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CRON:     この恩義、ワタシの力は光の為に。

――どうか、どうかあの子たちをよろしくね。

 古びた洋館を背にして――対峙している緑髪の男を睨む。

ニヤリと笑っている男を見て、背にある洋館にいるであろう二人を守ると拳を握る。

――いつかの記憶を拳に込めて。


もうずっとずっと昔の話だ。暗くジメジメとした、錆びた檻上の部屋の中で、

ワタシは拷問を受けていた。なんでそうなったのかは覚えていない。


視界の中にあったのは4人くらいの筋肉隆々な男たちと、

鉄の先に悠々とした表情をしながら散らばった数枚の書類を眺め笑う小太りの男。

その奥には階段のようなモノがみえる。


視線を落とすと、腹部には焼き印。血液をポタポタとこぼしながら、

ワタシはこの拷問が早く終わってくれることを願っていた。

だが、殴られ叩かれ投げ飛ばされても、終わることはなく。


自分の額から流れ落ちる血で右眼、視界が紅色に染まった後、

まだ節々が痛みながらも周りが把握できる左眼に向かって、

小さな刃物を近づける男たちの姿があった。


もう散々痛みと恐怖の中に浸っているのだから、

今更怖がるわけはないとたかを括っていたのかもしれない。

現実は非常に残酷なモノで、切り付けられた時、

瞬間的に瞼を閉じたものの痛みはあっけなく訪れて。


我慢しようと思っていた声ですら、自らの意志とは裏腹に。

アアアアと喉を無理焼き絞られているような声が自らの身体を経て外へと吐き出される。


襲ってくる痛みに身体がいう事を聞かず、身体は倒れ、顔は下を向いてしまっている。

それでも、眼を開いた。いつもと変わらない汚れたコンクリートのような石のような薄黒い床。

急速に霞んでいく左の視界、流れてくる、染められていくあかい赤いワタシの左側。


やがて、ワタシ自身に諦めるように身体が説得しているかのように、

両目が鉄の匂いをした赤色に染まった時、唐突に彼らの話している内容が耳に入ってきて、思い出した。

まるでこれで最期なのだから、自らを憐れんで死んでいけと言わんばかりに。


ワタシは作り物なのだと、柔らかに、温かにすべてを包んでおられた聖女を攫い、

逃げ死んだ男のクローンなのだと。

そんなことを言っていた。

ワタシに向かって放たれた言葉ではない。

男たちが呆れを含んで互いに話をしていた内容だった。


だからワタシにはそもそも生きる価値も路もなかったのだと。

そう思った。だからこそ今までどうやって生きていたかの記憶も消え落ちてしまっているんだと。


――悔しかった。

男たちの言う通り、ワタシとしての人生なんて、

最初からなかったのかもしれないと感じてしまったから。


ぽっかりと身体の中が空洞になったような感覚を覚えた。

辺りはざらついたように見えながら、灰のような色に染まっていて。


何が起こっているのかわからない。

けれど、これが死に際の景色なのかと思って、嗚呼。

所詮こんなものだったか。


やけに耳に響くコツコツとした、足音がこっちに向かってくる。


できることなら、真っ白な雲と、汗を拭う程に温かな陽を浴びて見たかった。

できることなら、しゃしんでもいいから、

ひとめあいたかった――――あの娘たち、そして「ベレイアさま。」


発砲音が一つ響いた――痛みはない。

カラカラと何かが落ちる音がした。


発砲音が二つ響いた――まだ痛みはない。

カラカラと何かが落ちる音がした。


発砲音が三つ響いた。

痛みが来ない――カラカラと何かが足元に転がる音がした。


ゆっくりと眼を開くと、初めてみる被り物、帽子付きの厚い上着を身に着けている誰かが、

小銃をゆっくりと懐にしまいこんでいて。


辺りには、倒れ込んでいる男たちの姿があった。


なんだか、とても怖くなった。

先ほどまでは、死ぬ覚悟が出来ていたはずなのに。


後姿しか見えなかった誰かがゆっくりと振り向いて、

こちらに向かってくる――――怖い、こわい。


やがて、ワタシの眼の前に来た。

ああ、覚悟をきめたはずなのに、ワタシはなんて哀れなんだろう。

きっと、眼の前にきたこの人も、ワタシを愚かだと、笑うのかもしれない。


やがて、眼の前のヒトは、被っていたものを外して、

「ベレイアさんじゃなくてすまない、遅れてしまった。早速だが……キミを雇いに来たんだ。」

そう、口にして。彼の眼は、左右が様々な色に揺れていて。


何のことだかよくわからない、彼はいまなんと言った??

呆然としているワタシに向かって、彼は気にすることもなく自らの着ていた厚い上着をワタシにかけた。


「薄着過ぎてもいけないし、そろそろ、来るはずだからなあ……とりあえずコレを着ていてくれ!! 」

何が……起こっているのか。理解が追いつかないままに、奥の階段から急いで降りてくる音がする。

ヒトが階段を降りきる前に、絹糸のような真っ白な髪が、チラりと見えて。


――あれは、まさか。

息を飲んだ。まさか、そんなことがあるのかと。


階段を降りきったヒトは、はあはあと肩で息をしながら、

ムッとしたようにこちらに眼を向けて。

「ルヴァイン……先走りすぎ、だよ。」そんなことを口にしてこちらに向かって歩いてくる。


――わからない、わからないがこの感覚は覚えがある。

この、込み上げるように嬉しい気持ちは。


先ほどよりも呆気に取られているワタシに向かって、

眼前にいるルヴァインと呼ばれた男性は、

「急がないと死んじゃうところだっただろう……。」と向かいの女性に話しながら、

ワタシの眼をみて言葉を紡いだ。

「役者がそろったところで自己紹介をしよう。オレはルヴァイン。そして、彼女はカルミア。

ベレイアではないけれど、オレら二人が君の雇い主になる。よろしくな、カツラギ。」と。

二人に差し出された手を、感情が追いつかないままに、握った。


その瞬間、理解した。

ああ、そうか。ワタシは、生きていていいのか。

クズキのクローンではなく、別人のカツラギとして、この二人の傍で。



砂風が流れている荒野――――悪いけどテメエじゃ俺に勝てねえよ。

そんなことをいう緑髪の男はいつでも、拳を振るえる様でニヤりとした表情を崩さない。


後ろには洋館、そして中にいるであろう二人の事を考える。

――なら、ワタシが負けるわけにはいかない。

「残念ながら、ワタシも君に負ける気はないです。

如何にあなたがどんなモノであろうと、ワタシは退くわけにはいきませんし、

倒れるわけにもいきません。」


ワタシの言葉を聞いて、対峙している緑髪の男がこちらに向かって走りだした。


何故なら、二人が居るからだ。

どれだけ返してもかえしたりない程のモノ。

そんな日々と幸せをワタシにくれた。


紛い物ともしれない、このワタシに。

ならば――――当然。


「この恩義、ワタシの力は(ふたり)の為にあるのだから。」

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