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異世界競技体験!

「なるほどなるほど」


 サーシャちゃんに案内されながら、この世界……いや島の文明レベルはだいたいつかめた。

 どうやら現代とそこまで遜色のないLEVELのようで、ふつうにテレビもあるある。

 そこは安心した。


■そうして俺たちは、ある場所へと向かっている■

■服は途中で着替え、白Tシャツ姿に■


「ここ」


「ここです!!」


■サーシャちゃんと共に訪れた場所は、中央区■

■その一角にある、見るからに近代的で大きな建物であった■

■形状は丸く、薄い灰色の外観■


「なんて名前」


「儀攻戦体験センターです!! 村の人気施設のひとつですよ!」


「まんまっ」


 そんなこと言われても意味わからん。儀式場とか言うなにか大切な場所を勝ち取るために行う競技らしいが……。

正面の自動ドアに近付くと、中にそれなりの人がいるのが見えた。

 本当にわりと流行っているのだろうか。その、異世界競技とやらは。

 ぶっちゃけスポーツはそんな好きではないんだよな。

 

「いらっしゃいませー」


 自動ドアを二つ通り抜け、受付らしきモノがある空間に出ると、ミニスカ制服を着た女性に声を掛けられた。

美人さん、赤いポニテ、巨乳……ありだな。はちきれんばかりにパツパツの制服がこうッ。オタク心をくすぐるというかね。


「初めての方ですよね? それに……」


「はい! こんにちは! リリさん!」


「こんにちはサーシャ様。今回は、ジャスミン様は一緒ではないのですね」

「うん。ジャスミンは町の方に【新刊】を買いにいったよ」


「本を……ですか?」


「うん。普通の書店じゃ売ってない本なんだーって言ってた」


 どうやら知り合いらしい二人……よく見ると、リリちゃんのスカート下から細長い尻尾がッ。

 この娘も獣系美少女かッ。どんどんカモンッ。

 

「……それではまず、当施設を利用する為に必要な、【プレイヤーライセンス】発行のご案内を——―」


■ロビーに設置された机で記入作業などを行い■

■休憩用の椅子に座って、待機状態■


「ほーう」


■手渡されたそれは、きらきらと輝く一枚のカード■


(大きさはクレカ程度)


 刻印された斧のエンブレム(蛇が巻き付き、銀色に輝く)が、すこしカッコいい。

 レアカード感があるな。むふふ。

 カードゲームにはあんまり詳しくないが、こういうのは少年心的なのをくすぐられる。


「では、【疑似・儀式場】に行きましょうか。クライス様」


「行きましょう! むふふ! きっと楽しめるはずです! なんとなく!」


■リリちゃんに案内され、建物の奥へ■

■そこには、並んだ大きな扉があった■


「今回は初回サービスで無料です。お好きな扉を選んでください」


「……」

 

 扉に描かれた模様は、森・海・山などなど……色々あるが、さてどれにしようか。

 リリちゃんの話では、それぞれに特色があるという。


(ひとつだけ、模様がない扉が)


 なんだこの扉?

 逆に気になるからこれしようかな。正直めんどいし、早く済まそう。


■両開きの扉を押して、その先の空間へと足を進める■


「?」

 

 そこに広がるのはただの部屋。何の変哲も感じられない、四角い部屋。

 の筈なのだが、ぐにゃりと空間が歪んだような気がして――。


「……おおっ」


 見渡すその場は、さっきの五倍は広い部屋。

 天井は消えて薄暗い空が広がり、一気に肌寒い環境。

 説明は受けたが、実際に見てみるとやはり違うもんだ。まさしく魔法のような空間。

 これが【魔導場】というやつなのか。


「そして」


「はい。奥に見えますのが、【疑似・儀式場】でございます」


 リリちゃんの右手が指し示すのは、二つの小さな像が横に間隔を空けて置かれた地点。

 なるほど、あそこがサッカーやラグビーで言うゴールか。


「それでは、良い試合を期待しております」


■後方で扉の閉まる音■

■この場に残ったのは、俺とサーシャちゃんのみ■


「えーっと、ルールは」


「おさらいしますか? クライス様!」


「一応」


■サーシャちゃんの簡易説明■


「まず、勝利条件は基本的に2つ」


■それを聞いてから、部屋の奥へと進む■


「……」


■すると、前方に三つの影が出現■


「敵か・あれが」


【一つ目の勝利条件は、敵選手……守護者と呼ばれます……を全て撃破すること。ちなみに、攻める側であるクライス様は侵攻者と呼ばれます!】


【本来は対人戦でもっと大勢になるんですけど、此処では防衛モンスター数体が相手をします!】


 出現した三体の敵は、透き通る体を持った人型。身長は俺と同じくらいか……?

