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恋する白

一番最初に投稿していた『規格外の魔法構築士』の改訂版です。

改訂といっても内容に変更はありません。



 私、白凪由紀しらなぎゆきは恋してます。

 それがいつからなのかはよくわからない。気がついたらあの人の事を好きになっていた。

 でも、この気持を伝えようとは思っていなかった。だって、私とあの人とでは釣り合わないから。

 

 小さい頃、髪の色と容姿でいじめられていた事がある。自分の髪の色や顔を見たくなくていじめられて以来鏡を見ないようにしている。

 大きくなるにつれ髪の色でいじめられることはなくなり、顔を隠すように前髪を伸ばし、少しでも印象を変えるために度の入っていない眼鏡を掛けている。

 それによってただの暗い地味な子というポジションにつきいじめられることはなくなった。


 そんな私に比べてあの人は簡単に言うならば容姿端麗。

 学校内だけでなく、学校外、更に言うならば社会人の人からも告白される程であり、一目見てしまうと目が釘付けになる。


「ねね、黒舞くろまいさん。今朝も告白断ってたみたいだけど、もしかして既に付き合ってる人とか居るの?」


 朝のHRホームルームが終わって担任の教師が教室から出て行った後、クラスメイトの女子があの人、黒舞さんに話しかけていた。


「ううん、いないけどどうしたの?」


 黒舞さんは本当によく告白される。数十回以上されているはずだけれど、その全てを断っている。


 黒舞さん程ではないにしても容姿端麗で異性からよく告白されている人から告白された時もその場で迷うこと無く断ったというのはこの学校の生徒なら誰でも知っている話だ。


「じゃあ今まで告白してきた人以外に気になる人がいるとか……?」

「うーん……、そんな感じ、かな?」


 先ほどと同じクラスメイトに聞かれた事に黒舞さんが答えた瞬間、男女関係なくクラス中から様々な声が上がる。

 

 そうなんだ、好きな人いるんだ。


 その相手がこんな私というのは有り得ない。つまり失恋。


 でも、私の願いがかなわないことは――、失恋することは元からわかっていたこと。

 どうせなら黒舞さんにはその気になっている人と両思いにでもなって幸せになってほしいかな。あ、でも二人で仲良くしている所見たらちょっと泣きそう。


 そうそう、黒舞さんはこんな感じでよくモテるのに同性からの妬みとかは特にない。

 これは私の推測でしかないけれど、恐らく黒舞さんのレベルが高すぎて嫉妬を通り越してるんだと思う。それに加えて性格の良さもあるかな。

 なので男女関わらず受けがよく、更に言うならば教師からの受けも良い。


 他にも黒舞さんは成績優秀で頭も良い。テストでは必ず上位一桁に名前が入るほどに。


 数学の時間に黒舞さんが当てられた時。

「これは今日の応用で来年習うやつなんだが、誰か解ける奴……、黒舞。お前やってみろ」

「はい」


 私にとっては今日習った基本すら危ういというのに、黒舞さんその応用問題の答えをすらすらと黒板に書いていく。


「おっ、正解だ。流石学年一の優等生、黒舞ツキハってか。他の人も黒舞までとは言わないが、せめて習ったことくらいはできるようになれよ。特にお前だ、お前」


 数学教師は私の方へ指をさしながら言ってきたため、振り返って後ろの人を見るが、私の後ろには黒舞さん程ではないにしろ勉強ができる人しかいない。


「白凪、お前だ、お前。」


 その後、運がいいのかタイミングよく授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 容姿端麗に成績優秀。これだけではない。例えば体育の時間では――――


「黒舞さんっ!」


 一人のクラスメイトが黒舞さんにパスを出した。

 黒舞さんは敵チームの妨害をものともせずパスを受け取ると、その場からシュート。

 距離にして十メートルより少し短いくらい、八メートルくらいか。その距離からシュートを打ち、見事決めた。


 他にも何か護身術として何か習ってるみたいで、不審者に襲われた時は自力で撃退したとか。

 そういえば去年の体育祭のリレーでは最下位でバトンを受け取って逆転一位でゴールしてたっけ。


 こんな感じで運動も抜群である。


 音楽の時間ではプロの歌手並みの上手さで同じ歌を歌っているはずなのに、まるで違う歌を歌っているんじゃないかと思うほどすごかった。

 ピアノも弾けるみたいで、校歌の伴奏とかもしてたのを見たことがある。

 

