0年
俺は限界を超えていた。
さまよい続けて……何日、いや、何年になるのだろうか。
日付の感覚もなく、ただ出口を見つけてさ迷い歩く。
考えることをやめた、ただ我武者羅に歩き続ける。
空腹は感じない、疲れも感じない。
頭の中にあるのは、出たいという言葉のみ。
一体、なぜ?
疑問など今は無意味だった。
今、俺が居る場所は、赤色の部屋、そこから出ると黄色の部屋、扉を開けて部屋に入る、その繰り返しだった。
もう、出れどのくらいその行為を繰り返したのか、わからないが。
だけど、次の部屋に入った俺は、驚愕した。
そこには、人間が居たからだ。
「やあ」
男と思われる人間は俺にそう言った。
今まで考えることを止めていた、俺の脳みそがゆっくりと回転を始めた。
「まあ、驚くのは無理もないですが、君はわれわれの試験の唯一の合格者です」
男の言っている意味が理解できない、それよりも、人間に会えた俺は、今まで溜まりに溜まった何かが、抜け出した、そのまま、その場でひざを突いた。
。
「あ、あ」 ありがとうございます、ありがとうございます、助けてくれて……
思ったことが言えなかった。
「おっと、これは失礼、私の名前は吉田友三、とでも名乗っておきましょう
聞きたいことはたくさんあると思いますが、まずは聞いてください」
吉田友三と名乗る人物は無表情だった。
「あなたは、グレーダーに選ばれました、卒業です、おめでとうございます、説明の後で、あなたを地球へ帰します、ただし、地球時間の二年後、つまり、2012年に
敵はやってきます、なので、貴方たちが彼らを倒してください、でも、心配しなくて大丈夫です、あなたは最強です、強くてニューゲーム状態ですから、ここは、訓練所と思えばいいです、訓練所でLvをカンストまで上げたと思えばいいですね」
言ってることがわからない……だけど、開放される、ということが俺にとってたまらなく嬉しかった。
「ありがとう……ございました」
まはや怒るという感情も何もわかない俺は、お礼という形で反抗した。
「では、奥にある、テレポーターに乗ってください」
俺はよろよろと覚束ない足取りでテレポーターを目指した。
「では、お気をつけて」
俺は、地面から光が漏れている台座の上に立った、すると足元から光があふれ出し、俺の体を包んでいく。
気が付くと、また、赤い部屋だった。
不安が、少しづつ大きくなってくる。
しかし、扉を開けた俺は不安が絶望へと変わった。
緑の部屋に出た。
俺は、思った、人を信じてはだめだと。
俺は、急いで、扉を開けた、しかし、黄色の部屋に出た。
だめだ、安心しきっていた俺は、また、どん底に叩きつけられた。
いや、しかし、よく観ると、黄色の部屋には何処にも扉が存在していなかった。
死。この言葉が脳裏を駆け巡った。
死ぬ、このままじゃ。
俺は前の部屋に戻ろうと振り返ったが、戻る扉も消えていた。
完全に閉じ込められた、殺してくれ、そう思った。
精神の糸がぷっつりと切れた俺はその場で大の字になり倒れた、ああ、もう、だめかもしれない。
しかし、その時、足元の方から声がした。 野獣のような、雄たけびだった。
俺は足元のほうへと視線を向けた、そこには、顔が羊だが、体は逞しい男性の人間?が立っていた。
手には光り輝く剣のようなものを持っていた。
ああ、その武器で、俺を殺してくれ。 ああ、ころ、
ぶつぶつと俺は呪文のように、呟いた。
絶望に染まった俺の視界には、武器を持つ獣人が天使のように映った。
ゆっくりと獣人は俺に近づく、近づく。
俺は、過去を振り返る。だけど、振り返っても、部屋に居たときの記憶しかない。
その前は一体何をしていた?
