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星に近しい獣

「試合が終わったみたいですね」


「ああ」


 選手控室のベンチにて、ポーラとクライスは仲良く並んで座っていた。

 仲良くである。

 本当に仲が良いのだった。

 既に、サポート通信の連絡先を交換しているほどである。


「ふふふ、なんだか波長が合います」


「はは、そうだな」


 10年来の友人のごとく笑い合う二人。同い年程度のコンビ。

 ネガティブ傾向ぼっちタイプなどなどの属性がかみ合い、奇跡的な意気投合を果たしたのだ。

 ポーラの苦労話をうんうんと共感マックスで聞くクライスは、普段からは想像できない聞き上手さを発揮していた。

 ジャスミンがいたら、普段からそれぐらい人の話を聞けと言っていただろう。

 

「それで、学校の休み時間は寝たふりでスルーですっ」


「寝たふりかぁ。俺は静かな場所を探して、本当に寝てたな」


「わあ、クライスさんって大胆っ。すごいっ」


「睡眠大事。寝ても疲れが取れない」


 その様は、傍から見ればカップルのようにも見えてしまい、周りの男性選手たちはグギギと聞こえてきそうな歯ぎしりをした。

 そんな視線など知らずにクライス達は特殊な空間を形成して、和気藹々……というには後ろ向きなオーラを発して会話をしている。

 本人たち的には充分な盛り上がりだ。


「二人組つくる際は?」


「事前に察知して保健室」


「本当にすごいっ。なんて判断力!」


「へへ」


 得意気に語るクライスは、賞金など関係なしにイベントに来てよかったと思う。

 サーシャたちとはまた違う、波長の合う人物。

 最初のハプニングはともかくとして、これならば結果オーライというものだ。

 彼は同好の士に巡り合ったのである。

 

「えへへ、なんだかクライスさんとは初めて会った気がしないです。……私っていつもドジで人との距離感が掴めなくて、孤立気味で……」


「もう違うだろ」


「え?」


「ズッ友だろ。俺たち」


「……!!」


 どや顔のクライスは、勝手にそんな宣言を行う。

 しかしポーラは普通に感嘆して、静かな涙を流した。

 社会で孤立気味の二人が、真に心を通い合わせた瞬間である。

 完全に試合のことが頭から抜けているクライスは、一つの大イベントを終えて満足気に笑った。


「ジャスミンとは違って……ポーラは大人で助かる。本当にっ。あいつはひどい」


「ええ……そんなことないですよ。迷惑なドジでいらぬトラブルを呼び込みますしっ。ジャスミンさんは、すごいしっかりしてて……真面目で素敵ですよね」


「あいつがしっかりしてる……かぁ? 可愛いもんだよ、君のドジなんて」 


 トラブルメーカー筆頭のジャスミンと比べれば、なんということはない、そんな風に侮っているクライスは静かにフラグを立てた。

 二人の歓談は、そのままジャスミンの話題へと切り替わる。


「ジャスミンさんといえば、見事なバトルスタイルですよね」


「?」


「肉体のみを用いたシンプルな突進スタイルは、惹きつけられるファンも多いんですよ? やはり爽快ですからね!」


「……」


 ポーラのジャスミンに対する評価。

 それを聞いたクライスは、己が彼女の試合中の姿に魅了されていた時のことを思い出す。

 ただ自分の場合は、普通のファンとは視点が違うのだろうとも思う。


(なんだろうな)


 最初はただの傍迷惑な奴程度だった印象が、今は普通に友人として接しているのを不思議に思う。

 以前の彼女の暴走も、サーシャのことを想っているからこそで、それなりに長い時を一緒に過ごすことで優しさやよさが見えてきた。

 いつの間にか、平穏の【欠片】と思える存在になったのだろう。

 まあ、暴走気味なのはまったく擁護する気ないが。


「……だな。あいつは強い」


「ええ、それは基礎的な能力値を見ても分かりますし……あふれる闘気は磨かれて、天に輝く星のよう。そう宇宙の……」


「……?」


「おそらく、武人の言が極めて得意なファイターなんでしょう。私の先輩にもそんな人がいますからね。武人の言は、素の能力が強くなり過ぎると意味を失くしますが、厳密には違います。魔導をいちいち発動する必要もないほど、肉体に定着するんです。なので、このタイプの魔導使いの最終地点は純粋な能力値による——絶対的な身体能力」


