氷の双璧
「残り時間は……30分ほどですかー。いやー今回の試合は楽勝だと思ってたのになぁ~」
■ゴール前での攻防が激しさ増す、それなりに大きな平原■
■照りつける太陽が、選手たちの汗を誘う■
「走れ! 右から回れ!! あと一押しでいけるぞ!!」
「くそ……!! さっきから集中力がッ」
■乱れの波動はさらに勢いを増し、クライス達のチームに襲いかかる■
■それに加え■
「あァ!! いい気分だぜッ!! なんだァ!! この感じ!!」
「うわ!」
「くたばりなァ!!」
乱れ側の反撃。
狂気的な笑みを浮かべた男性選手が、短剣を振りかざし、近くにいた敵選手へと攻撃しようとする。
彼はハーディンのなにかしらの力によって強化され、その動きは機敏。かつ力強い。
狂気の勢いによって、並の選手では気圧されてしまうだろう。
「それは反則だろー! やめろー! このー!」
■剣と刀がぶつかり合う、金属音が連続する■
■狂気の一撃を、軽いノリで受け流す少女■
■狂気の笑みを・それ以上に邪悪な笑みで塗りつぶす、守護者ロリンが躍動する■
「ぐ……! なんだァ、このガキィッ」
「あはは。ガキにやられてるの情けなくない?」
■カウンター気味の斬撃が、短剣使いを捉える■
■彼は後退し、冷や汗を流しながら美しき女剣士を睨む■
「そんなまじまじと見ないでくださいよっ。恥ずかしいっ。きゃっ」
「……!!」
軽口を叩いている少女の瞳は・正反対に警戒領域を広げ、抜け目なく敵の隙を狙う狩人、いや得体の知れない何かか?
自身のあらゆる挙動、呼吸や心拍すらも注視されているような錯覚を覚え、それなりの経験を積んできた戦士である短剣使いは身震いした。
可愛らしい外見と相反するような、凛々しく研ぎ澄まされた女戦士の姿・その狂人性に。
彼女の赤き瞳が・怪しく輝いた。
「あ・ハ」
■ロリンの瞳が向く先は■
■敵選手が構築する防衛ライン■
■現在は、22対15でクライス達が優勢……ではあるが■
「これ、きついー」
■敵の壁はあまりに強大で、破壊するには困難■
■いや、時間内に【突破】するのは不可能と直感する■
「やられましたね。時間切れ……ってことかー」
ハーディンが仕掛けた、フィールドギミックを上手く使った罠。それは確実にクライス達の戦力を奪い、加えて彼の持つ指揮棒により強化された乱れ達。
放たれた乱れの波動は時間経過と共に、着実に敵選手の能力を低下させていった。
結果。
「ひゃハ、ははははハは!!」
「くそがっ、こいつらブロック固ッ……!」
押しても押しても敵のブロックが崩れない。数の上では互角程度だが、その強固な守りを突破するような兆しが見えなくなっていた。
ゼノやヒナの戦闘不能など……攻撃主力が欠けたのも原因ではあるが、単純に乱れ達の防御力が高い。
強力な盾や鎧の魔導具を装備したブロッカー集団は、物理も魔導も手堅く防いでくる。
「押し返されている気配すら……ある、か」
ゴールまでの距離が、実際よりも遥か遠くに感じられる現象。目を細めて戦況を見るロリンは、持っている刀の柄を力強く握った。
奴らは強い。
試合の最初とは動きも違う。
「……あハ、さてどう動くんでしょう。【あの人】は」
■それでも彼女は不敵に笑う■
■ある人物の、次の行動がどうなるかを期待するように?・それとも■
●■▲
「ぐあッ!? ちくしょッ」
ベント達が奮闘する闘技場内での戦いは、一つの変化を迎えようとしている。
試合も終盤に迫り、どの選手たちも疲労の色は隠せない。
その中で敵の攻撃を受け、怯んだベントは後退する。ダメージはそこまで深くない。
深くないが。
「きつくなってきやがった……ッ。たくっ、厄介なもんだぜ! この妙な気配!」
「ひゃはは!!」
「!」
体格のいい男性選手と正面からぶつかり、純粋なパワーとパワーの押し合いに持ちこまれそうになるベント。
だがしかし、彼の氷結魔導を忘れてはならない。
まともに格闘戦を挑めば、その餌食となるのは証明されている。
「ひゃハ! 効くかよォッ!! そんなモん!!」
「おう!?」
