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遊興の街の競技大会

「――みなさま!! よくぞお集まりになってくださいました!!」


 激しい歓声と熱狂に包まれた会場内で、マイクによって増量された声が響き渡る。

 うるさい正直。

 クライスはそう思う。


「この度のイベント! 【ドキドキ! ワクワク! ハラハラ!! ライバル皆殺し!! バトルロイヤル!!】は、予想以上の参加者を迎えることとなりました!!」

 

 様々な人間が一つの目的の為に集まり、覇を競い合う、一大イベントが始まろうとしていた。

 めんどう正直。

 クライスそう想う。


「中にはあの【勇士】や【守護者】もいまして、この度の催しは最大の盛り上がりを見せようとしています!! わたくし! 今からドキドキしています!!」

 

 場所はゼニゼニタウン・集いし者達は、いずれも曲者で。

 そのなかにいて、場違い感を感じまくっている男が一人。


「……」

 

 ひっそりと参加している【勇士】は、こっそりといた。

 覇気はまるでなく、ぶっちゃけもう帰っていいかな???

 そんな気持ちです。

 しかたないよな、めんどうなんだもの。

 あー、かえって寝たい。眠気がしてきたよ。Beautifulな彼女の膝枕がほしい。


「どうしてこうなった……」

 

 無職の勇士・クライスは、魔導によって生み出された森の中で一人グチる。

 思い返すのは、こうなった経緯――。


■異世界競技の一つ、【混沌戦】の幕開く■

■参加者は100名を軽く超え、数いる強者がその牙をぶつけあう■

■ここで彼は、多くの運命と出会うことになる――■


●■▲

 

「うおおお!! ブロック!!」


「なんの走り抜ける!!」


 わーわーと言った歓声が響く会場で、晴天の下、汗を流して競技を行う青年たちの姿。

 競技場を囲む観覧席の中には、ジャスミンとサーシャの姿もあった。

 つまりは……。


「はー、だるい」


■競技場内で、無気力全開で空を仰ぐ■

■無職の勇士■

■スタンダードルールの儀攻戦の真っ最中(観客付きの、娯楽性を重視した試合)■


(ちょっとした小遣い稼ぎ……と、儀攻戦の経験積みかぁ)


 まるでやる気がなさそうに、侵攻者チーム(儀式場を奪う側)の黄色いユニフォームを着て立っているマサル。助っ人として参戦した。

 儀式場は手に入らないが、金は手に入る。

 50メートル前方には見覚えのある物体があった。終点と呼ばれる物だ。円陣を描くように配置された像が印象的。


(ようするにあそこまで走って、ゴールすればいいんだが……)


 周囲では様々な選手たちが魔導を撃ちあったり、突撃を繰り返したりして、攻防戦を行っていた。

 敵を殲滅することでも勝利にはなるが、マサルとしてはなるべく戦うのは避けたい。

 なので方針は決まった。


「はー、めんどい」


 芝生の上を走り出すマサル。

 その動きに応じて、防御側が彼を止めようと突撃してくる。


「そうはさせないぜ! いかにも素人っぽいやつ!」


「この競技をなめるな!! ブロックー!」


「……」


■ブロックに来た二人の間を■

■するりとすり抜ける■


「は」


「へ」


 決してやり過ぎない速度を維持したまま、ゴールへ向けて走る。

 ブロックに入った二人は予想外の速さに棒立ち。

 マサルは実力の10分の一も出してはいない。


「おい、速いぜこいつ!! 予想外だ!!」


「止めろーッ!!」


 叫んでマサルを止めようとする守護者たちだが、チームのマッチョな仲間達がそれをブロックする。

 まるでスポーツ漫画のような光景だと思うマサル。


「クライスー!!」


「任せたぜ!! 勝負を決めろ!! その足と熱意でー!!」


 なんか本当にスポーツ漫画のような暑苦しさに、マサルは顔をしかめた。

 やたらと熱い仲間たちの信頼は負担でしかない。

 昔見たアニメの主人公を思い出してしまい、頭をぶんぶんと振ってそれを払う。


(だるいな……ほんとう)


