目を覚ます朝、マリアの微笑み
久しぶりの熟睡から目が覚めるともう頭痛が治っていた。起き上がろうとしたが体に力が入りづらい。明美は腕を動かしてみた、少し重いが動いた。目を開けると、青白い早朝の光がカーテン越しに差し込んでいる。
「感謝します」と感極まったように震えるフリーダの声が聞こえた。
私は微笑もうとしたが引き攣った笑いになった。ゆっくりと右に顔を向けると、ぼんやりとした輪郭の中にフリーダの姿が見えた。はっきりとは見えない。それでも、フリーダの穏やかな表情はわかる。私は微笑もうとしたけど、頬の筋肉がうまく動かなくて、引き攣った笑いになった。
「もう大丈夫だよ、フリーダ」
それからまた私は眠った。目を覚ますと、部屋の中には静かな朝の光が差し込んでいた。熱は下がったとはいえ、体の重さが取れたわけではない。まだ動くのが億劫で、思うように体を起こせない。顔を動かすとフリーダが花を活けていた。
「おはよう、フリーダ。今日は何日なの?」
「おはようございます、エルサ様。今日はクリスマスです」
反射的に上体を起こそうとした、が動かなかった。
「クリスマス!? 私、そんなに風邪ひいてたの?」
「ええ。ですから閣下が大層、案じておられました。この花も閣下が先程……」
「そうなんだ」
フリーダが部屋の片隅に置かれた花瓶を指差しながら説明している。花を見ようとしたけど赤色だってことしかしかわからない。
「フリーダ、あれは何の花なの?」
「ポインセチアです」
「綺麗ね。あとでお礼しないと」
悟られぬよう喋る。いくら目を凝らしてもフリーダの顔立ちが見えない。ぼんやりとしか見えない。フリーダがベッドの側の椅子に腰掛けた。私、知ってる。私が寝込んでいた間、フリーダはずっとそばにいてくれたことを。フリーダが小包を渡してくれた。
「メリークリスマス」
私は小包の位置を慎重に確かめてから「ありがとう」と笑って受け取った。それから丁寧にリボンを解いた。繊細な作業って目が見えづらいと指先の感覚だけが頼りなんだ。中身は額縁に入った絵だった。小さな白っぽいものを抱く女性の絵だ。女性はの金髪は後光を放っているようだ。色白の女性のようで目の色まで分かる、たぶん青。目を凝らしても細部はぼんやりとして見えるが、何となく優雅な雰囲気が伝わってくる。
「これは誰の肖像画?」
フリーダは身を乗り出し、私の手元の絵を見た。
「マリア様ですね」
私は絵をじっと見つめた。マリア様だと言われれば柔らかな微笑みと、包み込むような深いまなざしを持っているように見える。見えづらいけど。
「ありがとう、フリーダ」
声がかすれているのがわかる。心の中はじわじわと温かい。うとうとと意識が途切れた。
謎の高熱が20日以上続いていた明美。体力と筋力の低下が酷いものの、意識は回復。
次回、次章へ。追放(?)




