0-0 キャラ・メイキング
額に縦皺を寄せるような小説を書きながら、縦皺のない小説を書こうと思いました。
縦皺を寄せるような小説を書くガス抜きです。
俺はその日、色々なことが重なってイヤになっていた。
朝は目覚まし時計が電池切れで鳴らなかった。
炊飯器の予約を午前と午後を間違えていたためか炊けていなかった。
パンを食べようとしたらカビていた。
朝シャンしようとしたらシャンプーが切れていた。
遅刻しそうになって駅に向かい、ホームに入ったと同時に電車は出発。
一本後の電車で行ったら、人身事故で閉じ込められ、結局1時間遅刻。遅延証明があっても減給だそうだ。
一時間遅れて仕事に取り掛かったが、昼前に客先から電話がかかり、愚にもつかない(などと社会人が言ってはいけないな。お客様は神様だ。多分に貧乏神だが)クレームの相手をしていたら一時を回った。昼休みなんてなかった。
朝、昼と連続でとれなかったのに、17時から急遽会議とかで呼び出された。内容は今度の仕事の打ち合わせ兼部長のゴルフコンペの自慢話。比率からすれば1対9位で、勿論9が自慢話だ。100を切ったとか、ルールを知らないから上手いのかよくわからん。終わったら20時を越えていた。会議で決まったこと? 決まるんだったらこんなに時間がかかるわけない。
会議を終えて、課長補佐が一言「この仕事を明日の朝一までな」。自分の仕事を丸投げしやがった。
会社から出ると警備の関係上、この時間では戻れないし、資料の持ち出しの関係上、会社でしか出来ない。勿論出前なんてない。つまり、終わるまで食事抜き。カバンの中に飴があったのを思い出して何とか糖分を補給しなければ危なかった。
同僚? 会議終了と同時に上手いこと逃げた。朝の一時間の遅れさえなければ、俺も逃げれたはずなんだがね。
それでも何とか終電前に終わらせようと頑張って、23時30分過ぎに会社を出た。近道を走ればギリギリ間に合うはずだ。……近道にタムロしている集団あり。何が「おかねかしてくんねぇー」だ。
無視して駆け抜けようとして、一人に捉まり、何かで頭を殴られた。暗転。
気が付くと、なんだか白いところにいた。頭の痛みはなかった。起き上がると特に痛みもない。
「あう、気がついたのれす」
目の前に少女が一人立っていた。10代前半に見えるが、それにしては舌足らずだ。ここはどこだ?
「ここはびよいんではないのれす。てんかいなのれす。あ、れも、しんでないのであんしんなのれす」
……
「とりあえず、私はかみさまなのれす。信じるものはすくわれるなのれす」
足元をな。
「あしもとれはないのれす。ちゃんとすくうれす」
……あれ? 何も言っていないのに通じている?
「なにもいわなくてもかみさまにはすべておみとーしなのれす。でもこころをよむのはつかれるのれ、こえをだしてほしいなのれす」
「とりあえず、お名前は?」
「あう、こどもあつかいするななのれす。グラス世界の八柱の神の一人、女神セトなのれす」
セト、ってエジプト神話? の男性神だった気がする。どっからどうみても幼女だが。そういえばポケットに飴がまだ残っていたのを思い出して出した。
「よしよし、さ、あめちゃんだよー」「わーい」
……うん、やっぱり幼女だ。そういう趣味はないはずなんだが、つかれているのか癒しを求めているのか、女神様ならこうなんというか、出るところが出て……
「なんかへんなことをかんがえているれす」
「で、その神様が何の用なのかな?」
「あう、あと少ししたらまぞくがふっかつするのれす。なのれ、たおさなければならないのれす」
なんかのゲームかラノベみたいな展開だ。あれ、ということはやっぱり死んでいるのか?
「生きているなのれすよ? というか、あなたはたんにコピーれすし」
はぁ? どういうこと?
