それは何気無い世界の終わり
はじめての作品になります。
不慣れなもので
勢いだったりノリだったり見苦しい点が多々あると思いますがご指導、お付き合いのほどよろしくお願いします。
向上のため率直な意見,感想もお待ちしております。
それは何気無い一日のはじまりだった。
カラカラとキャリーバッグをひく仲睦まじいカップル。
口を一文字にし何か考えを巡らせているサラリーマン。
その後ろにカツカツと急ぎ足で並ぶOL。
友人とじゃれ合う男子高校生。
ジャカジャカうるさくヘッドホンから音を漏らし気だるそうにしている若者。
回らない呂律で愚痴をこぼすのは今から帰宅といった感じのスーツ姿の若い2人組。
様々な人々がひしめき合いホームを賑わせていた。
まもなく1番線に列車がー…白線のー…くださいー…
雑音の中をくぐるように届く聞慣れたアナウンス。
やや遠くから響く列車の近づく音と振動に
皆が少しばかり姿勢を整え白線へと軽く歩を進める。
そして列車が姿を表しさらに互いが近づき迎えあうように調和するー…瞬間だった。
きっと誰一人予期していなかっただろう
皆が列車に目をくれる脇をすり抜けて飛び出した一つの影。
キイィィィィィイ
まず列車が悲鳴をあげ、その直後にゴキャッ…という鈍い音が一陣の風と共に吹き抜け,ホームに静寂を広げた。
そして
呼吸をおき響き渡る悲鳴ーーー
…目を背ける時間も無かった。
我が子に覆い被さるように視界を塞いだ母親
それもすでに手遅れだったであろう。
ーーー投身自殺。
一昔前のこの国でこれは特段珍しい事では無かったらしい。
当時,人々は真っ先に交通手段が潰れた事を嘆き
朝から不愉快なモノを見てしまったと一日の幸先の悪さに息をつき肩を落とす。
そして会社への遅刻などを憂いていた。
せいぜいその程度の事でしか無かったのだ。
完全に麻痺していたのだろう。
空に虹がかかるよりもそれは珍しくなくもはや当たり前の一つとなりかけていた。
世界はその頃から…あるいはもっと前から病み始めていた。
だが,今現代の投身自殺に対する認識はまったく別物となっていた。
そもそもとして訳が違っている。
この光景を目の当たりにしたすべての人々。
その瞬間。
そのすべての人々に。
死が宣告されたのだった。
ディアブルドマクドゥーガル
21グラムの悪魔
かつて
心理学者マクドゥーガルはこう唱えた。
『人間の魂の重さは21グラム程である』
その提唱はとうの昔に科学的根拠などを理由に否定されたのだが。
それでもなお
魂に重さがあるとするならば
やはりそれは21グラムなのだろう。
そして、その21グラムとは
神が病んでしまった世界に投与した特効薬でありー
同時に人類の致死量だった。
西暦2999年ー
人類は世紀末を迎えていた。
この時点で人類は死に対しての叡智を究めていき
医科学はたどり着くところまで…いや,たどり着くべきではないところまで行っていた。
原因不明の病
それはとうの昔に死語にかわり
新型や変異型のウィルス,病原菌などはわずかな誤差というぐらいでしかなかった。
延命技術やその他諸々もすでに研究され尽くしていた。
ある教徒達はそれを善とせず
ありのままに自然のままに生きていくという戒律のもと過ごし始めたのだが
世間はそれを許さなかった。
彼等を忌み嫌い、迫害した。
つまるところ彼等が処置をしないせいで病気が蔓延していき,そしていつしか彼等そのものが病の温床であるとされたのだ。
世界は彼等を過激派組織と認定し,平和・正義の名の下に粛清していった。
やがて,世界政府は生き延びた彼等を保護という名目で山奥のある施設に隔離、幽閉した。
それはある種のサンプルとしてだったのだが,この時この世界ではそれが当たり前の決断だった。
こうして
人類は死をとことん遠ざけていった。
しかし,それは神の意志に背いていたのだろう。
それ故に死はみずから人類へと近付いていくのだった。
…きっかけは1人の研究員の死だった。
その研究所には31名の研究員が働いており
若い研究員で24歳
最年長は148歳であり幅広い年代が一丸となり研究を行っていた。
そんな中
そのうちの1人が死亡しているのが見つかった
はじめは事故か事件だと思われ,警察による捜査が行われた。
しかし,一向にそれらしき証拠も見つかりはしなかった。
それでもなお警察が捜査をするのには訳があった。
譲れない。
譲ってはいけないほどの異常な点があったのだ。
…被害者とされる研究員 ロバート・G・ネイロ。
ーーー享年42歳。
それは現代においてはまさしく異様。
死ぬにはありえない年齢だった。
全世界の平均寿命として170歳
これは平均寿命というよりはもはや共通寿命としてのものだった
しかし
ロバートの享年である42歳はその寿命の四分の一ほどで
これはこの世界では事故か事件以外あってはいけない数字だったのだ。
そんな異常事態に対する捜査もむなしく
なに一つ有力な手がかりが得られぬまま時間だけが経ち
…ロバートの死から数週間
研究所から研究員の姿は消えていた。
ーーー研究員である31名全員の死亡が確認されたのだ。