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天国を読む少女たち

 


同じ三題で時間制限なし、ジャンル指定「学園もの」を加味した結果です。


 

 

 その学園は中高一貫の私立校。ハイセンスな制服と高学力、派手な文化祭と華やかな体育祭がウリである。高校から入学するのはあらゆる点で――嫌味なほど難しい入学試験と面接に、仮に受かったとしてもほとんどが持ち上がり組という居心地の悪さを鑑みれば、当然ではあるのだが――難しいことであって、入ってくる者はいない。いない、と断言できるのは、事実この十数年間において高校から編入してきた者=零、というデータが存在するからである。

 そう、すでにお察しのことと思うが、この不文律は破られた。異端児は簡単に特定されて、情報はどこからともなく――おおかた役員の子供を伝って情報漏洩がまかり通ったのであろう――流れてきた。

 渡瀬 静紀

 正直な感想としては、微妙に発音しにくい名前である、ということだった。その上性別もいまいち掴みづらい。皆は皆揃いも揃って、男か、女か、どうしてわざわざ編入してきたのか、イケメンか、美人か、等など、高度な発展を遂げたメディアを媒介して議論を沸騰させ、年齢性別まったくの無関係デスマッチを引き起こし、入学式――という名の始業式――の時にはもう、その名は全校生徒の知るところとなっていたのである。

 そうして、今―――

 ―――彼女は私の隣で、黙々と読書に励んでいた。

 端的に言おう。彼女は美人だった。

 不文律を破り、掟を無視し、自由な自分で振る舞えるのは強者の証である、と私は常々思っていた。彼女はまさにそういう人物であった。

 完全アウェイの空間の中で自分専用の異次元を作り出し、延々と書物を繰る、繰る、繰る・・・。引きも切らぬ見物客などガン無視である。黒曜石のごとく煌めく双眸には、美しい文字列しか映っていないに違いない。私たちのことなど見事に、アウト・オブ・ガンチュウしている。強い。強すぎる。最強だ。時の流れが違うようにすら見える。賑やかで騒がしい私たちの横で、一人だけ静かな時の流れを享受しているような―――

 不意に彼女がこちらを見たので、私は反射的に窓から飛び降りた。いや、飛び降りてはいない。気分的にはハリウッドのアクションスターのように身一つでガラスを突き破って三階から飛び降りていたのだが、実際にはただただ彫像と化して彼女の視線に刺されただけなのであった。

 あ、や、まずった、見つめすぎたか。

 彼女は私に視線を突き刺したまま、静かに本を閉じた。動作まで静かだとは、素晴らしすぎるスペックである。静かな世界に生きる人はそういう風になるものなのか、いやはや、私には到底無理そうである。無意味に頭を働かせながら、私は息を殺して、彼女の視線が逸れるのを待った。ごめんなさい無理です。強すぎる瞳に耐えかねて私の方が目を逸らす。彼女が机の上に置いた本のタイトルが目に入った。それは『天国』だった。なんだろう、死にたいのかな、と縁起でもないことを咄嗟に考えてしまって罪悪感に唾を飲む。

「ねぇ。」

「はっ、はい?」

 如何致しましたか、お嬢様―――と脳内で続ける。随分おどおどした執事だな、と我ながら思った。

「貴女は、地元の子よね。」

 かろうじて疑問形、といった、ほぼ断定口調の問いかけだった。

「え、ええ、そうですけど・・・。」

「今日の放課後、暇かしら。」

 かろうじて以下略、再び。暇でなくても暇だと言わざるを得ないような威圧感を勝手に感じて――まぁ元々暇だったんだけどね――私は頷いた。

 彼女は満足そうにゆったりと瞬きをして、「なら、少し案内してくれる? 行きたいところがあるのだけれど、住所だけでは分からないの。」と言った。

「はぁ・・・そうですか。分かりました。じゃあ放課後・・・。」

「えぇ、よろしく。」

「こちらこそ・・・。」

 何が『こちらこそ』なのか言った私にも分からなかった。

 用を終えた彼女はあっさりこちらをシャットアウトして、『天国』に手を伸ばす。私は何を思ったのか、彼女に問いかけてみた。

「その本、面白いですか?」

 返答には期待していなかったどころか無視されることを承知の上で言ったものだから、「まぁまぁね。暇潰しとしては悪くないわ。」と涼しげな声が返ってきた事には正直驚いたというか驚きを通り越してテンション急上昇。わっふい。

 だらしなく頬を緩めて身勝手な喜びに胸を躍らせていると、彼女の氷の視線が再びこちらを向いた。え、何だろう。本の解説でもしてくれるのかな。一気に距離詰めちゃう感じ? 願ってないけど叶ったりっていうか、受けて立とうっていうか、何にせよ――

「うるさい。静かにして頂戴。」

「・・・はい、すみませんでした。」

 ――テンション急下降。

 私は何故か酷く落ち込んで、大人しく前を向いた。

 後々このことを思い返してみると、私はこの間――胸を躍らせていた間――一言たりとも喋っておらず、どうして『うるさい』と言われなくてはならないのかまったく不可解であったのだが、その疑問に辿り着いた頃には既に、疑問は氷解していたのである。

 こうして、彼女のお使いに付き合うことになり、それが私の青春を狂わせていくのだが、ただひたすら落ち込んで窓の外の蒼天にしょぼくれた顔を見せつけている今の私には分かり得ないことなのであった。

 

 


いい加減、長編小説の導入みたくなる癖を直したいものです。


お読みくださいまして、ありがとうございました。


 

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