「まえに生きたまま生身でこっちのせかいによびこんだら、そっちの世界の神様にとってもおこられたのれす。なのれ、したかがない? したたがない? したらない?」
「仕方がない?」
「それれす。したかがない? から、魂だけもってきたらそっちの世界れはその人は死んじゃうれす。今度そういうことしたら、ゲンコツとおやつとごはんぬきなのれす。こわいのれす。あまいものなしなのれす。うぅ」
話が進まない……。誰か大人の人でもいないのか? 全く。
と、突然後ろから、野太い男性の咳払いがした。振り返ると、皮鎧にマント、筋肉質でひげ面、スキンヘッドの男が立っていた。年の頃は40手前かその位か? なんというか、威厳がある人だ。
「すまぬな。セトの話では混乱するばかりだろう。話は本人からの方がよいと思うたによってな、任せたのだがの。我が名はトール。そなたの世界の神の一柱だ。今は姪の、その女神の目付というか後見をしておる」
今度は北欧神話の主神クラスか。その姪がエジプト神話とか、設定が滅茶苦茶だな。
「ほれ、セトや。説明をせよ。いつまでも伯父に任せておくものではない」
「あうあう」幼女=女神は今にも泣きそうなままだ。仕方がない。
「その前にトール神様。元の世界の自分は無事なんですか?」
「トールで良いぞ。元の世界のお前が無事か、か。さあてな。まだ殴られて何秒も経っておらん。兄者ならとにかく、我は未来のことは分からんよ。まぁ、お主の本体、とでもいうべきかの、本体の方の当面の安全は請け合おうし傷も治そうよ」
「元の世界に戻れるんですか?」
「戻る? さっき聞いたかもしれぬが、お前は単なるコピーだ。元の世界のお前とは、同じ情報を持つだけの別物だ。いや両方とも本物というべきか」
「こちらで何かあっても向こうには影響なし?」
「夢位は見るかも知れぬが、ま、ないな」
「断ったら……」
「単にお前を消して別の人間の魂をコピーするだけの話だ。向こうの世界のお前のコピー元が夢で断片的にみるかもしれないが、朝には思い出せなくなっているだろうよ。……と、そろそろ本題に戻ろうか。ほれセトや」
その後かなりの紆余曲折とトール神のフォローにより、概略としては
・あと何年か後から30年後にかけて一万年に一度レベルの上級魔族や魔王の復活祭りだということ。
・他の7柱の神のうち5柱の神は異世界との戦いで受けた傷により今回は戦えないこと。
・残り2柱の神の一柱は引きこもりで出てこず、もう一柱は行方不明だということ。
このくらいか。
「いくつか質問ですが」トールがよかろうとばかりに頷いたのを見て、続けて言った。
「生身の人間って上級魔族や魔王に勝てるんですか?」
「無理だな」トール神は即答である。つづいて幼女、ではなく女神セトが続けた。
「きほんてきにむりなのれす。ばんがって?(トール「頑張って」)がんばってしゅぎょーしたつおい人がなんじゅうにんもあつまってまっておいかえすれす。れもなんにんもぎせーになるから10年に1体くらいしかたおせないれす。それでもじょーきゅー魔族が死ぬことはまれなのれす。まおーは、おいかえすことすら絶対むりれす。まえにおいかえしたときは5柱の神様がおおけがをして、いまもめんかいしゃぜつれす」
……無理じゃね?
「なのれ、神様がちからをあたえるのれす。つおいのれす」
本当か? それ。怪訝な顔を見たからか、トールが横から口を出した。
「本来はほとんどやらないのだがな。いくつかの加護を与えることになる。お前らの言葉では強くてニューゲーム、か?」
「とくてんはごーかなのれす」しゅぴ、とセトが手を上げた。
「まぁず、うまれをえらべるれす。ホントならたましいがこもらないで生まれないころもを、加護でうまれさせて、そこに入るれす」
あぁ、つまり王子とか大商人の息子とか賢者の息子とか選べるのか。ん? 女もありか?
「次に、さきにさいのーをえらべるれす。ふつーはやりたいことがさいのーなかったりしてざせつとかしたりするれすけれども、さいのーがあるのはさいしょから分かっているれす。天才剣士とか天才魔道士とかかんたんにできるのれす」
なるほどね。
「さらに、めんどーなしゅぎょーは一切不要、とちゅーまでオートなのれす」
……なに? どういうこと? 怪訝な顔をしているとトールが説明を入れてきた。
「今さら赤子からやり直すのも面倒だろうし、剣でも魔法でも最初の何年かは純粋な下積みだ。才能があろうが無かろうが、つまらん。なのでな、その辺りはスキップする機能をつける。お前らの言葉でいえば、修業をしたという結果だけが残る、とかいう奴だ。ま、地道にやりたければそれでも良いがな。15歳までは任意にスキップ・オート機能をつけようということだ」
「更に更に、こんなきのーもつけちゃいます。初期ステータスをたかめにせってー。何もしなくても15さいのステータスを最低限までまでほしょー」
小中学校には特に何もやらなくても勉強できる奴がいたけれども、そんな感じか?