 これは私が実際に見たわけではなく、聞いた話になるけど、料理や裁縫もできるみたい。


 あとオタクで地味な私にも優しく接してくれて話しかけてくれるところもすごいと思う。

 学校の用事以外で話しかけてくる人なんて黒舞さんいれて三人くらいだし。


 黒舞さんを一言で表すなら完璧人間というのが合っていると思う。


 それに対し私は言うまでもなく、小さい頃にいじめられるような容姿に成績は微妙、運動は平均並み。ピアノとか楽器は一切弾けないし料理や裁縫はほとんどしないけど得意ではない。そしてアニメやゲーム好きのオタクの地味な子。


 考えるまでもない、釣り合わない。


 これだけでも私にとって大きすぎる困難の壁だけれど、もっと大きい壁がある。


 私は女の子、彼女も女の子。



同姓愛も最近は一つのジャンルとして一般進出し始めているけれど、それは二次元での話。

 現実の同性愛は未だに社会に受け入れられていないし、敬遠や嫌悪されがちだ。


 同性愛の何が悪いの?

 なんて事を実際に言えたらどれだけいいか……。


 実際に言おうものなら――

 同性愛者と他の人に知られてしまえば――

 またいじめられるかもしれない。


 そんな風に考えてしまう。

 今は無害な空気も言おうものなら、知られてしまえばそれは有毒な毒ガスになるだろうと。


 もし黒舞さんに思いを告げて、黒舞さんにきつい言葉を言われようものなら私は多分立ち直れない。

 

 それなら今のまま現状維持がいい。現在のたまに少し話すだけで……。

 

 黒舞さんとは違う中学校出身で、高校に入ってから初めて出会った。入学してから少し前までは授業中は寝てばかりだったけれど、最近は寝る代わりに黒舞さんを後ろの席から眺めるようになった。

 当然誰にも気づかれないように最新の注意を払って、だけど。

 寝るか眺めるかのどちらかである私はテストの出来はあまり良くない。それも当然だろう、授業の話を聞き流しているのだから。


 

 気がつけば四時限目の授業は終わっており、周囲のクラスメイトは仲の良い人で集まってわいわいと駄弁りながら弁当箱を広げ昼休憩に入っていた。

 私はいつものメンバーがどこにいるか教室内を見渡し、教室の後ろの方で集まっているのを見つけた。カバンから弁当と水筒を取り出していつものメンバーである二人の元に向かった。


「何か考えていたみたいだったからそっとしておいたけれど、何かあったの?」


 一口お茶を飲んだ後、水筒のコップを片手に持って気にかけてくれている子は双六すごろくかな。カナは私やもう一人のいつものメンバーのようにアニメやゲームのオタクとかではないけれど、何故か私によく話しかけてきてくれて相談に乗ってくれたり、助けてくれたり、一緒に居てくれる基調で大切な友人。

 ちなみに本人は否定しているけれど可愛い。といっても私にとって一番かわいいのは黒舞さんだけどね。


「ううん、何かあったとかじゃなくて、ただ考えていただけだから大丈夫」

「何かあったら言ってください。いつでも力になりますからっ!」


 力強くそう言い放ったのはもう一人のいつものメンバー、持永もちなが一心いっしん。所謂オタクで見た目は簡単に言うならばデブメガネ。けど、ただのデブメガネじゃない。一心は気配りもできるし、優しい上に頼れる奴だ。