 ブロックを突破した敵選手一人が、右手にナイフを構えながらむかってくる。

 それをマサルは余裕のある態度で見ていた。


(おそいな。プロLEVELでもこの程度か)


 最近、いくつかの試合に助っ人として出場(エレジーの紹介で)してマサルが分かったこと。

 自分の速力はプロでもふつうに通用するということ。

 エレジーは意外といいやつかもしれないこと。

 しかし、彼女に連絡するたびに、どこかへ食事にいこうとかチームに入れとかうるさいこと。


(やたらとグイグイくる。めんどうだ)


 そんなに自チームを強化したいのか。

 自分はやる気のないナマケモノだぞ。

 だけど、金がない時におごってくれそうなのはうれしい。ヒモ万歳。

 だがやはりめんどうだ。

 しかし、美少女と食事を共にできるというのは、男ならば抗いがたい魅力はある。ある。

 そんな思考がめぐっている。


「はぁ」


「なにをボーっとしてやがる!! なめやがって!」


「おらぁ!! 必殺剣をくらいやがれ!!」


■さっきから、次から次へとランナーのマサルを止めようとせまってきている敵選手■

■それを彼は、無気力のまま抜き去り続けていた■

■自チームの者たちすらおどろく、見事な走り■


「くそ! ならこれでどうだ!?」 


 敵選手の一人が、手のひらから魔導による炎を噴射した。

 それはマサルの進路をふさぐように広がり、炎のブロックと化している。


(なかなかやっかい。へたに大人数でブロックされるよりきついか)


 マサルは急旋回を行って、魔導を放つ敵の横へと回りこむ。

 特筆すべきはそのスピード。

 それはあまりに速く、とても並の選手では反応できない。


「なっ!? 横ッ!?」


「わるい。退場してくれ」


「ぐわぁ!??」


 右腕で魔導使いをはじき飛ばし、その行動を封じる。

 たおれた敵は全身にヒビが広がり、どうやら気絶しているようでうごかない。

 

(体に……赤いひび割れ、か)

 

 この儀攻戦において流血という現象は起きないらしい。

 かわりに、ダメージを受けると体に赤いひび割れが発生したりする。

 ……けがをしてもたいして痛くないし、これなら存分に強力な力を敵選手にぶつけられるだろう。

 

「はぁ。それはよかった」


 よかったよ本当。

 まぁ、やる気はでないが。

 もう帰りたい。

 足の感触だけは、前よりもマシだけど。


「うおおお! ここから先はいかせるか!!」


「ランナーなら力でねじふせてやる!!」


 また新たな、敵選手二人によるブロックがきた。

 その二人は体格がよく、おそらくパワーで相手選手を封じる役目なのだろうと思われた。

 経験に裏打ちされた動きは、かなりの力量を持ったプレイヤーの証。まちがいなくプロのもの。

 が。


「おそいな」


■そもそも捉えられなければ、意味なし■

■マサルは瞬時に壁を抜いた■


「……」


 敵を抜いたのに不満げな顔は、試合の疲労によるものか。

 無気力しか映さない瞳は、なんの情熱も宿してはいない。

 本来競技者に必要であろう熱が、彼にはごっぞりと欠けていた。

 