「しかもしかも、こんかいはつかいまとしてげんじゅーを一体、成人前におとどけ。こんだけつけて、今ならきんりてすーりょーむりょー」
……一気に胡散臭くなった。
正直な話、剣と魔法の国で神様がいて、神様から直接モノを頼まれているのだ。心が動かない訳がない。二つ返事で飛び着きたい。が、何か引っかかる。
「返事をする前にいくつか聞きたい」
よかろう、とトールが受けたので続ける。
「まず、トールというのは元々の世界の北欧神話の主神、というのは正しいか?」
肯定的にうなづいたのを見て聞いた。
「他の神も他の世界に干渉するものなのか?」
「それについては答えにくいな。ゼウス、オーディン辺りは自分の仕事が忙しかろう。我は農耕神としてあがめている地域もあるとは聞くがな、本質的には戦の神であると同時に鍛冶の神であるが、いずれもどうも仕事が極端に少なくての。特に戦の方は仕事をしないように注意しても人間が勝手に戦をしておる。おそらく似たような立ち位置の神は似たような状況で、ここではない世界で縁のある神の手伝いをしているものもおるだろうよ」
一息入れてトールは続けた。
「この世界はお主の世界から分かれた世界ゆえ、という以外は、今のところは明かすことは出来ぬ」
これ以上、トールについて聞いても無駄だろうから矛先を変えよう。
「ところでさっき、今度そういうことをしたら拳骨とかいっていたのだが」幼女=女神がおでこを抑えてあうあうという顔になる。正直可愛い。
「ということは前があったのか? 何人か同じような境遇の人間がいるのか?」
「今はいないなのれす」まだあうあうという顔のまま、幼女=女神が答えた。
「今は? かつてはいたのか?」
「ちょっとまえにひとりつれてきたれす。からだごとこっちに持ってきて、ぜんりょくの加護をありったけつけたれす。そしたら」
そしたら?
「ぱちんて」「は?」
「ぱちんてはじけて、それで血だまりができておしまいだったれす」「は?」
怪訝な顔をしているとトールが補足した。なんでも、加護をつけすぎて人間としてのキャパシティーをはるかに超える力を与えたため、破裂した、ということらしい。
「それがばれてお仕置きされたれす。れも、なにもしないわけにはいかないのれす。そのかわりにちじょーのものに天界の大斧を下ろしたれす。その大斧を振ってじょーきゅー魔族の一体を倒せたれす」
「凄いじゃないか」
「れも、振った人が干からびたれす」
「は?」
今度もトールが補足した。
「なに、草原で戦っていて強力な魔族相手に全力をふるい、単に魔力から生命力から、全て吸われただけだ。巨大な地割れを作って街一つを完全に破壊し、山を一つ崩壊させ危うく別の街にも被害が及ぶところだったがな。地上に行けば、破壊の大斧という名でどこかの神殿に封印されているはずだ」
唖然としている俺にトールはため息交じりに続けた。
「詳しくは言えんが、そういう失敗の他にも色々とあってな。仕方がないから我が、監視というか後見というか目付というか、そういう位置におる」
まぁ、察してくれ、というトールの表情に、このことについてはそれ以上何も言えなかった。
「……話をまとめましょう。つまり、強い力と加護を与えるから魔王を倒す、ということですね?」
「ちがうなのれす」「別に魔王を倒す必要はないな」
へ?
