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CRON:     aide;land-松来灯香-Voyage

――ようこそ、けれども悲観はしないでね。


――――はあ、はあ、はあ。

黒いヒール靴を乱暴に地に付けながら、息を切らして走っている。

カツカツともコツコツとも酷く鳴り響く状態は、

普段ならばとてもうるさいと思ってしまうのかもしれない。

けれど、今はそんな事を口に出している暇も、時間も惜しいのだ。

こちらの本部に出向いた20分後、話を聴いてすぐさま飛び出るくらい、惜しいのだ。


私がこんなにも急いでいる理由があるとしたら、

始まりは紛れもなく半日前の事に遡るだろうか。

建物を飛び出し、白い石造りの街路の中を駆けながら、

頭の中にあった悔しさを思い返す。


その日、【私達二人】は某国の組織から緊急に、ある程度機密で秘匿な要請を受け、

機関の拠点へ向かうため現時代、移動によってある程度注目の目を向けられる事になる空ではなく、

比較的今なお流交通の多い海を進む事にした。

快晴とまでは行かない青空が、チラチラと見える鳥たちが、

自然と視界に入ってくる。


そう言えば現在、自国からは船で8時間程度で着くようになったが、

昔は空路でしか行けなかったらしく二日未満程度の時間が掛かっていたという話を聴いたことがある。


船旅と言えば初めは、ゆっくりと穏やかな進み具合に気持ちを気楽にして、

甲板に寝転がって鳥の数を数えていたりしたのだが。行動も含めて、

それがよかったのか悪かったのか今でもわからない。


というのも船長が「前方に小型の船が見えるぜ」嘲笑しながら言うもんだから、

観光船なのかなんなのか知らないがどれどれちょっと様子見を。

なんて思って立ち上がって望遠鏡を使ったのだ。


望遠鏡を覗き込むと、褐色肌をした緑髪の人間が乗った中型船とすれ違い、

通り過ぎた際に発光弾のようなものを投げ入れられた後、光が収まってみれば、主の姿は無く。

猛烈な速さで遠ざかる中型船を見つけ、歯がみをしながら猛追したのだ。

その際船長の真似をして「ぶつかる勢いで走ってくれてかまいません。とりあえず、その小舟に突撃してください」その時の私はそんなことを言っていたような気がする。


予想外だったのは、こちらの船の追跡速度が速すぎて本当にアタックしてしまった事で。


ドンドンと勢いが強くなり、心なしか風が痛い。いや、きっと気のせい、気のせいよ。

「お嬢ちゃんよおおおおしっかり捕まってなああ。」

船長の叫んだその言葉を私が感知する前に、船は大きく衝撃に揺れ、私は宙に投げ出された。

投げ出され落ちていく途中、視界に入っている景色や感覚がとてもスローに感じられる。

ああ、この感覚は――少しだけ、覚えが、あるようなああああああ。

おちる、おちる、ゆっくりではない、これは、はやいぞ。

眼をつぶりそうになるけれど、自分が落ちる先が海なのか岩なのかだけでも見ておきたい。

そんな思いで、ぎょろりと動かしたつもりの眼で精いっぱい視界の中にある景色を視る。

【海ではない、岩でもない。視界に映っているのは木板で。】

そう認識した瞬間、胸に強い痛みが走っていた。「がっ――ぐっ」

いつの間にか、追いかけていた方の船の中に落ちてしまった私は、

胸や足を強く打ったせいか立ち上がる事も起き上がる事も出来ずにその場でビタビタと動くしかなかった。もしかしたら、この船が敵側のモノかもしれないという恐怖が身体と頭を冷やりとさせる。

