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招集 後編

「一応道具で補うことはできますが、やはりそれにも限界があります。そして、わたしの魔力の少なさは、これから成長する分を加味しても」少しキリーヌが溜めを作った。「……わたしの両親が最低限必要だと考えている魔力量に到達しないのです」

「仕事ぶりや努力の部分を見てくれないのか?」


 あまりにも悲しいじゃないか。生まれ持った才能だけで評価されてしまうなんて。


「お気遣いありがとうございます。ですが、わたしの一族は代々魔力の高さと王家への忠誠心を評価されてきたのです。それなのに血統の良くない末端の貴族にすら劣るわたしの魔力量は、『落ちこぼれ』と血族からも周りからも評されて当然なのです」


 できるだけ平生を装ってるつもりだろうけど、ショックを受けていることが顔色と態度でわかる。言葉は淡々としているけど、目にわずかに涙を浮かべながら喋っていて、それでも気丈にふるまおうとする痛々しさが、心の傷の大きさを表している気がした。


「……キリーヌは落ちこぼれなんかじゃない」

「……王子?」

「キリーヌは落ちこぼれなんかじゃない」そんな評価、おれが許さない。「キリーヌは姉上たちからおれを守ろうとしてくれたじゃないか。相手には大人が多かったのに、臆することなく相手に剣を向ける姿は、立派な騎士のものだったよ」


 キリーヌがわずかに頬を赤く染めながらぽかんとおれを見る。やがて下を見て、「そんなこと、護衛騎士として当然です。当たり前のことをしただけです」と首をふった。


「その当たり前をきちんとこなせるのが、落ちこぼれじゃない証じゃないのか?」


 キリーヌは床を見たまま答えない。

 おれはキリーヌから目が離せなかった。いままでのキリーヌの印象は『強い子供』だった。目の前のこの子は儚くて弱そう。つんっと指で押したら崩れてしまいそうだ。


 喋らない時間が少し過ぎ、キリーヌの体が弱く震え出した。たちまち震えが大きくなった。


「……あ、ありがとう、ございます」

「キリーヌ……」


 キリーヌの涙が床に落ちる。いくつか落ちて絨毯にシミを作ったところで、おれはキリーヌの涙を拭ってやろうと一歩近づいた。


「こ、来ないでください」キリーヌが避けるように手を突っ張る。「すぐ、戻りますから……」


 いい終わるとすぐにキリーヌがおれに背中を向ける。目元を腕で乱暴に拭いて、物置にダッシュして行った。扉が閉まり、姿が見えなくなった。


 もちろん追いかけることはできる。でも、独りにしておいた方がいいだろう。親からすら認められず、周囲からも落ちこぼれ呼ばわれされてきた小さな女の子だ。辛い日々を送ってきたはずだ。おれの言葉が少しでも救いになってくれたら、と思う。

 自然と顔が緩んでいく。天井に向かって息を吐いた。久しぶりにいいことをした気がする。こんな気分になったのは、いつ以来だろう?


 すぐ戻る、との言葉の通り、キリーヌはさほど時間が経ってないのに戻ってきた。


「……落ち着いた?」

 キリーヌが恥ずかしそうに目をそらした。「……はい。みっともないところをお見せしてしまい」

 申し訳ありません、が来るのをおれは遮った。「謝らなくていいから。まあ、悪いと思っているなら、挨拶の練習に付き合ってよ。できる気がしないんだ」

「……はい。では、始めましょう」


 憂いのない笑顔を見せるキリーヌ。年相応の幼さが見えた。



 でも挨拶の練習はきつかった。「もっと背筋を伸ばしてください。……反りすぎです」とか「もっと感情を込めてください。歓迎されている気がしません」とかダメ出しがいくつも飛んできて、ようやく「……形にはなりましたね」と一応の合格が出たときだった。


「クライブ、聞こえるか?」

「……サウンソニード様?」


 つぶやいてきょろきょろする。キリーヌがなにかいいたそうにしたけど手で制した。


「そのまま聞け」姿が見えないサウンソニード様がつづける。「ミルリアがお主に会いに行くことはもう知っておるな?」

「はい。昼食前にいらっしゃると」

「それが来れそうもないのじゃ」

「……どうしてかご存知ですか?」


 ……風邪でも引いたのかな? 道に迷ったとかかもしれない。


 サウンソニード様は感情を感じさせない声でいった。「道中魔物に襲われておるからじゃ」

「なっ!?」


 おれの大声にキリーヌがピクッとする。反射的に剣に手がいっていた。


「それでじゃ、ミルリアを助けに行ってくるがよい」

「しかし、私は戦う術がありませんよ?」

「神の命令じゃぞ?」


 どうやら戦いの場に行かなければならないらしい。でも行ったところで役に立つのだろうか? 足手まといになるだけだと思うけど……。


「……わかりました。それでミルリア様はどこに……?」

「『レブアマッチ』の森じゃ。早く行かないと手遅れになる」


 手遅れになる。その言葉がおれの胸にずんとのしかかる。出会ったこともない子だけど、もし自分が行くことで助けになるのなら助けたいし、行かないと死んでしまうのなら、なにがなんでもいかなくちゃいけないと思う。


 ……きっと戦いになったらサウンソニード様が助けてくれる、はず。もちろんキリーヌも。


「キリーヌ! レブアマッチの森はどこだ!?」

 目つきを鋭くしたキリーヌに事情を説明すると、「ついてきてください!」と走り出した。おれも背中を追った。

 前にあとがきでいろいろ書きましたが、削除はやめて後編として投稿することにしました。


 物語もだいぶ終わりに近づいてきました。でもミルリアが出てきてませんね。何回も詐欺ってすみません。次は出ます。確実に出ます。


 次回は4日中に投稿します。

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