「……さっさと決める」


■マサルはそのまま■

■やる気0でゴールした■


●■▲


「うおおお!! すごいなー! おまえー!!」


「俺たちの勝ちだ!!」


「わっしょい!! わっしょい!!」


「……」


 試合終了と共に帰ろうとしたら、チームメイトたちに捕まり胴上げされた。

 正直早く帰って寝たいのだが、スポ根的な展開がそれを許してくれない。

 マサルは困った。マッチョ達が無駄に高く上げるのでさらに困った。


「俺たちの侵攻者チームに入らないか! 新人にしては素晴らしい才能だ! きっとエースになれる!」


「そうだぜ! 一緒に青春の汗を流そう!!」


「勘弁して……」


■ぽつりと呟くマサル君■


●■▲


■ある大きなマンションの最上階で■

■きらびやかな装飾が目立つ室内■


「――視点が変わってしまうんだよ。分かるかね?」


 ガラス張りの壁に寄り、夜の町を見下ろす男性。

 彼が身に着けるスーツ、宝石、ペンダントなどなど、そのどれもが彼の纏う豪華絢爛なオーラを増幅させているよう。

 実際に、男が持つ金の力は強大に過ぎる。


「最初と今では、見る世界がまるっと変わってしまった。あの頃は、がむしゃらにみじめな生活から抜け出したいと思っていたのだが」


「……」


「いやはやなんとも、贅沢だ」


 右手に持ったグラスを傾け、とても贅沢な赤いワインを・惜しげもなく消費する。

 とくとくとくとく、どくどくどく、ドックンドックンドックン。


「――キミもどうだね?」


■赤い一矢が、話し相手に向けて放たれた■


「――」


■相手はそれを、右手で払い■

■部屋のツボが砕けた■


「おっとぉ」


■お返しとばかりに、ナイフが飛んできたので■


「隠蔽◆■■■」


■彼は左手でそれを、質量を無視して、【握りつぶした】■


「価値のない。ゴミだな」


 握った拳を開くと、床に突き刺さるナイフ。

 その刃は、否、その全てが銅色に変色していて。


「あるだけ無駄。そのわずかな価値を他に譲り給え」


■ナイフは跡形もなく溶けて、やがて消失した■


「今回の大会には、目ぼしいのがいるのだろうか……いる気がするな。はは」


■ゼニゼニタウン一の大金持ちにして■

■【地区長】の一人■

■ゴールド・ロイヤルが、遊興の町を見下ろす■


●■▲

 

「ゼニゼニタウンって」


「はい。村の北東に位置する、娯楽に溢れた町です!」


「同じイヤシノ地区か……」


 というより、マサルサーシャとジャスミンは既にその町に到着していた。


「おお、都会って感じだな」


 一面に広がるのは、夜を裂く光の共演。


「おっと! そこの美男美女さん達! うちの店によって行かないかい!?」


 町の入口、多数のランプによって彩られた大きなアーチを潜ると、白いスーツを着た男に声を掛けられる彼等。


「今なら可愛い娘が揃ってるよ! ……金次第でお触りもっ」


「まじか。最高」


「も・く・て・き!! 忘れてんじゃないッ!?」


「……うっ」 


(そう俺の目的は……)

 

 守護者を雇うことを決めたマサルは、その申請の為にゼニゼニタウンを訪れたのだった。背負ったリュックにしっかりと用意を詰めて、いざ遊興の渦へ。


「早く行かないとな……」

 

 マサル達の前方に見える、少し離れた大きな建物……それが守護の会の支部。


■視界の端で、ちらりと車のようなものが映る■

■幻のように町中を走る魔導の車だ■


「あそこか……!」

 

 泣く泣く勧誘を断り、マサルはまだ見ぬ未知へと足を進める。


「次の店行こうぜ!!」


「おうよー!目指すは全店制覇ー!!」

 

 何処かから聞こえてくるスロットマシンの音、怒号、歓喜。

 目が痛くなるような、きらびやか過ぎる店の数々。

 進む道を挟むように、通行人たちの声が入って来た。


「さっきの騒ぎ凄かったよな」


「ああ……あの魔導具……まさか勇士の一人とは」


「彼女、えらい美人で……」


(美人……ではなく、勇士の一人?)

