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盗賊の気配!?

「ここがスローラ村か……」

 

■狩人はその目を光らせ、村を観察する■


「フフ……」


■乱れは・すぐそこまで来ていた■


●■▲


■ある日の・昼■


 窓からの陽射しはクライスの顔に当たり、自堕落な様子を照らし出す。


「はー、今日も一日ごろごろするんやー」

 

 自室床で転がり中の彼は、ほこりをまき散らしながら自堕落ライフを送っていた。

 よれよれのTシャツが、なんとも陰気な雰囲気。


「掃除するかなー。いや、面倒だー」

 

 面倒くさがりの男が小まめに掃除などする訳もなく、部屋の中は着実に混沌が侵食している。


「ああああ」

 

 その怠惰オーラたるや、他者まで巻き込んでしまうような歪さを持つ。


「世界よ。怠惰に染まれ~」

 

 もはや一切の情熱が失せた瞳は、気力最低値更新である。


「だりー、ぜー」


「なんという……負の感情……。社会のゴミ……でス?」


「どこから入ってきた」


 いつの間にやらクライスの部屋に出現したヒナが、彼のベッドに寝ていた。

 彼女は悪気もなく枕に顔を埋め、勇士分を摂取している。

 もしやとは思っていたが、彼女はとてつもない危険人物であると確信強まるクライスくん。


「普通に窓から入ってきましたが……。はぁ……はぁ……フヒヒ……たまりません……!」


「何か文句でも? みたいな顔やめや。普通じゃないからね」


「部屋でローリングかましてるアナタが……言いますか……? はぁはぁ……勇士さまの香り……あぁう」


「こわいんだけど。息荒いんだけどっ」

 

 ジト目でクライスを見るヒナ。その頬は興奮で赤くなっている。

 こんな変態と一緒にされたくはないと、彼はジト目を返した。


「……わかってないな。これは掃除。回ってるのに理由あり」


「ほうほう……斬新……」


「信じてないな」


「……エスパー?」

 

 コントのようなやり取りは、わりと自然に広がっている。


「だらしのない……情熱はないのです……?」


「なにそれ? くえる?」


「……」

 

 死んだ目で自分を見るクライスに、ある種の感心を抱くヒナ。

 開き直りだけは立派だと素直に思った。


「……それで……話があるん」


「却下だ」


「え……」

 

 ヒナが何らかの話を切り出そうとした瞬間に、それを切って捨てるナマケモノはにごった眼で天井を見遣る。

 それに対し、ヒナはわざとらしく瞳をうるうるさせていく。


「まーた、なにか手伝ってー的なやつだろー」


「ぎくりです……」


「そんなに俺のこと見定めたいのかー。ほんとによー」

 

 床に体を反転させて、クライスはだらだらと話し続けた。


「俺はただの無職だよー。だりー」


「無職の勇士……!?」


「勇士フィルターでもかかってんのか? お前の耳」

 

「そんなことよりトランプでもやろうぜー。ひまだー、いいことだけどー」


「……やりましょう! ……いくら賭けます……?」


「博打好きだなー。お前ー」


「金は有り余っているでしょう……? むしり取ってあげますよ……生活費もほしいですし……」


「まだダンボールだもんなー。サーシャちゃんは部屋使っていいって言ってるー」


「ライバルにそこまでお世話になるわけには……」

 

 ベッドに顔を埋めながら、ヒナは言う。

 変なところで意地をはる彼女に、クライスはそんなことよりベッドから離れろと言いたい。


「ライバルね」


【無職の勇士伝説! クイズ大会! 開催!】


「……」

 

 いつかの日常風景。

 サーシャとヒナは、時々火花がすごいことになる。

 正直、ちょっと気恥ずかしいところもあるクライスなのだった。


「なあ、無職の勇士って評判悪いんだろう」


「? ……そうですネ」


「最低評価の勇士って聞くぞー」


「ええ……ですが……」

 

 ヒナはクライスの言葉を遮るようにいう。


「わたくしの住む場所では……無駄に崇められていました……!」


「無駄にってっ」


【無職の勇士ばんざーい!!】


【怠惰の王!! ばんざーい!!】


【無職!! 無職!! 無職!!】


「けなしてんのかな?」


「崇めてますよ……」

 

 微妙な気持ちになりながら、クライスは近くにあるお菓子の箱を手繰り寄せた。


「ありゃ、もうないな」

 

