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はずれものの恋、ユーラシアのはぐれ島で  作者: 神永遙麦
この手を伸ばす先:ティレアヌス
42/89

心の準備

 愛するエリザベスへ。


 其方が日々回復していると聞き、心から安堵している。マカレナとの婚姻は延期となったが、皆変わらぬ日常を送っている。

 5月頃、一度其方の様子を見に行こう。こちらが雪解けを迎えたらまた詳細な日取りを送る。それまで、どうか焦らず、無理せず、ゆっくりと療養を続けるように。私は静かに待っている。其方が贈った栞、ありがたく使わせてもらっている。

 健やかに、無理せず過ごしなさい。


 ヨハネス・ド・ハイド。



 




 手紙を読み終えた明美はふぅと息を吐き、深々とソファに沈み込んだ。

 手紙から受けるハイド伯爵の印象は実際に会った時に受ける印象とは違う。それにしても5月かぁ。あと2ヶ月は、ここにいろってこと? それまでに出来ることは……。

 私は鈴を鳴らした。レベッカが来た。


「ねえレベッカ。5月頃、閣下がいらっしゃるそうよ。5月までにドレスを新調したいの」


 レベッカは顔を強張らせた。


「申し訳ありません。奥様、こちらには仕立て屋がおりません」

「あら。じゃあ既製服を買えばいいの?」

「そうなります。どのようなお召し物をご希望がいいつけてくだされば買いに行きます」


 私はのっそりと瞬きをした。まつ毛にランタンの光が反射する。

 

「私が行ってもいいかしら?」

「ちゃんと護衛をつけてくだされば」

「アンネリース1人で充分かしら?」

「やや心許ない気がいたしますが大丈夫でしょう。来週で予定を組んでおきますね」


 やった! 久しぶりの外出らしい外出だ!

 レベッカは咳払いをした。


「奥様。奥様は教会へと通われますか?」

「いいえ」


 私、別にクリスチャンじゃないもん。


「こちらでは皆、曜日を変えながらではありますが毎週教会へ通っております。あちらとは違いますから」

「行ったほうがいいのかしら?」

「ええ。社交の機会にもなりますよ」

「社交ねぇ……」


 ハイド伯爵は私が外部と関わることを良く思っていない気がするんだよね。


「今日って何曜日だったかしら?」

「今日は10日の木曜日です」

「そう、ありがとう。明日の夜までに答えを出してみるわ」

「かしこまりました」


 レベッカは退室した。私はガウンを脱ぎ捨てベッドに入った。


 明美は手紙とレベッカとの会話を反芻しながら、天蓋に目を向けた。5月、ハイド伯爵が来るという知らせに、心がざわめいている感覚がある。彼との再会を前に、心の準備を整える時間が足りない。だから少なくとも彼が来るまでに自分の外見や態度を変えておきたい。


「社交ねぇ……」


 どこか遠くの世界のお話みたい。教会に行く必要があるのか分からない。社交の一環ならドレスをたくさん買わないといけない。何かしらの体裁を整えないと周囲から浮いてしまうかもしれない。それに、教会ってどんな所なの? 婚約式と結婚式でしか行ったことがない。私はずっと狭い社会で育っていたから、勝手が分からない。でも一応、伯爵夫人なんだから……。私が教会に行く理由は、あくまで社交のため。あまり宗教的な意味合いを考えなければ。

 

 明美は深呼吸した。心の中で決意を固めた。教会に通うことで新しい出会いがあるのだろう。そして人付き合いという名の試練が待っているのだろう。でもその試練を乗り越えないといけない。今年で19歳なんだから。

 

 ごろんと寝返りを打った。フリーダに会いたい。

次回、教会へ。

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