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平安アーティスト

作者: みちゆき
掲載日:2017/04/23

 今は昔、京の都に名高い二人の芸術家がいた。

 一人は絵画の名人、百済の川成。

 一人は工芸の名人、飛騨のたくみ

 二人は得意分野も違うくせに、お互いライバル意識を燃やしていた。そんな折、工は川成に仕事の依頼をした。

『イイ感じのお堂を建てたから、壁に絵でも描いてくれ』

 ライバルといえ川成も芸術家、イイ感じのお堂とやらは興味があった。どんな感じにイイ感じなのか、そもそもお堂にイイ感じも何もあるのだろうか、などと期待して出向いた。

 その場所に行くと、何ともこぢんまりとしたお堂が建っていた。

「何だこれは。これがイイ感じというものか」

 川成は工に尋ねた。

「イイ感じだ。しかし、この中にお前の絵を入れる事で、よりイイ感じとなる。さあ、中に入ってくれ」

 見ると、お堂の四面の扉がそれぞれ開いていた。

 さっそく川成が南の扉から入ろうとすると、途端に扉がバタンと閉まった。

 次に西の扉から入ろうとすると、そこも閉まり、南の扉が開いた。

 北の扉から入ろうとすると、そこも閉まり、西の扉が開く。

 東から行くと、そこも閉まり、北の扉が開く。

 川成は、そこら辺からドでかい丸太を持ってきた。

「ちょっと待て川成、お前何する気だ。何ぶち破ろうとしているんだ」

「これが自動ドアというものか」

「こんな悲しい自動ドアがあるか。まだ分からないのか、これはお前を馬鹿にするための仕掛けだ」

「入ればいいんだろう?」

「だからってぶち破るな。この時代はそこまで頑丈な素材使ってないんだから」

 当初は川成を馬鹿にして笑うつもりだった工は、何とも言えない顔をしながらも、川成を帰らせた。

 数日後、今度は川成から工に手紙が来た。

『イイ感じの絵を描いたから、見に来ない?』

 せめて仕事の依頼をしろ、と工は思いながらも、どうせこの前の仕返しだろうと先読みし、警戒しながら向かった。

 川成の家につくと、案内されるままに廊下を歩き、ある部屋の前に立った。

「ほら工、戸を開けてみろ」

「断る。何か俺を騙す気だろう」

「大丈夫だって。普通に開くから。……あれ、ちょっと待って。何か開かないんだけど。いや違う、狙っているとかじゃなくて。これ何か引っ掛かってない?お前建物詳しいだろうが、ちょっと見てよ」

 仕方なく工が戸に手をかけると、普通に開いた。

「騙されたな馬鹿め!」

「雑だな」

 イラッとしながら部屋に入った工に、もの凄い腐敗臭が襲い掛かった。部屋の中には、黒ずみ、膨れ上がり、腐りきって横たわる死体があった。

 あまりの衝撃に、工は立ちすくんでしまった。

「どうだ工。俺の絵は」

「何!これがお前の絵だと!あ、そうか。これは床に描かれていたのか。それにしてもお前趣味悪いな。いくら絵画の名人だからって、描くものくらい選べ」

「ふふん、これで引き分けだな。ところでお前に頼みがあるのだが」

「何だ」

「床に絵描いちゃったから、新しい家建ててくれない?」

「今度こそ断る」


 飛騨の工が帰った後、百済の川成は部屋に残っていた。

「奴が死体に触れなくて良かった。ただの絵からどうして腐臭がしようか。これが床に染みついたおかげで、この家も使い物にならなくなってしまった」

 川成は工に騙された後、自分の得意分野である絵で仕返しできないか考えたものの、結局イイ感じの絵を描く事ができなかった。

「さて、こいつを羅城門に戻してくるか」

 川成は、床に転がる死体を持ち上げた。

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