 中はからっぽ。


「……そんな場所あるなら、行ってみたい」


「行きますか……? 遠いですけど……。二人きりで旅行……フヒヒ」


「うーむ」

 

 お悩み中のクライス。

 ヒナと二人で旅行は、色々な意味で危ない気がしている。家の中ですら身の危険があるというのに。

 とりあえずは保留することにした。


「そうだ。トランプ」


「ああ……でも……」

 

 ヒナはベッド上から部屋を見渡し。


「このゴミ山……から……?」


「ひでーな」


「どっちの意味……ですか……?」

 

 彼らがいるそこは、かなりの廃棄場と化していた。

 散乱した漫画やお菓子の袋、脱ぎ捨てられた衣服……。

 などなど。

 ジャスミンが見たら、吹っ飛ばされそうなありさまだ。


「すさまじい……恐怖です……!」


「最近、片付けてなかったからなー」

 

 色んな匂いが混ざり合って、絶妙な不健康さを演出している。


「うう……なんという拷問……! 何時間かかるやら……!!」


「拷問」


 涙目のヒナと面倒くさそうなクライス。

 それでも、クライス達はトランプの捜索を開始する。


「ごそごそ」


「ごそごそ」

 

 現在、捜索中。(クライスは寝転がりながら捜索)。


「あ……お札発見」


「おい、しまうな」


「けち……」

 

 いろいろな物が埋もれているので、ヒナは少し楽しくなってきた。

 もしかしたら、勇士さまの貴重なアイテムGETできるやもと。


「おっと……これは……」


「!」


「ふふふ……」

 

 彼女が手に取ったのは、アニメキャラが表紙に描かれた薄い本。


「よせっ」


「男の子……ですネ! ほほう……」

 

 中身を確認したヒナは、頬を赤らめている。

 クライスはめちゃくちゃ焦り、その本を奪おうとする。

 しかし、この期に及んでもまだ、彼は怠惰の姿勢を崩さない。ので、ヒナを捉えることができない。


「こういうこと……したいんですか……? フふ……!」


「それカメ朗のだもん。俺のじゃないもん」

 

 あっさりと友人を裏切るクライス。

 奪えないのなら、なすりつけてしまおう。


「非道……外道……。そんなクライスさんには……制裁が必要……かもしれません……!」


「サーシャちゃんには言わないでっ」

 

 必死に隠そうとする、無職の勇士のちっぽけなプライド。

 すでにクライスに対してそういう目を向けていることに、彼は気付かない。


「どうしましょうか……! もだえるクライスさんも……それはそれで……!!」


「なにを興奮してんのっ」


■ヒナの変態性を甘く見ていた■

■クライス猛省!■


●■▲


「そういえば……あの噂知ってますか……」


「噂?」

 

 捜索開始十分。

 まだトランプ発見できず。


「盗賊ですヨ……盗賊被害……」


「盗賊ねー。それが?」


「近くの町で、何人か被害に遭ったとか……」


「【ソルジャー】は?」


■ソルジャーとは、就職者として島の治安を守るモノであるが■


「撃破されたようでス……」


「まじか。就職者の盗賊ってわけ」


「でしょう……」

 

 少しクライスの顔に緊張が戻った。

 ソルジャーは当然弱くはなく、そのトップクラスの実力はクライスにも匹敵するだろう。

 島の各地に、拠点部隊長と呼ばれる役職の者が常在しているが、かなりの実力者であることは彼も知っている。


「……」


「もしかしたら村に……なんて……考えすぎ……?」


「やれやれ」

 

 頭をかき、彼は乱れの気配にうんざり。

 そんなやつらが村に来たら、対処するの面倒だと。

 自分ひとりだけならともかく、敵が大勢ならばおそらく――。


(しかし今の村には)

 

 なかなかの猛者がそろっている。


●■▲


■コンビニアルバイト!! 熱血野郎!!■


「いらっしゃいませえええええええ!!」

 

 暑苦しい接客で有名な就職者・ゴウト!!

 今日も元気にレジ打ちするぜ!!


「お釣りはこちらになりまあああああす!!」

 

 お釣りを渡す際、がっしりと両手で握ってくる!!

好意的:【ふふ、力強いですね】

否定的:【セクハラ……】


絶対に許さない:【しねえええええ!! 変態があああああ!!】


「ごおふっ、またのご来店を……がくっ」

 

 吐血しながらでも接客はこなすぜ!!

