白の王女、決意する
わたしは気付いてしまいました。 どうやらここ、乙女ゲームの世界らしいです。
初めましてで突然、何を言っている、と思う人もいただろう。だが、ここは何も言わずに聞いてくれ。
まずはわたしの自己紹介をしよう。
わたしはセレスティア・マジェリスタ。
王家の血を引く王妃の忘れ形見であり、ここ数十年、直系の血を引く者が呪いを思わせる如く女性続きだった結果、現在はマジェリスタ王国王家、直系の血を引く最後の一人である第一王女だ。
プラチナブロンドの髪に、灰色の瞳を持つ、齢八歳の美しく可憐な美少女である。
そんなわたしは周囲から、呪われた白の王女だと、陰で蔑み嫌われていたりする。
理由と言えば、その容姿だ。
プラチナブロンドとは、はっきり言ってしまえば白髪である。灰色の瞳も同じ白。肌色も異常に白い。
はっきり言って、わたしは色素がないのでは? と思える程に真っ白なのである。
瞳も髪も肌も、しっかりと色付いているのが普通である、カラフルなこの世界では、わたしはとても異質に映るらしい。
しかも、産まれ付いて体が弱く、わたしを産むと共に亡くなった正妃同様、王家直系の存続が懸かった王女なのだから、人の目は自然と集まる訳で、わたしは初見から呪われた王女に祭り上げられたのだ。
それだけで済めば良かったが、どうやら神様はわたしに悪く目立て、と後押ししているらしい。
この世界には魔法がある。
先天的に体内に宿している六属性、火、水、風、土、 雷、光の魔力を駆使することだ。
一人につき属性は一つ。この魔法大国と呼ばれる国では十中八九、貴族の血筋に宿る。量はそれぞれで、生まれ付いてから増えることはない。
六属性と言いながら、実際は五属性と言っても過言でなく、光は他よりずば抜けて稀少で十年の一人の確率だ。
近年、魔力を開花させたわたしは、実はその光属性の魔力保持者だった。
だが、せいぜい掠り傷一つ治すのが限界と言う、ないに等しい量である。
それは当然のごとく、わたしをさらに悪目立ちさせた。
そのお陰で、わたしは容姿と光魔法から、呪われた白の王女と呼ばれ、裏で貶される始末なのである。
だが、最後の王家直系の血で未来の王妃だけあり、わたしと異母兄に当たる我が子に、禁止はされていないが、決して好まれてはいない近親相姦上等で、婚姻を結ばせて、我が子を未来の王にしようともくろむ側妃達や、王家の直系の血が絶えることを防ぎたい周囲に、とても大事にされて来た。
とはいえ、産まれた時から、前世の男子高校生だった記憶が朧気にあったわたしは、周囲が自分を蔑んでいることに気付き、王位にも興味がなく、全てを拒否して引き籠もり生活をもう三年もしていた。
そんなわたしはついさっき、本棚から本を取り出す時に足を滑らせて、思いっきり本棚の角に頭をぶつけてしまったのである。
痛かった。物凄く痛かった。だが、それどころではなかった。
頭の中に顔も性格も思い出せない幼なじみ達から聞かされていた、と思われる乙女ゲームの記憶だけが、鮮明に蘇って来たのである。
同時に、その乙女ゲームのキャラクターや世界観が、この世界と似通っていることにも気が付いてしまったのだ。
幸い、自室に引き籠もっていて、呼ぶまで誰も入れるな、と言っているので、冷静に考える時間はいくらでもあった。
わたしはズキズキする痛みを耐えながら、ゲーム内容を出来るだけ鮮明に確認した。
[happyendをその手に]
それが、ゲームの名だ。舞台は中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界。
庶民にして強大な光属性を身に宿したヒロインは、貴族の令息令嬢の巣窟であり、十五歳の魔力保持者が強制的に通うことが決まっている学園に、場違い承知の上で通うことになる。
そして、ヒロインはある絶対的な悪を前に、持ち前に正義感と元気を武器に、攻略対象の五人の王子達を奮い立たせ、その悪に共に立ち向かうのである。
お分かりだろうが、その絶対的な悪と言うのが、白の王女、セレスティア・マジェリスタ。現在のわたしだ。
セレスティアは幼い頃から、自身が蔑まれていることを知っていた。