 まあ、さっさと済ませてしまおう。面倒だ。


「よっこいしょ」


 余裕の体勢で歩いていく俺。

 正直、なんでか知らないが負ける気はしない。


(なんだろうな。この感じ)


 あふれ出るパワーを感じる。

 迸るエネルギーは、やつらを瞬殺できるだろうと思われる。

 この万能感。俺は一体どうしてしまったんだ。


「軽く蹴散らすぜ」


■やわらかい土を踏みしめ■

■力強く、防衛モンスターの間合いへと踏み込んだ■


「はやッ――ぶッ!?」


■なんだ?■

■視界がぐるぐるぐるぐる■


「ぐるッ」


「クライス様ーッ!?」


●■▲


「……」


 倒れ伏したマサルの体はピクリとも動かない。

 防衛モンスターのパンチ一発を顔面直行コースで、意識喪失残念賞。


(あー、仕事行きたくねー)


 己の力を開放しようとした彼だが、見事に失敗して今に至る。

 完全に脳内世界に落下し、帰還は不可能と思われる。


■サーシャはあわわと動揺し■

■マサルは立ち上がれない■


■はずだった■


「――」


「え?」


■ゆらりと起き上がる体■

■彼は無意識の内に、活動を再開する■


(絶対休息領域【フットーン】はいずこに)


【もう一つの勝利条件は、疑似・儀式場に辿り着くこと】


【なるほど。野球でいうホームイン】


【疑似・儀式場……つまりゴールは、終点とも呼ばれるぐらい重要です。辿り着いたら問答無用で勝敗が決します!】


 きょろきょろと辺りを見回すような動作を見せ、ある一点にマサルの視線は注がれる。

 その間にも、防衛モンスター三体が攻撃を仕掛け――。


(社長、課長、部長がブロックを行っていやがる)


 その光景を完全に捉えながら、マサルは力を一気に開放した。

■――速力――3000■

 同時に、防衛モンスターの方へ走り出す。


(速く――もっと速く――)


 先頭のモンスターが右の拳を突き出した。

■屈んで回避■

その後ろのモンスターは下段蹴りを放った。

■小さく跳んで回避■

 最後尾のモンスターは。

■既にマサルの姿を見失っている■


(戦いは面倒――走り抜けろ――安息の地まで――!)


■全てを置き去りにした走りは■

■床を砕き、轟音を響かせ■

■安息の地・ゴールへと到達した■


「す、すごいッ」


 ゴールしたことでまき散らされる赤・青の光を見た後、サーシャは己の敬愛する者をキラキラした瞳で見る。

 いままで見てきた選手の中でもトップクラスの、鋭すぎる走りが網膜に焼きついた。


「すごいですッ。クライス様!!」


■晴れた空の光が、ゴール内で寝っ転がる勝者を照らす■


●■▲


「……と、ここまでが【スタンダート】のルールですね!」


「なぬ。まさか他にも種類が」


「はい。今のは守護者と侵攻者の戦いで、次にやる【ダブル】は両方が入り乱れての戦いです!」


「ほう」


■さきほどと同じようなフィールドで、俺とサーシャちゃんは並んで立つ■

■さっきとの違いは、俺たちの前方だけではなく背後にもゴールが存在することだ■

■さらに敵の数もさっきの三倍になっている■


「サッカーみたいだな。このゴール配置」


「はい! 今回のルールでは点の取り合いになります。……基本的にはもっとゴールの数が多いんですけど、最初は二つでシンプルにやりましょう!」


「ああ。分かりやすいと助かる(めんどうだし)」


 なんか、サーシャちゃんの勢いに押されて柄にもなく走ってるけど、なんで俺はわざわざこんなことをやってるんだ?