 ジャスミンを評するポーラの口調が真剣のような鋭さを持ち、クライスは寒気を感じた。

 まるで、温厚な小リスが獰猛な牙を剥き出しにして、凶暴な竜に変じたような違和感。

 隣に座る彼女が、数秒前とは別人のように変貌した。

 食らいつくべき獲物を想う邪龍は、冷たく言葉を放つ。


「――ですが、きっと私が勝ちますよ」


 断言するかのような言に、気弱な雰囲気はない。

 基本的に後ろ向きな彼女が勝てると言い切るということは、それだけの実力差があるということ。

 スターライト・ファイターとしての誇りか否か、金色の瞳は負けはしないと燃え盛っていた。

 それは、ジャスミンを強者と認めている証拠でもある。


「そして、クライスさん」


「はいっ」


 いきなり自分の名前を呼ばれて硬直。

 さきほどまでの和みとのギャップで、クライスは完全にあたふたしてしまい、混乱の渦を全裸で泳ぐ。

 なんのスイッチを押してしまったのだろうかと、己の発言を急速な勢いで精査していた、


「あなたは何か牙を隠している気がします。こうして近くにいるとビシビシと感じますから」


「!」


「見える能力値は、すべてが隠蔽されていますね。見事ですが、基礎的な能力値は高くないと見ました」


「……」


 クライスのスキルである、怠惰なる申告。

 ある程度自分で隠蔽の仕方を操作可能なそれを使って、完全なるステータス隠しを行った。

 能力値はもちろん、名前だって見ることは不可能なはず。

 なのに、ポーラはファイターとしての勘だけで能力を見抜いた。


「ど、どうかなっ」


「ふふふ、声と体震えていますよ。そういうところも私にそっくりですね」


「え」


 今のポーラにそっくりと言われても、どこがやねん? としか思えないのは仕方ない。

 完全にスターライト・ファイターとして豹変した彼女は、クライスを見定めるようにじっと見つめる。

 クライスは露骨に顔そらす。


「真の実力は分かりませんが、きっと私は勝てると断言はできないと思います」


「か、買い被りだ」


「そうですか? 私の目を見て同じことが言えますかね」


 じっとクライスを見るポーラの瞳。

 彼はそれを直視することが出来ない。

 必死になって控室を見回すことで、プレッシャーから逃れようとするが、それにも限界がある。


「――おいおい、何か楽しそうだな。オイ」


「お?」


■助けの船を出したのは■

■意外な人物■


「スターライト・ファイターともあろうもんが、格下いじめかよ? なァ?」


「ベントさん……」


 トラのマスクを被った大男。

 屈強な上半身を隠すことなく見せつけるスタイルで、ベントはクライスたちの会話に入り込んだ。

 なにやら知らんが、助かったと思うのはクライス。

 さりげなくポーラとの距離を開けた。


「人聞きの悪いことを言わないでください」


「はは、今のアンタはとんでもない冷血女に見えたからな。ついつい」


「……」


 心の中で静かに頷くのもクライス。

 ポーラは少し不機嫌そうに眼前の相手を見遣る。

 その金色の瞳に燃える情熱は変わらずに、ベントを敵として射貫く。

 ベントはやれやれと言う風に首を振って、その敵意を受け流した。こういう敵意に慣れているのか?と、思える態度だった。


「スターライト・ファイター様がオレみたいな格下に、そんな目を向けないでくれよォ」


「どの口が言うんですか? きっともうすぐあなたも星になります。私たちと同じステージに立つ」


「そりゃ光栄だね。まあ星に一番近い男とはオレのことだからなァ」


 あふれる闘志をむき出しにして、ポーラと火花をぶつけ合うベント・ハワード。

 自信満々な口調は実力の裏返しかビッグマウスか。

 向かい合うスターライト・ファイターに対してもまるで怖気ずに、彼は己の力を誇示する。


「その前の大イベントとしてあんたを倒すッ。首を洗って待ってな!!」


 そして、今までビッグマウスを行ってきた男は、ポーラに勝利宣言を行う。

 同じステージに立ってからでは遅いのだ。

 格下であるこの時だからこそ、ポーラに挑戦状を叩きつけるナイスタイミング。

 獰猛に笑うベントは全力の闘気をぶつける。


「水、水」


 そんな暑苦しい空気から逃れるように、クライスはコップに水を注いでいた。

 実力者同士の熱気など彼にとっては毒でしかない。

 ポーラ達から離れて他人事のように佇み、静かに水を飲む。

 なんだろう、このスポーツ漫画のような展開はとか思っている。選手同士の試合前のバチバチした会話とか、本当にあるんかいとか心中つぶやく。


(よかった。巻き込まれなくて)

 

■安堵するナマケモノ■

■だが十数分後に他人事ではなくなる■


「試合の時間です。クライス選手」


■クライスは控室を出て■


「――ほう、あんたが相手かい」


 最もスターライト・ファイターに近い男。

 ベント・ハワードとリング上で相対した。

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