りというが、まさにコレこそがそうか。

 

「ちょっと気を抜きすぎじゃない? 三人とも」


「えっ?」


 変化は一瞬だった。

 フィールド外にそれたはずの球が軌道を変え、ゴールへと引き寄せられる。

 もともとの球速もあいまって、気づいた時にはすでに手遅れ。俺もふくめて誰も止められない。

 大きな弧を描いたボールが、ゴールへと叩きこまれた。

 さっきゴールした時よりは弱いが、赤と青の光が発生する。


「これで一点だよ。クライスくん♪ 三点……つまり三回ボールをそっち側のゴール……【終点】に入れればゲームセットなんだー。走ってゴールするのと同じようにね!」


「……なるほど」


「そうそう! せっかくだしルールを教えながら戦うね! かわいい後輩くん……かかってきなさい! ふんっ!」


 やたらと自信満々に胸を張る少女。

 天然なのか? サーシャちゃんとはちがうベクトルの。

 だが、感じる威圧感はあの海賊たちの比ではない。

 例えるなら、RPGの序盤でラスボスがでてきたような……理不尽な感覚。


(はあ。めんどくさい)


 やはり強敵を前にしてもめんどうだ。

 いや強敵だからこそなのか。

 スポーツ漫画みたいに、闘志が燃えあがるなんてことは1ミリもない。


「な、なんてこったい!?」


「なんだ今のは……っ。いやまて見覚えあるぞ……!!」


「……」


 驚愕する面々をよそに、当の本人はマイペースに笑っている。

 まるで今のプレイを大したこととは思っていないと、その態度は示していた。

 

「なあ、あの人ってランナーなんだよな?」


「あ、ああっ。そうだ……! 投手としての活躍は聞いたことがない……!」


 敵女選手のことを、フジ丸に対して問う。

 返答した彼に反応するように、カメ朗がひとりごとの如く口を開いた。


「ちがう……彼女はそうじゃない……。どちらも可能なプレイヤーなんだっ。それこそがあの――!!」


■まだ驚いたままの俺たちに、追い打ちをかけるように■

■未知の怪物が動き出す■


「世界トップクラスのランナー!! 【雷神】のエレジーだ!! かわいいけど実力はまちがいなく……怪物だ!!」

 

■カメ朗が敵の名を口にした瞬間■

■その怪物は無邪気に笑い、駆動する■


「なんとか盾でふせぐ!! あとはまかせたぞクライス!」


「うおおお!」


 カメ朗とフジ丸。

 二人のブロッカーコンビが、少しはなれた前方で盾をかまえる。

 こいつらは態度こそふざけているが、実力はかなりのものと思えた。すくなくとも、この競技における技術という点では俺以上だろう。

 もし敵だったら、手を抜いて走ればなかなかてこずるレベルだ。


「――あっは」

 

「!?」


 そんな二人のブロックが、一瞬で粉砕される。ふきとばされた二枚の盾は視界から消えた。

 圧倒的だった、あまりにも。

 世界が軋みを上げているような、暴力的な力の発露。

 それを行ったのは、敵陣から切りこんできた超速のランナー。雷神のエレジー。

 彼女の走りはどう見ても【異質】だった。


(地面からほとばしる――雷光。荒れくるう・獣のごとく)


 絶大・強烈・隔絶。

 電撃をまといながら走るという、非現実的な光景。

 この走力を表す言葉はどれも強いものばかり・見ただけで畏怖の念を抱く、神話の怪物のような存在感。


「あはははは!! いくよいくよ!! 根性ッ!! みせてねーッ!!」


 あかるい笑みとは対照的な、敵を粉砕するような進軍。

 視界に広がる雷光が、急速にその距離を縮めていく。

 

「させるか」


 全力ではないが俺も走りだす。

 ここで止めないとゴールされてしまう。ならば面倒だが俺がやるしかない。

 ……本当にめんどうくさいな。


「あっはは! なにその顔! やる気ないねー!!」


「……」


「止めてみなよ!! できるならね!!」


 敵が向かってくる。

 本当に速い、間近でみると余計にそう感じる。

 だがまあ。


(―――俺のほうが速い)


 己の中にうずまく、まだ形になっていない力。

 それを体中にめぐらせながら、走りだした。


「えっ!? うそッ!!?」


 一気に距離をつめる・相手はうまく反応できていない。

 勢いそのままに右腕をのばし、雷光をまといし走りを止めにかかる。

 完全にとらえた。


「ッ!」


 しかし、とらえたはずの右手が空ぶる。

 完全なタイミングだったのに、逃した。


「ふー。あぶなかった!! すごいね! きみ!!」


 後退していくエレジーの動き。それはやはり俺よりも遅い。

 なのに逃した理由は、右腕に走った強烈なしびれだ。


(あの電撃、やっかいだな)


 すこし触れただけでこちらの動きがにぶった。

 そのため、スピードで勝るはずの獲物をしとめ損なった。

 さっきの、二人のブロッカーをふきとばした威力をみるに、あれで突進するだけでどんなブロックも崩されるというわけか。

 

「……」


「あはは! 電撃ふれても、もちこたえるなんて! すごい! それじゃあこっちは……こう!! NEXT!!」


 自陣まで後退したエレジーが、さきほどのようにボールを出現させる。ある程度ゴールからはなれないと、ボールをあんな風に出すことはできないらしい。

 またゴールまでの距離は空いた。

 しかし、敵にはそれを問題にしない技がある。


「GO!! いっけー!!」


「!!」


 体をひねって、勢いよくはなたれたボール・超速の球体。

 さっきの得点が想起される。

 またあんな一球を投げられたら、止める自信はあんまりない。


「まあ、止めるけど」


「!?」


 ゴールに向けてはなたれたストレートを、それなりに本気で走ってキャッチする。

 普通に止められた。

 なぜなら、さっきよりも。


「のろいな。いまの球」


「あはっ。言ってくれるね~。でも正解♪ はじめのやつはマグレでゴールしたようなもので、何回も投げれないよアレ。……まあ、プロの世界には【例外】もいるけどね」


「そうか」

 

