CRON: little happiness;Licorice
――心配しなくても、大丈夫よ。
いつもは静かな、柔らかい白を主として組み建てられた城の中を、
慌ただしく、フリルのついた服を身に纏う者達が走り回っている。
慌ただしくと言っても、それは当然ながらに余裕を含んだものでなく、
何かを探し回っている彼らの表情は、余裕よりもはるかに大きな焦りと青ざめを含んでいた。
それというのも――少し前から体調が芳しくなかった国や人々の核となりうる大事なお嬢様が、
何処にも姿を現すことなく、城の内部から忽然と姿を消したからだ。
城に来る要件の殆どをお嬢様や城主抜きでも捌くことが出来る使用達やその長にしてみたら、
問題ないと思うかもしれないが、実際はそうではない。
お嬢様の姿が見えない事で士気を失い気力を落とし床に伏せる者もいるほど、
現状、この城に居るお嬢様は人気が高く愛されている。
だからこそ姫の行方が知れない等という話が外に、街に洩れでもしたら、
それだけで相当な被害や損失を見せるハズ……。
――――リス様、リコリス様っ。
誰かがわたしの事を呼んでいる。
ハッとして顔をあげると、使用人の一人が心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「あら、!? ごめんなさいねっどうかしましたか、? 」
心配そうにする使用人の一人にそう声をかけて話を聴く。
ふむ、――――話を聴くに、どうやら。
お嬢様が何者かに連れ去られたと仮定しても、
抵抗した痕跡は城内外に残っていなかったとのこと。
ということは連れ去られた可能性はいったん置いておくとして、
お嬢様ご自身で城の外に出た可能性も捨てきる事が出来ない、と。
どうしたものかしら――。
私たちの周りの状況や機密を知っている者はごくわずか。
其処から状況を悪化させないで進める事が出来る人間と言えば――冒険者と観測者。
冒険者と観測者の中で、どちらが動ける状況にあるのかちょっと難しいかもしれないわね。
冒険者の一人である第一航行戦術艦長、 コロニスターでもある葛切南湖ちゃんか、
観測者の一人であるクロン・ルヴァイン君、あっ今は様付けしなければいけなかったかしら。
――、もう一人動けると思う人間はいるのだけれど、
彼はお嬢様に対してわたしよりも過保護になるところがあるから、選択肢から外しておきましょう。
さてと、相談する人間はこれでよしとして、
とりあえず早急に連絡を取ってみなければいけないわね……。
長く頭を煮詰めていたせいか暑さが増して来たせいかわからないけれど、
ふらつきそうになってしまう。
意識が霞むのを耐えながら、連絡用に使っているイヤリングに触れてパネルを起動しようと思った直後、
イヤリングが【通信中】の文字を表示した。
こんな非常時に誰だろうかとムッとしそうになったけれど、
直ぐに応答の表示に切り替えて。
声を重くして一言、「所属を」と問いかける。
緊急時で無くともある程度の権限が無ければ連絡が取れない場所があるように、
この城やわたしを含む使用人に対して連絡を取るときも、
所属と権限が適しているかをまず最初に選定するのが決まりの一つだったりする。
少しだけ緊張しているかのような声で、私の問いに答えたのは。
なんとタイミングの良いことなのか、観測者のルヴァイン様だった。
なんとその連絡の内容も姫様の事で、さらにさらに現在、
ルヴァイン様とお嬢様は一緒に居るとのことだったので安心して、
迎えを向かわせるまでお嬢様と一緒に居て頂けるようにお願いをした。
少しの間を置いた後、ルヴァイン様は力強く、
「はい。責任を持って私がカルミアお嬢様をお守りさせていただきます。 」
と言ってくださったので再び安心をして、
気持ち高めに、謝罪と再度お願いをして通信を切った。
頼りなかったいつかの彼が、あんな風に力強く発言できるようになったことが、
とてつもなく嬉しく感じてしまう。
彼ならば、お嬢様と一緒になっても安心だと。
いつの間にか感慨深くなっていたり、嬉しいのもあってか。
わたしの表情はとても柔らかくなっていたようで、
お嬢様がご無事であることを伝える前に、
使用人の一人に表情を指摘されてから、少し恥ずかしい思いをしてしまったのでした。
窓に映るわたしの表情がまたゆるく、
柔らかく笑顔になっているのに気づく。
ああ、今日は忙しい日だったけれど、今日もまた良いだったと言えるのかもしれない。
帰城なさった後にお嬢様の表情を想像しながら、
また笑顔になってしまう。
待ち遠しいわあ。
カルミア、それは、さわやかな笑顔。
お嬢様と彼の未来にたくさんの笑顔がありますようにと、
そう願いながら、食事の支度に取り掛かる事にして。
明日もいい天気でありますように。