2Eギフテッド 苦手を乗り越えた日
娘にはずっと苦手な場所があった。大型のショッピングモールだ。
うるさい。人が多い。熱がこもっている。商品がありすぎる。無数の情報が一度に押し寄せてくる場所は、娘にとって耐え難い空間だった。
3歳頃から、娘はそこに行くたびに癇癪を起こした。床に背中をつけ、ジタバタしながら回転する。よくあるイヤイヤ期ムーブだ。
当時はわけがわからなかったけれど、今ならわかる。オーバーヒートした身体も頭も全部が熱くて、床の冷たさを求めていたのだろう。発達障害だとわかってからは、なるべくそこには連れて行かないようにしていた。
娘には、どうしても欲しいシールがあった。1年生になったら買ってもいいよと約束した、ボンボンドロップシールだ。
けれど春休み中、探せども探せども、どこにもない。娘の欲しいという気持ちだけが、どんどん大きくなっていく。
もう、市内でシールがありそうな場所は、あのショッピングモールしかなかった。
「行ってみる」
娘に言われ、平日だし新学期も始まっているし、と私は重い腰を上げた。
ショッピングモールに着くと、期待とは裏腹に週末並みの人出だった。相変わらず騒がしくて、熱気がある。私は内心、しまったと思った。
でも、娘は進んだ。
ボンボンドロップシールは見つからなかったけれど、かわいいぷっくりシールのコーナーで目を輝かせ、ひとつひとつ手に取って確かめて、買うものを決めた。
次に大好きなシマエナガのクリスタルパズルも見つけて、また目を輝かせた。私はもう、いいよという他ない。娘が荒れることなく、ふつうに買い物ができている。正直、娘の欲しがるものは何でも買いたい心境だった(お値段によるけれど)。
最後に、何年かぶりにミスドでドーナツを食べて帰った。
「なんか、ショッピングモール平気になってた」
車の中で、娘が得意げに言った。嬉しかった。娘の苦手や困難は、克服できるものだとわかった。
では、何が変わったのだろう。
まず、脳の発達がある。感覚の統合は年齢とともに成熟していくから、以前なら処理しきれなかった情報量を、今の娘はうまく扱えるようになっているのかもしれない。
次に、ボンボンドロップシールを探すという明確な目的があったこと。自分が何かを手に入れられる場所、ワクワクが不安を上回れば、娘はどこにでも行ける。
そしてもうひとつ、私の財布の紐が夫よりも緩いことも、娘にとってプラスだったのではないだろうか。欲しいものを買ってもらえるという安心感。もしかしたら、それが足りなかっただけなのかもしれない。
今日、娘が選んだのはシールとパズル。どちらも、自分の手で何かを完成させる遊びだ。貼る場所を自分で決めるシール。バラバラなピースを自分でつなぐパズル。結末を自分が握っていること。それが娘にとっての安心の形なのかもしれない。
これからも、娘がワクワクできる場所、安心できる場所を増やしていきたい。
その場所に私と娘だけでなく、できれば夫も入れると良いのだけれど…