 プロの世界とかどうでもいい。

 さっさとこの試合を終わらせたい。

 ただただ・めんどうくさい。


「ぐ、ぐはぁ!! いまのはやばかったー!!」


「お、カメ朗。起きたか」


「起きたわ! くっっそ、ビリビリしたがな!! ……さすがは女神エレジーちゃんだぜー!! うひょー!! テンションあがってきたー!!」


「……」


 お調子者だとは思っていたが、ここまでとは。

 内心引きながらも、エレジーから奪ったボールをカメ朗に投げた。

 ゴールを中心とした一定範囲のエリア……【ポイントエリア】というらしいその場所で、出現させることができるボールはひとつまで。

 カメ朗がボールを奪われないかぎり、もうさっきの投球は不可だ。


「あーあ、まいったねー。思った以上に強いなぁ君! 感心感心!」


「……」


「で、こっちの攻撃を防いだってことは……次は?」


「ああ」


 瞬時に動き・加速。

 彼女のお望みどおりに攻勢に打って出る。

 走り出した両足はそれなりに好調で、さきほどよりも速い。

 これならば、あの雷神のごとき走りにも対抗できるかもしれない。


「甘いよ。だめだめ」


「!」


 しかし、走行ルートを的確にふさがれた。

 視界をふさぐ雷光の檻。

 それに少し触れるだけで伝わってくるしびれが、警報を発している。

 はやく退却しなければ、この雷撃の渦にのまれると。


「っ」


「――つかまえた♪」


■後退する前に、タックルをくらってしまう■

■しっかりと両腕で組みつかれ、動きを制限された■


(まずい。電撃がっ)


 ほとばしる電撃が体力をうばっていく。

 エレジーの力は強く、全力に近い力を出さなければ振りほどけない。

 なので俺は。


「【変換】」


 ほぼ無意識にその言葉を発した。

 その瞬間に視界が切り替わり、さっきまであった雷光の渦が遠くに見える。


「ありゃりゃ。逃したかぁー。ざんねん」


「……」


「はじめて使ったのかな。その魔導。どうどう? なんだか不思議な気分でしょう?」

 

 エレジーと俺の位置は、一瞬でそれなりの距離が開いた。

 まるでテレポートでも使ったかのようで、彼女の両腕による拘束も今はない。

 これが【魔導】ってやつか。


【この試合限定で使える魔導があるんです! 敵との距離を離したい時にどうぞ!!】


 異世界お決まりの超常的な能力……ってことだな。

 儀攻戦でしか使えないらしいが、仕切り直したい時に便利だ。これ。

 

「……ま、一筋縄ではいかないか」


■めんどうくさい■

■そう思いながら、ふたたび走りだす■


●■▲


「あわわ……なんてすごい……!! これがクライスさまと雷神さまの、プロレベルの試合……!!」


 クライスたちの試合を、広い魔導場の端で見ているサーシャ。その顔はハラハラしながらも、どこか楽しげである。

 そんな彼女は、敵選手のことも注目していた。


「雷神さまの走りはやはり、スピード&クラッシュ。並のブロックを簡単にはじき飛ばす、問答無用のパワー……!! 彼女を止める術は……防衛モンスターでは無茶ですね……! となると……」


 ぶつぶつとつぶやき始めるサーシャ。

 その手にはいつの間にか手帳。ボールペンを超速で動かして、なにかを記録していく。

 すごい集中力を発揮しているようだ。


「あの~。すこしよろしいでしょうか……すいません。はい」


「ひゃああ!?」

 

 なので、彼女はいきなり話しかけられたことによってびっくり仰天。

 そのままひっくり返りそうになったため、背後にいた人物に支えられた。


「あ、あっ、す、すいませんッ。びっくりさせちゃって! わわわ!」


「いえいえっ。こちらこそ大げさにっ。すいませんっ」


 サーシャを抱きかかえるようにして支えているのは、キャップ帽とサングラスを着用した女性。

 長い黒髪をポニテにしていて、反射光で輝くそれは宝石とも見紛う美しさ。

 顔が隠れていても分かる美少女オーラが漂っている。


「……」


「……」


 しかし、陰キャ同士の無言状態になってしまった。

 なにか話がある風だったが、まるで進展しない気まずい空気。


「あ、あのー。そのですね……勝手に入ってきてすみませんが、お聞きしたいことが……」


「……あ、ああーッッ!??」


「なにっ!?」


 いきなり大声を上げるサーシャに、びくりと体を震わせる謎の少女。

 そんな反応すらも意に介さず、サーシャは勢いよく言葉を発する。


「あ、あなたはもしかして……!! あの……!!」


「……」


「――スターライト・ファイターの一人……!!」


「……ばれてしまいましたか。変装下手でしたかね?」


 さっきまでのオドオドした態度が消え、一瞬で謎の少女は強い圧を発する。

 それは、現在戦っているエレジーにも似たものだ。

 全身からみなぎる活力が、彼女がすぐれたアスリートであると言外に語っている。


「……私は雷鳴の騎兵団のランナー、【ポーラ】といいます。つまり……いま戦っている彼女とチームメイト……ですね。はい」


■ポーラと名乗った少女■

■その金色にかがやく瞳が、すべてを飲みこむ流星のよう■

■サーシャはそう感じた■

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