平安アーティスト
今は昔、京の都に名高い二人の芸術家がいた。
一人は絵画の名人、百済の川成。
一人は工芸の名人、飛騨の工。
二人は得意分野も違うくせに、お互いライバル意識を燃やしていた。そんな折、工は川成に仕事の依頼をした。
『イイ感じのお堂を建てたから、壁に絵でも描いてくれ』
ライバルといえ川成も芸術家、イイ感じのお堂とやらは興味があった。どんな感じにイイ感じなのか、そもそもお堂にイイ感じも何もあるのだろうか、などと期待して出向いた。
その場所に行くと、何ともこぢんまりとしたお堂が建っていた。
「何だこれは。これがイイ感じというものか」
川成は工に尋ねた。
「イイ感じだ。しかし、この中にお前の絵を入れる事で、よりイイ感じとなる。さあ、中に入ってくれ」
見ると、お堂の四面の扉がそれぞれ開いていた。
さっそく川成が南の扉から入ろうとすると、途端に扉がバタンと閉まった。
次に西の扉から入ろうとすると、そこも閉まり、南の扉が開いた。
北の扉から入ろうとすると、そこも閉まり、西の扉が開く。
東から行くと、そこも閉まり、北の扉が開く。
川成は、そこら辺からドでかい丸太を持ってきた。
「ちょっと待て川成、お前何する気だ。何ぶち破ろうとしているんだ」
「これが自動ドアというものか」
「こんな悲しい自動ドアがあるか。まだ分からないのか、これはお前を馬鹿にするための仕掛けだ」
「入ればいいんだろう?」
「だからってぶち破るな。この時代はそこまで頑丈な素材使ってないんだから」
当初は川成を馬鹿にして笑うつもりだった工は、何とも言えない顔をしながらも、川成を帰らせた。
数日後、今度は川成から工に手紙が来た。
『イイ感じの絵を描いたから、見に来ない?』
せめて仕事の依頼をしろ、と工は思いながらも、どうせこの前の仕返しだろうと先読みし、警戒しながら向かった。
川成の家につくと、案内されるままに廊下を歩き、ある部屋の前に立った。
「ほら工、戸を開けてみろ」
「断る。何か俺を騙す気だろう」
「大丈夫だって。普通に開くから。……あれ、ちょっと待って。何か開かないんだけど。いや違う、狙っているとかじゃなくて。これ何か引っ掛かってない?お前建物詳しいだろうが、ちょっと見てよ」
仕方なく工が戸に手をかけると、普通に開いた。
「騙されたな馬鹿め!」
「雑だな」
イラッとしながら部屋に入った工に、もの凄い腐敗臭が襲い掛かった。部屋の中には、黒ずみ、膨れ上がり、腐りきって横たわる死体があった。
あまりの衝撃に、工は立ちすくんでしまった。
「どうだ工。俺の絵は」
「何!これがお前の絵だと!あ、そうか。これは床に描かれていたのか。それにしてもお前趣味悪いな。いくら絵画の名人だからって、描くものくらい選べ」
「ふふん、これで引き分けだな。ところでお前に頼みがあるのだが」
「何だ」
「床に絵描いちゃったから、新しい家建ててくれない?」
「今度こそ断る」
飛騨の工が帰った後、百済の川成は部屋に残っていた。
「奴が死体に触れなくて良かった。ただの絵からどうして腐臭がしようか。これが床に染みついたおかげで、この家も使い物にならなくなってしまった」
川成は工に騙された後、自分の得意分野である絵で仕返しできないか考えたものの、結局イイ感じの絵を描く事ができなかった。
「さて、こいつを羅城門に戻してくるか」
川成は、床に転がる死体を持ち上げた。




