神殿に姉上
「神殿……?」
「……お、王子」キリーヌがじとっと責めるように目を見てきた。「まさかとは思いますが、サウンソニード様の信託をお忘れですか?」
「……そんなわけないだろう」
「でしたら」ホワイトレースがこめかみを押さえて息を吐いた。「顔をそらさずに堂々としていてくださ
い」
そうだそうだ。そうだった。
このまま黙っているとお小言が飛んでくる気がして、おれは話題を変えにかかった。「……なあホワイトレース。昨日から吹雪いてたはずなのに、なんで雪が積もってないんだ?」
「魔力で積もらないようにしているのですよ。雪が積もってしまっては行動が制限されすぎますから。それに――」
ホワイトレースの説明によると、スオーロテッラは野菜や果物を育てるのに適した上質の土が多く、それを利用していい食材を育て、他国に輸出したりしているらしい。
雪のせいで農作業が遅れたりビニールハウスが倒壊して野菜の急騰が起こってしまっては、平民の生活が苦しくなるのはもちろん、輸出にも影響が出る。そのため冬になると、毎日国王が管理する魔法具に大勢で魔力を込めて、雪が積もらないようにしているそうだ。
……それだと雪の下に野菜が入れれないけどいいのかな? たしかキャベツとか人参って雪の下に入れるとおいしくならなかったっけ? まあこの世界の野菜は違うのかもしれないけど。
説明が終わると静かになった。馬車はゆっくり進む。
しかしあまり疲れが取れてない上に、吹雪いてるけど魔石のおかげで体は暖かいからすごく眠い。馬車がいい感じに揺れるのがこれまた眠気を強めてくれるから、どうしてもあくびを止められない。
キリーヌは平気そうだけど、ホワイトレースは眠そうに目をこすっている。
「ホワイトレース、ちゃんと休めてますか?」
はっとしたホワイトレースが微笑んだ。「ミルリア様を歓迎するための準備で忙しいですけど、しっかり休めてますよ。安心してください」
おっ? 仲が悪いかもしれないと思ってたけど、そうでもないのかな?
うんうんとうなずくと、「王子、もうすぐ着きますよ」と両方から肩を揺らされた。
……寝てませんけど。
顔を上げる。荒れた天気のせいで見えにくいけど、建物が見えてきた。近くに寄るとなんとなく形状がわかる。四角形のシンプルな構造をしていて、上にドームがある。
あれはなんのためにあるんだろう、と考えているとホワイトレースが声をかけてきた。
「王子、あれが神殿ですよ。……あら?」ホワイトレースが首を傾ける。
視線を追う。「馬車が止まってるな」
「あの馬車は」キリーヌが口を歪めた。「ローリッシュ様を乗せた馬車だと思います。今朝方、ローリッシュ様の側近が馬車を手配しているのを見ましたから」
「……どんな人?」
「王子の姉君です」
家族じゃん。なんでそんな嫌そうな顔をするの?
疑問はホワイトレースが解決してくれる。「ローリッシュ様は王子と、その、あまり相性が良くなく……」
「ああ、仲が悪いのか」
……まあ、すべての家族が良好な関係を結んでるわけじゃないよね。
馬車が止まる。
順に降りて十字架が描かれた扉を先頭のキリーヌ開けた。
神殿のなかが見える。扉から青くて細長いカーペットが敷かれていて、その先の壁にいくつもの神様と思しき銅像が祭られていた。銅像の前では何人かの人が跪いている。
「王子」後ろからホワイトレースが小さくいった。「真ん中でお祈りをされている方がローリッシュ様です」
「わかった。ありがとう」
キリーヌにつづいて一歩二歩進むにつれ、お姉さんの姿が大きくなっていく。
オレンジ色の短い髪を後頭部で縛っている。ちょこんと出た部分を触るとちくちくしそうだ。許しが出るなら触ってみたい。
祈り終わったのか、お姉さんが立ち上がると周りの人たちも立ち上がった。真っ先にふり向いたのはお姉さんだった。髪の毛と同じ色の瞳を好戦的に光らせておれを睨みつける。
「なんで朝からあんたの顔を見なくちゃいけないのよ」
……許しは絶対に出ないね。
短いですが、とりあえずできたところまで上げます。
明日は投稿できないかもしれません。日を跨いでも投稿がなかったら休みだと思ってください。