この状況を相手が感知する前に切り抜けられるとしたらそれは――。


コツン、カツンと向くことのできない後方から近づいてくる音がする。


胸の苦しさが軽くなる前に動かせるようになったのは腕。


私は、動かせるようになった右腕を自分の首に目掛けて振る。

振る、降る、ふる。


やがて勢いよく首肌に、チクりと馴染みのある痛みが訪れて。


色々な場所に仕込んでおいた痛み止めの針がうまく浸透してくれたようだ。


後方から迫ってくる音に気を向けている場合ではないので、

思い切り立ち上がり、振り向いて距離を取る。


バキリという音と共に先ほどまで私が倒れ伏せっていた場所に、穴が開いていた。

私たちが乗っていた船はぶつかった後先へと進んでしまったようだった。


呆れか落ち着きのためか、小さく息を吐く。


眼前には、緑髪で褐色肌の男が右腕にナイフを持ちながらニタリと口を歪めて笑っていて。

男の奥には扉が一つ。

「唐突に襲って来るなんて非常識な方ですね、【恩恵者】ですか?いえ、これは多分肉体改造や薬物による過剰な力でしょうね」

独り言のようにつぶやいたその言葉と私の動きを見て、緑髪褐色肌の男は、

左手についた船の木片を軽く落としながら、

少しだけ驚いたような表情を浮かべて口を小さく開いて。

「ヒヒッおいおい、どんな手品でも使ったんだお嬢さんよ。

アレだけ酷く身体を打ち付けていたなら、まだおねんねしてる最中だろ普通。」

意外と、普通な思考をしているんだなこの男。

「どんな手か知りたいですか?教えて欲しいなら其処を通して、さらった人物を返して頂きましょうか。それでなくとも――小道具はたくさん持っているモノですよッ」そう声に出しながら腰に差していた針を対峙している男に投与するべく、手で触れ、足に力を入れて駆けだした。


チッと舌打ちが聴こえてすぐ、男はナイフを捨てて私を迎え撃つように、

腕を構えいつでも振り出せるようにリズムを刻んでいる。


如何に相手も生身の人間とは言え、私だって生身の人間だ。

このまま素直に向かって肌が硬質化してあったりなんてしたら――。

仕方ない。先方へのお土産として持ってきていたモノの一つだけれど、

試しに使ってみるか。我が日本国の、技術の結晶を。


駆けだした足を相手の三歩前で止めて、

スーツのポケットに入れておいた小さいカプセルを手に取って強く握る。


ガチッと音が耳に小さく入る。と共にカプセルが砕け、中にあった高音が漏れ出してくる。

ジュッと指に絡みつく熱と破片が、少しだけ指先から血液を流す。

【イデア機関仮証明、具現化開始。】

血液が適合したのかわからないけれど、頭に響くこの音からして、

一応使えてしまうのかもしれない。

その証拠に先ほどまでカプセルを握っていた血濡れた手の中には、

今ではあまり使われることの無くなった白いチョークのようなサイズをし、

先が鋭く三角に尖っている白い小型の槍のようなモノがあった。


なんだこれは……コレが。複製品とは言えこの小さいおもちゃのようなモノが、武器なんて。


モノは試しだ、無いよりマシか。


そんなことを思いながら、

ダーツを投げるように、はたまた昔何かで観た、

チョークを投げつけるように、いつの間にか距離を詰めていた男に小さな槍を向かって飛ばすと、

飛ばした小さな槍は男に到達する前に破裂、いや、暴発した。

白い閃光を辺りに発しながら、グラグラと揺れていく足場。


気が付けば私の視界には勢いよく吹っ飛ぶ男と、もやのようなモノを出しながら崩れていく船。


ぐらつく視界、重力に逆らう事が出来ず二度目の落ちを体感しつつ、

少しだけスローになりながら私が最後に観たのは、崩れていく船の中、

最初に少しだけ確認した扉の先には何もなく散らばっていくモノで。


連れの、というか今私が補助を担当している有栖川望深くんの姿は何処にもなかった。

悔しい、またわたしは何もできずに――。


拭えないほどの虚しさを抱いたまま、私の意識もまた、沈んで行った。

深く、深く。



上に見えた光がどんどんと見えなくなっていく瞬間、

真っ白な腕が伸びて来たような気がした。


その腕はお餅のように真っ白な腕なのに、中くらいの火傷の痕があって。


これもまたいつかと同じように――――。




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