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CRON:     Look into the window;-L-C-

―――その場所へはまた今度、今はまっすぐにね。

 息を潜めるように、けれど熱熱く眺めている二人の打ち合いは、

体感にしてはとても長く感じる程に、

ある程度閉め切っている部屋の熱と息苦しさも強く、濃くなっている。


ゆるやかに終わりの時を待つオレと、

言われたとおりに熱い戦闘を眺め続けているカルミアのどちらもが、

強く汗を衣服に滲ませていた。


彼女の真っ白な肌にグッと感覚が引き寄せられたオレは、

イタズラ心を抑えに抑え持っていたハンカチで、彼女の汗を拭い、小さくため息を吐いた。


如何に涼しい気候と環境だと言われていても、窓を開けるのは得策とは言えないし、かといって室内の扉を開けるような真似をしたところで、どんな被害が向けられるかもわかったものじゃない。それどころか、どちらかが味方である保証も今のところないし、目的がオレ達ではなく、観る事をためらったあの地下の部分であるならば、なおの事、破壊も辿り着かせることもさせてはいけない。

彼女から視点を動かして考察に入りながら片方だけの眼で小さく細く観測を開始する。


カルミア-ミーアが窓から彼らの戦闘をみている間、

適用の範囲を小さくして地下へ観測の範囲を伸ばしたところで、

いくつかの生物の入る大きさの容器が入ってあるのが観えた。

それだけじゃない、今俺達が居る部屋をチラチラと片眼で見ていると、

オレの見知っている掠れた刻印や古びた写真がいくつかあった。

ということは、此処は枝分かれしつつも、この地に根付いた【分家】の建物だという事を把握した訳だ。


語り継がれるように位置付けられた話の一つ。

正統に芽吹き流れる【本家】と平穏と守の役割を果たすための【分家】

その中の、分家の一つに芽吹いた嫉妬心と、憎悪。

それに基づいて独自に血を根付かせようとしたある第四の分家の話を、ふと思い出す。


こちら側としては、正統と言われる本家でさえ、そんな純粋なモノでは無いよと言ってやりたい気もするが、この場所に人がいない事を考えると、それも悲しい話なのかもしれない。


いつもやっているような考え事の上に観測を重ねて、はっと小さなため息を吐いた後。

ミーアが窓の先を向いたままつんつんと、俺の方をつっつく。

ハッとして、観測を切り上げ、考え事を切り上げて彼女の方を向いて身体を寄せると、

彼女が小さな指を、今まで見ていた下の方向ではなくて、どちらかというともっと上の部分に向けて、

「戦いは一向に静まる雰囲気じゃないのだけれど、ちょっとこっち向いてみて??

さっきからキラキラしたモノがみえるんだけれど、ルヴァインはあれ、なんだと思う??」


焦る感じを見せない彼女のたくましさにある種のたくましさを覚えて頭を軽く撫でつつ、

彼女に言われた通り窓の先を見てみる――。

言われた通り、確かに先の先の方にキラキラとしたものがみえる訳だが、

この距離ではそれがなんなのか把握できない。


「なあ、ミーア。【第二技能】を使ってほしい。

あのキラキラしたものが敵の増援であるなら、此処に長居するのも不味い。

だから、【観測】を使う。今の状態で観測を使えば、

今戦闘中の彼らもこちらに間違いなく気付いてしまうハズだから。」


ミーアは、俺の言葉を全部聴く前にこくこくと頷いて、

俺の眼の前に、汗映る肩を晒した後俺の身体に体重をかけて寄りかかってくる。

「失礼して……。」そう聴こえるかきこえないかの声で、

幾ばくかの背徳感が喉元を駆けあがってくるようなそんな気持ちを抱きながら、

晒されている真っ白な肩にくちづけをする。

「ッ」という唇が肌に触れる音が耳に届くが、今やめる必要はない。

その状態から首筋に流れキスを軽くした後、身体から静かに湧き上がる熱をそのまま通すように、

両眼の【観測】を開始する。ジリジリとぴりつく感覚が、開始直後からこびりついてくる。


痛みとなって押し寄せる前に、あのキラキラしたモノを観なければ。


顔から冷や汗が流れるのと同じくらいの時間差で、

彼女が俺の頭を優しく撫でている。


汗を拭う事が出来ない状態に少しばかりの心地の悪さを覚えながら、

気遣ってくれている気持ちを無駄にすることのないようにより強く先を観る。


オレ達が進んできた路の奥だろうかキラキラとひかっているモノの正体を認識した――――アレは。


認識した後、僅かな時間の凝視の後、

熱と血液が逆流するような感覚の中観測を終了する。


そして息を切らしながら、遠くの景色を観測した結果を、彼女に伝えて。


彼女は、オレの観たモノの話を耳に入れると、失敗した時のような苦い顔を浮かべて、

「そういえば……ぬけだしてから一度もれんらくしてないんだった――どうしよう……」

そうこぼす彼女の表情は、苦さから焦りへ、そして少しの安堵へと廻りまわるように変わっていった。


なんせ、移動速度がとんでもない速さでこちらに向かってきているのだから、

顔を合わせた瞬間に火山のような勢いで怒られるかもしれない。


もちろんそれは彼女だけではなくて。

どちらかというと、オレが一番怒られそうだ。


オレだってかけなおしたハズだが、

こうも時間のタイミングが合わないのも困りものだ、

といくつも重なっている今の状況に呆れてしまう。


呆れ顔が面白かったのか、緊張感から解かれたゆるみからか、

ミーアはふふっと笑いを零して、

「ここに着くのが速いか、戦闘が終わるのが早いのか、まだどきどきするけれど、

どちらにしても、どうにか切り抜けられそうで、よかったね。」

そう話す彼女の顔には、圧し掛かっていた不安が少しだけでも取り払われていたようだった。


本当、助かったよ。


そう呟いて、窓の先から観えたモノを、落ち着いた気持ちで待ち構える。

猛スピードで駆け抜けながら、太陽のひかりを弾くような、赤に染まった一台の車を。


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