 ジャスミンの拳はめちゃくちゃヘビーだが、根性で耐えたぜ!!


「困ったなぁ」


「お客様!! 何かお困りですか!!」


「うわぁ!? びっくりした!?」

 

 店内に困ったお客様がいれば、一秒かからず飛んでくる!!


「ふん!! ふん!! ふん!!」

 

 少し雑だが、仕事は一生懸命こなすぜ!!

 商品を置く陳列棚を間違えて、店長に怒られたけどまったく気にしないぜ!

 一つや二つじゃなく、棚に置く商品まるごと間違えたけど気にすんな!!


「いやそこは気にしろよ」


■ある日、ナマケモノが来店したぜ!!■


「なに!? オレが村に来た理由!?」

 

 聞いてみたのは気まぐれクライス。


「はははは!! 決まっている!! お前だよお前!!」


「やっぱり」


「お前のような滾るマッスル!! オレのライバルに相応しい!!」

 

ライバル認定されてしまったクライスは、しぶい顔でコンビニを出た。

たびたび勝負を挑まれたりもするし、もうすでに面倒な気配がある。


(なんてこったい)

 

■……■


●■▲


■ある日の、昼下がり■


「おー、どうした? しけた面して歩いて」


「サメ男さん」


 サーシャ宅を出たクライスは左の道を行き、途中でサメ男と出会った。

 変わらず威圧感を感じる体格の持ち主で、少しだけゆっくりと距離を取るクライス。

 なにやら心に刻まれたトラウマがあるようだ。


「いや。散歩」


「散歩なー。こんな青空なんだ。元気だしなー」


「今は難しいかな」

 

 クライスの頭は、盗賊のことを考えていた。

 ヒナから聞いた話が、なぜか妙に引っかかっているのだ。


(就職者ですら倒してしまう盗賊か)


 自分が負けるとは思えないが、警戒はある程度しておくべきかと思う。

 そのための準備も……面倒くさいが一応しておいた。

 まあ。考えすぎになる可能性の方が高いのだが。


「ところで傷だらけだけど」


「あー、この丸太を運ぶ途中でモンスターに襲われてなー」


「撃退したと」


「そうなるなー、はは、拳がすりむけてしまったー」

 

 笑いながら、大きな丸太(十五メートル以上)を軽々と担ぐサメ男。

 彼はそのまま何処ともなく、去っていった。

 あの人、昔モンスターを狩る仕事でもやってたのかな?とか、真面目に思ったクライスさん。


(そういや)


■サメ男さんも昔、儀攻戦の選手だったと■

■そんな話を思い出した■


●■▲


■集会所・前■


「フフフ……この研究が上手く行けば! 村に変革が起こりますよぉ!」


「……」


「このスーツが完成し、そしていずれは世界支配も可能に……!」

 

 マッドな笑みを浮かべるのは、整った黒髪を生やした眼鏡男・ジャック。

 背後のクライスの存在にも気づかず、自身の世界に入ったままである。


「おっと聞かれてしまいましたか……。まあ、いずれ分かりますよ。いずれね」

 

 黒幕のような言葉を残して、ジャックは去る。

 なんか毎回同じようなこと言ってるような、そうでもないような、奇妙な感覚を与えてくる。


(この時の俺は、まさかあんなことになるなんて思わなかったんだ)

 

 とか思ってしまいそうなクライス。

 まあ、そもそも彼の頼みごとが関連しているのだが。

 なんにせよ、かなり頼もしいマッド野郎だとは彼も思っていた。


「……案外、大丈夫かも」


●■▲


■村の外・南西■


「野郎ども準備はいいな!!」


「へへへ! 当然ですぜ!」


「いつでも!」

 

 茂みの中に潜む者達は、物騒な得物を光らせている。


「あの村を襲い……! 金品を奪う!」


「食料を奪う!」


「そして良い女がいたら……へへ!」

 

 邪悪な笑みを浮かべる彼等は、恐ろしき企てを実行に移す。


「「「プロポーズする!!」」」


「めっちゃ可愛い娘いたらどうしよう!」


「顔赤くなるー!」


「やっべ、今から緊張してきた!」


「お、おれの身だしなみどうかな!?」

 

 あたふたと準備を進める者達。


「お前ら落ち着け! わ、我らに敗北はない!」


■予定時刻より・襲撃10分遅れ■

■盗賊たちとの戦いが始まる!?■

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