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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

真夜中の取り引き

また大人童話になりました…



しんしんと夜の闇に雪が降り積もる。


少年 あき はそとで遊ぶことなんて到底叶わないカラダ。

あきは13歳、けれどどう見たって10歳ぐらいにしか見えない。

それほどあきは、小さく細かった。


オレはガラクタだ。

ガラクタのカラダ。

生かされているだけ。


死んでいるようなものだ。




真夜中に雪が降り積もる中、

外で男の子が遊んでる。    …こんな時間に。    でもうらやましいな。



キミも遊ぼう。


オレは遊べない。

すぐに熱が出てしまうから。


僕がなんとかしてあげる。   だから一緒に遊ぼう。


本当に?


本当だよ。   僕はキミと遊びたいんだ。   あき。


縁側から中庭を覗いていた。

ガラス戸を開ければ、すぐに中庭だった。

うらやましい。

あきがそう思い、ガラス戸を開けようとすると、部屋の障子ががらりと開く。


「あきさまいけませんっ!」


そう叫んで、あきの世話係の少年 ゆい があわててあきを抱きしめた。


「いけませんよあきさま。 この雪の中、こんな格好で外になど出られたら、風邪を引いてしまいます。」


「ほら、こんなに身体を冷たくされて、部屋の中は温かいですから温まりましょう。」


ゆいはあきを抱きかかえると、そのまま障子の奥の温かい部屋へあきを連れた。


「ゆい、でもあのこが、自分がいれば大丈夫だから遊ぼうって。」


「ええ?」


ゆいはあきが指差す中庭を見てみたが、そこには誰もいないようだ。


「あきさま、誰もいませんよ? だいたいもう零時を回っていますから、あきさまも少し温まったら、休まれないと。」


ゆいはそう言うと、あきの身体を温まるように擦ってくれた。

そうしてゆいは、部屋を出て行ってしまった。

部屋にはあきひとり。



あき。  あき。


中庭の方からまた声がした。

あきが、中庭に目を向けると、さっきの男の子があきを見ていた。


遊ぼう。 あき、おいでよ。


だめだよ、やっぱりいけない。


今の奴か? 信じるな、オレといれば大丈夫なんだから。



強引に遊ぼう遊ぼうという男の子に、あきはなんだか怖くなってきた。



やっぱりダメだよ。


チッ。


その瞬間、あきは男の子にもの凄い目で睨まれた。

まるで 猫に睨まれたネズミのように、あきは怖くて、もう中庭を見ることができなくなった。


男の子は、だんだんあきに悪態を吐きはじめた。



しばらくすると、障子ががらりと開いた。


「あれ?」


ゆいは部屋へ入るなり、違和感を感じた。

部屋を出る前には付いていた暖房が消え、部屋の中がひんやりとするのだ。


「あきさま、大丈夫ですか?」


布団の上で膝を抱えて、あきはかたかたと震えていた。


「あきさまっ!」


ゆいは持ってきたトレイをあきの布団の枕元に置くと、あきを抱きしめた。

部屋は、吐く息がうっすら白く見えるほどに寒く。

あきの身体も氷のように冷たい。

ゆいはあきを抱きしめたとたん、その身体の冷たさにぶるりと身体を震わせた。


「あきさま、こんなに冷たくなって…」


この部屋のありさまはいったいどういうことなのか?

ゆいが部屋を離れたのは、ほんのわずかの間。

その間に、暖房が消えただけでこんなにも冷え込むものなのだろうか?

ゆいはそう疑問に思ったが、それよりあきを温めるのが先と、ふたたび暖房を点ける。

点けて思う。

ゆいには暖房が消えた理由がわからなかった。


「ゆい、ゆい怖い。もうどこにも行かないで。」


「どこにも行きませんよ。 あきさま、葛湯をお持ちしましたから、これを飲んで身体が温まったら、もう寝てしまいましょう。」


ゆいは抱きしめたあきの身体をさすりながら、今日は不可思議な日だと思った。


ゆいがあきを寝かしつ、その場を離れようとすると、袖を引かれた。


「ゆい、行かないで、いっしょに寝て。オレをひとりにしないで。」


「あきさま。」


ゆいの袖を引いて、すがるあきの顔が切羽詰まっていた。


「あのこだ、あのこが怒ったんだ。 オレが遊ばないから…

オレがひとりになったらあのこが来るから、だからゆい、ここにいて。」


あのこ?

さっき庭にいたという男の子だろうか?