 

 このゼニゼニタウンで行われているイベントの効果で、各地の勇士や守護者が集まっているらしいことをマサルは思い出す。


(報酬が【儀式場】ね)

 

 そのイベントで頂点に立てば、強大な力が手に入る儀式場を譲ってもらえるらしいという話。


(イベントの主催者は大層な金持ちで、己の娯楽の為にそんなことをしたのだとか)

 

「儀式場ねぇ……」

 

 遥か昔から存在した場所・儀式場。

 あの時の事を思い出して、マサルはどうしようか迷う。


(サーシャちゃんは……俺の力を解放したがっている)

 



「……うおっ!?」


「おっと!すまんなぁ!兄ちゃん!!」


 横目でサーシャを見ていたら、前から来た酔っ払いおやじに衝突しそうになった彼。


「あぶな……」

 

 少し崩れた体勢を立て直し、また歩き始める。


「勇士様?」


「大丈夫だ……」


(こんなに人が多い町なんだ。気を付けないとな……)

 

 トラブルの匂いを敏感に察知して、マサルは気を引き締めた。


(早く守護者申請をして……)


「おうおう!! オレを舐めてんのかぁ!! 嬢ちゃん!!」


「いーい度胸だっ! 面貸せよっ! おいっ!」


「はぁぁ……めんどいっ」

 

 ほんと、トラブルってやつは尽きないな!などと、ため息をついてしまうマサル。


(まあ、今回は俺ではなく)

 

 しかしトラブルの対象は、彼ではなく別の人物。


「――邪魔よ。どきなさい」

 

 道の真ん中で絡まれている、淡い白銀の髪の少女。綺麗な三つ編みのポニテを垂らしている。

 がたいの良いチンピラ二人(禿げている)にも物怖じせず、冷静に対処しているその姿。


(すごいクールだ……ライバルキャラっぽい。あと可愛い、やった)

 

 つり目を鋭く細めて、彼女は威圧感を強める。


「調子に乗りやがって!どうなっても知らないぜ!!」


「俺達のことを知らんのか!間抜け!」


「誰?」


 凄い勢いで迫る男二人(胸には金色のバッヂ)にも気圧されず、ホットパンツ姿の女性は言った。


「知らんのならよく聞きな!!」


「俺達はこのゼニゼニタウンで最強のコンビ! 最高の就職者!!」


「ロン&リオウ兄弟よ!!」


(あの二人就職者か……どうりで、ステータスが見えるわけだ。つまり属性も持っているということか……)


 更なる力を得られる要素、属性……人属性と魔導属性に分かれる。

 そうマサルは聞いていたが、そこまで詳しくは分からない。


(……分かることは)


「あら、そうなのね」

 

(そっけなく相手の威圧を流すあの娘が、いままでの中でもつよい気配をはなっている……ことだけ)

 

 マサルの目には、白銀少女のステータスが見えていた。


「……」

 

 少女と、ロンたちのステータスを見比べるマサル。


(男達の数値は……おおう、戦斧の勇士よりふつうに高い! )

 

 結果、勇士に対するイメージがさらに下がった。


(あの子の方は……)


【名前:ミリアム・ソルジャー】

【攻撃力:■◆◆】

【防御力:◆◆■】

【速力:■■■】

【魔導力:■■◆】


「ミリアムたんかぁ……じゃなくて、これは……」


 一部のステータス表記を読み取ることが出来ないことに、彼は首をかしげる。


(スキルとやらの効果か?)

 

 【スキル】は(就職者が持つ、特殊な能力。使用しても基本的になくならない……とか。魔導とは違う)という話を聞いていた。(スキルコストというものがあり、所持しているスキルすべてを装備して使えるわけではない)という情報を、頭の中で反芻する。


「それじゃあお仕置きタイムだ! いまさら泣いてもおそいぜ女ァ!!」


「そうそう! 土下座させてやるよォ!」


 ロンたちは少女に近付いていく。


「おい……誰か止めないのかっ」


「いやだよ……あいつら荒くれもので有名だぞ」


「いちゃもんつけて店を荒らしたとか、金を巻き上げるとか……」

 

 周囲の者達は、何も出来ずに見守る。


「クライス様……」


「……」


 それはクライス達も同様。


「ふっふっふっ!」


 ではなく。


「どうやらあたしの出番のようね……っ」

 