ついでに、五人の王子を始めとした誰もが、自分に逆らえないことを理解していたのだ。
彼女は心根から悪役だった。
五人の王子に婚約者の座をひけらかしちやほやさせ、周囲の人間達を見下し道具の様に扱い、気に食わない相手は周囲を使っていじめ抜き、最後には全てを奪い尽くした。
そんな十五年間を過ごし、絶対的な女王として君臨していた彼女は、光属性の魔力量の差から、ヒロインに出会う前から深い嫉妬を抱いていた。
それにより、セレスティアはこれでもかと言う程、ヒロインに犯罪紛いな嫌がらせを繰り返した。
ヒロインを庇った王子達にも、罰として酷い仕打ちをした。
周囲の人間は彼女に逆らえず、ヒロインが気に食わない思いもあり従い続けた。
そんな状態でも、諦めないヒロインの正義感と強さに惹かれ、王子達や周囲も立ち上がり始める。
ハッピーエンドではヒロインと攻略した王子、ノーマルエンドとトゥルーエンドではヒロインと王子達の手によって糾弾され、セレスティアは王家に子孫を残す道具とされ、王城の地下牢に永住する、と言う終わりを迎える。
バッドエンドでは王子達に殺されて確実に死亡。王子達は責任を取らされて身分剥奪後に処刑台行きだ。
そう、救いようがないのだ。
どのルートだろうと、悪役であるセレスティアの未来はバッドエンドだらけ。
白の王女とか言われながら、その先の未来は白も光もない暗闇まっしぐらなのである。
確かに、セレスティアの自業自得だったかもしれない。
けれど、周囲も周囲だ。
一人くらい、セレスティアを一人の人間としてみて、ちゃんと向き合ってやれば、彼女もああはならなかったと思う。
まぁ、決まっているゲームの結末を議論してもきりがないし、仕方がない。
わたしと言うイレギュラーによって、物語は既に変わってしまっている。
つまり、ここは極似世界に過ぎず、いくらでも未来は変えられるのだ。
同時に、ゲームの結末や設定は例に過ぎず、宛てにならないに等しいから、あまり気にしなくて良いだろう。 だが……
「このままじゃ不味いですよね……」
ポツリと呟いたわたしは、思わずため息を零した。
引き籠もり生活はいつまでも続かない。
魔力が目覚めた以上、よっぽどの異常事態でない限り、学園には絶対に通うことになる。
それはまだ良いが、十八までに婚姻を結ばなければ、子孫を残す為の道具としてだけの生活を強いられる可能性がある。
つまり、このままでもわたしはバッドエンドだ。
いや、別に子供を産みたくない訳ではない。
だって、わたしが子どもを産まなければ、王家の血が途絶える。
王家直系の血が途絶えれば、ただでさえ現状も泥沼なのだ。王族は荒れに荒れるだろう。
そんなことになれば、国崩壊の可能性も出て来る訳で、そんなことを放って置ける訳もない。
子どもくらい、何人でも産んで上げよう。
でも、地下牢行きはごめんだ。後、死ぬのも嫌だ。
そして、国崩壊も避けたいところだ。
だが、子どもを産めばいい、とかの単純な話ではない。
何せ、先程も言った様に、わたしの夫が次の王であり、それを狙う存在が既に、五人もいるのである。
実際は、母親の命令で本人の意思ではないとは言え、いや、だからこそ、下手に選んでも国が荒れるのは目に見える。
同時に、親や大人の言いなり状態の五人の中から一人選んでも、禄な未来を期待できない。
かと言って、他に宛はない。
子どもを産むとなれば、わたしはこの国に残ることになる。絶対に巻き込まれる。
そんなことはごめんだ。
いっそのこと、自分が女王として君臨する、または、五人を教育して大人達の呪縛から解放し、わたしは子どもを産んだ後は、国を彼らに任せるべきである。
少なくとも、今の王族を野放しには出来ない。
わたしが生きる為にも、国を崩壊させない為にも、一つに纏めなければ行けない。
それが、王女として産まれた、わたしの使命であり生きる術だ。
まずは、わたし自身が女王になっても良い様に、王妃としての実力を持たなければならない。
そんな強い決意をしたわたしは、もう何年も出ていなかった部屋の外に繋がる扉に、そっと視線を向けたのだった。