ゆいはそう思って、もう一度中庭を覗いてみたが、やっぱりそこには誰もいない。

それでもゆいは、あきが心配なのでいっしょに眠ることにした。

ゆいがあきの布団にいっしょに潜ると、あきは安心したようにゆいに身体をぴたりと密着させた。

次の日には、もう雪は降りやんでいたけれども、その日から、来る日も来る日もそうやって、あきはゆいといっしょに寝た。




その日は夕暮れどきあたりから、急に雪が降り始め、夜にはだいぶ降り積もってきていた。

その雪があまりに急だったもので、ゆいは旦那様からの急な所用で、遅くまで駆けずり回っていた。

ゆいが所用から解放されたのは、すでに零時を回ったころだった。



いけない。と思い、ゆいはあきのもとへと急いだ。

今日は雪のせいもあり、ほんとうにいそがしく、ゆいがあきとまともに話ができたのは、いっしょに起きた朝ぐらいのものだった。

そのとき、ゆいはあきに、今日もいっしょに寝ることを約束していたのだ。

なかなかやってこないゆいに、

きっとあきさまは怒っているだろう。

ゆいはそう思っていた。

怒って先に寝てしまっていてくれればいい。

だが、あきをよく知っているゆいは、あきが寝ずに待っているはずだと思う。

だからゆいは急いでいた。



ゆいがあきの部屋へ着くと

しかし、部屋にあきの姿はなかった。


「あきさま?」


ゆいが部屋へ一歩踏み入れると、ゆいは身体をぶるりと震わせた。

寒いのだ。  部屋が。

まるで外のように。

おかしいと思い、ゆいが暖房を確認すると、やはり暖房は消えていた。

ゆいの身体がもう一度ぶるりと震えた。

いやな予感がする。

ゆいがそう思ったとき、

ひゅう~っと、冷たい風を感じた。

あわててゆいが、縁側続きのガラス戸へ目を向けると、ガラス戸の一か所が細くだが、開け放たれていた。


まさかっ!?

ゆいはそう思い、ガラス戸へ駆け寄り、そこから中庭を見やった。

外には、今もしんしんと雪が降り続いていて、ゆいが急な所用で外出したときよりも、遥かに降り積もってきていた。

そして、


「あきさまっ!!」


降り積もった雪の小山の上に、浴衣のままあきが倒れていたのだ。

ゆいが側へ寄ると、あきの身体の上にもうっすらと雪が降り積もり、あきはだいぶ冷たくなっていた。

急いでゆいは、あきの身体の雪を払った。


「あきさまっ! あきさまっ!」


ゆいの問いかけに、あきはぴくりと、わずかに反応を示した。

ゆいはほっと、胸をなでおろした。

しかし、急いであきを温めなければ。

そう思ったゆいの視界に、ふと、人の気配がした。

ゆいが気配のした方へ向くと、

屋敷の塀伝いに置いてある大きな庭石の上に、見慣れない少年がいた。






まぶたが重い。

どんなに寝ても、まどろみの中から出たくはない。

そう思いながらもあきが重いまぶたを開けると、たくさんの人たちの顔があきの目に飛び込んできた。

父も母も、そして年の離れた兄。 

執事やよくあきの面倒を見てくれる侍女、主治医もいた。

あれ?と思う。

ゆいがいない。


「ゆいは?」


あきがそう尋ねると、周りの大人たちはこぞって目を伏せた。


「えっ?」


その場を、重苦しい沈黙だけが流れた。

それを解いたのは兄だった。

目を伏せ、部が悪そうになにも言おうとしない父や母に変わって、兄は、目覚めたばかりのあきのそばへ寄ると抱きしめた。

そして、あきにしか聞こえないんじゃないか、小さな声で、


「あき…  ゆいは、亡くなったんだ。」


兄はそう言うと、あきを抱きしめる腕に力をこめた。

あきは、言われた意味を理解することが出来ずに、ただただ涙を流した。





それからすぐに、あきは兄と共に、故郷を離れていた。


故郷を離れても、ゆいのことは忘れないのに…


この身体に染みついているゆいの記憶。


抱きしめ合いふれあった。


なんども大人の秘密を、身体に、心に、かさねた。


オレがゆいに強要した。



それがいけなかった。


あのこが怒ったから。



故郷を離れるまえ、みんながひそひそ噂してた。


ゆいの死に方は普通じゃなかったって。


発見されたとき、ゆいはもう息をしていなかった。


なにも身に着けていなかった。


ゆいは雪のなかで裸で、まるで雪に犯されたかのようだったらしい


身体中に雪がみだれ、身体に中にもあらぬ中にも雪は詰まっていた。


その横でオレが、ゆいの浴衣まで包まって虫の息だった。


みんなはゆいは雪に殺された。 オレをかばって。


と、思ってる。


だから兄はオレを連れて故郷を離れた。


雪の降らないくらい暖かいこの土地に。


でもそんなことしなくたって平気だったんだよ。


もうあのこはオレの前に現れないから。


オレからゆいを奪って、満足したから。


ゆいを奪われて、おかしくなりそうだ。


あのこからゆいを奪い返したい…




ゆいがいなくなって何年も経つ。


ガラクタのオレが生きている。

すぐに死ぬはずだったんだ。

もともと長く生きられないカラダだった。

なのに今も生きている。


だから気づいた。


オレはゆいに生かされてるんだって。


ゆいが死ななかったら、死ぬのはオレだった。

バカな奴だと思う。

だって、ほっといてもオレは死んだんだ。

なのに、オレの代わりにゆいが死んだ。

バカな奴だ。


そんなバカな奴のためにオレは故郷には戻らない。

墓参りも法事も行っていない。

オレが来ないと、さみしがればいい。


そうして



はやく 迎えに来い。


いいかげん


そろそろさみしいって 思ってくれよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに大人童話でした。 悲しい物語が……「ふ」の力を感じました。
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