あきらめたジジイ
田川健三、四十三歳、文房具メーカー勤務 出世の見込み、やや低い
私は大学生から21年、会社で働いてきた。会社からの「クビ」宣告に脅かされ必死に働いた。
気がつくと40代、同僚はもちろん、後輩も結婚し妻子もち、重役や次期重役のポスト。
私は窓際の課長。妻子なし、車なし
何気なく登録した出会い系に冗談でこう書いた
愛車、フェラーリ
もちろん、真っ赤な嘘、こんな四十の男に食いつく奴はいなかった。
登録してから半年、通知が来た。
≪メールが来ました。確認してください≫
開いてみて相手のメールを読む
28歳、女性 趣味手芸 彼氏は今まで0 キスや性的なことは未経験
驚いた。それが率直な感想だった。
相手は一流企業に勤める女性だった。年齢だって離れてるし、こんなおっさんだ。
しかし、私は彼女のメールに返信した。騙されても別によかった
20代の女性とお付き合いができるなら金を取られようと殺されてもよかった。
フェラーリなんて真っ赤な嘘だった。騙されても文句が言える立場ではない。
それから彼女とは色々話した。
面白いこと、悔しいこと、懐かしいこと 何でも話した。
そして、彼女から誘いがきた。
≪今度会いませんか?≫
おそらく、彼女は私の姿をみてがっかりする。
逆にそれでも救われる。騙しているという罪の意識が消えるから。
ダメなら退会してあきらめる。
それだけである。
私は彼女に会うことにした。
≪43のジジイだけど、本当にいいの?時間取らしちゃって・・・≫
最後の確認だ。
≪いいですよ。じゃあ日曜日に○○駅の西口で、私は赤いチェックの上着着てます≫
最後の恋だった。
すぐに終わると思った。
約束の日、
怖かった。
すぐに終わるとは思っていたが会うとなるとがっかりするであろう彼女の顔が・・・・
駅の出口にいくと彼女はすぐ会えた。
セミロングの黒い髪、かわいらしい顔、とても自分とは不釣合いだった。
私の顔をみてがっかりした声を出す。・・・・そう思った
「はじめまして!清水恵理です!」
予想外の明るい声に多少戸惑う。
「あ・・・・田川健三です。どうも」
いつも背広の胸ポケットに入れてる名刺入れをとろうとしてしまった。悲しい性だ。
「名刺とろうとしましたよね。いま」
上品に笑う彼女に見抜かれて思わずこっちも笑ってしまった。
「家のお父さんも普段よくそういう事しちゃうんですよ。」
目の前で笑うこのかわいらしい娘と付き合うなんて無理だってわかってた。
それでも楽しかった。考えれば初めてデートと言うものをしたかもしれない。
家に帰って、すぐにメールが来たあの娘だった
≪今日はとても楽しかったです!もしよかったら今度又何処か行きませんか?≫
正直、100%金目当てだと思った。
ああ、やっぱり・・・・
≪実は謝らなくちゃいけないんだ。俺、フェラーリなんか持ってないんだ。貯金だってほとんどない。≫
もう謝ったほうが楽だった
金なしにあの娘と付き合うなんて無理だった。
そう思ってた。
返信が来た。
≪別にお金目当てじゃないですよ。(笑)田川さん良い人だからいいです。≫
ま
まじかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
オイ嘘だろなんかのまちがいだろ。
夢・・・じゃないよ・・・・ね・・・?