「うん、ありがと」


 この二人が私にとってのいつものメンバー。


 誰も使っていない近くの席を動かし、二人の机とつなげ、その上に弁当を広げる。


「いただきます」




 弁当を食べ終えた後、私たちは駄弁りタイムに入っていた。

「白凪さんは『百合時間リリィタイム』の最新話はもう見ました?」


 『百合時間』という名のアニメは所謂百合アニメと言われるジャンルであり、私と一心の間では一番話題のアニメだ。

 そういえば昨日が放送日だっけ。昨日はネット友達に報酬出すから助っ人に来てくれと呼ばれて、そのオンラインゲームを一日中していたため、見ていない。


「ごめん、まだ見てないや。一心的には最新話どうだった?」


 確か前回の話でついに主人公の女の子がヒロインの女の子に告白、と思いきやその直前で終わっていたはずだから、多分最新話で告白してるはず。

 つまりものすごく気になる状況ってこと。


「予想を裏切られました。いい意味で、です」

「おおー、それは気になるね」


 一心がこれほど高評価をつけるというのは珍しい。文句は言わないが、そこまで褒めちぎることもしない。

 これは今日家に帰ったらすぐに見ないとね。


 アニメの話が一段落した頃を見計らって、カナが話の輪に入ってくる。


「アニメの話はいいとして、あなた達そろそろ一学期中間テストなのだけれど、勉強の方は大丈夫なのかしら? 特にユキは明日数学当たるでしょう?」

「い、いや、それは……。ねぇ一心?」

「えぇ、是非双六さんのお力を貸していただきたいと……」


 一心がそこまで言った後、同じタイミングで「お願いしますっ、助けてください!」と言って頭を下げる。

 私と一心のテスト結果の順位は下から数えたほうが早い。そしてカナは黒舞さんと順位争いをする程のレベルである。


「はぁ……、そうなると思っていたわ。いつも一回くらい見捨てて痛い目見てもらおうと思っているのだけれど、どうしてできないのかしら? まるであなた達呪われた装備みたいね」

「うぅ……」


 確かに、テストのたびにこんなことになっていたらそう思うのも仕方がないかな……?


「取り敢えず、ユキは今日家に帰ったら明日数学で当たる範囲を一通り声に出して読んできなさい。その後に公式を十回は書くこと。そしたら明日の朝と昼休みに当てられても大丈夫なようにしてあげるわ」

「……はーい」


 仲良くなった最初の頃はちゃんと予習してきなさいって感じだったんだけれど、いつからか取り敢えず教科書に目を通すこと、どんな問題、公式があるのか知ることって言われるようになったんだよね。


 やらなきゃとは思ってはいても、いざ家に帰り着くと忘れてたり、やる気が出なかったりで中々難しい。

 でも今日こそやろう、頑張ろう……。


「白凪さん、ちょっといいかな?」


 突然後ろから声を掛けられる。

 この綺麗で凛々しさを持った声は――。

 頭の中に一人の姿が思い浮かび、振り返ってみると、予想通り黒舞さんが立っていた。


「どうしたの?」


 想い人である黒舞さんに話しかけられたことへの嬉しさや驚き等で内なる私は混乱状態に陥っているが、何とか内側に押しこめ表側には一切出さないようにする。

 普通に、何気ない会話のように何とか答えることが出来た、と思う。


「この前借りたDVD何だけどさ、続きが気になっちゃって。良かったら今日の放課後白凪さんの家に寄って続き借りてもいいかな……?」

「もちろんっ。良かったら見た感想とか教えてほしいな」


 数日前、何の脈絡もなく突然とあるアニメのDVDを貸して欲しいって言われた時はものすごく驚いた。

そして続きを見たいって言われた時は嬉しかった。私の大好きなアニメを虐げたりせずに認めてくれたんだって。

でも、ちょっと不思議に思ってしまう。私の勝手な想像だけど、黒舞さんはアニメとか興味ないだろうと思っていたのに、何がきっかけで興味を持ったんだろうって。


 でも、そのおかげで今後も黒舞さんとお喋りできる上に、私の家にある意味遊びに来てくれるってことだよね……?


「ありがとっ! 感想かー、まずは――――」


 その後いつものメンバーに黒舞さんを加えた五人で昼休みが終わるまで話し続けた。


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