 汗水流して頑張れ青春……的なの、絶対に苦手とするノーサンキュー項目のはずなのにな。

 サーシャちゃんが楽しそうに勧めるから?

 それとも他に――。


「――おいおい。しけた面してんなァ。兄ちゃん!」


「!?」


「せっかくの儀攻戦なんだ! 楽しくやろうぜ!」


「……だれ?」


 いきなり背後から現れた金髪の男が、なれなれしく肩を組んできた。

 にこやかスマイルで、いかにも体育会系ですと主張するようなガタイの良さ。どうやら特別な種族とかではないようだが。

 俺の苦手な人種の気配を放ってやがる……っ。


「へへ、そんな緊張すんなって! オレはお前さんの【先輩】だ!!」


「いや。いきなりそんなこと言われても」


「おいおーい。悲しいぜブラザー! ノリが悪いぞ! これから楽しい試合だってのによ!」


「いきなり言われても」


 めちゃくちゃフレンドリーな男。

 サーシャちゃんの笑顔を見るに顔見知りのようだが、一体だれなんだ怖いぞっ。

 しかも、さらに困ったことに。


「おうおうおう!! おれを忘れてもらっちゃっあ困るな!!」


「またか」


「そんなしけた面すんなよ! 超特急で援軍にきてやった、超頼りになる最強ランナー!! カメ朗様がいるんだからなァ!!」


「……」


 めちゃくちゃ調子に乗ってる二足歩行のカメ……のような種族のやつが、親指を立てながら登場した。

 なんだこいつウザい。

 絶対友達になれそうにないやつだ……。

 

「フジ丸さん! カメ朗さん! 来てくれたんですね! ありがとうございます!!」


「へへ。なあに、愛しのサーシャたんの頼みならいつでも……!」


「あったりまえよ!! かわいいハニーの願いなら! 叶えてみせよう男なら!!」


「!!」


 こいつら……!! 

 サーシャちゃんに色目を使ってやがる……!!

 まさかまさかのライバル登場ってやつ? 消すか? 処すか?


「なんだ? 妙にギラついた視線を向けてきやがるじゃないの。……そうかよ、意外とスポーツマン気質ってことか! 気が合うね! ブラザー!!」


「……」


「ははは! 緊張すんない!! どんと任せておけ!! この未来のスーパースターにな!!」


 フジ丸とかいう暑苦しい野郎が、俺の背中をバンバンと叩きまくるフザケンナ。

 サーシャちゃんは渡さんぞ。

彼女は俺のオアシス、希望、癒し……様々な要素を備えた最強ヒロインなんだよこらァ。


「そうだぜ。えーっと……クライシス君! おれたちがいるんだから何も心配はない! HAHAHA!! まあ、あまりレベルが違うからって落ち込むことはないよ!」


「そうか」


「そうそう! HAHAHA!! おれたちは仲間だ!!」


 このカメ野郎、仲間の名前を間違えるなよオイィ。

 完全にマウントをとるような言動で、いちいち地味にこちらをイラつかせるな。

 こういうやつ元の世界にもいた。

 人のパーソナルスペースにずかずかと入ってきて、なれなれしさMAX迷惑。


「さあはじめようぜ!! おれたちの試合を!! パーティ開始だ!!」


「……」


■勢いについていけないまま■

■試合開始を告げる鐘の音が頭にひびく■


「今回は、実際の試合に近い形式で始めてみましょう!」


「ほう」


「フィールド中央部の両端に二つの柱がありますよね? 赤と青の」


「あるな」


「それが敵・味方のスタート地点を区切る目印です。柱の手前がクライス様たちのフィールドで、奥が敵選手のフィールド……試合開始したら、自分たちのフィールドに入ってください」


「どこから?」


「自分たちのゴール……終点の後ろ側から入ることになります!」


「ほほう」


■フィールドに入る俺たち■

■防衛モンスターたちも同様に入り、二試合目が進んでいく■


●■▲


「――敵は9体。さすがにこれじゃあ、さっきみたいに走り抜けるのは不可能! だ!!」


「ああ」


「ふふ、まあ実際にプレイしてみようじゃあないか! クライシス君」


「ああ」

 