「確かに魔王を倒してくれればありがたいが、まず、無理だからな。初期の魔人数体程度は倒せるにせよ、最悪の魔王を倒すのは、それこそ主神全員の加護を全力で掛けた人間の集団でもなければ不可能だ。お主の役割はな、初期対応よ」
「初期対応、ですか?」
「物見をし、下級魔族どもや上級魔族を数体倒す。それがお前の役割だ」
難しいことはよくわからなかったが、より下級の魔族がいなかったら、最上級の魔王は復活しない構造らしい。簡単に言えば、先に下級が復活するために力が使われ、上級は復活する力が不足する、ということだということか。
因みに、魔王が復活したらその配下の残りも同時にセットで復活するんだそうだ。便利仕様だ。敵にだけは。
「あう、役割については分かったれすか。えーと、えへん、それでは返事を聞こう。諾か、応か」
両方ともイエスじゃないか。拒否権なしか。台本でもある茶番なのか、これ。
とはいえ返事をする前にもう一つだけ先に確認しなければならないことがある。報酬だ。
「あう。なにがほしいれすか」
「元の世界なら我がある程度かなえようが、あれは本質的にはお主とは別の人間だからな。本体の方に何を授けようが、お主が受け取るのは何もない」
「この世界なら、私が叶えるれす。がんばるれす。ふろーちょーじゅもできるれすよ?」
身体操作系は爆発しそうだしマジックアイテムの類は吸われそうだから止めておこう。トールになにかないかと聞いたが、彼自身はこちらの世界に手出しすることはできないとのことだ。とりあえず保留にしてもらった。
「保留にするなら今決めると言わなくても良かったのではないか?」というトールのありがたい突っ込みを受けながら、転生を承諾した。
「それれは、生まれとさいのーとステータスを決めて終わりにするれす。まずは生まれはここからえらぶれす」
1.小国の五男
2.豪商の四女
3.農家の二男
4.職人の三男
……
うん。1の王子一択。小国ってのが気にかかるけれども、王子って良いよね。
「つぎにさいのーれす。とりあえずせんとーとまほーとがくしゅーはつけるれすから、あと一つくらいはつけられるれす」
「うーん。作成系が欲しいな」
「それならさくせーをつけるなのれす」
「うん? 鍛冶とか革細工とか、細分化されていないのか?」
「さいのーなんてアバウトでよいのれす」
適当だなぁ。
「さいごに15さいのさいてーほしょーステータスで終わりなのです。サイコロ振って決めれば良いれす」
「なにをやっておるか!」流石にトールの雷が落ちた。雷神トールの名の通りリアルに雷だ。「飽きてきたからといって手を抜くな。真面目にやらぬか!」
「あうあう。わかったなのれす(トールがまた怒鳴る「分かりました、だろうが」)分かりましたなのれす」
半泣きになりながらステータス表を出す。
「あう。さいの―はもう決めてしまったから、へんこーするのはたいへんなのでそのままれす。ステータスはじまめにきめるのれす」
セト神はそうトールに言ってこちらを向いた。
「まずはさんこーにもとのからだのステータスをだしてみるれす」
力 3 耐久 5 素早さ 20 器用 25
知力 21 精神 20 魔力 30 運 12
「20がへーきんれすが30をこえるひとはめったにいないのれす」
ん? 魔力? あったのか?
「あちらの世界ではな、魔力はあるが使い道がない。お前たちの言葉で言うところの死にステータスだな」
「力や耐久がやけに低いのは?」「攻撃を受けて減った状態をそのままコピーしたからだな」トール神が説明する。
「ステータスに魅力はないのか?」
「ないれすよ? 作ってもだんせーはお金と地位でいくらでも上がるれすし、女性であればちょっと太るかやせるか化粧するかだけでゲキヘンするれすし、作ってもいみないのれす」
なんかリアルだ。
「数値に上限は?」
「ないれす。でもまえにおもしろがってまりょくをあげていったら120ちょっとでばくはつしたのれす」
イマイチ信用できない。トールに聞くと、自前で鍛えるのではなく神々が与えるのであれば全部65まで、一つだけなら100位までは問題無いらしい。
「言っておくがな、これはあくまで15歳時点の保証でな。自力で鍛えるなら200でも300でも問題ない。付け加えれば普通の人間は80位までしか上がらん。加護付きで100程度だ。ただしお主に限っては上限がない。通常は上限突破のための厳しい修行を経て上げるものだが、特典の一部だと思え」
そういえば、と思いだして女神セトに聞いてみた。
「怖くてあまり聞きたくはないが、今まで何人くらい失敗したんだ?」
「1、2、3、3の次はえーーと・・・たくさんなのれす」
ますます不安になってきた。
とりあえず安全に行こう。全部65は基本として、運と魔力は80。素早さは100。この程度なら悪影響はないとトール神が保証してくれたから、爆発して死亡はないはずだ。
「それではそろそろ地上へ行くがよい」「ばんがれーなのれす」
トールとセトの声に送られて、地上へ降りていった。
同時進行です。どちらもエタらない予定ですが、更新は不定期になるかもしれません。