■凍りつくはずの敵が、冷気を纏いながら力強くベントを押す■
■表面しか凍っておらず、その動きに支障はほぼない■
「おいおいおい!! こいつァ! HARDだぜ!!」
冷気系の耐性スキルか、それとも魔導力の高さによる氷結魔導の無効化か。
勘ではあるが、ベントは後者であると推測した。
魔導力は魔導に対する防御力も示す。もしかしたら、【特化】したタイプの選手なのかもしれないと。
「いいぞォ!! 徹底的にやってやんよ!! 力比べだァ!!」
■迎え撃つベント■
■その好戦的な笑みは、ファイターらしいと言うべきか■
「おおお!!」
「はハハッ!!」
■パワーによる正面からの押し合い■
■その結果は■
「ちィ……!! こりゃあッ」
ベントの方が少し押されていた。
決して大きな差があるわけではなく、ある程度拮抗している。完全に倒されることはなく、敵の動きを食い止めてはいるのだ。
しかし、それによって発生する歪みは止められない。
「壁が空いたァ!! はハ!!」
ベントが封じられたことによって、防衛ラインに隙間が生まれ、そこから侵入してくる選手が一人。
彼は、乱れ側が共通して着ているユニフォームではなく、マントを羽織った貴族服のような魔導具衣装に身を包んでいる。
その動きは速く・早く・ゴールへ向かって一直線。
「オレはジャッカル!! このフィールドを両足で制すル!!」
■ゴールに迫る黒衣の弾丸■
■それは風を切り裂くような勢い!■
「ごはッ!?」
■弾丸は蹴りによって砕かれた!■
「制するなんて言葉は、実際に果たした後で言うのをオススメします。させませんけど」
■美しきファイターによる、氷結の蹴りが敵の侵攻を止めた■
■彼女……ポーラは、少し息を乱しながらも強気に睨む■
「この女……! どこまでも邪魔ナァ!」
「はい。それが仕事ですので……成果出ている証拠ですね。感謝します」
「ぐ、グッ」
他にも数人の選手がゴール前へと切り込んでくるが、ポーラのしなやかな駆動&蹴りによって防がれる。
スターライト・ファイターの実力、それを試合終盤になってより強烈に感じる敵選手たち。
彼女は凛とした態度で表情を凍らせ、右足を少し上げて威嚇しながら、石床を蹴って走り出すであろう敵の動きを注視する。
いまだに集中力の持続が強固である事実は、経験と努力による練磨を感じさせた。
「はハ……ッ。いやこれはァ。ハーディンの旦那が好きになるのも分かるナァ」
「?」
「いヤ? いヤいヤイや?????? はハッははハッ。……あはハハハハハハハはっはっは八は八ハハハハハハハハッ!!」
■狂ったように笑う、乱れ側の選手一人■
■その目は血走っていた■
■さすがのポーラも、うすら寒いものを感じる■
「!!」
■変化は突然だった■
■数人の敵選手が、ポーラへと襲いかかる■
■彼らのその動きは■
「いきなり連携がッ。なぜっ」
体格がいい男性選手が一人、ポーラに掴みかかろうと突進する。
それを機敏な動きで回避する彼女の顔は、次に迫ってくる脅威をその目に捉えていた。
あまりに早い、連携の取れた連続攻撃の気配に、確かな脅威を感じながら氷結の蹴りで迫る敵を迎撃。
同時に、その右腕を別の敵選手に掴まれるポーラ。
「くっ、まさかッ!」
「はハ!! 力で押さえルッ!」
「組みつけェッッ!! 全員で封じるゾ!」
■言葉と同時……いや、言葉よりも早かった■
■一糸乱れぬ動きで、一斉にポーラへと組みつく選手たち数人■
「この……ッ。小賢しいっ!」
「はハはッッ!! ポーラポーラポーラッ!! その動きを封じてしまえばッァ」
「あァッあァ!! 儂の進むべき道は開くッ!! 儂……オレ? いや? いやッ???」
両腕両足を押さえつけられ、さすがのポーラもその動きを止めざるをえない。
敵は凍りつきながらも、まるで組みつく構えを緩める気配を見せない。
彼女は顔に苦戦の色を浮かべながら、乱れ達の様子の変化に注目をしている。そう、あまりに統率のある敵選手たちの行動に。
(さっきまでとは別人のような——いや、実際に別の人間の意思が介在している?)
