2Eギフテッド 「パパ嫌い」の奥にあるもの
娘は、夫に対してだけ強く当たる。同じように声をかけても、私には崩れないのに、夫には噛みつくように言い返すことがある。
「やめて」「今ダメ」「パパ嫌い」
あまりにも態度が違うので、最初は戸惑った。でも今は、それも無理はないのだと思っている。
娘にとって辛い事は、音がうるさいとか人が多いといった環境だけではない。
自分の流れを急に止められること。自分のタイミングを無視されること。どうしたいかを聞かれないまま動かされること。そういう、外から無理やりコントロールを奪われる感覚の方が、ずっと耐え難いのだと思う。
夫は悪気なく、それをやってしまう。自分のペースで話しかけ、自分のタイミングで動かそうとする。娘もまた、自分の流れを大事にしている。だから、ぶつかる。
夫と娘の相性は、お世辞にもいいとは言えない。
夫はASD気質で、自分の思い通りに事が進まないと気が済まない。関わり方もタイミングも下手で、娘が何かに夢中になっているときに限って声をかけ、娘のテンションを無視して自分のペースで話しかける。
夫が働いている平日はそうでもないが、週末になると、二人の衝突が激しくなる。娘が爆発して、夫が声を荒げる。私は娘を抱きしめながら、また始まったと思う。夫に伝えても変わらない。そういう人なのだと、もう諦めている。
でも、同じテンションで遊んでいる時は、本当に楽しそうだ。将棋、ポケモンカード、マリオカート。夫は負けてあげない。一切、手加減しない。娘は悔しくて、怒りながらまた挑戦する。公園で2人で全力で遊んでいる間も、衝突する事は少ない。
娘は今より幼い頃から、夫をライバルだと認識している。怖い存在ではなく、倒すべき相手。その目線がなんだかおかしくて、でもたくましくて、私は密かに感心している。
似た者同士なのだと思う。自分の世界を持っていて、譲れなくて、本気でぶつかる。だからこそ激しくぶつかるし、だからこそ対等に遊べる。
放課後等デイサービスなどでは、嫌なことがあれば娘はその場から離れる。無理に続けようとはしない。静かな場所に行ったり、一人になったりして、自分で自分を守っている。逃げることができる場所では、ちゃんと逃げている。
家では、夫に嫌だ、嫌いだ、と言いながらも、逃げない。逃げずにぶつかる。
それはきっと、逃げ場がないからではなく、その必要がないからなのだと思う。ここでなら、自分をぶつけても関係が壊れないと、どこかでわかっているのかもしれない。
安心できる相手だからこそ、上手くできない自分も、ぐちゃぐちゃの感情も、そのまま出してしまう。外では頑張って整えている分、家で崩れる。それが、夫に対してだけ攻撃的に見えるだけなのだと思う。
ただ、そのぶつかり方に、夫が傷ついているのも事実だ。パパ嫌いと言われた時、夫は何も言い返さないけれど、少し表情が固くなる。
娘と上手く関われない事を、本人もわかっているのだと思う。どう声をかければいいのか、どのタイミングならいいのか、わからないまま関わって、結果としてぶつかってしまう。そしてまた距離ができる。悪気はないのに、うまくいかない。その繰り返しの中で、夫もまた少しずつ消耗しているのかもしれない。
そんな夫を見ながら私は、いい加減学べよ…と、思ってしまうのだけれども。
けれど娘は、本当に怖い相手には、きっとここまでぶつからない。
父と娘は、きっとこれからもぶつかる。将棋でも、ポケモンカードでも、マリオカートでも、そして日常のあちこちでも。夫は負けてあげない。娘は悔しくて、また挑戦する。
でもそれは、ただの衝突ではなくて、同じ強さを持った者同士が、どう関わるかを探している途中なのかもしれない。
娘がゲームや言葉、論理で夫に勝てる日がいつか来る。その時、この関係はきっとまた少し変わる。
私はそれまで、審判兼クッションでいようと思っている。