 フィールドの中心に立つ俺とサーシャちゃん+余計なの二人。

 ぶっちゃけ、お前らいらんと言いたい気分ではある。しかし、サーシャちゃんが呼んでくれた助っ人らしいので、そんなことは言えないな……。

 

「まあ、さっさと終わらせる」


■儀攻戦の参加人数は、フィールドの広さなどによって違うらしい(両チームの人数を同数にするのが基本ルール)■

■今のはサッカーフィールドの二倍以上ある広さで、試合時間は210分と聞いた■


「……」


■俺は体の中に感じるエネルギーを爆発させ■

■さっきサーシャちゃんに見せた(意識はないが)走りを展開した■


(感じる――最速の鼓動を)


 両足は加速し、心臓は高鳴り、俺は前方の敵選手たちを見据える。

 今の俺なら抜き去れる。

 そう確信し、勢いそのままに敵陣へと突っ込んだ。


「!?」


 右腕から血が飛び散った。

 いや、飛び散ったのは血ではなく、ゲームのダメージエフェクトのように【作り物】じみた赤いなにかだ。

 直感的に、これがこの異世界におけるダメージ表現なのだと理解した。


(そして、これが発生した原因は)


 目前の敵一体が剣を構えていた。

 どこから取り出したかは分からないが、うかつに突進したからカウンターを喰らったということ。

 ……さっきより俺の速度が出てない?


「うおっ」

 

 一瞬の油断。

 それを突いて、剣を持った敵選手が斬りかかってくる。

 バックステップ。

 それもいささか遅い。

 あ、避けられないなコレ。


「ばかやろう!! なにをボサッとしてやがる!!」


「!」


 喝を入れるような声と共に、金属音が鳴り響く。

 俺に迫っていた剣を防ぐ、黒くて丸い頑丈そうな盾。

 あんなに調子に乗りまくっていたカメ朗が、極めて真剣なオーラを発しながら戦っていた。

 

「まったくだ! ひとりで突っこむランナーがどこにいる!」


 続いてやってきたフジ丸は、白銀の盾を持って別の敵選手の斬撃をブロックした。

 二人のブロッカーが俺を守護する形。さっきは持っていなかった盾はどこから出した?

 それはともかく、これこそが本来の儀攻戦か……。

 

「はは! おれたちのブロックを見たか! これでも、それなりに経験を積んだ【ファイター】なんでね!」


「今から先輩って呼んでくれてもいいんだぜ! 後輩くん!!」


「……」


 いきなり先輩風を吹かせまくるカメ朗に、少しイラっとこなくもない。

 しかし、助けられたことは確かだ。

 ただの調子に乗ったカメではなく、それなりに実力のあるカメだということだろう。


「ま、努力しても百年に一人の天才たるおれには届かないだろうけど、まあ凡人には凡人なりの武器があるというか諦めることはないよ後輩くんおれも若いころは―――」


「……」


 調子にのりすぎだろ、このカメ……。

 思わず舌打ちしかねないウザさに、さっきの活躍が薄れてしまう。

 ここまで分かりやすいと逆に好感がもてるかもしれない。

 それはともかく、とにかくウザいが。


「――さあ! 今度はおれたちもサポートする! もう一回、相手の防御に突っ込むぞ!」


「そうだ! これからが本当の試合だ! 男たちの熱き戦いのフィールド! 開幕!! うおー!!」


「……」


 暑苦しいやつらだ。

 なんかのスポ根マンガに出てくるキャラのような感じで、どうにも拒絶反応が生まれてしまう。

 ……同時に感じる想いもあった。


「……次は、もう少し速く」


 斬りかかってきた敵選手は少し後退して、こちらの様子を伺っている。決して深追いはせず、あくまでこっちの動きを牽制する狙いか。

 多分、さっきの俺の走りを見て、防御を固めなければ危険と判断したのだろう。

 それなりに優秀なAIみたいな動きだ。


「……」


 敵選手の並びを意識しながら、精神を少しだけ研ぎ澄ませていく。

 さっきはうまく走れなかった。

 なので、今度はもっと回避を意識してみようかと思う。

 素人の走りがどこまで通用するかは分からない、が。


(……靴はなんかだめだ。しっくりこない)


 軽く床を踏みしめると、微妙な感触が返ってきた。

 もっといい靴がほしいというか、なんというか。不満がそこそこにある。

 ……柄にもなく本気になってないか? 俺?