■試合開始からここまでの、敵選手たちの変貌■
■それが頭の中を巡り、その最終地点を想像してしまう■
「……!!」
■緊張で彼女の体が震える■
■その隙を縫うように、敵側の男性ランナーが一人切り込んでくる■
■ポーラという壁がなくなり、誰も彼を止められる選手はいない■
「これデ、攻略だッァ!!」
彼はポーラを抜き去る。
狂ったように笑いながら、そのままランナーはゴールへと一直線。
ついにスターライト・ファイターという壁を突破し、得点に迫ることに成功した。
「——そこ止まりですよ。通しません」
「!?」
■目前まで迫ったゴール■
■それが、抜き去ったはずのポーラによってさえぎられる■
「ごッおッ!?」
ランナーに炸裂する、氷結を伴った強力な蹴り。まともにヒットしたそれは、彼をゴールから離すようにふっ飛ばした。
その衝撃音と共に、ポーラは冷静な表情を崩さないままに息を吐く。
一瞬、過去の言葉が頭をよぎった。
【あはは! やっぱりすごいなー! ポーラは! 一緒にあのチーム入ろうよ!】
【え、ええっ。そんなわたしなんかがッ】
【なんかなんて言わないで! 悲しくなるよ! 自分を信じて! きっとやれるよ!】
■プロ選手として活躍する前、自分の背中を押して信じてくれたエレジーの言葉■
■それがあったから、今まで頑張ってこれた■
■支えとなってくれた親友のためにも、この程度の敵たちに屈するわけにはいかないのだ■
「……少し危なかったですね。自省しなくては」
■彼女を封じていた選手たちは、全員が氷漬けにされて地に伏せている■
■その氷の色は、まるで夕焼けのように燃え盛っていた■
「おのレ……ッ!! なにをした……!?」
「……」
通常とは違う氷の色。
そこから連想される彼の思考は、彼女が持っている何かしらの奥の手の存在だろうか。
スターライト・ファイターと称される選手の力・その最奥の一端を見たような気がした。自然と進むべき足が止まっている。
「ぐッ……!」
■あと一歩というところまで迫った、自分たちの得点■
■それを阻んだポーラは■
(——まずい、かも)
■彼女の顔を流れる・不安と焦燥の汗■
■自身のブロックによって窮地を脱したというに、逆に戦況は悪いイメージを想起させる■
(ここまで迫られた——この場所の防衛力をもってしても。それはつまり)
ポーラとベントの二人が防御についた、この場所の防御力の高さは、他のフィールドと比べても突出していると言っていいだろう。
それですら突破されたということは、高確率で他のゴール地点が危機にさらされている事を意味する。
「……!!」
■残りの試合時間が、彼女の頭の中で縦横無尽に飛び回る■
■経験からくる勘のようなものが、警鐘を鳴り響かせていた■
「はハはははッ!! はハッッ!! さぁ!! 大詰めだッッ!!」




