CRON∞R-A-T*C HAPPY BIRTHDAY1-紅茶好きな老紳士と。
CRON:一周年記念作品。
暖炉の焔がゆらゆらとなびきながら、ぱちぱちと音を鳴らす。
暖炉から離れたところには丸形のテーブル、
テーブルを挟んだ左右には二人掛けが出来るソファーが一つずつ置かれている。
テーブルの上には琥珀色に染まった液体の入ったカップが、一つ。
その横にはたくさんの量を保てるであろうポットが一つ。
左側のソファーにはうとうと老紳士が腰を落ち着かせていて、
その手には手袋、一冊の本が開かれている。
そんな穏やかな雰囲気と、ゆったりとした紅茶の香りで、銀髪の老紳士は静かにまどろみの中へと沈む。
けれど、何かに気付いたように少しだけ眼を見開いた後、
本を自らの横に置いて、紅茶の入っているポットを向かいにおいてあったカップへと注いだ。
「今日は珍しいお客様が来てくれたようだ。」老紳士はカップへと丁寧に紅茶を注ぎ終わった後、
そう口にした。老紳士の眼には向かいのソファーと、ソファーに座っている白いワンピースドレスを着た、
これまた真っ白な女性へと向いていて。老紳士の言葉を飲むようにスッと微笑んで、
紅茶のカップへと手を伸ばす。
こくりと、女性が喉を鳴らした。暖炉の焔がその音に反応して、動いたような気さえする。
紅茶をゆっくりと飲み干した女性は、老紳士の眼をみて、
「今日はわたしたちの誕生と生誕の日なのですけれど、
他の子達は各々でパーティを開いているようなので、一人さみしく挨拶ついでに寄ってみたのです。」
そう言葉を紡いだ女性の眼はアオく、海のような深さと、空のような広さを垣間見ているような。
なるほど――と。
小さく頷きながら、「互いに大切なモノが多くいるということは心配事も絶えないけれど、
時には切なくなるモノだね」と口にした。
老紳士の眼も、向かいにいる女性を通して何かをみているような。
そんな雰囲気が辺りを包んで。
彼女は観ている。
荒れ狂う海の中を堂々と進む一隻の船で、
酒を酌み交わし猛々しく笑う娘の姿を。
彼は観ている。
撫子色の猫と白髪の少年が、
寄り添いながら流れゆく星を眺めて、互い、穏やかに笑っているところを。
彼女は観ている。
囚われ、縛られ、虐げられ、
それでもなお、希望と、世界を自ら生きるために歩き進むエメラルド色の眼をした娘の姿を。
彼は観ている。
自らが育て、愛情を注いだ息子が、
いまや愛しい家族と共に、水辺にも浮かび空にも浮かぶおおきな満月を、
幸せそうに眺めほほ笑んでいるところを。
彼女は観ている。
全てを知ってもなお、血を流してもなお、
誰かを守ろうとする蒼、緑へと変化し観る眼を持つ息子の姿を。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
老紳士と女性のカップの中身は既に空だった。
紅茶を注ごうと傾けたポットの中身も空になっていた。
そんな何気ない事がなんだかおもしろくて、二人は声に出して笑いを零す。
真っ白な身体と髪、色彩の変化する眼を持つ彼女は観ている。
どれ程、苦しくとも、辛くともある子ども達が、
性別も時間も関係なく。
親しいモノと笑い合い、ロウソクの焔を消して歌をうたい。
歓声をあげ、また笑うその瞬間を。
幸せそうに、愛おしそうにずっとみている。
不意に。
「たんじょうびおめでとう。」
そんな言葉をたくさんたくさん、言われた気がした。
例えそれが夢まぼろしでも、
わたしはきっと忘れない。
お礼という訳でもないけれど、気持ちをぎゅっと胸に込めて、
いつだって見守っている。それがわたしの幸せであり、楽しみなのだから。
暖炉の焔がゆらゆらとなびきながら、ぱちぱちと音を鳴らす。
暖炉から離れたところには丸形のテーブル、
テーブルを挟んだ左右には二人掛けが出来るソファーが一つずつ置かれている。
テーブルの上には中身が空になったカップが、一つ。
その横にはたくさんの量を保てるであろうポットが一つ。
前よりもずっと軽くなっていた。
左側のソファーにはうとうと老紳士が腰を落ち着かせていて、
その手には一冊の本が開かれている。
真っ黒な表紙をしているその本は、
着けている白い手袋によってより濃く印象を強くする。
あくびが続いている老紳士が、寝床へ移動しようと、
持っていた本をぱたり、と閉じて寝室へゆっくりと歩きだす。
老紳士が居なくなった部屋は、
いつのまにか明かりが消えていて、
暖炉の焔も静かになっていた。
しんとした部屋の中に、一冊の黒い表紙の本が置かれている。
辺りに溶け込むような色をしているその本のタイトルは―――――――。