「よし! いくぞー!! 突撃ー!!」


「うおおー!! 燃えてきたー!!」


 暑苦しい奴らだ。

 そう思いながら、地面をそれなりに強く蹴った。


「……!」


■また、敵選手2体が斬りかかってきた■

■やはりこいつらの速度は、今の俺では完全に避けるのは難しい■


「だが!!」


「そのためにおれたちがいる!!」


■鳴り響く金属音■

■さっきと同じように、盾で攻撃を防ぐカメ朗&フジ丸■


(やるな、なかなか)


 この二人の動きはそれなりに洗練されていて、確実に俺が走るルートを開いてくれる。

 これならば――走り抜ける。


「行くか」


 両足をさらに鋭く動かす。

 変わらず調子は悪いが、今度はさっきのようにはいかない。

 後方にいた敵選手6体を、トップスピードで次々に抜いていく。


(遅いな。こいつらは)


 先に斬りかかってきた2体に比べると、愚鈍すぎる敵選手の動き。

 これならば問題なく突破可能。

 ジグザクに描くような走りで、一気に敵選手を抜いていく。


「!」


 しまった、そう思った時には遅い。

 最後に控えていた敵選手一体が、急接近してくる。その動きは明らかにスピード特化。ランナーを潰すためのブロッカー。

 そいつの右拳には籠手のような物が嵌められていて、容赦なくその鉄槌が迫りくる。

 少しの油断による速度の減退、致命的なそれは回避不能の状況を生んでしまう。

 

(だめだな、これは)


■走りが止まる、回避は無理■


「させるかァ!! やる気爆裂!!」


「!?」


■迫る鉄槌を防ぐ盾■

■それは、追いついてきたカメ朗のもの■


「……!」


「へへ、これはチームプレイだぜ! クライス!」


 カメ朗のブロックによって、進む道は開けた。

 ならば後は走り抜けるのみ。


(これがチーム、か)


 最後の敵選手も抜き去り、ゴールへと一直線に走る。

それは仲間と共に走り抜けた戦場。

 不思議と悪くない気分になりながら、試合終了条件となるゴール地点へと到達した。


(こういう体験、なかなかない気が)


 いままでの人生においてかなりボッチ気質だった俺は、みんなで力を合わせてなんて柄じゃない。

 なんだか新鮮な気分だな――ああ。


●■▲


「よっしゃあああ! おれたちの勝ちだー!!」


「わっしょいすっぞ!! クライス!!」


「え」


 試合が終わった瞬間に、カメ朗&フジ丸ペアに担ぎ上げられる。

 まさかこれがっ、噂に聞く体育会系の胴上げってやつかっ。

 やめろっ、なんかあれ陽キャっぽくて拒否感があるんだよっ。


「す、すごかったですっ。さすがはクライス様!! あの走りは【闘技会】でも通用するかも、です!!」


「さ、サーシャちゃん」


 なんてこったい。サーシャちゃんまで胴上げしたがっているっ。というか試合中なにしてたかと思ったら、まさか怖くて震えていたのか……めっちゃ足が振動している。

 これでは断ろうにも断りづらい。どうにも彼女には弱い。上目遣いでお願いなんてされたら、気絶してしまうかもしれない。

 

「わっしょい! わっしょい!」


「お前本当にすげーよ! 今からでも鍛えたら、もしかしてプロになれるんじゃねーか!? ジルヴァラの!!」


 プロだって?

 ジルヴァラっていうのは、儀攻戦のプレイヤーのことだったな。

 よくは知らないし、別に興味も……まあないかな。


「これから暇なら、一緒にトレーニングしないか! クライス! なんかお前とは他人の気がしないぜ! いいチーム組めそうだ!」


「わっしょい! わっしょい!!」


 トレーニングとかごめんだ。ましてやカメ野郎と一緒になんて。

 そんなことより、一生懸命わっしょいしているサーシャちゃんかわいい。かわいすぎる。

 結婚したい。


「クライス様すごい! 本当に格好いいです! 最高です!」


「……」


 ……まあ。

 こんなに彼女に喜んでもらえたなら。

 俺がそれなりに頑張って走った意味も……あるかもしれない。

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