わからない、俺はだれなのだろうか。
一体、何のために生きているのか。
謎が謎を呼ぶだけだった。
考えるだけ無意味のような気がした。
だけど、だけど、
なぜか。 諦めきれない、自分が居た。
あの人物に会えたからか? いや、俺は、やるべきことがある筈なんだ。
それを、決めなければならない。
獣人は一歩づつ俺に近づいてきた。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「合格、君は合格だよー」 耳障りな音が聞こえた。
無意識に頭の上のものを叩いた。同時に音が止んだ。
寝ぼけ眼で部屋を見渡した、
コンコンと扉がノックされた。
「どうしたー?」
無意識にそう反応した。
「お兄ちゃん起きたー?」
妹の元気な声が聞こえた。
「うん、起きてるぜー」
「今日も一緒に学校いこうよ」
ドアの向こうから、ドアの向こうからそう聞こえた。
「わかった」
「それじゃあ、先にご飯食べて待ってるね」
「おう」
いつもの会話だ。
日常、そう、これが俺の日常。
俺は、自分の部屋から出ようとドアノブに手を掛けて、開けた。
黄色の部屋に出た。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
恐怖が、恐怖が俺を包み込む、違う、こんなんじゃ、
視界が急に切り替わり、俺の目の前に獣人が斧を振り上げている光景が眼に映った。
とっさの判断で、俺は右に転がった。
今の光景は何だ、だけど、俺は、俺には妹がいた。
それだけでいい、それだけで、十分だった。
俺は日常に戻りたい。 そう強く願った。
獣人は俺が避けたのが予想外だったのか、俺のほうに顔を向けて固まっていた。
俺にとって、その数秒は隙が大きかった、俺は転びそうになりながらも、獣人の左わき腹へとタックルをかました。
異常な速度で獣人は剣を手放し吹っ飛んでいった。獣人は壁にめり込んだまま動かない。
俺は、獣人の方へ、向かった、壁から出た獣人の足がバタバタと動き出した、俺はその片足を持って、引き擦り出した。
片足を持ったまま、何度も、何度も床に叩き付けた。 俺の背丈の3倍以上はある、獣人を縄を振りか如く、叩き付けた。
何回か、獣人はうめき声を上げながら動かなくなった。床には大量の血がこびり付いてみるも無残な姿になっていた。
「いやー、素晴らしいですね」
感情のない声が背後から聞こえた。
振り返ると奴がいた。
「そう、これが最後の試験、ここまでは、来る人は何人か居たんですが、みんなここまでくると諦めちゃう人が多いんですよね。」
「元の場所に返してください」
俺は悲願するしかない。
「ええ、今度こそあなたは合格です、正直われわれも驚いています」
「そんなことはどうでもいい、ユリ……妹のところへ戻りたい」
「わかりました、でもこれだけは覚えておいてください、2012年1月6日に彼らはやって来ます、でも、あなたならきっと大丈夫でしょう」
やつらとかどうでもいい、今はただ、戻りたかった。 しかし……
「訊いていいか?」
「どうぞ」
「何年も経っている、地球はどうなっている」
「そこの問題は、大丈夫です、では、2012年1月1日にもう一度あなたに会いに行きます」
「来なくていい」
「それは、だめです」
「どうでもいいから、早く戻してくれ」
「わかりました」
俺の意識は、そこで途切れた。
「合格、君は合格だよー」 耳障りな音が聞こえた。
無意識に頭の上のものを叩いた。ドンっと音がして、部屋の中に破片が飛び散ったような音がした
同時に音が止んだ。
寝ぼけ眼で部屋を見渡した、
コンコンと扉がノックされた。
「どうしたー?」
無意識にそう反応した。
「お兄ちゃん起きたー?」
妹の元気な声が聞こえた。 戻ったよ、ゆり
「うん、起きてるぜー」
「今日も一緒に学校いこうよ」
ドアの向こうからそう聞こえた。
「わかった、あ、ちょっと待って」
「え?どうしたの?」
「お前のこと、必ず守るからな」
バンっと勢いよく扉が開いた
「お、お兄ちゃん!?」
顔を真っ赤にした妹が立っていた。
「どどうした?」
いきなりでびびった俺は……
「今のって……どういう意味…なの」
「冗談だよ」
「もー!お兄ちゃんのバカっ!」
妹がドアを思いっ切り閉めた。
俺も、下に降りようとベットから降りてドアノブに手を掛けて、開けた。