 威勢よく白いミニスカを揺らして、ジャスミンは前に躍り出た。


「! ジャスミン!」


「こんな非道は見逃せないわ!女相手に男二人なんて……っ」


「好きにどうぞー。こっちにまで影響残すなよ?」


 騒ぎの方へと歩む彼女。


「あんた達! そこまでよ! このあたし、ジャスミン――」


 威勢のいい名乗り。

 すさまじい光と衝撃波が、それを阻んだ。


「ぐああああああッッ!?」

 

 とんでもない断末魔を上げながら吹き飛ぶのは、助けに入ったジャスミンで。


「はぁ」

 

 溜息を吐きながら、マサルは吹き飛んだ彼女をキャッチした。

 意外と紳士的なつかみ方である。


(この女は正直あれだが……サーシャちゃんが悲しむからな)

 

 両腕でしっかりと抱きとめた彼は、前方の異常を見る。


「ううぅ……な、なにがっ」

 

 混乱中のジャスミンも含め、その場の全員が状況を理解できない。


「う、うそだろ!?」


「なんてこったー!?」


 みんなの視線は、宙に浮きあがった半透明のかませ兄弟に向いている。

 肩を組みながら仲良く二人で、魂ぬける消滅演出をおこなっていた。ちなみにこの演出は、起きるときと起きないときがあるとマサルは聞いている。


「あの二人が一瞬でやられた!?」


「何がおきたんだ!」


「服すら残ってない……」

 

 ギャラリーが言う通り、兄弟の体はどこにもない。一瞬で消滅していた。


「地面にヒビが……? かなりの爆発が起きたってことか……」

 

 衝撃波によってひび割れた地面、舞う粉塵。

 さきほどの一撃のすさまじさがよくわかる。


「口ほどにもない……愚者」

 

 悠然と佇む少女は、なんてこともないかのように去っていった。




「あれ? これやばくね? 完全消滅だよな、あの二人……」

 

 マサルは極めて一般的な感性で戦慄するが、周りの者達は何も気にしていないようだ。


「すげー!威力!」

「あの娘もイベントの参加者か!」

「魔道は!? 人属性は!?」

「これが参加者同士の場外戦闘……熱いぜ!」

 

「前に説明しましたけど、あの二人は復活することが出来るので……」


「ああ、いやだからって……さすがに粉微塵は不味くね?」


「うーん、それはそうですね……一体……イベントが関係あるのかも」


「イベント? 儀式場の?」


「はい」

 

 サーシャが注目していたのは、あの兄弟が胸に付けていたバッヂ。


「あのバッヂの模様……イベントのチラシで同じようなの見た覚えが……」


「イベントのチラシ……」

 

 やっぱりと思うのはマサル。


(わざわざチェックしてあるってことは……俺に参加してほしいんだろうなぁ。はぁ)

 

 目に見えないプレッシャーを感じながら、ますますどうしたものかと悩みは深く。

 ぶっちゃけすでに気力は萎えている。


(そんな面倒なこと……多分【魔導具】のあの娘も参加者だろ?)

 

 マサルは、先程の戦闘で見えた光景を思い出す。


(一瞬だけ、魔導具らしき影が見えた……種類までは分からない)

 

 彼の瞳は、ただ一人だけそれを捉えていた。


「どうしたもんかー……」


「あぁああ! 耳触るのやめぇいっ!! なんなのよぉ!?」

 

 無意識の内にジャスミンの獣耳を触りながら、マサルはまだ見ぬ試練を想う。




「――無職の勇士様」


「……はい?」

 

 まだ見ぬ試練は。

 背後からかけられた声によって。


「何処にいるか知りませんか? わたくしの・わたくしだけの勇士様……」

 

 圧倒的な厄の気配をまとった女性の声だ。

 マサルは長年の経験からそれを理解し、硬直してしまう。


「……っ」

 

 彼が振り返ると、そこには。


「もしかして……アナタがそうだったり……ネ?」

 

(膨大なステータスと)

 

 自身の二倍はある双剣を背負った怪物美少女は・不気味に口を歪めて立っていた。


(――ホラーかな? 泣きたい)

 

 なんで次から次へと面倒がやってくるのかと、マサルは静かに涙を浮かべる。

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